【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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235球目 プロ意識

 

 

 マリナイズ選手全体の好調も合わさって、破竹の勢いでワールドシリーズに出場、優勝した北瀬。

 彼はアメリカ全体の実力主義により、人間関係にもあまり問題が起きずに割と楽しく過ごしていた。

 

 サイ・ヤング賞、最優秀選手賞、MLBオールスターゲーム最優秀選手賞、ワールドシリーズ最優秀選手賞、ついでに最優秀新人選手賞を19歳で獲得してしまった北瀬は、世界中の注目の的になっている。

 

 

 そんな彼は、取材に笑顔でこう答えた。

 

 

「投手としての実力は見せられたと思います。なので来年からは、打者としても活躍して行きたいです!」

 

 そう公言した北瀬は前言通り打撃でも好成績を見せて、疑似二刀流と騒がれる事になる。

 だが、再来年は元チームメイトの綾瀬川と激闘を繰り広げる事になり、打撃に尽力するなんて場合では無くなるのだが……今はそんな事を知らない。

 

 

 

 

 

 

 11月中旬、最近は2週間に1度程度になっていた伊川とのテレビ通話の内容は、10月下旬に行われたドラフト会議の結果になると思っていた。

 

 

「そういや、ドラフトで由井達ってどこに指名されたの?

 そもそも何位指名になった?」

「あ〜、由井は横浜が1位指名だったよ。ちなみに火神は3球団競合で東北で、パワプロは2球団競合でオリック。奥村は単独で讀売、花坂は単独で俺のチームに来たぜ!」

 

 今回も薬師勢がドラフトの華になり、合計8球団からの指名を受けたらしい。北瀬は後輩達の1位指名を素直に喜び、嬉しそうに笑顔を見せている。

 

 

「へぇー、良かった!花坂も伊川とおんなじチームになれて嬉しかったと思うし!他の選手はどうだった?」

「あー、まず瀬戸は2位指名で広島になった。アイツは1位指名だと思ってたんだけどなぁ。俺達が居なくなった後ショートやってた三井は3位で俺達のチームに来たんだ!

 他の選手は大体大学進学だけど、緑野だけ実業団で、結城は……ニューヨークで個別トライアウト受かったからマイナー行きだってさ」

 

 なんとドラフトの目玉の1人とも言われていた結城は、マイナーリーグへの挑戦を表明し、遥かに条件の良い日本プロ野球からの熱視線を完全に無視していた。

 1億5000万の契約金を蹴り、食うにも困るマイナーリーグへの入団を決めた彼の選択には、有識者からの懐疑的な意見も多かったが……本人はあまり気にしていない様だ。

 

 ちなみにそんな話は全く聞いていなかった北瀬は、素っ頓狂な声を出して驚いている。

 

 

「えっ、結城こっち来んの?!俺、全然知らなかったよ」

「えっ?誰も連絡して無かったのか……まあマイナーリーグじゃどうせ北瀬と当たんないしな、態々言いたくなかったんじゃね?

 アイツ、高卒メジャー行きが目標とか言ってたし」

 

 伊川は不味い物を食べた時の様に微妙な顔をしながら、酷い予想をぶっちゃけた。

 伊川は今までの言動や強打者としてのプライドが、結城に無茶を選択させたのではと思っているらしい。

 

 

「へー、やっぱ結城はバイタリティすっげぇな!

てか最近の俺、大分日本のニュースに疎くなっちゃったよ。ちなみに、他にデカいニュースってあんの?」

 

 そんな伊川の悲観的なイメージに気付かなかった北瀬は、結城の積極性溢れる挑戦を聞いて感心していた。

 道なき道を切り開く事がカッコよく思えたのだ。

 ……どうやら北瀬も、無意識にマイナーリーグ直行はキツいのではと思っている様だった。そうでなくては、道なき道などと言うイメージは沸かないだろう。

 

 

 

 

 対して他のニュースを聞かれた伊川は一瞬、言いたく無い事を言わされるかの様な苦い顔をした。

 本当はアメリカで頑張っている北瀬にはあまり伝えたくない、大きな事件が発生していたからだ。

 

 

「あーうん、青道の2年に園大和って奴いたじゃん」

「知ってる、戦艦大和とか言われてた奴だよな!」

 

 伊川のトーンダウンに気付かず、北瀬はワクワクした声で続きを促した。

 後輩達を薙ぎ倒して甲子園優勝を奪い取った立役者が、どのような成長をしたのかとワクワクしていたのだろう。

 彼はやはり、強い選手と全力で戦う事が好きなのだ。

 

 そんな北瀬の楽しそうな顔を見て、伊川は顔を曇らせた。今から話す情報を聞いたら、彼が落ち込んでしまうかもしれないと思ったからだろう。

 

 

「……アイツ、甲子園優勝直後に心臓発作で死んだぜ」

 

 そう、死力を尽くして戦い抜いた園は、本当に死んでしまった。なぜ唐突に心臓発作を起こしたのか、医学的にも不明なまま荼毘に付してしまったのだ。

 伊川達は知らないが、青道高校の選手達は「アイツが甲子園優勝出来たら死んでも良いって言った時、止めておけば……」と涙ながらに語っている。

 

 

「え、マジ?何で??」

「さぁ?原因不明だとよ」

 

 殆ど知らない人が死んだとはいえ、どうも話題の重さにしては軽いノリで話している北瀬達。酷い奴らだ。

 

 まぁ彼らは極亜久出身なので、他人が死ぬ事には慣れてしまっているらしい。

 ヤクザの抗争で死んだり薬物で死んだりする奴は一定数いたので、一々他人が死んだからといって毎回心を乱してられないのである。

 今はそういう酷い環境では無いのだが、身に染み付いた諦観は中々剥がれない物なのだろう。

 

 

「えーマジか、メジャーでも戦いたかったんだけどな」

「言うと思った!で、綾瀬川がかなり落ち込んててさ……アイツの分まで勝ち続けるって。

 なんか今までとは迫力が違う感じになってんな……もしかしたら、野球がつまんなくなっちまってるかも?」

 

 園が死んだ事よりも、綾瀬川が落ち込んでしまっている事を心配している伊川。やはり彼は身内には優しいのだ。

 薬師野球部の全員を身内判定気味にしてしまっている伊川は、後々面倒な事に巻き込まれなければ良いのだが……

 

 対して北瀬は、自分の選択が正しいのかと悩みながら、曲げられない思いを伊川に伝えようとしている。

 

 

「そういや、綾瀬川と園とは友達だったらしいよなぁ……

___だとしても、俺は負けに行くつもりは無いけど」

「ま、だよなぁ。綾瀬川だってワザと負けて欲しいなんて言わねぇと思うしさ、気にせず全力で戦えよ!」

 

 相手にどんな事情があれどワザと負けるつもりは無いという北瀬の意見に、伊川は賛同した。

 北瀬からすれば意外だったが、伊川にも野球選手としての矜持が芽生え始めていたのだ。

 だから、ワザと負けろなんて親友には言えなかった。

 

 

「……そうだよな!つうか球団から金貰ってるし、故意に負けるのはヤバいだろ」

「言われてみりゃそうだよなぁ、150億だし」

 

 彼らの心に少ししこりを残しつつ、今日の通話はこうして終わった。

 

 2人はきっと、何があろうと止まらないし止まれない。

 世界中の野球ファンの期待を背負う彼らは、自分の為にも戦い続けるしか無いのである。

 

 

 ちなみに園の辺りは全削除された後、ドラフト会議についての会話は佐藤の手によってYuTubeにアップされた。

 伊川からは、北瀬との会話の無制限使用許可を取っているので自由に上げまくれるのだ。

 もし佐藤が酷い奴なら、伊川の失言を晒されかねない状況だが、伊川は佐藤をかなり信頼しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 北瀬がメジャーリーガーになって初のオフ。

 大金や名声を手に入れた彼は、ファンの期待を裏切れないと強く思い、逆に練習以外の事が出来なくなっていた。

 元々性質が流されやすく善良な彼は、最近芽生えたメジャーリーガーの顔としての自覚に雁字搦めにされていた。

 

 

「練習するのも良いけど、少し位は遊んだらどうだ?」

 

 休みも全て練習に注ぎ込み続けている北瀬は、逆に所属する球団や彼のファン達から心配されている。

 労働を美徳とするのはアジア圏内の風潮であり、アメリカでは仕事とプライベートを分て週末に仕事を持ち込まない考え方が一般的なのだ。

 

 ワールドシリーズが終わっても野球の練習しかしていない彼は、精神的にも肉体的にも休みが無いのではと危ぶまれている。

 

 

「んー。前は対戦ゲームが好きだったけど、野球で戦う方が面白いしな」

「じゃあ買い物はどうだ?つっても契約が80%後払いだから6億しか使えねぇけどな」

「う〜ん。適当に決めたマンションも居心地良いし、別に買いたいのとか無いな。服とか時計とかも貰えるし」

 

 名実共に世界一のピッチャーとなった北瀬は、様々なスポンサーから贈り物を頂いていた。多分、宣伝費無料の広告塔扱いされている。

 物に強い拘りが無い彼は、スポンサーやファンから頂いた物でほぼ全ての生活が賄えてしまうので、金銭を使う価値を感じる物が特に何も無いらしい。

 

 

「TV出演は?」

「話すの苦手だし、英語も苦手だからちょっとな〜」

 

 最近は通訳を介さなくても、めちゃくちゃな文法でギリギリ話せる程度の英語力に成長した彼は、それでも無理だと困った顔をしている。

 やはり、まだ取材に苦手意識があるらしい。

 YuTubeに日常生活を露出しまくっていても、それとこれとは話が別なのだろう。

 

 

「それだともう、コーチング位しかやれる事無いだろ」

「野球の指導しろって言われても、全部フィジカルで解決しろ位しか言えないしなぁ」

 

 ボディーガード兼通訳の人は、無自覚にストイック過ぎる彼を見て苦笑いをしていた。

 変な事で体調を崩さなさそうなのは良いが、結果が出ない時の精神的な逃げ道が無さそうだと感じたからである。

 

 ちなみに選択肢は一応、メキシコなどで行われるウィンターリーグに参加する事もあったが黙っている。

 最強のメジャーリーガーが、参加チームを滅茶苦茶にする未来しか見えなかったのだ。

 

 ちなみに彼は、パワプロ能力を含めた自らのコーチング力に無自覚なままである。

 

 

「そうだ!久しぶりに母校に行きたい!」

「うーん……まぁ俺は良いと思うぞ!」

 

 こうして彼は急遽、母国に帰って母校で練習指導をする事に決めてしまった。

 彼はプロ野球選手は高校生の指導が禁止されている事を知らないので、本気で良い事をしていると思っている。

 

 まぁ規定で日本プロ野球の選手はドラフト候補の指導が禁止されているが、メジャーリーガーが指導する事は禁止されていないから問題無いのだろう……多分、恐らく。

 ルールの抜け穴を付いたグレーゾーンな気もするが。

 

 彼の行動により、来年からはメジャーリーガーの参加も禁止するルールが決まる事を、今の北瀬は知らない。

 

 

 

 

どこまで書いて完結させますか?

  • 薬師メンバーが集まるワールドカップまで
  • 引退まで重要な選択は全部
  • その他・無回答(ご意見は活動報告欄へ)
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