【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「メジャーって楽しいな!守備は上手いし打撃も良いし。やっぱり最高峰のリーグは凄いなぁ」
こんな事を休憩中に呟いた北瀬は、5月中旬までに防御率1.23に加えてホームラン数10本と、縦横無尽な活躍を見せていた。
彼の躍進の秘訣は、鍛えなくても筋肉質な身体を徹底的に徹底的に虐め抜ける生来の頑丈さによる物だろう。
食事で得たエネルギーと呼吸時の酸素を、全て筋肉に与えられる異常な体質によりここまでの成果を出している。
少なくとも他の人間は、最大の運動強度での無酸素運動は33秒が限界だ。運動中に筋肉内で大量に生成される乳酸を処理する為に莫大な酸素が必要になるからだ。
だが北瀬には、死亡リスクのある酸素濃度10%以下でもスポーツが続行出来る異常な特異体質が備わっていた。
だから彼は、疲れ知らずな上に少しの休息で全回復する事が出来るのだ。
後の研究で明らかになる事だが、北瀬涼の頑丈さは伊川始とは理由が全く違うらしい。
その特異体質を無自覚に他者が一部学習した事が、薬師高校黄金世代が躍進した理由の1つだとされているが……詳細は後の研究でも分かっていない。
「でも……なんか練習が物足りない、ちょっと練習しただけでもう休めって言われるし。これなら中学生の時の方がキツかったと思うんだけど」
「そりゃあ今までが異常だっただけだよ。これからは何年も戦い続ける事を前提で鍛えるんだ、北瀬にとって物足りない位が丁度いいのさ」
「まあ、そうなのかもな」
通訳兼マネージャーに愚痴っている北瀬は、一応納得している素振りは見せている。
直ぐに練習のし過ぎだと止められてしまう事は辛いが、それが適正な練習なら仕方ないと諦めてもいるのだ。
天才っぽい弟の考案してくれていたトレーニングは、専門家が作った物では無い。それくらいは理解しているのである。
「この前もホームラン打たれちゃったし、やっぱりメジャーリーグは凄い。雷市みたいな奴と、公式戦で戦い続けられるなんて思わなかった!」
嬉しそうに話している北瀬だが、どこか釈然としない様な雰囲気も醸し出していた。
拮抗した勝負が好きな彼は、世界最高の野球人達が集まる場所でも無双出来ている事に、内心少し不満を感じていたのである。
本人は自分の本心に気付いていないが、一部のチームメイトやファン達は薄々気付いていた。
「メジャーリーグの選手と比べられるだけの実力者が、高校生に……それも同じチームに3人もいた事は奇跡だっただろうな」
「だよな!俺、薬師野球部に入れて良かったよ」
「ああ、日本人にとって運命的な出会いだったな」
大エースに付き従う者なだけあって、やはり野球が好きな通訳者はそれでも嬉しそうな顔をしている。
どんなスポーツでも一定の成果を出せたであろう北瀬が、野球と言う競技にのめり込んでくれた奇跡に感謝しているのだ。
「運命かぁ……あの出会いが運命だったなんて、あんまり思えないけど。まぁそうかもな!」
偶々早い時間に登校して、偶々轟監督に誘われただけと自認している北瀬にとっては微妙な結論だった。
確かに監督にも感謝してるけど、出会いが運命という言葉には魅力を感じて居なかったからだ。
40過ぎの無精髭が生えたおっさんとの出会いに、キラキラした言葉を付けたく無かったのかもしれない。
北瀬は薬師初期メンバーらしく、監督の事を強豪校の選手にしてはある意味では軽視していた。
「うん、俺にとっては運命だったと思うよ」
そんな彼の気持ちを理解しつつ、通訳者は本当に嬉しそうに話している。
「今日も大活躍だったな、北瀬!」
「ありがと。ランナーは出しちゃったけど、6回無失点で抑えられて良かったよ!まあ、試合は負けちゃったけど」
今日は先発としての試合が終わり、ルームメイトの佐藤からインタビューを受けていた。
態々試合が終わった直後に話さなくてもと思うかもしれないが、対して疲れていないにも関わらず練習を制限されている北瀬にとって、友人との雑談は楽しみの1つでもあるのだ。
後でYouTbeを見返して日記の様に楽しめる上に、不味い所は切り取ってくれる取材に答える事は、彼にとって負担になっては居なかった。
「せっかく調子良かったんだから、北瀬に完投させてくれりゃ良かったのになぁ」
「仕方ないよ、怪我のリスクが高くなるらしいし」
首を振りながらも、北瀬は悲しそうしている。
彼は高校生時代、先発完投して勝つ事にエースとしてのプライドを感じていたからだ。
それが許されない事に、呑気な北瀬でも多少はストレスを感じているらしい。
「そりゃそうか、甲子園みたいに一発勝負じゃないしな」
「ね、【トーナメントの方が俺は好きだったな。】沢山勝負出来る、今の形式も楽しいけどさ」
北瀬の今日の失言も、佐藤に上手く編集されて無かった事になっている。
だから「北瀬に完投させてくれりゃ良かった」と、彼の意見を代弁した佐藤の方が炎上していた。
世界最高峰のピッチャーに、無理をさせる様な発言が良く無かったらしい。
「雷市!月間ホームラン13本おめでと〜!」
「カハハハ、アリガト〜キタセ!」
少しホームシックに掛かっているのか、北瀬はよく薬師野球部の元チームメイト達と通話をしていた。
今日は不動の主砲だった、轟雷市と楽しく話している。
「伊川と同じで、新人賞は硬いらしいな!これで10人目の快挙なんだろ?スゲー!」
北瀬は笑顔で元仲間の勇姿を称えている。やはりメジャーリーガーとしての余裕がそうさせるのだろうか?
いや、それは違うだろう。正直な所、彼はメジャーリーグと日本プロ野球の違いが、あまり分かっていないのだ。
アメリカの方が人口が多いから、こっちの方が強いのかな程度に考えている。
それでも身内の活躍を心の底から喜べる所が、彼が周囲から優しいと言われる理由なのだろう。
「カハハ……でも、足りない」
「えっ、足りない?」
「___オレは、三冠王がとりたいから!」
引っ込み思案な所がある雷市は、それでも最高峰のプレイヤーに対して高らかに宣言した。
彼にとって、野球は生きる理由の全てなのだ。
小難しい事は何も考えていないが、彼はバットを振る事だけを考えて生きているのだった。
だから高卒1年目にして1軍で活躍していても、闘争心が湧き続ける事を、心の底から当然として捉えていた。
「三冠王って……首位打者、本塁打王、後は打点王だっけ?流石に安打数で伊川を抜くのは無理じゃね?」
歯に衣を着せられない北瀬は、無自覚に率直に辛辣な言葉を吐いている。
まあプロでもギリギリ9割を維持している伊川の抜くのは大層厳しい事は事実だが、もう少し言い方を考えられなかったのだろうか?
そして何より、北瀬の意見はかなり的外れであった。
「ううん、リーグが違うから。でも負けね〜!!」
「あそっか、頑張れ雷市!」
運良く伊川とリーグが違った雷市は、それでも闘争心を燃やし続けていた。
三島の様に、心の底からライバルだと感じているのだろう。引け目の様な感情は、特に感じていなかった。
そんな雷市の雰囲気を感じ、北瀬は軽く応援している。
どっちを応援すれば良いか悩んでたけど、それなら両方応援出来るなぁと適当に考えているからだ。
メジャーリーガーにもなって三冠王の要件すら危うい彼は、知識面が未だに全く足りていなかった。
「はぁ、未だにスタメンが取れねぇよ。プロはやっぱり違うよなぁ。北瀬からすりゃ関係無いんだろうけど」
「沢山選手が居るし、仕方ないだろ!それにまぁ秋葉なら、直ぐに取れるっしょ!」
「そうだと良いなぁ」
今日は秋葉の愚痴の様な物を聞いている北瀬。
彼らは、高卒1年目にして1軍出場が出来ている凄さに無自覚であった。
「雷市も伊川もお前も、凄い活躍してるのに……期待外れだって思われてなきゃ良いけど」
「うーーん……まぁ優太は2軍だし、多分大丈夫しょ!」
もう1人の友人の事を辛辣に表現している北瀬は、彼らに対して内心、直ぐに1軍で活躍して賞を取って欲しいと感じていた。
要求する結果があまりにも無自覚に高過ぎる事に、彼は全く無自覚である。
そう言った身内の善意を含んだ本心に、秋葉のメンタルが惑わされている事など全く察していないのだった。
「だと良いなぁ。ハァ、早く活躍したい」
「あんま気にすんなって!」
基本的に人が良い北瀬だが、今日も無自覚に友人達にプレッシャーを掛けている。
そして秋葉も、彼の言葉に動揺させられている事に気付いていなかった。
北瀬の意見を、当然だと受け止めているからだろう。
「ガハハハ!流石はプロ野球!全員実力が高けぇぜ!!」
「早く1軍に上がれよ〜、こっちで活躍を見てぇしさ」
薬師5人組の中で1番遅れを取っている三島に対して、また北瀬は無自覚にプレッシャーを掛けていた。
だが三島は、その程度の意見に潰される選手では無い。
「おう!直ぐに大活躍してメジャーに渡ってやるぜ!!」
「うんうん!チョー楽しみにしてる!」
北瀬は三島の豪快な発言を聞いて、本当に嬉しそうにしていた。
友達の熱意を喜ばしく感じた事も大きいだろうが……彼はライバル達と戦う事を、メジャーの舞台で待ち望んているのだ。
まだ日本の2軍レベルである三島と言う選手の事を、本心から好敵手だと感じているらしい。
「そして涼!お前にも負けねーからな!!」
「俺だって強くなってるからな!こっちに来たらビックリさせてやる!」
そうやって、北瀬はニヤリと笑った。
だが内心、もっと強くなっておかなきゃなと慌ててもいたとか。今の所、メジャーリーガーになってから成長出来たのか自信が無いらしい。
たった半年ちょいで明確な結果を出せると思い込んでいる所が、彼の知識面の無さを表しているのだろう。
弟の成長に強く触発されているのかもしれないが、あまりにも野球と言う競技を舐めすぎであった。
「ガハハハ!俺はお前以上に強くなり続けるからな!」
「じゃー俺ももっと成長するし!」
「なら俺はもっとだ!!」
「じゃあ俺は更に強くなる!!」
『……ハハハハ!!じゃあまたな〜!』
ポジティブシンキングな彼らは快活に笑った後、あっさりと通話を切った。明日の練習で成長する為に早く寝ようと、同時に思い立ったのである。
2人のテンションは、無自覚に合いまくっていた。
雷市は当然の様に、背番号4のDH選手をしています。