【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「やった、秋葉スタメンじゃん!今日よろしくな」
「よろしく。にしても、まさか俺がレフトになるとは……プロの守備ってやっぱ凄いな」
プロ野球が開幕してから1か月程経った頃、阪真タイガース対ヤクルスワローズの公式戦の直前、伊川と秋葉がお互い大人しい声色で話しながらも親しげに話していた。
LIMEでもちょくちょく話していたが、秋葉は自分がプロ1年目で1軍に上がれた事にも、守備が不安視されて基本的にレフトに配置されている事にも驚いている様だ。
彼をプロ選手として考えた場合、打撃型の選手であるという事を本人は理解していないらしい。
「まぁ代わりに上位打線だし良いんじゃね?チームに貢献は出来てるっしょ」
「とは言っても2番打者だけどな」
「秋葉なら、2年後位には主砲になれるだろ」
「流石にプロを舐めすぎだよ」
プロ野球1軍選手という実績を浅い所で舐めている彼らは、薬師高校の卒業生達が高卒1年目にしてチームの主力級選手として活躍して行くだろうという事を全く疑っていなかった。
いくらなんでも傲慢不遜だと言いたい所だが、残念な事に大体彼らの予想通りの結果になると思われる。
ワンアウトランナー3塁の状況で、案の定また敬遠された伊川。だが、高校生の頃とは決定的に違う所があった。
___シュタタ
「セーフ!!」
『伊川選手またも盗塁しました!これで50盗塁達成!』
『塁に出る回数が他の選手とは桁違いですからね。彼の盗塁成功率を考えれば、もっとやってても良い位ですよ』
そう、彼は過去よりも盗塁する確率が大幅に上がっているのである。
親切なチームメイトの川嶋さんや穏やかな顔をした監督に説得されて、渋々盗塁の練習をし始めた効果が確実に表れているらしい。
盗塁成功率は今の所は80.1%と、既に球史に刻まれる程の実力を見せ付けていた。
能力を考えると物足りないとすら感じるかもしれないが、盗塁初心者に近い彼がプロで行っていると考えれば快挙である。
「今の所だが、伊川の盗塁にはスランプ無いように見える。なのに勇気を出せずに帰塁しがちなのは何故だ?」
阪真のスピードスターが秋葉に聞くと、彼は少し悩んでからこう答えた。
「……伊川はリターンよりもリスクを取りがちなので、不安を感じたら即座に帰塁しがちなんだと思います。
多分アイツは根本的に、野球に向いてる性格じゃ無いんです。才能があるからやってるタイプの典型例ですね」
秋葉にとっては怖い大先輩に怯え、咄嗟に思っていた事を濁さずに話してしまっていた。
もうちょっと誤魔化せば良かったかなと、後で後悔する事になるのかもしれない。
「力も速さもあって、気質が向かないタイプ?それにしては調子にムラが無さすぎる気もするがな」
「いや……伊川は動体視力が異常に良くて投手が投げている最中に、どのゾーンに来るか大体分かるらしいんです。
だからゲームみたいに、ここに来ると分かっているボールを打ち返すだけで良いんだって言ってました」
「ハァ?!そんなのどうやって対策するんだよ?!!」
伊川の異常性について当然の様に話している秋葉に対して、スピードスターは絶叫していた。
そんな反応をある程度予測していた彼は、困った様な顔をして過去の例を思い出そうとしている。
「えーーっと、伊川はパワーはそこそこなので重い球は打ち返せない事があります。それに守備範囲を間違える事や、バットを振る事に失敗する事もあるらしいです」
「ハアァァ、そりゃ異次元の選手だわ」
ベンチに深く座り込んで天を仰いだ先輩選手を見て、秋葉は苦笑いをしていた。
阪真の監督やコーチに説明した時も、似たような反応をされていたからである。
ついでに秋葉本人も、伊川に勝つ事はほぼ不可能だと感じているらしい。
元チームメイトに対して無自覚に降伏宣言をしたドラフト1位3球団競合選手を見た監督達は、絶望した様な表情をしていた。
ちなみに、今日も伊川は2得点をしてヤクルスの勝利に貢献したらしい。
「まさか真田先輩が2軍のままなんて……」
6月に入って高校野球では場所によっては地方大会が始まった頃、大活躍の伊川が絶望していた。
春季キャンプで大活躍だった真田先輩が、まさかこんな時期まで2軍扱いにされるとは全く思っていなかったからだ。
2軍でも相当活躍していたみたいなので、直ぐにでも1軍で主力になるだろうと考えていたのである。
まぁ、真田が大活躍していたというのは伊川の思い込みでしか無いのだが。
長所を課題評価して短所を過少に見積もる、いつもの身内びいき癖が脳内で発動していたのだと思われる。
「まぁ、打球処理が上手くならないと1軍には行かせねぇって言われちまってるしな」
真田は苦笑いしながらも、何故か鳥肌が立つ様な恐怖を思い出していた。
凄く酷い事を言われた訳ではないのだが「あまりにも酷い!」と守備を笑っている監督に対し、彼は妙に恐ろしさを感じていたのである。
ちなみに真田は知らないが、普段はニコニコしている監督は笑って叱っている時が1番怖いインテリヤクザと言われたりしている人なので、彼の直感は非常に正しかった。
「まじすか?!ひでぇっスね!守備なんて俺に任せてくれりゃいいのに」
「今のままだと野手陣の負担が重くなりすぎるからな~。それに、そもそも今の俺は1軍の戦力になる程じゃねぇし仕方ねぇ。お試し登板位はできねぇかなって、ちょっと期待してたのは否定しねぇけど」
真田本人は、実力不足は自認しながらも当てが外れたと思っていたらしい。知名度的に、おためし1軍登板の可能性は十分にあると感じていたのだ。
利用してやるというつもりはないが、伊川の円滑な人間関係の為の補助輪として暫く頑張ろうと考えていたため、拍子抜けと言った心境であった。
ちなみに彼が1軍に上がれなかった理由は、現時点での分不相応な知名度を上層部に懸念された事と、スター選手との極端な仲の良さで他プレイヤーに嫉妬されているからであった。
ポテンシャルは十分に感じる真田を真っ当に成長させるために、敢えて2軍生活を長引かせようと監督が指示を出していたのである。
彼は人好きでモチベーションが成長に直結するタイプだと察されている事により、本人が思っているよりも大幅にメンタルコーチなどから注目されているのである。
「先輩と一緒に試合に出れなくて残念っす……もし良ければ何でも練習手伝うんで、いつでも呼んでくださいね!」
「おう、ありがとな!」
雲の上のプレイヤーである後輩の温かい言葉に対して素直に喜んでいる真田は、暫くすると相当な頻度で伊川を呼び出す事になる。
彼の指導が的確なのか、伊川といると自分の実力がメキメキと上がっていく様に感じていたからだ。
日本プロ野球で最高の活躍をしている彼を呼び出し続ける事に、最初は少し引け目を感じていたらしいが……
本人が喜んで一緒に練習してくれるので、気にしない事にしたらしい。
途中からはついでに他の選手達も呼ぶ様になったあたりで、妙に実力が伸び始めたプレイヤーが居たとか居なかったとか。
一方パ・リーグのハードバンクに所属する雷市は、武仲と言う選手とDH争いをしていた。
とは言っても、ポジション争いに負けたら試合に出られない訳では無い。
負けた方は、サードで悲惨な守備を晒す事になるのだ。
35歳と野球選手にしては高齢で身体にガタが来ている武仲も余りにも酷い守備でも有名な雷市も、どうしても守備をやりたく無いらしく全力でサードを押し付け合っている。
元サードの中玖保の尽力によって多少は守備がマシになった雷市だが「小学生のほうがマシ」と言う評価が「中学生の方がマシ」に変わっただけであった。
マイナー通算180発の長打力を見込まれ新外国人ラインピッチを獲得したハードバンク。
しかし残念ながら序盤からまったく使い物にならず、4月早々に降格。
しかし新人の雷市が打てていることによって、逆転勝利や4点以上の差をつけた勝利が昨季より多くなっているのが現状である。
「カハハハ……ヒノミズ、打つ!!」
「頑張れ〜雷市」
「新人顔負けの実力を奴らに見せてやれ!」
今日も雷市はギラギラとした顔をしながら、試合前にも関わらずバットを振っている。
どうも、毎日バットを振らないと調子が出ないらしい。
今回ラッテの先発は、プロ8年間で75勝もしているエース樋水。
最速152キロのノビのある直球を誇り、高速スライダー・カーブ・チェンジアップのキレも抜群な投手だ。
___バシッッ!
「ストライク、バッターアウト!チェンジ!」
「おおお!」
ボールの浮きやすさを今回はシュートで補っており、特に主軸の中玖保などの右打者には辛く、暫くハードバンク打線は抑えてられていた。
___バシッ!
「ボール、フォア!」
『これで3つ目の四球、月永は大丈夫か?!』
『うーん、4失点はエースとして問題ですよ』
一方、ハードバンクの現行エース月永はあまり調子が良くないらしい。
不甲斐ない野手陣を加味しても、7回4失点は問題だと観客達に思われてしまっていた。
だが7回裏で風向きが変わる。
それまでなんと無安打投球を喰らっていたハードバンクだが、島嵜がチーム初安打を記録すると、続く紀伊馬が3塁線に打球を転がしてバントヒットに成功したのだ。
『さぁ、次の打者は元薬師高校の主砲、轟雷市!今日は2打席無安打ですが、本来の実力を発揮する事が出来るでしょうか?!』
どこか煽っている様な実況が流れている事は知らない雷市だが、珍しく少し腹が立った様な顔をしていた。
ネクストサークルのすぐ後ろから、ライバルの武仲センパイに「ヒットで良い、逆転は俺と中玖保でやってやる!」と言われたからである。
意外に思う人もいるかもしれないが、伊川や北瀬と違って雷市には強打者としてのプライドがあった。
彼はヒットで良いなんて、欠片も思えないのである。
「カハハハ___スライダーかチョッキューを打つ」
瞳の奥に炎が見える様な熱意を見せながら、轟雷市と言う男が打席に立った。
___バシッ!
「ストライク!」
___ガギーン!
「ファール!」
___カッキーン!
『わあああぁぁ!!』
『は、入ったーッッ!これは本塁打、これは本塁打です!轟選手、ここで起死回生の一打を放ちました!!』
変化球を意識させ、最後にインハイに力のある直球を投げ込み三振に打ち取る算段だった樋水&樫本バッテリー。
そしてその通りに投げたところ、まったくのドンピシャでバットとボールの軌道が綺麗にかち合い、打球は瞬く間にライトポールを直撃。
ハードバンクファンの大歓声が会場を揺らしていた。
そして調子を落とした投手を追撃するかの様に、武仲と中玖保が連続で本塁打を放ちハードバンクは5点を一気に返した。
9回に守護神を送った結果、最後は無失点。主砲ブレーダを直球で三振に打ち取ったハードバンクの勝利だった。
「カハハハ……楽しい、楽しい!!」
「轟が大活躍だったな」
「でもマジで守備は直してくれよ」
喜び舞い上がっている雷市に、先輩選手達は微笑ましいのか困っているのか分からない様な笑い顔を見せていた。
プロとしての歴が長い彼らから見て、新人らしく無邪気な彼本人への好感度はそこそこあったが、あまりにも守備が酷すぎて普通には笑えないからである。
翌日の試合前練習では、アップにしては随分イジメられてる雷市の姿があった。
ハードバンクとしては武仲との指名打者争いをしてほしくない為、できる限り雷市に守備が出来て貰いたいからだろう。内野守備コーチや元3塁手の中玖保にみっちりシゴかれていたのだ。
「カハ、カハハハ……ボールがコロコロ……」
泣きながら笑っている雷市に、他の1軍メンバーは軽く引いていたという。