【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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明日から数日間、用事がある為小説が書けません
学校が始まってからは2日に1回頻度になります、春休みまでに完結できなくてすみません。


22球目 打撃の薬師

 

 

 

 

 

 

 

9回裏、13対4で迎える薬師高校の攻撃は7番渡辺。ピッチャーが交代した影響でキャッチャーとして出てきた為、今日始めての打席だ。

 

それでも打撃の薬師下位打線とあって、その打撃力は並の学校のクリーンナップをも凌ぐかもしれない。

元々普通の選手だった人がそこまで成長した理由は、轟監督の打撃指導と……パワプロアプリ産の彼らと練習していたからだ。

パワプロアプリでは、好感度の高いキャラと一緒に練習するとお互いの能力が上がりやすくなるシステムがある。

実はそれっぽい能力をしっかり受け継いでいた北瀬と伊川により、変貌と言うしかない程の覚醒を果たしていた。

格上選手であるエラー3人組の能力はシステム上、下の人間に移りやすかった様で、渡辺達もエラーを習得しかけていたが……

 

 

「ここで一発だせよー!」

「雷市達に回せー!」

「マグレ狙いで良いぞー!」

「うっせぇ! 実力で当てるっつの!」

 

こんな状況でも、薬師の声援は止まらない。なぜなら、ベンチメンバーの誰もが全く諦めていないからだ。

ダイジョブダイジョブ、たった9点差位なら俺達が取り返せるさ! そう思いながら、打席に立つ渡辺を応援する。

 

いやこれは声援というより野次に近い気もするが……打ってほしいと言う気持ちは本当だ。

___打ってくれれば俺に回ってくるからな! 薬師スタメンの誰もがそう考えていた。 

基本的に、薬師は打つのが大好きである。2番手ピッチャーの真田すらも、投げるより打つ方が好きだった。

守備の方が好きなのは、なんと北瀬のみである。なぜ投げる事が好きなのに、あの壊滅リードは気にしないのか。

 

単純に、打たれる理由は自分にあると思い込んでいたからだ。

伊川はわざわざ甲子園にもノートパソコンを持ち込んでいたからSNSで書かれている事を知っている。流石に北瀬は持ち込んでいない。そこまで無理やりパソコンを触る時間を作る程、北瀬はSNSが好きではない。

普段の北瀬も野球漬けの部活と、キツくても辞めたくないゲーム三昧な時間の為に、SNSに触るのを控えていた。だから伊川が望んでいる訳でもないのに、全てリードをお任せしているという面もある。

伊川は北瀬に付き合って部活とゲームをした上で、大学受験の勉強もしているから過重労働になっているのだが……夜なべして勉強をしている事を言わないので、爆睡している北瀬は知らない。

 

 

それはさておき、打席で渡辺は考えた。

 

(俺等3年が1人でも塁に出れば雷市に回る……! そしたら逆転出来るハズだ!)

 

彼も薬師部員。当然の様に、打撃練習では長打を打つ練習ばかりしてきた。だから、フォアボールを狙うのは得意では無い。それでも渡辺はこう考えた。

 

(でも俺が堀川を打てるとは思えねー。あってもマグレ当たり位だろ……皆、バットをブンブン振ってきた。なら1人だけフォアボール狙いなのはバレない筈だ!)

 

___バシッッ!

 

「ボール、フォア!」

 

「なんかフォアボールで出塁したぞ……」

「珍しいな、薬師ってそんなチームだっけか?」

「マグレだろ……」

「どうせ勝敗は変わらないけどな……」

 

勝負アリと見ている観客席は、薬師にしては地味な出塁に全く盛り上がらなかったが……薬師ベンチは大歓声を上げ大盛りあがりだ。

 

 

「アリかよそんなの!」

「四球で出るとか甘えだぞー!」

「でも良くやりやがったー!」

「これで雷市に回るぞー!!」

 

打ちたい打ちたいと言う思いを抑え、絶対にストライクのボール以外振らなかった渡辺。

彼があまりにも打ちたそうにウズウズしていた為か北進バッテリーは最後まで狙いに気付かす、フォアボールで出ることに成功!

 

 

「うっしゃー見たか! 俺のセンスを!」

 

フォアボールで出塁した事があまりにも珍しかったのか、渡辺はせっかく出たのにあんまり褒めてくれないベンチに向かって吠える。

たった1回、フォアボールで出塁したのをセンスと言い切るのは違う気がするが……殆ど練習していないのに土壇場で決めたと言う事は、本当にセンスがあるのかもしれない。

 

 

 

 

次は8番バッターの小林、3年生。試合に出ている3年生は全員下位打線であり、勝ちが決まったと思われているこの勝負では誰も真剣に見ていない。

いや、薬師部員だけは違う。この試合はまだ勝てると思い込み、いっそ楽しげに見える顔で声援を飛ばしていた。

 

 

「全力で打てー!」

「ランナー返せー!」

「フォアボールでも良いぞー!」

「いや打つんだ! 俺達の野球を見せろー!」

 

渡辺がフォアボールを決めた事に驚き、喜びながらも小林はこう考える。

 

(俺は待球なんて出来ねーし、全力で打ちに行くだけだぜ!)

 

当然の話だ。ボールをしっかり見る練習もしていなければ、自分が得意である訳が無い。そんなセンスがあったら強豪校にでも行っていただろう。なんか元弱小の割に、後輩の1年はセンス有る奴ばかりだが……

 

俺は、練習していない事を決める自信は無い。それなら全力で普段通りの野球をした方が良い。自分をある程度客観的に見れている小林は、最善の選択を取った。

 

ツーボールツーストライクと追い込まれた5球目。今まで1年半もの間、全力で練習した事が支えとなり、極度の疲労の中全力でバットを振った!

 

___ガコン!

 

変な音を立てて当たったボールはピッチャーの方向に飛ぶ。気持ち悪い軌道を描きながら飛んでいったボールを……ピッチャーは落球!

 

 

「カバー!!」

 

「堀川が落としたぞ!」

「流石に疲れが溜まったか?」

 

全力で走った渡辺と小林。気力の限りを尽くしてどうにか捕球し直したピッチャーは、1塁に送球。

最終的に1塁に向かった小林はアウトになったが、ランナーは2塁に。これで、ワンアウト2塁。

 

 

「惜しかったぞ小林ー!」

「打てよ大田ー!」

「相手ヘバッてるよー!」

「ガンガン振ってこうぜー!」

 

……死力の限りを尽くしてランナーを2塁に進めた小林だが、誰も褒めていなかった。

仕方ない、薬師は打撃のチーム。ワンアウトで1塁分進むだけでは足りない、投壊の超重量級打線がウリの野球部なのだから。

 

この打席、小林本人も全く満足しておらず、悔しげにベンチに戻った。

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁で打席に立つのは打順9番、センターの大田。高校史上最強の打撃を誇る薬師部員として最低限の打撃力は持つが、どうしてもクリーンナップよりは大幅に劣る打撃能力。

 

 

土壇場のこの場面、青道高校と行った地獄の合宿の事を思い返していた大田。

 

(あの時は、俺外野だし不参加にさせてくれって思ってたけど……バント練習に参加させられてて良かった!)

 

彼は外野守備なので早々にバント警戒守備の特訓は完了したが、鬼畜な青道部員によって1週間の大半、辛く苦しいバント練習を永遠にさせられていたのだ。

 

相手ピッチャーの表情には出ていないが……真田が投げていた時、簡単に三振したのはなぜだ。そう考えていた大田は、小林の打席で堀川が落球したのを見た時、相手投手が極度の疲労状態にあるのを見抜いていた。

 

(決める。絶対に相手ピッチャーの場所に……決める!)

 

初球から大田は、勝利への執念が籠もったバント作戦を決行する。___初球で決まらなければ相手に警戒されてしまう。

公式戦で薬師はバントを1度も決めていない。だから、この土壇場でのバントはバレない筈! チャンスは1度きり、この博打は……絶対に決める!

 

 

___コンッ

 

内角低め高速チェンジアップを選択していた北進バッテリー。

マグレだが相手の持つ変化球の中で、1番バントが決まりやすい物を狙い撃つ事が出来た大田。しっかりとバントを決め、一心不乱に1塁へと走る。

 

(薬師がバントしてくるなんて聞いてねぇぞ!)

 

バントを公式戦で1度も使用していない薬師が、まさか9点差でバントを使用してくるとは思ってもいなかった堀川。極度の疲労の中、地面に落ちたボールを掴むと3塁に送球しようとしたが……

 

 

「あっ……」

 

___バタッ

 

 

「堀川ァ!」

「マズいぞカバー!」

「大丈夫か?!」

 

足が縺れ、転倒。呆然とした顔で足を抑え、そのまま動かなくなってしまった。

 

___エースとして、地方大会から投げ続けていた堀川。

一瞬も油断出来ない薬師打線を相手する事で、非常にスタミナを消耗していた。甲子園という舞台でアドレナリンが出続けていただけであり、彼の身体は既に限界を迎えていたのだ。

 

 

慌てて近くにいたキャッチャーが、咄嗟に堀川のミットからボールを取り、本塁に送球しようとする。

だが、流石にピッチャーがボールを捕球しながらも転倒した時の練習をしていなかった北進学院のサードは、本塁ではなくピッチャーの所に向かってしまっていた!

 

慌てて本塁に向かう澤崎。

だが、全力で2塁から本塁に向かっていた福田には届かない。

 

 

「……セーフ!」

 

ギリギリの所で得点を取り、ワンアウトで轟に繋いだ薬師高校。

 

 

「よっしゃキタ!」

「大田さんナイスです!」

「おい、相手大丈夫か?」

「まあ転倒しただけだし……ダイジョブじゃね?」

 

盛り上がりつつも、少し心配そうな薬師メンバー。お調子物ばかりだが、根は善良な部員が多いのだ。

 

 

「次のピッチャー誰だっけ?」

「さぁ? ……でもラッキーだったな! 相手コケたぞ!」

「それな、エースの堀川さん降板じゃん!」

「ラッキー勝ったな!」

 

相手の事を全く考えていない所か、相手の怪我をめちゃくちゃ堂々と喜んでいる部員が約2名いたが……

 

 

 

(マズい、浜塚と三矢は昨日の登板で限界だ! 次は誰を使う?! 大差勝ちしてるとはいえ薬師打線相手に、誰を使えば……)

 

チラッと見ただけでは分からないが、監督の大城真言は非常に焦っていた。元々エース偏重育成タイプの編成をしている大城監督。

地方予選と甲子園1・2回戦で使い続けたピッチャー達が使えない以上、投げられるピッチャーが経験の為にベンチに連れてきた1年生しかいない。これではどんな名監督も作戦を立てられる筈も無い。

ここで無理やり浜崎達を登板させない所が大城監督の良い所でもあり、甘い所ではあるのだが……

 

 

 

『雷市! 雷市!』

 

「これは……この勝負、分からなくなったな」

「次の登板は……元ピッチャーの柄本か」

「他のピッチャー、昨日の試合で使い切ってるもんなぁ」

「アイツもやるぞ! なんせ北進の元エースだ!」

 

 

青道高校のブラスバンドが奏でる、宇宙戦艦ヤマトが高らかに鳴り響く。ざわざわと動揺する観客席は、ようやく薬師が勝つ可能性を検討し始めた。

 

 

___カッキーン!

 

「カハハハ……カハハハハ!!」

「嘘だろ……?!」

 

無心で打席に立つ轟は、全力でかっ飛ばし場外への特大ホームラン。8点差の状況でワンアウト、その状況で2点を返しただけで、これは乱打戦になるぞ! と観客に直感させる一撃であった。

 

___カキーン!

___カン!

___カキーン!

 

轟の直後、北瀬が連続ホームラン。伊川は無難にヒットを打ち、三島がホームランで2点を追加する。これで逆転まで3点差まで迫った。

ファーストにも関わらず緊急登板した元エースピッチャーは、完全に心が折れているが……他に代えられそうな選手が北進学院にはいない。

 

いや。まだ1人ピッチャーはいる事にはいるが、1年生のヒヨッコなのだ。この場面で投げられる度胸もなければ実力もない。出した所でトラウマを植え付け、相手を助長させるだけだ。

 

 

___カキン!

 

 

「良しっ!」

 

「良いぞ真田ー!」

「どうせならホームラン打てよ!」

「真田センパーイ! ナイスです!」

「ツーベースは普通だぞー」

 

ピッチャー真田も意地のツーベース。ランナーは帰り逆転まで残り3点。普通なら勲章物の活躍だが、乗りに乗った薬師メンバーからは野次の様な声援しか飛んで来ない。酷い。

 

(やっぱ雷市とか北瀬みたいにはいかねーなー!)

 

まあツーベースに本人も満足していなかったのでそれは気にしていなかったが、これはあまりにも味方バッターへの期待が高すぎるのではないだろうか。

 

「アウト!」

 

7番福田の打球はファースト方向にダイレクト。しっかり取った控えファーストは自分でベースを踏んでアウト。薬師が試合を続けるなら、ここで2点は取らなくてはならない。

 

 

「うわーやっちまった!」

 

無念のファーストゴロに終わった福田は、思わず頭を抱えて唸る。逆転ムードでのチョンボには、当然薬師ベンチからブーイングが飛んで来た。

 

 

「ショボ!」

「俺と代わるかぁ?」

「しゃーねー次だ!」

「……この試合に次ってあるのか?」

 

次だと励ましていた同級生に対し、思わず福田はそうこぼす。逆転して勝つにせよ、少なくともこの試合では取り返せなくないか? と気付いていたからだ。

 

 

___カキーン!

 

「またホームランが出たぞ!」

「えっまた?」

「何時間試合するんだよ?!」

 

7番とはいえ侮れない、薬師打線の福田を守備陣の助けもありアウトにした北進バッテリー。だが薬師打線で一人だけ、甲子園でのホームランが一度も無かった8番小林に、意地のホームランを食らってしまう。

これで9点差だったにも関わらず、薬師は延長の切符を手にした事になる。

 

元エースとはいえ、転向してから何ヶ月もピッチャーとして練習していない、ファーストの柄本を薬師打線に投げさせるのは無理があった様だった。

 

観客達は騒然としている。まさか大差勝ちすると思われた北進学院が、ここまで迫られるとは思ってもみなかったからだ。

 

 

……

 

 

 

「雷市! お前なら絶対行ける!」

「普段通りやれよ!」

「俺に回してくれても良いんだぜ!」

 

10回表で真田-渡辺バッテリーから1点を奪われたものの、1点取れば同点、2点取ればサヨナラの展開になった薬師高校。

柄本相手なら、俺達なら絶対逆転出来る! 薬師ベンチのボルテージは最高で、軽口と叩く余裕すらあった。

 

 

「頼む! 抑えてくれ柄本!」

「やれるぞ! 抑えて勝つぞ!」

『頑張れ柄本!! 行けるぞ柄本ォ!!』

 

対して北進学院側の観客席は、殆ど悲鳴に近い声援を上げていた。当然だろう……柄本はたった1回で9点を取られ同点まで追いつかれているのだ。

 

半ば敗北を確信しながら、それでも奇跡を信じて北進学院は大声援を送っていた。

 

 

打順は恐怖の1番、轟雷市。特徴的な笑い声を上げながら打席に立つ。

 

 

「カハハハ……カハハハハ……! 絶対打つ……!!」

 

___カキンッッ!

 

打球は甲子園の浜風を吹き抜けてスタンドイン。たった1球で追い込まれてしまった北進学院。

 

 

「うわあぁぁ!」

「轟ィ! キター!!」

「北進! 北進!」

「やったれ北瀬ェ!」

「薬師ィ! このまま突き進めぇ!!」

 

スタンドの大声援を浴びながら……通算最多本塁打を記録するのではないかと噂される男、北瀬涼が打席に入る。

 

___バシッッ!

 

「ボール!」

 

初球、大きく外れてボール。まるで敬遠ではないかと言う程外角に広がったボールに、スタンドからはブーイングが鳴り響く。

 

 

「舐めとんのか!!」

「北瀬ー! ヤレー!」

「最後まで勝負しろやー!!」

「アホ! まだ北進学院は負けてねーわ!!」

 

2球目、内角に甘く入ったボールを……北瀬は大きく打ち上げた!

 

___ガギィィン!

 

高く、非常に高く上がったこの打球。フラフラと上がっていたが、レフト方向に上がった事で、甲子園の浜風に運ばれてスタンドイン。甲子園の浜風が、まるで彼らを祝福している様に感じられた。

___これで、薬師高校が準決勝に進出する事が決定した。

 

 

 

 

 




神谷主水さん展開が変わってしまいました。すみません……
10回裏、三島の逆転サヨナラホームランのシーンは特に入れたかったのですが、入れられませんでした。

オリジナル学校と展開を提供してくださり、ありがとうございました!
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