【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
マリナイズと150億円の契約を交わした北瀬は、言われるがままに黙々とフィジカル強化に努めていた。
かなりキツい練習も、鉄人としての体力のお陰で難なく熟せているのだ。
まぁ休み期間なので別に球団の言うことを聞く必要も無いのだが、日本人らしい生真面目な気質なのだろう。
「He has a 107mph pitch and is so dedicated to practicing...he's a great athlete.」
「Yes, Kitase will be the man to carry the Marines.」
「俺、何か言われてます?」
「173kmに変化球を持っていて練習熱心で、素晴らしい逸材だ。マリナイズを背負う選手になるだろうと言われています」
「そっか!そうだと良いなぁ!」
球団関係者は、口々に彼の事を褒め称えている。
ベンソンスカウトのファインプレーによって手に入れた最高峰の選手が、人格面でも割と良かったのだからそうなるだろう。
「基礎練は終わったか?じゃあ投球頼むよ」
「ハイ!今日もよろしくお願いします!」
「よし、今日も打ち取るぞ!」
練習が終わると日本人最高峰のバッターやキャッチャー達と練習する機会が与えられ、よく一緒に練習していた。
お互いハイレベルな実力を持っているので、練習相手として最適らしい。言葉が直接通じると言う事も、3人の実力アップに大きく貢献していた。
そして4ヶ月の時が経ち、オープン戦が始まった。
初戦は驚異のジャパニーズ150億の新人北瀬が登板し、大きな注目を集めている。
「北瀬ー!!頑張れー!!」
『……ニッポン!!……ニッポン!!』
態々日本から、彼のメジャーリーグ初舞台を観戦しに来ている観客達もいる。
「あ、なんか日本語が聞こえますね。メジャーリーグを見に来る日本人ってけっこう多いんですね!」
「普段はここまで居ないと思います、北瀬さんを応援しに来てるんでしょう」
「えっ、そうなんですか?!」
彼は通訳者と呑気な会話をし、彼にとっては意外な事を聞いて驚いていた。アメリカまで自分の試合を見に来る、熱心なファンが居るとまでは思っていなかったのだ。
彼は未だに、かなり自分の実力に無頓着であった。
「Whoo!! It's Kitase!(やったー!北瀬だー!)」
「Super cool!!(超カッコイー!)」
「Like a model(モデルみたい)」
まぁそれでも今の所、歓声の殆どは顔評価としか言いようが無かったが、北瀬は嬉しそうだった。
「アメリカでも応援してくれてる人がいるんだ、頑張らなきゃな!」
「やる気か?北瀬」
「勿論です!メジャーリーガーとして初舞台ですから!」
捕手の先輩と会話を交わしながら、北瀬は楽しそうな顔をしてマウンドに上がった。妙に度胸がある。
相方も「初登板だから大丈夫かと思ってたが、これなら心配なさそうだ。俺のリードで相手をボッコボコにしてやる」と意気込んでいる。
北瀬にとってのメジャーリーグは、沢山の観客達に見られていると言う点から見て甲子園と変わらない。
より実力の高い選手と戦えるんだろうな程度に考えているらしい。
___バシッッ!!
一瞬、会場中が無音に包まれた。
あまりにも凄まじい剛速球に、数々の名選手によって目の肥えた観客達も唖然としていたのだ。
『……Whoo!!』
直後、圧倒的な大歓声が聞こえて来た。
新たなスターの誕生に、彼らは魅了されていたのだ。
「えっ、何々?!」
だが、英語の出来ない北瀬は困惑している。
褒められているのか貶されているのか、彼には理解出来なかったのだ。
それでもキャッチャーの指示通り、気を取り直して普段通りのピッチングを続けた。
___バシッ!!
___バシッッ!!
「strike out!」
『Whoo!!』
___バシッ!
___バシッッ!!
___バシッッ!!
「strike out!」
『Whoo!!』
___バシッッ!!
___バシッ!
___バシッッ!
___バシッ!
「strike out! チェンジ!!」
『woo hoo!!』
たった10球で、北瀬は圧倒的な存在感を出した。
高卒1年目にして、メジャーリーガーとして初の舞台。
百戦錬磨のレジェンド達を圧倒し、彼は1回表を全て三振で押さえ付けたのだ。
「どうだ、メジャーリーグと言う舞台は」
「そうですね……多分、高校の時とやる事は変わらないと思います___打たれない様に、全力で投げるだけです」
「お前はそれで良い。全力で投げ続けろ、状況は俺が判断するからな」
「よろしくお願いします!」
同郷のバッテリーは、澄ました顔のまま会話を終えた。
北瀬は思考を放棄しているが、一瞬で後輩が大注目選手になった事を他の選手達はどう考えているのだろうか?
「Game set!!」
『woo hoo!!』
大歓声を浴びながら、北瀬は投球を終えた。
満足気に軽く肩を鳴らしながら、撤収作業を進めようとしている。
『こんな事があって良いのか??ジャパニーズが初日から完全試合を達成したぞ!!マジでスゲェ球投げやがる、コイツから点を取れる奴はいるのか??!!』
実況が言う通り、彼は完全試合を成し遂げている。
高卒1年目の契約初日から完全試合と言うのは、前代未聞の事だろう。
相手は調整選手を多く入れていたと言う事情があっても、色褪せない大記録だった。
「Wow! You're a great guy!
(すっげぇ、お前超やるじゃん!)」
「……ありがとうございます!皆さんの守備のお陰です!(Thank you! It's all thanks to your defense!)」
「By the way, why are you cleaning up? It's not Kitase's job.
(てか、何で片付けやってんの?北瀬の仕事じゃねぇぞ)」
「……えっ?ああ、そうでしたね。すみません。
(Huh? Ah, that's right.)」
通訳を挟みながら、北瀬と他の選手達もワクワクとしながら会話をしていた。
やはり彼らにとっても、完全試合と言う偉業は素晴らしい物だったらしい。
直接話せない事をもどかしそうにしながら、ハイタッチで称え合っていた。
初の試合が終わると、北瀬は直ぐに元チームメイト達からのメールに返信した。
彼にとって大切な人達なので、真っ先に成果を報告したかったのである。
プロ入りした選手も後輩達も彼の試合を見ていたらしく、大いに褒め称えられてご満悦になっている。
返信が終わった後、彼は軽く食事を食べながら伊川と通話を開始した。
「もしもし北瀬?完全試合じゃん、スゲェな!」
「ありがと伊川!そっちはまだ試合は無いんだっけ?」
「そうだな。今は春季キャンプの最中で、真田先輩と一緒には練習出来ねぇんだ」
「へ〜、残念だな」
日常の事を話すかの様にプロでの事を話していた彼らだが、突如伊川が爆弾発言をした。
「そういや佐藤がそっちで記者やりたいって言ってるから、アパートメントの一室貸してやってくれね?」
「えっ?アイツ、大手新聞から内定出てなかったっけ」
「さぁ、なんか報道の自由が云々って言ってたけど」
「まぁ俺は良いけど……球団に問い合わせてからじゃないと許可出せないぞ」
こうして、北瀬と佐藤は謎に同居する事になった。
記事のロイヤルティなども球団に言われるがまま契約し、SNSで発信して行く事になったらしい。
ついでに公式TkTokも開設して、佐藤と共同運営する事になっていた。
北瀬のネットリテラシーに大分不安があったので、渡りに船だった様だ。
マスコミを介さないありのままの北瀬が見られると、ファンから高評な専属記者になる未来も近いのだろう。
まぁ、裏垢バレの脅威は去っていないのだが。
そして北瀬は、その勢いのままレギュラーシーズン開幕試合を務める。
流石に完全試合とは行かなかったが、6回無失点と順調な滑り出しを果たしたのだ。
打撃でも4回1得点とまずまずの結果を残し、日本やアメリカのファン達から大層喜ばれていた。
本人は「どうせなら完投させてくれれば良かったのになぁ」と少し不満げそうにしていたが。
『キタセ!!キタセ!!』
今日も彼は、会場中からの大歓声を背負いながら投げ続けている。
【人気者】のスキルと彼本人の実力によって、既に大層人気のある選手になっていた。
「よし!今日も頑張るぞ〜!」
彼は、どんな試合状況でも笑顔で投げ続けている。真剣勝負が楽しくて仕方ないのだ。
そんな所が彼の人気を支えている1つの要因なのだろう。
___バシッッ!!
『Whoo!!』
観客達からの大歓声で迎えられている北瀬。
彼は笑顔で投げ続けながらも、今の状況を少しだけ不思議に思っていた。
(なんか最近、負ける気がしないんだよなぁ。
……まあ、良い事だからいっか!)
本人は自分のミスで負ける事は無い試合に、少し違和感を覚えているが……再来年になると宿命のライバルになる綾瀬川達によって平穏が破壊される為、全く問題ない。
「やった、由井達が勝った!これで甲子園5連覇かぁ、やっぱり轟監督って名監督なのか……?」
試合が終わった後の彼は、故郷の後輩達の春の甲子園決勝戦を見て、嬉しさと懐かしさを感じていた。
ちなみに伊川が初の公式戦で3連続ホームランを出して敬遠された事は、当然だろうなと感じているらしい。
「まぁ、アイツらなら出来ると思ってたよ」
同時にTV放送を見ていた伊川は、当然の結果だと言う様に話している。
確かに主力がごっそり抜けても勝てるだけの自力はあったみたいだが、そこまで盲目的に信頼するのはどうなのだろうか……?
「次は甲子園6連覇だな!」
「うん、楽しみだな!……でも轟監督が名監督ってのは素直に同意し難いなぁ。いや、割と感謝はしてるんだけどさ、あの人って適当過ぎるし」
「あははは、色々と大物感があったよな〜」
彼らはくだらない事を話しながら、次の大会でも後輩達が勝つと確信していた。なんなら綾瀬川が居る以上、甲子園8連覇位は行ける気がしているらしい。
守備力の致命的な欠如を、すっかり忘れている様だ。
「よし。今日の伊川と観戦したシーンを纏めた奴、YouTubに上げて良いか?」
「オッケー!いつもありがとな!」
北瀬の家に同居している、実質専属記者の佐藤が今日も地味に活躍していた。
日本の一等星の飾らない姿を毎日の様に配信してくれる彼に、妬みつつも感謝しているファンは多いらしい。