【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「Are you going to the Beijing Olympics?
(北京オリンピック、お前らは出る?)」
北瀬は練習が終わった後、チームメイトの選手達に尋ねた。
オリンピックと言えば誰でも知っているスポーツの祭典なので、最初は彼も出たいと思っていたのだが……
どうも野球はあまり盛り上がらないと通訳に聞いて、出場するか悩んでいるのである。
「It's not worth money, there's no way it'll come out
(金になんねぇし、出る訳ないじゃん)」
「That's a game with minor league players, right?
(アレはマイナーリーグの選手が出る試合だろ?)」
チームメイトは北瀬に対してアホの子を見る様な顔をしながら、北京オリンピック行きを止めていた。
彼らにとって、オリンピックなどメジャーでの活躍を捨ててまで出る大会では全く無いのである。
「そんなもんか……Well, let's stop!
(じゃーやめとこ!)」
北瀬は彼らの言葉に納得して、オリンピックは不参加にする事にした。
この判断により、彼本人が思うより酷い結果を生み出される事を今は誰も知らない。
「えっ、北京オリンピックへの緊急出場要請ですか?」
北瀬が出場を拒否した後、伊川も突然オリンピックへの出場が要請されて困惑していた。
既に出場する選手は決まっていた筈だからである。
流石にプロにもなっていなかった彼を、オリンピック登録メンバーにする訳には行かなかったので登録はされていなかっただけなのだ。
だからプロでも大活躍だった彼を、慌てて追加メンバーにしようと画策されていた。
既に北瀬を逃しているので、伊川は絶対に出場させようと考えていたのだろう。
「えーっと、北瀬か真田先輩って出場します?」
「いや彼らは出場予定では無いが、オリンピックは世界レベルの大会だぞ?参加した方が絶対に良いぞ」
伊川の気が乗らないような表情に焦りながら、オリンピックへの出場を強く要請しているが……残念ながら彼の気持ちは固まってしまった様だ。
「申し訳ないですが、辞退します。アイツらの居ない大会に価値を見出せないので」
「考え直せ!!」
こうして伊川も、今年のオリンピックへの参加を見送った。ヤクルスの監督は複雑そうな顔をしていたらしい。
北京五輪を控え、俊野日本代表監督のもと選手が選出されたが……出場選手に華が足りない気もする。
色々理由はあるが、1番の理由は薬師5人組が1人も参加していないからだろう。
プロに馴染みつつあった雷市や秋葉は、期限外に無理やり徴収する程ではないと見られたのか出場要請がされなかったのである。
「おおお、そこに居るのは伊川じゃないか!お前もオリンピック日本代表を倒すためにセリーグ選抜に来たのか!」
「……いや、なんか行ってこいって言われちゃって」
対して親しくも無いのにフレンドリーに話しかけてくる沢村にまごつきながら、伊川は何とか答えた。
彼はオリンピック出場選手に対して特に何も思っていなかったが、これも試合経験だと言われて日本代表と戦うメンバーに選出されてしまったのだ。
彼本人は、まあ1日だけ知らない人と試合をするだけだし、オリンピックメンバーに無理やり入れられるよりは良いかと自分を納得させていた。
「そうか!ワーッハッハッハ!俺達で倒すぞ!!」
「お、おう!」
楽しげながらもギラギラと目を光らせる沢村を、何となく友人っぽく思い始めている伊川は同意した。
日本代表を全力で倒しに行くなんて、ちょっとスポーツ漫画でありそうだなと関係ない事を思いながら。
「良いかみんな聞いてくれ。今日の壮行試合、皆それぞれ思いがあるだろう。
なぜ俺が選ばれないんだ、俺を見ていないのか……。そんな君達の熱い気持ちを今日だけ私に預けてほしい!」
『ハイッ!!』
これを聞いた、伊川と場違い感を勝手に抱いてる秋葉以外のセ・リーグ選抜選手達は燃え上がった。
最早、狂った様な殺意が拡散している。
讀売のエース広海や最下位横浜で孤軍奮闘している外川などは、リーグ公式戦よりも眼がギラついていた。
こうして、絶望的な試合が始まった。
___カッキーン!
『わああぁぁ!』
「良いぞ伊川!アイツらを燃やし尽くすぜぇ!!」
「沢村も、バントしっかりやれや」
「任せてくださいよ!」
「……栄純くんはピッチングを頑張ってよ」
初回から、先行のセ・リーグ選抜の伊川始がソロホームランが出した。
沢村が他力本願の様に聞こえる宣言をすると、先輩が合いの手を入れて降谷がツッコミらしき物を入れている。
ギラギラと殺意を滾らせているチームではあるが、一部は妙に楽しそうだった。
『伊川始!王者の貫禄が漂う一撃を放ちました!!』
『前の先輩達が出てくれていれば、彼も打点をもっと奪えたんですけどねぇ』
『それだと敬遠されるだけだったんじゃないですか?』
『ハハハ、ですよねぇ』
すると実況と解説の2人は適当なのか、何故かセ・リーグ選抜を非難するかの様な事を言っている。
後でこの実況を聞いた伊川は、公平性が無い変なノリだなぁと呆れていたとか。
___ガギーン
「セーフ!」
『辛井選手、犠牲フライで得点しました』
『悪い訳じゃないんですけど、地味ですねぇ』
負けずと日本代表も、次の回で同点に追い付いた。
だが……実況達は白けた様なやる気のない声でしか解説していない。コイツらを呼んで良かったのだろうか?
膠着状態が暫く続いた後……4回表で日本代表にとって悲惨な戦いが始まってしまった。
___バシッ!
「ボール、フォア!」
「伊川、ナイス見極め!選球眼の鬼!」
「アレはどう見ても四球狙いだったやろ……」
沢村の的外れながらも楽しげな野次を聞きながら、伊川は少し楽しそうにしていた。
薬師野球部の頃を思い出していたのである。
『伊川選手にフォアボールを出しました!』
『狙ってやったんでしょうが、商業スポーツとしては宜しく無いですねぇ』
そんなセ・リーグの選手達とは違い、どうも北京オリンピック代表のアンチらしい解説者は、視聴者の過激な言論を煽る様なワードを頻出させている。
妙に優遇して話される伊川のファン達は、彼のYouTbe解説をフォローする事に決めたとか。
___バシッ!
「ストライク!」
___シュタタ
「セーフ!」
『伊川選手、盗塁成功!ランナーが2塁に進みます』
『伊川選手の盗塁を予測してフォローした、ベテラン海嶋選手の慧眼も光ってますよ』
___ガギン!
「セーフ!」
『海嶋選手の進塁打で、伊川選手が3塁に進みました!』
『たったワンアウトで得点圏にランナーを進めました!』
まず安定の伊川出塁からの、海嶋の気の利いたアシストで得点確率が大幅に上がった。
大歓声の中でもワイワイと騒ぐ中心にいる沢村の声が聞こえている伊川は、そう言えば薬師の頃と違って四球でも文句は言われないなとしんみりしながら回想している。
そもそも出塁して文句を言われる環境が大分イカれてたのだが、そんな事は全く考慮していなかった。
___カキーン!
「セーフ!」
『よっしゃああ!!』
『4番外川!ライト線をぶち抜くタイムリー2塁打!』
『日本代表、これは厳しいですよ!』
打率9割超えの伊川を差し置いて4番に座っている外川が、勝負強く2塁打を決めた。
これでセ・リーグ代表が勝ち越し。彼らが所属するチームの選手達は歓声を上げている。
だがこの回、これだけでは終わらなかった。
___カッキーン!
『わああぁぁ!!』
さらに横浜で燻りながらも新外国人や中堅斉木の不振によって台頭した、元青道高校の東清国がセンタースタンドに運び本塁打を打ったのだ。
中帝エースの水上も普段は良い投手なのだが、今日はかなり調子が悪かった。
まぁ彼の今回の醜態は、そういう事を見極めるのが苦手な日本代表監督の責任なのかもしれない。
___カッキーン!
___カキン!
___カキン!
___カキン!
___カキン!
そして日本代表のリリーフは下位打線相手に連打されて、満塁の状況で伊川に回ってしまう。
「ワーッハッハッハ!打てよ伊川!」
「うん、ストライクゾーンにボールが来たらな」
「この場面なら来るだろ〜」
(俺の体感的には100%来ないと思うけど)
自分と沢村の予想がズレている事に少し驚きながら、彼は悠々と打席に立った。
彼にとっては打てるかどうかより、どちらの予測が正しいのかが気になる気持ちの方が大きくなっている。
伊川が威圧感を無自覚にまき散らしながら打席に立った時、捕手が咄嗟にあからさまに外側に立った。
つまり彼らは、確実に敬遠すると言う事である。
『ブーブー!』
『満塁!なんと満塁で敬遠を選択しました!!』
『酷いですね。指示した奴は腰抜けですよ』
卑怯な作戦にキレている観客達を横目に、イキイキと実況が非難していた。雇われの身である彼らが、何故ここまで悪態を付くのだろうか?
実は昔、色々と揉め事があったかららしい。
___バシ
「ボールフォア」
『ブー!!』
「逃げるな卑怯者!」
「こんなんで日本を背負うな!」
過激な一部の観客達が罵声を飛ばしている。
酷い罵倒すら聞こえて来ているので、支持されている立場の伊川すら嫌そうな顔でスタンドを見ていた。
「なっ、なんすかこれ、トンデモナイ野次ッスよ?!」
今まで聞いた事も無い様な罵声を聞いて、日本代表に敵意を抱いていた筈の純粋な沢村は狼狽えていた。
敵チームを心配する様な顔をしている後輩を見て、東は少し心を動かされながらも苦笑いをしている。
彼も昔、非難に晒された事が多々あるからだ。
「そりゃあ熱い勝負を見にわざわざ金払ってここまで来たんじゃ。コレじゃキレなくなってもしゃーないやろ」
「それでも選手達に失礼だ!ちょっと行ってきます!」
「オイ、何するつもりだ沢村!」
怒りを隠していない沢村がブルペンに走って行くのを見て、東は慌てて止めようとしたが間に合わなかった。
高校見学の最中、あからさまに喧嘩を売られた彼はハラハラと見守っている。
「お前ら!頑張ってる選手に向かって酷い事言うなよ!」
大声で叫んだ沢村。
だが、観客には殆ど聞こえていなかった様だ。
「国を背負っておいてコレは無いって言っとんのじゃ!!お前が選ばれた方がマシだったっての!!」
ブルペン近くにいて聞こえていた1人の観客が、キレながらも関係がない沢村を持ち上げる様な発言をした。
それを聞いた沢村は、深く考えずにキレ返している。
「そりゃ俺だって選ばれたかった!けどよ、ずっと頑張って来て実力で選ばれた人を馬鹿にするのは許さねぇ!!」
「…………」
沢村の必死な形相を見て、その観客は心を動かされた。
彼は沢村のファンになった上で、全く野次を飛ばさない優しい人間に様変わりしたらしい。
彼らのやり取りは他の観客から取られていて、炎のサウスポー沢村の人気を後押しする出来事になったとか。
その後はリリーフの成宮がある程度粘るも、結果は全く変わらず。15-1でセ・リーグ代表の勝ちになった。
原田監督も何だか気の毒になったらしく、代打や代走を駆使して打撃緩めもしたが、そいつらも打ち出すから止まらなかったのだ。
「伊川また全打席出塁かよ、エグ過ぎ!」
「秋葉は変えられちまってマジで残念だったな、ちゃんと打ってたのにさ」
「何でだろうな、他の選手に経験を積ませる為とか?」
「さぁ……分かんね」
その辺が分かっていない伊川と秋葉は、不思議そうな顔で見合わせていた。
ちなみに掲示板は「高卒新人の球に押し負ける日本代表w」「降谷か沢村を代表エースにしろよ笑」と大層賑わってしまう。
そして解説者まで「これ伊川がいる方が日本代表でしょ」とか言い出すもんだから、球界がてんやわんやする羽目になっていた。
そして皆の心配通り、この後の日本代表はオリンピック4位に終わってしまった。
一部の良心的なファンは沢村の言葉を引用して事態を沈静化させようとしていたが、アンチの怒りは止まらず。
監督が「金メダル以外いらない」と発言した事もあり、日本代表は翌年WBCまで激しい非難に晒されていた。
そしてWBC日本代表監督にはあらゆる「政治的判断」から原田監督が選ばれるに至ったとか。