【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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 大内山と言う選手を送ってくださった方、ありがとうございます!彼の詳しい情報は活動報告欄の「パワプロ転生で戦う学校」に頂いているので、気になった方がいらっしゃれば見てみてください!


225球目 才能の差

 

 

 

 

 新人自主合同トレが終わった後、伊川は当然の様に1軍キャンプに帯同している。

 このキャンプでは最大40人まで1軍になれるとはいえ、高卒1年目と考えれば快挙であった。

 まあ彼は、開幕戦からスタメン確定とまで言われる選手なので当然と言えば当然の結果ではあるが。

 

 

「真田先輩!久しぶりっス!!」

 

 伊川は嬉しそうにはにかんで笑っている。

 彼は今更、先輩を追い掛けてここまで来た事を恥ずかしく思っているのだ。勿論、選択に後悔はしていないが。

 

 

「久しぶり?だな!始とまた野球が出来て嬉しいよ」

 

 真田も楽しそうな顔をして笑っている。

 彼もまた大切な後輩がここまで追い掛けて来てくれて、一緒に野球が出来るかもしれない事を喜んているのだ。

 

 伊川とちょくちょくLIMEでやり取りしていたから久しぶりな感じはしていなかったが、喜んでいる気持ちは同じだった。

 

 

「俺、センパイと野球するのが滅茶苦茶楽しみで……沢山勝ちましょうね!」

「だな!ま〜俺は、その前に1軍の座を掴み取らなきゃ行けねぇんだけど」

 

 2人で試合に出るのは確定とばかりに話す伊川に対して、真田は野球初心者っぽい彼を面白く思いながらこう語った。

 恐らく、これだけの実力があるのに野球に慣れていないのが伊川らしいなと感じたのだろう。

 

 

「え、1軍キャンプにいるから当確じゃないんスか?」

「いや……1軍登録が出来る最大人数は29人だから、春季キャンプの人数から10人減るんだよ。俺が1軍に選ばれるかと言うと大分怪しいな」

「いやいや、真田先輩なら選ばれますよ」

 

 伊川から盲目的な信頼を寄せられて、真田は微妙な顔をしていた。彼はそもそも、実力で1軍キャンプに選ばれた訳では無いと思っているからだ。

 

 

 「ありがと、そうだと良いな!」

 

 真田は監督から事前に「球団に馴染めていない伊川のサポートをしろ」と命令されている。

 明言はされていないが、その為だけに1軍キャンプに呼ばれたと分かっているのだ。

 だから彼は、自分が開幕1軍など無いと分かっている。

 

 それでも真田は、大切な後輩を精一杯フォローしようと本心から考えていた。

 そう言う人間だから、真田は薬師高校の後輩達から慕われているのだろう。

 

 

 

 

 

 

___カキーン!

___カキーン!

___カッキーン!

 

 伊川はプロ野球の春季キャンプでも、プロ相手に盛大に打球を飛ばし続けていた。昨年セカンドのスタメンだった選手なんかは引き攣った顔をしている。

 彼の異様な実力を見て、他の選手達もざわめいていた。

 

 だが、何故か伊川も少し険しい顔をしていた。

 プロ相手でも大活躍出来ると分かったのに、嫌そうな顔をしているのである。

 

 

「どうした伊川、何か問題があるのか?」

「いや、何でもないっス」

 

 そんな彼に、メンタルコーチが心配そうに声を掛けた。

 伊川が何に悩んでいるかは分からないが、選手の状態を把握し改善する事が自らの使命だと考えているのだろう。

 コーチは、超大型新人を真っ当に育てようとしている。

 

 だが伊川は、彼の表情に何も感じなかった様だ。

 知らない人に話す程の事でも無いしなぁ、ていうかこの人は誰と適当な事を思っている。

 記憶力も高い癖に、そもそもメンタルコーチの事を把握していないらしい。

 

 

「俺もちょっと心配だしさ、聞かせてくんね?」

 

 メンタルコーチを適当にあしらってバッティングに戻ろうとしている伊川に対して、真田はフォローを入れた。

 使命感に駆られている彼は普段通りのにこやかそうな表情をしながらも、瞳に心配そうな感情が乗っていた。

 

 

「え、いや別に大した事じゃないんですけど……4回も打ち損じちゃったなと」

 

 全ての球のコースとタイミングが分かる伊川は、自らに要求する成果が異常に厳しかった。

 1軍選手に対してでも、打率10割じゃ無ければ納得出来なかったのだ。打率8割なんて論外だと思っている。

 

 

「……打ち損じ、か?アレ」

「あ〜はい。打球の威力が足りなかったり、守備範囲を見誤ったりしたので」

 

 困惑が隠せないメンタルコーチに、伊川は少し不信感を抱いたらしい。何だコイツと言う顔をしながら、面倒くさそうに一応は説明している。

 野球を長年やって来た癖に、何で打ち損じが分かんねぇんだよと言う顔をしていた。

 

 

「確かに高校野球の時は、ほぼ毎回打ててたもんな」

 

 良く言えば常識に囚われない、悪く言えば野球の一般常識を知らない真田は、確かに伊川にとってコレは問題なのかもなと思ったらしい。

 高校野球とプロの実力差を完全に無視して、納得した様な顔をしていた。

 

 

「いやいや……いや…………まぁうん、向上心を持つ事は大事だよなぁ」

「あ、ハイ」

 

 公式戦では無いとはいえ、打率8割4分に納得出来ないっておかしいだろうと呆然としていたコーチは、どうにか自らを納得させたらしい。

 絞り出した様な声で、何とか伊川の感想を肯定した。

 

 

「どうして打てなかったのか、分かるか?」

 

 コーチも野球歴が長いとはいえ、超人の感覚など全く分からなかったらしい。素直に伊川の感覚を聞く姿勢を見せている。

 それが出来る人格を評価されて、メンタルコーチに配属されたのだろう。このコーチは、実は現役時代はあまり活躍していなかった。

 

 

「多分俺のパワー不足と、高校野球よりも野手陣の守備範囲が広い事ッスね」

「なるほど、守備範囲か。後で対策を考えてくる。

それとパワー不足かぁ……別に足りない感じはしないが、確かにプロ屈指と言う程では無いかもな」

 

 異次元の長距離砲に対して、メンタルコーチもちゃんと献身を見せている。

 対策が出来るかは分からないが、後でコーチ全員で話し合おうとメモを取っていたのだ。

 

 それを見た伊川は(知識は足りなくてもやる気はあるんだなぁ)と意外に感じていた。

 知識が足りない訳ではなく、規格外の天才選手に対しての指導が分からないだけな事を理解していないらしい。

 自軍のコーチのやる気まで疑っていた彼は、正直誰かにバレて反省するべきであった。

 

 

「え、マジすか。ありがとうございます!」

「ん?ああいや、そんなのコーチとして当然だよ。まぁ、対策が思い付くかは分かんないけどな」

「いえ、手厚いサポートがあると分かって良かったです」

 

 こうして伊川は、少しコーチを信用し始めた。

 チョロいと笑うべきなのか、今までの周りが酷かった事を嘆くべきなのか、微妙な所である。

 

 

 

 

 

 

 プロ野球が開幕し、伊川は打率9割1分9厘と異次元の成果を出しファン数を急激に増やしていた。

 高校野球ファンは既に多く獲得していたが、プロ野球ファンまでを虜にしたのである。

 

 

___カッキーン!

 

『きゃああぁぁ!!』

 

『伊川選手!今日もソロホームランを放ちました!これで3試合連続ホームラン!!4試合前は全打席敬遠されてしまっていましたが、ここで阪真は勝負を選択しました!』

『いやまさか、商業スポーツにも関わらず全打席敬遠される選手が出てくるとは思っていませんでしたよ。これはホンッットに凄い事です』

『でも流石に、全試合敬遠する訳にもいかないですからね。伊川くんの前が全部空いてたら打たれに行くのが基本になってます』

 

 チームメイトからハイタッチで出迎えられた伊川は、それでも苦笑いしかしていない。

 

 

「あ、どうも」

 

 伊川は、交友関係のある1軍の先輩が1人もいない事を寂しがっているのだ。

 俺ってこんなにコミュ力無かったっけと、とても悲しく思っているらしい。

 

 

 

 

 

 

「今日も大活躍だったな!」

「アザッス!川嶋さんも出塁してくださったお陰で、四球で打点頂いちゃいました!」

 

 開幕1軍から4番に座っている伊川は、話しかけて来た遊撃手の先輩に笑ってそう答えた。

 彼は毎試合毎試合で四球攻めをされているせいで、実力以下の打点しか付かないのである。

 今日はホームランも合わせて2打点付いたなと、少し嬉しく思っていた。

 

 

「いやぁ、ここまで露骨に勝負を避けられるのは大変だな。もうコレは走るしか無いだろ」

「ハハハ、盗塁はけっこう苦手なんですよね」

 

 敵チームから酷い扱いを受けている伊川は、それでも困った様に笑うだけだった。

 打点が付かないのは俺のせいじゃないし別にいいやと、選手として意味不明な事を考えているからである。

 

 

「……良ければ走塁を教えてやろうか?つっても伊川は、別に不得意でも無いと思うけどな」

「良いんですか?……アザス!お時間がある時に声を掛けてくれたら嬉しいっス!」

 

 そんな超人的な結果を残している伊川は、傲慢な態度は見せずに謙虚な姿勢を見せ続けていた。

 人と仲良くしたい気持ちが強い彼は、逆にそのせいで周りから遠巻きに見られている事に気付いていない。

 

 全く欠点が無い後輩の格上選手なんて、近寄り難いにも程があると分かっていないのだった。

 

 

 

 

 

 

「今日も大活躍だったな!始!」

「真田先輩……ありがとうございます」

 

 寮に戻った後、真田先輩に話しかけられた伊川は憂いを帯びた表情を隠せなかった。

 だからこそ、真田は心配して話しかけているのだろう。

 

 

「プロに馴染むのは大変だよなぁ、薬師の頃と全然雰囲気が違うし」

「真田先輩でも、そう思うんですね」

 

 寂しそうな顔をしながら、伊川は少し笑っている。

 そんな彼を見て、真田も困った様に笑った後に、勇気を出して言った。

 

 

「まぁな、始もそのうち慣れるさ!俺も早く1軍に行ってサポートするしな!」

「あざっす!!超楽しみです!!」

 

 真田は、まだまだ俺には実力が足りないと感じている。

 それでも、追いかけてきてくれた後輩の為にも上に行くんだと考えて決意表明をしたのだ。

 

 そんな真田の内心は分かっていない伊川は、先輩が来てくれると聞いて素直に凄く喜んている。

 

 

「あっ、もし俺に出来る事があったら何でも言ってくださいね!」

「やった、じゃあ自主練に付き合ってくれよ!やっぱ実力がある選手と一緒にプレーしたいしな!」

「勿論!いくらでも付き合いますよ!」

 

 こうして伊川と真田は、1軍と2軍に分かれているにも関わらずちょくちょく一緒に練習する様になった。

 それによって真田は大きく成長する事が出来たが……正直、1軍での伊川の孤立は深まっている気もする。

 

 

 

 

「そういやさ、今日も試合でリリーフしたんだけど……無失点で切り抜けたぜ!」

「流石真田先輩ッスね!1軍目前じゃないっスか!」

 

 試合後の軽い筋トレを終えた後の伊川と真田は、今日の試合の話を聞きあって盛り上がっていた。

 流石に伊川の様な成果は出せていなかったが、真田も大きく成長しつつあると楽しげに話せているからだ。

 

 

「まあでもさ、他のピッチャーもやっぱスゲェよ!小川なんて6回無失点だったんだぜ!大内山さんも今日は打ててたし、楽しい試合だったわ」

 

 基本的に爽やか少年である真田は、ライバル達の成果を嬉しげに報告していた。

 特にピッチャーの小川は年齢も近い為、スタメン入りの強力なライバルの筈だが、それでも楽しげに話せているのである。

 

 彼のチームメイトを大切にする性格は、欠点としても大きいが確かに長所であった。

 

 

「大内山さんって言えば、確か親切な育成の捕手の方ですよね。俺も話してみたいなぁ」

「良いぜ、後で一緒に話しかけに行こう!」

「ハイッ!!」

 

 仲良しチームの雰囲気を引き摺って、実力差の有りすぎる先輩にも話しかけに行く伊川達。

 大内山と言う育成選手は育成契約3年目であり、今季で首を切られると言う噂など全く知らなかったのだ。

 

 

 

 

「えっと、チワッス!」

「大内山先輩。伊川が話してみたいって言うんで連れてきたんですけど、今大丈夫っすか?」

「えっ?ああ、うん。キャッチングも終わったし、勿論良いけど……?」

 

 

 そんな大変な状況の中でも、大内山と言う選手は親切であった。

 小川と言う未来の1軍選手のサポートもしながら、真田や伊川の事も気にかけてくれる様になったのだ。

 

 だからチームメイトの為に戦う事が好きな彼らが、大内山の分まで頑張ろうと思う要因になったらしい。

 1軍出場は夢のまた夢と言う選手であったが、ヤクルスワローズを無自覚に左右する人間になっていたとか。

 

 

 

 




 球団社長は「現行の支配下登録人数で戦っていく」旨を公表。今季2軍公式戦8試合20打数5安打2打点。
 打率.250など、どうやらなんのアピールにも繋がらなかったらしい。

 やはり捕手としての細かいプレーで他の2軍捕手と比べてどうしても粗さが出る、1軍に御幸一也がいるせいで必然2軍で捕手あまりが起こる、先の2年間の悲惨な打率が原因であったのだろう。

 育成とはいえドラフトにかかった理由が捕手としてのスローイングにある以上、大内山にあるこだわりが邪魔をしたか。
 この発表を聞いた大内山は、不思議なくらい清々しい気持ちであった。
 

 そして10月、彼に球団から一本の電話が。整然と支度する様に小川がいつもの惚けた口調で尋ねようとしたが。


 「ああ、君は知らなくて良い。……今までありがとな」

 と、聞かれるより速く足早に寮を後にした。




 球団事務所で8月から試合に出ていない大内山を待っていたのは、途中まで予想通りの言葉であった。


 「来季、君を【選手として】契約しない」

 育成選手3年目満期にきたこと、最後の最後に高卒の優秀な投手と関わり、そいつのために活躍できたこと。
 だから彼は、ただ普通の事の様に受け入れていた。

 だがその時、球団常務がこんなことを言う。


 「そういえば、小川君が9月に頑張っててね。小川君に対する献身については、2軍監督からよく聞いてます。どうかな、来季ブルペンで働いてみるのは」

 大内山は非常に驚いた。まさか支配下ですらない自分にこんな話が来るとは思ってもいなかったのだ。
 小川に関わっているのもどうせ今季で終わりという諦めからであったが、こんな形で返ってくるとは……

 嬉しさから、気がつけば泣きながら頷いていたという。
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