【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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219球目 幕開け

 

 

 8回裏、薬師高校の攻撃はランナーの火神を3塁まで進めつつも得点ならず。

 だが既に6点差が付いている事もあって、高校生チームの圧勝ムードが流れていた。

 

 

 

 

『北瀬!!北瀬!!北瀬!!北瀬!!』

 

 9回表、北海道ツナの攻撃時の場面。

 会場中から北瀬を称えるコールが鳴り響いている。

 

 

『既に会場は北瀬くん一色!彼の新たな伝説が、今まさに作り上げられようとしています!!』

 

 パワプロであれば確実に『人気者』と付いているであろう、圧倒的な熱狂の渦が巻いている。

 

 そんな中、プロ1軍との最終決戦。

 日本の一等星の北瀬と、時期正捕手筆頭の奥村が、堂々とマウンドに降り立った。

 

 

「由井が無失点に抑えてくれたんだ、このまま行こう!」

「ええ___ノーヒットノーラン、取りに行きましょう」

「……そうだな!」

 

(あ、ノーヒットノーランは途絶えて無かったんだ……)

 

 ランナーを自分で出した事になっているのかどうかすら気付いていなかったエースがこっそり驚きつつ、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 ノーアウトランナー無しの場面で、打席には北海道ツナの7番が入った。

 『当たればデカい』と言われ続けているクリーンナップの選手は、俺が打たなきゃ(点が)入らないと必死にバットを振っている。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライク!バッターアウトッッ!!」

『わあああぁぁ!!』

 

 それでも、当たらなければ意味が無い。

 この試合で彼は結局、何も出来ないまま終わった。

 

 

「凄い、凄い凄い!!正に最強じゃないですか!!」

「___こんな人と野球が出来た事が、俺の人生で1番良かった事かもしれない」

 

 花坂は素直に歓声を上げ、友部は目を見開いて大先輩の勇姿を目に焼き付けていた。

 甲子園4連覇の超強豪校しか知らない彼らにとっても、プロとの戦いは特別な者だったのだ。

 

 

「スッゲー!俺も早くベンチ入りしてーな!!」

「木兎なら絶対に出来るよ」

「へいへいへーい!俺最強!!」

「お、俺だって……!」

 

 ベンチ外のメンバー達も、最強の先輩達を見て闘志を燃やしている。やる気のある者は、次は俺の番だとギラギラした目で闘志を燃やしていた。

 

 

「そのまま頑張れ〜!」

「プロ相手のノーヒットノーランが見たいッス〜!」

 

 ……浮世離れした状況にも関わらず、妙に軽視しているベンチメンバーも居なくは無かったが。

 

 

 

 

『後2人!!後2人!!』

『北瀬!!北瀬!!北瀬!!北瀬!!』

 

 人々の熱気は留まる事を知らず、最高潮と思われた会場の声量は更に増していた。

 『北瀬の圧倒劇が見たい』と言う全員の共通の思いが共鳴し合い、更に会場中のボルテージを上げていたのだ。

 

 

「後2人抑えたら、俺達の勝ちだ!頑張ろうな!」

 

 北瀬はそう言って、バッテリーの奥村を励ました。

 ちなみに周りの大歓声で、奥村には聞こえていない。

 

 

「北瀬さん、普段通りに抑えれば勝てますよ」

 

 既に勝った様な雰囲気を出している北瀬に、奥村は忠言している。勿論、彼の言葉は北瀬に聞こえていない。

 

 

(北瀬、やったな!これで俺達の勝ちだ!)

(そうだな、絶対に抑えてみせる!……でも、ボールが飛んでったら頼むぜ)

(うん、全力で捕るよ)

 

 伊川は、一瞬後ろを振り返った北瀬の目を見て、謎テレパシーで声援を送った。

 これは声で伝えている訳ではないので伝わっている。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライクッ!バッターアウト!!」

『わあああぁぁ!!……後1人!!後1人!!』

 

 北瀬は実力を遺憾無く発揮し、三振を取った。

 これで残るは、下位打線の9番打者のみ。会場中が北瀬のノーヒットノーランを確信し、昂る感情を乗せた大歓声を上げ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 最後のバッター、北海道ツナの打者の事など、既に誰も考えていなかった。

 

 

___バシッッ!!

 

「ストライクッ!!」

 

『北瀬!!北瀬!!北瀬!!北瀬!!』

『またも出ました!173km!!このまま抑えてくれ、最強のピッチングを私達に見せてくれっっ!!』

『ご覧ください!会場中が沸いています!!彼は日本が誇る、世界最強の野球人だ!!北瀬っ!北瀬っ!』

 

 もはや解説者すら中立性が無くなり、薬師を……いや、北瀬を褒め称える言葉しか言えなくなっていた。

 

 MAX173kmの剛速球ストレート。

 世界最高クラスの変化量を持つスライダーに加え、メジャーリーグでも1級品の変化球を4つ。

 ストレートと変化球の緩急が付く、変幻自在。

 そして、当てても内野を越えられない程の怪物球威。

 

 これらを併せ持つ北瀬の事を、野球をする為に現れた現人神の様に考える人物すら出て来ているのだ。

 

 

 

 

___バシッ!

 

「ストライクッ!ツー!!」

『わあああぁぁ!!後1球!!後1球!!』

 

『後1球!たった後1球で新たな伝説が産まれます!!』

『ずっと見ていたい程の熱投でした!この試合が一生忘れられなくなる程の熱投でした!!』

 

 後1球で、北瀬の新たな伝説が終わる。そう確信している会場中の人々が、彼に視線を釘付けにされていた。

 運良くチケットが当たり、家族や友人に連れられて来た野球に興味が無かった人々も、既に虜になっている。

 北瀬涼と言う男のピッチングは、それほどの物だった。

 

 

「ガハハ、良くやった!薬師伝説の最後に相応しい!!」

「やっぱり俺達のエースは凄いな」

「カハハ……がんばれキタセー!!」

 

 薬師3人組の声援を受けながら、北瀬は楽しそうに笑っている。熱狂の中心に居続ける事で、アドレナリンが出続けているのだ。

 

 そして、この状況でも普段通りに腕を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

___バシッッ!!

 

『ストライク!バッターアウト!!……試合終了!!!』

『___きゃああああぁぁぁぁ!!!』

 

 そして北瀬は期待通りに渾身の1球を投げ、形容し難い程の大歓声の中で試合が終わりを告げた。

 薬師高校VS北海道ツナの戦いは、6−0と高校生チームが圧勝してしまったのである。

 

 

「良くやった!!良くやってくれた!!」

 

 普段は抜けている轟監督ですら、涙を流しながら試合を絶賛していた。

 

 彼にとって、プロの舞台など夢物語であった。

 それでも諦めきれなかったプロ選手との勝負を、教え子全員で叶えてくれたのである。

 

 ここで死んでも良いと思ってしまう程の喜びに、心が飲まれていた。

 

 

「ガハハ!雷市の親父と片岡コーチを胴上げするぞ!!」

『わーっしょい!!わーっしょい!!』

「それは決まってねーぞ?!……うわああぁ!!」

 

 雑に上空に投げられた監督は悲鳴を上げつつも、本当に嬉しそうに笑っている。

 北海道ツナの選手達の前で胴上げされている姿は、まるで日本シリーズを優勝した監督の様であった。

 

 

『き、た、せ!!き、た、せ!!』

『やりました、北瀬涼選手がやりました!!高校生ながらに、プロ相手にノーヒットノーラン達成!!それもほぼ完全試合の達成です!!』

『稲山監督の前言通り、我らが北瀬涼選手の門出を祝うものとなったこの試合!!会場中が北瀬くんへの祝福で覆われています!!』

 

 この試合は、プロの尊厳を取り戻す戦いでは無かった。

 北瀬涼の圧倒的実力を、見せ付ける戦いであった。

 

 そんな風に納得している観客達は、誰も帰る準備すらせずに英雄の勝利インタビューを待っていた。

 客観的に見た場合、これはまるでプロへの死体蹴りなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「放送席、放送席、そして薬師高校ファンの皆様!

見事ノーヒットノーランを達成しました、薬師高校のエース北瀬選手です!!おめでとうございます!!」

『わあああぁぁ!!』

 

 試合が終わったにも関わらず爆発的な歓声が鳴り響く、今日の主役であった北瀬がインタビューされている。

 初期の予定では轟監督からインタビューしようと言う話も合ったのだが『メジャーへ旅立つ北瀬くんのお見送り会』と言う建前もあって、彼から話す事になっていた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 北瀬は普段通りの、純朴そうな笑顔を見せている。彼の本質は、世界最強と呼ばれても変わらなかったのだ。

 

 

「百戦錬磨のプロ相手にノーヒットノーランの達成と言う偉業を達成した事について、今はどのような気持ちでしょうか?!」

「嬉しいです、最後も皆と勝てて良かったです!」

 

 彼は、本心からその様な事を言っていた。

 相棒の失敗で完全試合を達成出来なかった事など、全く気にしていなかったのだ。

 

 

「轟くんと伊川くんのホームランを見て、どのような気持ちになりましたか?!」

「やっぱりホームランは良いなと思いました……俺も出来れば打席に立ちたかったです」

 

 彼は今更な事を言いつつも、嬉しそうな顔をして味方の奮闘を祝福していた。

 それは大画面に映っている本人の嬉しそうな顔で、ありありと伝わっている。

 

 

「最後に、メジャーリーグへの抱負を教えてください!」

「これからも全力で戦って、全力で勝ちに行きます!だから、これからも応援してください!!」

「これからも応援しています、日本人初の高卒1年目メジャー選手として、頑張ってください!!ありがとうございました!!」

『わあああぁぁ!!』

 

 こうして、薬師5人衆の高校時代は華々しく終わった。

 

 彼らの伝説は、まだ始まったばかりである。

 これからも北瀬達は、野球の天才として人々を惹き付けるのだろう。

 

 

 

 

 

 

「もう、行くんだよな!」

 

 伊川は寂しそうな顔をしながらも、笑顔で北瀬を送り出そうとしていた。

 

 ここから先、いつ会える様になるのかは分からない。

 1年経っても、きっとメジャーリーグと言う舞台に立ち続けているのだから。

 

 だからこそ、最後は笑顔で別れを告げようとしていた。

 

 

「本当にやり残したことはないな?北瀬」

「はい!コーチも監督も本当にありがとうございました!

 ……伊川、雷市、三島、秋葉、元気でな!」

 

 北瀬はそんな寂しさなどは覚えていないかの様に、楽しげな笑顔で旅立とうとしている。彼にとってこの挑戦は、最高にワクワクする物だからだ。

 

 

「一足先にメジャーデビューかー、マジで存在が遠すぎるって!お前」

 

 秋葉は眩いモノを見るかの様な顔をして、こう言った。

 

 

「どれだけ涼が偉大な存在になっても、お前を超える野望は忘れねぇ!三島伝説はこれからよ!!ガーッハッハッハ!WBCには間に合わせて見せるからな!」

 

 三島は大胆不敵な顔をして、こう宣言した。

 

 

「カハ、ハ……ひぐっ、俺、ホームラン王になって、メジャーと日本代表、目指す、そんで、そんで……ゼッタイ、また一緒に野球……やろう……!グスッ」

「雷市泣きすぎだって!」

 

 雷市はグシャグシャに泣き崩れながら、こう約束した。

 

 

「真田先輩が来れなかったのはしゃーねーわな。

それより北瀬、お前後でちゃんと英語の勉強をしろよ?」

 

 伊川は最後の最後まで、まるで保護者かの様な振る舞いをしていた。

 

 

「先輩、どこに行っても俺達、呼ばれたら駆けつけます!

いつか試合をずっと生で見れる様になりますから!!」

『俺も!!』

「……いや、おまえはせめて自分の仕事で食えるようになってからな?」

「ハイ!偉くなって、全部株とか買い占めます!」

「あっ、うん……まあ頑張ってね?」

 

 4軍のファン達は、謎の宣言をしていた。

 北瀬はツッコむべきか悩んで、曖昧な反応をしている。

 

 

 

 

 

 

 彼が今飛び立とうとする頃、とある雑誌に北瀬涼を中心とした集合写真を一面に添えてこう書かれていた。

 

 

『彼には、価値がある』

 

 

 話題沸騰のルーキー、億超えプレーヤー、ゴールデンクラブ賞、首位打者を始めとした輝かしき選手達。

 

 先発、中継ぎ、抑えのブルペン陣

 1軍のファースト、セカンド、ショート、サード、センター、ライト、レフトのスタメン、ベンチ、代打

 及び2軍の全選手

 

 それらを支えるヘッド、総合、作戦、投手、ブルペン、打撃守備走塁のコーチ陣

 合計63名

 総年棒、24億___

 

 

「それじゃあ皆、行ってきます!」

 

 

 

___彼には間違いなく、それを超える価値がある。

 

 

 

 




      1回  2回  3回  4回  5回

秋葉一真  三振      ゴロ     フライ
伊川始  2塁打         2塁打
三島優太  ゴロ          三振
轟雷市  フライ         進塁打
火神大我      三振      併殺
結城将司      三振         ヒット
由井薫       ゴロ         ヒット
瀬戸拓馬          ゴロ      三振
真田大平          三振      ゴロ



          6回  7回  8回 

秋葉一真         2塁打
伊川始      2塁打 本塁打
三島優太     ヒット フライ
轟雷市      本塁打  ゴロ 
火大我      フライ     2塁打
結城将司      三振     進塁打
由井薫→奥村光舟  ゴロ      三振
瀬戸拓馬             フライ 
真田大平             


ちなみにリリーフは、この試合で調子を崩したまま球界を去ってしまいました。
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