【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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226球目 右の怪物伝説

 

 

 肌寒い中陽光が降り注ぐ、青空に白い雲がぽっかり浮かぶ広島東陽の春季キャンプ地には、新しいシーズンへの期待と緊張感が漂っていた。

 ドラフト1位で入団した降谷暁は、まさにその真ん中に立っている。

 

 

 高校時代のセンバツ準優勝校のエースという実績と、最速159kmの豪速球を武器にしたピッチングで注目を浴びた降谷は、周囲からの期待とプレッシャーを一身に背負っている。

 キャンプ初日彼に支給された真新しいユニフォームのまだ硬さを残した布地が、彼の未熟さと希望を象徴しているかのようだった。

 

 降谷が家族や仲間達からの期待を背負い、自分の高校野球最後の日の誓いを果たす為の新しい第一歩が始まった。

 

 

 

 

 ウォーミングアップから始まった1日の練習。

 キャッチボールでは、若手投手陣の中でもその球威は際立っていた。

 キャッチャーミットに吸い込まれる球音は鈍い地響きのようで、周囲の選手達も思わず顔を見合わせている。

 

 

「さすがドラ1だ、高校生離れしてる。」

 

 そんな声が聞こえてきても、降谷は表情を変えなかったがその内心は穏やかではない。

 緊張と高揚が入り混じり、プロの世界でやっていけるのかという不安、それも胸の奥にわずかにあった。

 

 

 ブルペン練習では、ピッチングコーチが熱心に目を光らせていた。

 

 初めての投球練習で、降谷はストレート、スライダー、フォークの3種類を披露。

 捕手を務めたベテラン捕手がミットをパンパンと叩き、意図的にストライクゾーンの隅を要求している。

 それでも降谷は的確に応え、荒々しくも見事な球筋で投げ込んだ。

 

 

「よし、球速は十分以上だ!ただ、もっとコントロールを意識して投げろ!」

 

 投球練習を終えた後、ピッチングコーチの的確な指摘が飛ぶ。

 降谷の課題であるコントロールに関しては、プロに入っても一層の向上が求められているのだ。

 

 

「僕には、足りないものが多すぎる……もっともっと強くならないと」

 

 彼の独り言を聞いたドラ2の社会人が慄いていた。

 降谷は、既に1軍で通用するのではと思わされる程の剛速球を持っていたからだ。

 

 それでも彼は、頂点を見続け挑み続ける。

 ライバル達を追い越し、勝ち続け、最強の選手になる為に。

 

 

 

 

 春季キャンプの一環として行われた紅白戦。

 観客といえばコーチ達とこれから数少ない1軍という席を奪い合う者達だけの静かな球場の中で試合が進み、迎えた中盤戦。

 

 降谷暁がマウンドに立つその姿は、プロとしての覚悟と決意に満ちていた。

 春季キャンプの一環として行われた紅白戦。観客もいない静かな球場に響いたのは、投球練習中のキャッチャーミットを打つ鈍い衝撃音だった。

 

 彼が投げたボールは、空間を裂く音と共にキャッチャーミットに収まり捕手は何度も首を振った。

 まだ若手ながらも持ち前のストレートでアピールを続ける降谷。しかし、この日の彼は普段とは違っていた。

 

 

 白チームの先頭打者は1軍経験のある内野手で、プロの球に慣れた彼もまた、降谷の投球には注意を払っていた。

 

 

___バシッッ!!

 

「す、ストライクッ!」

『…………』

 

 初球。降谷が振りかぶり、放たれたボールは光のようなスピードで打者の手元へ届く。

 捕手が構えたミットに吸い込まれると、球場全体が静まり返った。

 

 

球速表示___160km/h

 

 

『……わあああぁぁ!!』

 

 それが成された瞬間、周囲が息を呑み歓声を上げた。

 その数字はかつて日本人投手の限界とされた「160km」という壁を卒業を迎えていない新人が超えたことを意味していた。

 示された速度を確認したスカウト陣やコーチ達は、誰もが目を見張りざわめきが広がる。

 

 

「まさか……本当に160kmを超えたのか?」

「嘘だろ、一応まだ高校生だろ、それでこんな球投げるなんて……」

 

 ベンチにいた監督も帽子を取り、目を細めながらその様子をじっと見守る。

 その一方で、同じ新人としてキャンプに参加していた選手達は、自分達との実力差を嫌でも痛感し肩を落としていた。

 荒々しくもプロでもそうない巨大な才を感じさせる次世代のエースを確信したコーチや監督は対照的に僅かに浮ついていた。

 

 

 しかし驚きが収まる間もなく、降谷はさらなる投球を続ける。

 2球目、3球目___いずれも150km台後半のストレート、そしてスプリットを投げ込み、打者は完全にタイミングを狂わされていた。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト!……チェンジ!!」

『わああぁぁ!!』

 

「さっすが右の怪物!」

「北瀬のライバルは伊達じゃねーっ!!」

 

 結局、降谷の圧倒的な球威の前に三振。

 捕手が投球を受けるたびに手を振るそぶりを見せるほど、その球の威力はすさまじかった。

 

 降谷の160kmは確かに驚異的な数字だった。

 しかし、その瞬間に多くの者の脳裏をよぎったのは、かつての同地区のライバルにして150億プレーヤー、北瀬涼の存在だった。

 

 

 西東京地区の、否この国で野球を知る者ならば最早誰もが知っているであろう数々の伝説を打ち立てたあの男。

 彼がいなければ当然、日本人で初めて160kmの壁を超え、日本人最速と言う2つの称号は降谷暁の物だった筈だ。

 

 ……野球留学した先で何の脈絡もなく唐突に表れた怪物達に全国の切符を奪われ続けたばかりか、日本最速まで奪われていたことに恐らく誰もが同情を禁じ得ないだろう。

 

 

 

 

 捕手を務める捕手の表情は、驚愕と苦戦の色を隠せなかった。降谷の投げるボールはただ速いだけではなく、その球威が鉄のように重かったからだ。

 キャッチャーミットに受けた瞬間、殴りつけられたように手に強い衝撃が走る。その圧力はただのスピードボールとは一線を画しており、捕るたびに手が痺れるような感覚が流れ込んでくる。

 

 プロの舞台で降谷暁が見せたこの一投は、ただの紅白戦の一場面では終わらず、チームメイトやスタッフの記憶に深く刻み込まれるものとなった。

 そしてこの日、降谷暁がプロ野球界に新たな風を吹き込む存在として語り継がれるきっかけとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 そうしてしばらくたったある日、降谷は報道陣に囲まれていた。

 スタッフが声をかけてきた事に気づいた降谷は軽く頷いて用意された会見場へ向かう。

 

 降谷本人は、未だに人前で話すのは苦手だし、正直何を聞かれるのか考えるだけで少し気が重く感じていたが、それもプロの選手として避けられない仕事だと自分に言い聞かせている。

 オープン戦での活躍が目覚ましくルーキーながら大きく注目を集めている彼に、記者達が質問を投げようとした。

 

 会見場には多くの記者たちが待っていて、僕が現れると一斉にカメラのフラッシュが焚かれている。

 彼は眩しさに一瞬目を細めながらも、深くキャップを被り直し、用意された椅子に座った。

 目の前にはたくさんのマイクが並んでいて、降谷の緊張感がさらに高めている様だ。

 

 

 最初の質問は予想通り、今日の試合についてだった。

 

 

「降谷選手、今日の試合での投球は非常に印象的でした。ご自身の感触はいかがでしたか?」

 

 マイクを向けられた降谷は、少し考えるように間を置いた後、静かに答えた。

 

「……悪くない感触でした。ただ、まだボールが理想の軌道を描いているわけではありませんでした。ので、これからの試合で修正していきます」

 

 謙虚ながらも、自身の課題をしっかりと見据えた答えに、周囲の記者たちは関心し、次の質問が投げかけられる。

 

「降谷選手、プロとしての目標をお聞かせください。今年のシーズンで目指しているものは何でしょうか?」

「目標ですか?そうですね……」

 

 この問いに対し、降谷は一瞬だけ視線を空へ向けた。

 彼の中で何かが確信に変わった瞬間だった。記者たちの視線を受けながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

「監督や球団のファンの皆さんを失望させないよう戦って行こうと思います、プロとしての目標は……」

 

 

 

 

 

 

「最終的な目標としては、WBCのメンバーに選ばれて、完封試合をすることです」

 

 その言葉に、その場の空気が一変した。

 一瞬静寂が訪れ、次の瞬間には驚きの声が湧き上がる。

 監督も、仲間も、誰も予想していなかった言葉が飛び出してきたその言葉には誰も動揺を隠していない。

 目標として大きく出ることは珍しい事ではない、が……

 

「WBCで完封、ですか……」

 

 驚く質問した記者達の後ろの間で交わされるささやき声を耳にしながらも降谷の表情は何も変わらない。

 その目には、確固たる決意が宿っていた。

 

 

「そ、その目標に向けて、どのような努力をしていくつもりですか?」

 

 場が動揺に包まれながらも一人の記者がさらに質問を続け、降谷は真剣な表情で答える。

 

 

「ピッチングの幅を広げて、どんな状況でも抑えられる投手になること、です。

 それがWBCに出場して結果を残すために必要だと思っています。……僕にはまだまだ必要な物が多いですから」

 

 たどたどしくも確固な意思を持つこの発言に同席していた監督やスタッフも、流石にこの発言には驚きを隠せなかった。

 プロの世界に入ったばかりの新人が、ここまで大きな目標を掲げるとは思っていなかったからだ。

 

 しかしその大言壮語が単なる夢物語ではない事は、彼の真剣な眼差しが物語っていた。

 

 

「こりゃ……本気だな」

 

 

 監督が小さく呟いたその言葉を聞き取った記者が、改めて降谷に質問を続けていた。

 彼の素朴ながら真摯な言葉に会場にいる全員が彼の可能性を信じずにはいられなかったのだ。

 

 そしてこのインタビューが、彼の名をさらに大きく世間に知らしめるきっかけとなった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、高校野球では金属バット故に殆ど起こらなかった事であるが……プロで使用されているのは木製のバットである。

 故に怪物球威で以て、それはもう景気よく本郷共々バットを破壊しまくり非公式記録ながら「バット折った投手ランキング」で3位から10位までの全員より任されたイニング数が少なかったにも関わらずワンツーで輝き破壊神の異名を拝命していた。

 

 一方で沢村は何故かピンチバンターを任され、警戒される中でこれ以上ないほど完璧に決めて決勝点を挙げ、大いに注目を集めたらしい。

 

 

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