【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

250 / 288
218球目 執念

 

 

 

 

 6回裏、泣き崩れた成宮が降板させられた後、薬師下位打線は悉く凡退。次は7回表、北海道ツナの攻撃になる。

 

 

「よっしゃ!これで負ける可能性はだいぶ減ったな!」

「北瀬、お前1点も取らせねーとか言ってたじゃん!」

 

 北瀬の嬉しそうな顔を見て、伊川が茶々を入れている。

 冗談半分でちょっかいを出したい気分だったのだろう。

 

 

「いやそれはね、うん、気持ちの持ち様と実際の試合は別ってゆうか」

「そりゃそうだ。俺達の守備は酷いから、普通にランニングホームランだって有り得るしな」

 

 北瀬のしどろもどろな弁明に、真面目な秋葉は理解を示している。

 別に伊川の言葉が心に突き刺さった訳では無い。今までの返答と異なった雰囲気に、困惑しているだけである。

 

 そもそも2年時以降、北瀬本人による失点はほとんど無い。ほぼ全てが野手陣のミスによる物なのだ。

 一応自責点が付いてしまう失敗もあったが、それも大方ヘボ守備陣の怠慢で生み出されていた。

 その事実は流石に、北瀬も朧気に理解していた。

 

 

「ガハハハ!俺達らしい野球だな!!」

「それが俺達らしいのはどうなんだ」

 

 今更になるが、秋葉は今後の後輩達を心配していた。コレを伝統にして良いのか、大分怪しいと思ったからだ。

 彼は、俺達黄金世代がいる間に改革しておくべきだったかもなと反省している。

 ……薬師野球部のイメージ的に、もう遅いが。

 

 

 

 

 

 

 7回表、1度もランナーが出ていない北海道ツナは7番打者からの攻撃になる。

 

 

「このまま負けてたまるか!このまま……っ!」

 

 最初は北瀬のピッチングに見惚れるだけだった選手達も、どうにか打者としてのプライドを持ち直し始めていた矢先に、成宮は打たれてしまっていた。

 

 もちろんそれは、彼の油断では無い。

 色々理由はあるが、1番の要因は薬師打線が木製バットに慣れつつあった事だから仕方ないのである。

 

 恐ろしい事に、まだまだ薬師打線は木製バットに適応しきれていなかった。

 それなのに、あのバッティングが出来ていたのである。

 

 

___ガギ

 

(ヤベェ、そっちはサード!

……いや違う、今のサードは大平だったな。助かった)

 

「アウト!」

『わあぁ!』

 

 7番打者がボテボテのゴロを打った瞬間、北瀬と由井が冷や汗を流していたが、大平は難なく処理。

 これでワンアウトランナー無し、薬師の3点逃げ切りムードが流れていた。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 

___バシッ!

 

「アウトォ!スリーアウトチェンジ!!」

『わあああぁぁ!!』

 

 点が入ってしまった直後は、点を入れるチャンス。

 よく言われている事ではあるが、エース北瀬には全くの無縁だったらしい。

 彼は7回も塁を踏ませない投球を続け、完全試合と言う言葉が北海道ツナ1軍選手達の脳裏によぎり始めていた。

 

 

 

 

 

「クソッ!クソッ!また同じ失敗を繰り返すのかよ!!」

 

 ロッカールームへ向かった成宮の絶叫が聞こえる中、リリーフの依古島はこう考えていた。

 

(成宮はもう完全に使えねぇ。だからって、勝負を投げるつもりはねぇんだ___北海道ツナ1軍を舐めんなよ)

 

 彼は普段通りの冷静なピッチングを続け、成宮が降板した後、薬師下位打線からアウトをもぎ取っていた。

 

 流石はプロ1軍の選手である。

 相手は木製バットに慣れていないとはいえ、高校生の範囲を逸脱したホームランバッターばかりなのだ。

 それを軽々とアウトにしてしまう彼も、非常に優れたリリーフであった。

 

 

 だが、優秀なリリーフである彼も、次の続投で悪夢の様な打者達に翻弄される事となる。

 

 

 

 

 

 

 7回裏、薬師野球部は下位打線の瀬戸が打席に入る。

 彼は木製バットを使った事がない為、今回は中々打てずにいる選手である。

 

(こいつは楽に行ける、でも油断はしないよ)

 

 軟投派リリーフの依古島は冷静に、平常心のままピッチングを始めた。

 

 

___バシ!

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 これでワンアウトランナー無し。幸先が良いなと、この時のリリーフは思っていた。

 

 

 

 

 次のバッターは、9番打者の真田。

 薬師にしては取り立てて優れた点は無く、器用貧乏さが売りのとしか言いようが無かった。

 

 それでも、北海道ツナのリリーフは油断しない。

 たった1度のミスによって、全てが終わる事があると知っているからだ。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク!」

『これでノーボールツーストライク、真田は意地を見せられるか?!』

『薬師野球部にしては打力の足りない選手です。それでも自らが薬師野球部打者陣の一員であると言う力を、観客達に見せられるでしょうか?』

 

 

___カキン!

 

『わあぁ!!』

「セーフ!!」

 

 北海道ツナのリリーフは、油断などしていなかった。

 その上、実力だけを考えれば、真田大平と言う野手が打てる相手では無かった。

 

 だが大平の本番に強い性質と、薬師特有のフルスイングによって奇跡を起こしたのである。

 まぁ彼にとって奇跡ではあるが、緊急登板のベテランリリーフやプロを応援する観客達にとっては悪夢だったが。

 

 

『真田大平!当てました、一流相手に当てました!』

『これは本当に凄い事ですよ!高校生が百戦錬磨の7000万プレーヤー相手に一矢報いたと言う事ですからね』

『真田くんは中学時代、公式戦たったの3勝とあまり強くないチームにいたそうです。それがたったの2年でここまで来た!いやぁ、ロマンある話ですねぇ!!』

 

 

 

 

 ワンアウトランナー1塁、打席に立つのは甲子園打率7割超えの秋葉一真。但し、今試合では未だノーヒット。

 

 

「楽しんでこうぜ!一真!」

「ガハハハ!ここは一発、ホームランを打つ場面だな!」

 

 ノリが良い北瀬と三島は楽しげに応援しているが、秋葉は内心冷や汗をかいていた。

 

(ノーヒットはマズいって、ドラフトの順位に影響が出ちゃうだろ!)

 

 高校生になってからの公式戦で、ここまで打てなかった事は1度も無い彼は焦っていた。

 これでは、実力の全てを発揮し切る事は難しいだろう。

 薬師5人組の中で、1番メンタルが弱い所が出始めてしまっていた。まあ弱いとは言っても、超人の中ではだが。

 

 

___カキーン!

 

『わあぁ!!』

『打ちました!薬師野球部の1番が打ちました!!』

『こうなった薬師は強いですよ。調子が崩れたとはいえ、やはり私は成宮を替えた采配に疑問を覚えましたね』

『いやいや、今の時代に先発完投は無いでしょ!』

 

 そんな精神状態であっても、秋葉と言う男はしっかりとヒットを放った。実力だけで言えば、北海道ツナのリリーフ投手を上回っているからである。

 キセキの世代不動の1番打者と言われる実力を、プロ相手でも発揮出来ていた。

 まあ彼は、もし調子が良ければマルチヒットも有り得た実力を持っているので、本当に発揮出来ているのかは怪しいかもしれないが。

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

___カッキーン!!

 

『わああぁぁ!!』

『打ちました!世界最強が打ちました!これは完っ全にホームラン!!』

『美しい…………そう言うしかない程に、ブレの無い華麗なバッティングでした』

 

 人気プロ野球選手であった実況からも、思わず感嘆のため息が漏れる程の完璧なスイングをした伊川。

 今までも素晴らしかったが、今日の伊川は別格だと思いたくなる自然体なバッティングであった。

 

 

「ナイス伊川!やっぱホームランは楽しいよなぁ!」

「まあうん、観客が盛り上がるのも悪くはねぇかなって思って来たよ」

 

 北瀬が嬉しそうに駆け寄って来たのを見て、伊川は自らの心境の変化を話した。

 今までは煩いとばかり思っていたのに、今日はどこか喜びを覚える自分に内心困惑しながらである。

 

 本人も無自覚だったが、北瀬からな「カッコいい」と言う言葉によって少しだけ考え方が変わって来ていたのだ。

 これは、共に歩み続けて来た彼からの言葉だったからこそ、自然と受け入れる事が出来たのだろう。

 

 

「だよな!___じゃあ、俺達もしっかり抑えてハッピーエンドにしねーと。由井、頑張ろうな!」

「はい!北瀬さん!」

 

 薬師野球部vs北海道ツナの試合は、6−0と薬師高校の圧勝ムードであった。

 既に球場中が、彼らの圧倒劇を望んでいる。

 

 ……いや、その程度の熱狂では無い。

 高卒メジャーリーガー、日本の一等星である北瀬の完全試合を、最早日本中の人々が望んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 8回表、北海道ツナの攻撃は主砲の4番から。

 世界最強の高校生を相手に取った結果、1度も塁に出られていないプロ野球選手達は祈っていた。

 

 ……せめて、完全試合だけは阻止してくれと。

 

 高校生チームとプロチームの大きな違いは山程ある。

 経験などもそうだが、1番の違いは身体が出来上がっていない事だ。

 普通に考えた場合、プロチームはフィジカルの差だけで圧倒出来る筈だったのだ。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!」

『わあぁ!!』

 

『173キロオォ!ビッタビタの超剛速球ストレートが決まった!!これでワンボールツーストライク!!』

『いや〜……もうね、悪いけどプロに勝ち目が見えないです。世紀の天才に年齢は関係無かったって所ですかね』

『天井知らずに伸びて行く才能!彼の圧倒的な実力を、その目に焼き付けろ!!』

 

 それなのに、このままでは投打共に蹂躙され尽くしたまま終わってしまう。

 北瀬相手に下位打線への期待が出来る筈もない。だからせめて一矢報いてくれと、プロを応援する全ての人間が心の底から祈っていた。

 

 だがそれでも、思いは届かないだろうとも感じていた。

 日本の一等星には、どう足掻いても叶わないと感じてしまったのである。

 

 そして一部の北海道ツナファンは、既に北瀬ファンへと変貌を遂げていた。

 彼の圧倒的な才能に、目が焼き尽くされたのである。

 

 

「ナイス由井!このまま完全試合を目指そう!!」

「ありがとうございます……やりましょう!完全試合!」

「おうっ!」

 

 薬師高校の投手は、この試合を楽しみ尽くしていた。

 確かにプロは俺達にも届きうる位に強かった。それならメジャーリーガー達は、どれほど強いのかとワクワクしていたのだ。

 

 ここまで強くなれたのは、薬師野球部の皆のお陰だ。

 だから今出来る全力を、この試合で見せたい。

 

 そう考えている北瀬は、普段より更に球威があるピッチングをしていた。

 基本的にピッチングの調子は安定している彼だったが、それでも多少調子に左右されるのだ。

 

 打者として出陣出来ていない為、コントロールと変化量こそ普段通りだが……ノリノリな彼のピッチングは、メジャーリーグでも全く前例が無い程の力が籠もっていた。

 

 

 

 

(こりゃ……普通に打つのは絶対に無理だろ)

 

 ここまで来ると、北海道ツナの主砲も覚っていた。

 北瀬涼を、現時点の実力で打つ事は不可能であると。

 

(となると……可能性があるのは振り逃げ位か?

狙って出来るもんなのかは大分怪しいが、やるだけやってみるしかねぇだろうな)

 

 彼はそう判断し、キャッチャーに見え難い様な姿勢でバッティングをし始めていた。

 

 一歩間違えば怪我に繋がる上に、プロとは思えない醜態だったが……仕方ないのだろう。

 高校生相手に総力戦を仕掛け、完全試合で負けるなどあってはならないのだから。

 

 

___バ、ガシャン!

 

『ぎゃああぁ!!』

「セーフ!!」

 

 そして、まさかの事態だと言うべきなのだろうか?この大舞台で、由井が振り逃げを許してしまった。

 元々北瀬の球をギリギリで捕球していた彼は、前代未聞の大舞台で失態を犯してしまったのである。

 

 

『あああ振り逃げ!!まさかの振り逃げです!!』

『由井くんも神童とよばれ、確かに優秀なプレイヤーではあるのですが……北瀬くんと組むには実力不足だった。そうとしか言いようがありませんね』

『ああ、完全試合が……ゴホン、由井くんが外角高めの球を零してしまいました。ええまあ、そもそもあの体格で北瀬くんの球が捕れていた事が不思議ではあるのですが』

 

 神童と呼ばれるだけのたゆまぬ努力を続けてきた彼だが、手足の短さ、リーチの短さはどうしようも無い。

 

 高校生とプロでフィジカル差があるのは仕方ない。

 だが同じ高校生の間でも足りない由井のフィジカルからすれば、この戦いにおいて『中学生と高校生』では済まない絶対的なハンデが付いてしまっている。

 

 ほんの僅かなリーチ差がプレーヤーとしての価値を分ける、そんな事は全て承知で由井はこの道を続けている。

 しかしこれが、由井薫に突き付けられた現実だった。

 

 

 

 

___ガギーン!

 

『ふわふわっと上がったこの打球、普通ならどう考えてもアウトですが……零した!レフトが零しました!!』

『仕方ないとしか言えないですね。打撃力とは裏腹に、薬師野手陣が不甲斐ない事は最初から分かっていました。反省すべきなのは動揺をリードに出した由井くんでしょう』

 

 その上、動揺していた由井は逃げのリードをしてしまった。その結果、平凡なフライが出てエラーも出てしまう。

 

 その結果、まだ高校生の由井に対して非難するかの様な実況が流されていた。

 北瀬の才能に心を焼かれた元選手達は、咄嗟に不甲斐ない奴を非難してしまったのだ。

 

 これを聞いていた観客達は、一部が可哀想だと非難していたものの大多数が同意していたらしい。

 日本史上最強の投手が持つカリスマに、多くの人間がこんがりと焼かれていたからてある。

 由井を非難する事など、本人は欠片も望んでいないのだが……群衆とはそういうものであった。

 

 

「バックホーーム!!」

 

 1塁ランナーが2塁を周り、3塁を目指した時点でセンターの秋葉がボールを拾っていた。

 慌てつつも冷静に、本塁への投球を開始している。

 

 

 その時由井は、脳裏でこう考えていた。

 

(今までで十分に分かった……貴方の相棒としての価値なんて、俺にはない)

 

 今までずっと、エースの北瀬さんに支えられるだけで何も返してあげられなかった。

 由井は試合中にも関わらず、自嘲してしまっていた。

 

 

『あーっと?!送球が少しズレているぞ?!ランナーホームへ突っ込む、ランナーホームへ突っ込んでいます!!』

 

 由井は送球された球を必死に掴むと、なりふり構わずにベースに突っ込んだ。

 

(けど、今日までは貴方の相棒でいさせてください)

 

 

___バキッ!

 

 ランナーと由井が衝突し、大きな音が鳴り響いた。

 由井は派手に吹き飛ばされながらも……ゆっくりとキャッチャーミットを付けた左手を上げた。

 

 

『……わああぁぁ!!』

「アウトオオォォ!!」

 

『由井薫!執念のブロックでアウトを取りました!』

『迫力あるクロスプレーでしたが、由井くんの執念が勝りました!!流石は日本最強の相棒!!

神童と言う名は、伊達ではありません!』

 

 身長165cm、体重58kg。フィジカルで大幅に劣るにも関わらず、自らを顧みない必死のブロックで失点を防いだ由井に、観客達から大きな歓声が飛び交っていた。

 これぞ高校野球と言った、なりふり構わない泥臭いプレーは見ている者の心を掴んだのだ。

 

 

「マジか、大丈夫か由井?!」

「はい、何とか失点は防げました!」

「いやそう言う事じゃなくて……でもナイス、助かった」

 

 相方の先輩は失点しなかった事よりも心配が優る様だったが、由井の心は明るかった。

 少しでも、先程の失態を取り返せたと思ったからだ。

 

 

 

 




プロ野球選手の平均
身長180.7cm 体重85.8kg
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