【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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237球目 1か月

 

 

 早朝、太陽の光が爽やかに降り注ぐ中、現在の薬師部員達はランニングをしている。

 まだ1年しか経っていないにも関わらず、北瀬はどこか懐かしく感じていた。

 

 

「1、2、3、4!」

『1、2、3、4、2、2、3、4!』

 

 ダサいと思ってはいたが「薬師!高校!」から掛け声が変わっている事に気付いて少し驚きながら、北瀬は集団の最後尾に近付き、一緒に走り始めた。

 野球部で指導をするのだから、一緒に練習して当然だと感じているからだ。

 

 視線が軽く北瀬の方を向き、直ぐに前を向いた後、思わず身体を振り向かせて確認した薬師部員達。

 不審者じゃないか確認した後に、メジャーリーガーが参加して来た事に気付いて二度見してしまったのだろう。

 

 

 

 

 ランニングが終わった後、北瀬は現キャプテンの所に駆け寄った。重要な事は特に無いが、どうにも彼の心境が気になっていたらしい。

 

 

「お久しぶりです、北瀬さん。」

「綾瀬川、ひさしぶり〜。」

 

 背番号1とキャプテンマークを付けた綾瀬川。

 過去のキャプテンで言うと、性格的には小林先輩に近いだろうか?押しの弱い彼が大人数を纏めるのは、苦労していそうだなと北瀬は感じていた。

 

 

「綾瀬川がキャプテンか……」

「嫌でしたか?」

「別に嫌じゃないけどさ〜。なんか綾瀬川が、人を束ねてる様なイメージがあんまり無くて。」

 

 口下手な北瀬の事を知っている綾瀬川は、本当に嫌がっている訳では無いのだと察して微笑んだ。

 

 確かに俺は、人を動かす事が得意じゃない。

 色んな事を考えている人達を自分の意思で動かすなんてどうすればいいのだかと、今でも悩んでいるから。

 綾瀬川はそうやって、鈍い様で聡い所もある北瀬の事を無自覚に観察していた。

 

 

「俺が志願したんです。――俺が前に進む為に、必要だと思ったので。」

「そっか……応援してるよ。」

「はい。絶対、甲子園で優勝します!」

 

 前人未到の甲子園7連覇が掛かっていたのに、甲子園に出場すら出来なかった薬師野球部。

 各個人に実力がある事は知られていただけに、ファンからの罵声は絶えなかった。

 

 エースとしての期待に応えられなかったのだと、綾瀬川はかなり思い詰めていたのだ。

 実際の所、悪いのは崩壊している薬師野手陣や捕手だと思われるのだが……

 

 そして、彼らを打ち破った青道高校が優勝した直後、彼の親友である園大和が死亡してしまった。

 どうしてこうなってしまったのかと、綾瀬川は一通り苦悩した後に、ライバルであった俺が代わりに勝ち続けてやるんだと決心したのである。

 

 その為に、キャプテンとしての力も養おうと思ったのかもしれない。

 確実にWBCに出場するであろうキセキの世代には、チームを土台から支えられる様な性格の選手が居ないので。

 

 

 

 

 北瀬はランニングが終わった後、国内の有名番組からの取材が大量に舞い込んだ。

 本当はマネージャーも彼の意思を汲んで断りたかったが、下手に全て拒絶してしまうと後が面倒になると話している。

 第二のマネージャーになりつつあった佐藤も目を光らせながら、北瀬への取材が決まっていた。

 

 寮の図書室を貸し切って取材が行われるので向かっている最中、銀の髪色をしたミミズクヘッドが近付いて来た。

 人懐っこいのと馴れ馴れしいのが紙一重な、2番手エースと評される男だ。

 本人は世界で1本指のエースになると公言しているが、北瀬や綾瀬川には勝てないだろうとと周囲から困惑されている。尚、本人は深く考えていない。

 

 

「おおっ!北瀬センパイ!ピッチングのコツを教えてください!!」

「木兎、北瀬さんはこれから取材だぞ。」

「ごめん木兎、後で一緒に練習しよう!」

「わかった!じゃあまたな〜!!」

 

 嵐の様に通り過ぎて行った後輩を懐かしく思いつつ、北瀬は大量の取材を受けていた。

 アメリカの取材と違い、個人的な趣向にも踏み込んで来る事を少し嫌がりながらである。

 交際している人が居るか居ないかなんて、野球に関係が無い気がしているからだ。

 

 ちなみに彼は、今の所は彼女が居ないらしい。

 アタックしてくる女性は沢山いるのだが、どうにもピンと来なかったのだとか。

 伊川達の様に愛し合える人が欲しいなぁと考えている北瀬は、まず恋人を作る所から始めるべきだと思われる。

 

 

 

 

――バシッ!

 

「どう?!」

「おぉ、今日の球はキレてるな!」

「……確かに今日は特に良い球が来てますね。」

 

 バッターボックスに立つ北瀬とピッチャーとして投げる木兎、ついでに正捕手の笠松がブルペンで投球練習をしていた。

 元々北瀬が在籍していた時も木兎から練習をせがまれる事が多々あり、普段から練習に付き合っていたのだ。

 

 その時はベンチ外だったにも関わらず日本の一等星に多くの時間を割かせていたので、妬み半分で悪く言われたりしていた事を彼本人は知らない。

 北瀬は後輩達の練習に付き合う姿勢を見せていたのだから、アピールすれば誰でも行けたと思われるが、そう割り切れる高校生は少なかったのだろう。

 

 

――バシ

 

「どう?!」

「スゲェチェンジアップだよな!でもさ、他の変化球も覚えた方が良いんじゃね?」

 

 伝家の宝刀チェンジアップを見せた木兎は、あからさまなドヤ顔をしている。この変化球に、もの凄く自信があるのだ。

 北瀬は、チェンジアップ自体は褒めつつも、他の球種を覚える事を推奨した。

 流石に142kmのストレートと、キレキレのチェンジアップだけでは戦い辛いと判断したのだろう。

 

 

「やっぱり?前も狙われちゃったんですよぉ〜。」

「スライダーはピンと来ないんだろ?なんか他の球種考えてんの?」

「カーブ!緩急を更に付けようって思ったので!!」

「良いんじゃね!じゃあ、俺のカーブ見る?」

「見る!オナシャス!!」

 

 

――バッ、ガシャン!

 

「こんな感じ?木兎も背が高いし、縦に割れるカーブが良いんじゃねぇかな。」

「おぉ!やっぱ北瀬センパイのカーブスゲェ!!」

「北瀬さんはメジャーリーグのMVPですから、そりゃ凄いだろ。」

 

 北瀬のカーブを見た木兎は、目を輝かせている。

 対して完全に球を零した笠松は、生き物の様にグニャリと曲がった軌道に驚きながらも悔しそうな顔をしていた。

 メジャーリーガーが相手でも悔しがれる所が、彼の強さを表しているのかもしれない。

 

 

――バシッ!

 

「ちょっとやり過ぎだけど、こんな感じで叩き付けると大きく落ちるよ。」

「やってみる!!」

 

 今回の球は、木兎に見せる様に大げさに投げたので笠松でも捕れた。それでも一発で手が痺れたらしいが。

 

 

――バシッ

 

「こうっスか?!」

「良いんじゃね!」

「ナイス木兎!練習したてには見えねぇぞ!」

 

 こうして木兎は、新たにカーブを覚えた。

 彼の持つ驚異の切れ味を活かして、優秀な2番手エースになる事を今の北瀬達は知らない。

 

 

 

 

 次の日の北瀬は、バッターとして選手達に打撃練習を付けていた。黄瀬がバッティングピッチャーに志願したので、彼のストレートを打ちまくっている。

 普段はピッチャーとして試合に出ているので目立ち辛いが、出塁率もそこそこあってホームランも出ているので、けして弱い打者では無いのである。

 

 

――カッキーン!!

 

『おおーっ!!』

「こうやって打ち切れば、場外までぶっ飛ばせるんだ!」

 

 

――カッキーン!!

 

『おおーっ!!』

「あの黄瀬さんの直球を、ここまで飛ばすなんて……!」

「悔しい!……でも、さすが北瀬っち!」

「黄瀬は変化球の豊富さで戦う投手じゃん、ストレート来るって分かってたら打てるって!でも、ホームランの良さは分かっただろ?皆で素振りをしよう!」

『ハイッ!!』

 

 彼はバカスカ場外に打ちまくった後、多くの見物人を纏めて素振りをし始めた。1軍2軍3軍も関係なく、皆で一生懸命に大振りの練習をしている。

 彼を直接見た事が無かった1年生達こそ、必死にバットを振り続けていた。

 

 

――ブォォン!ブォォン!

 

「何だあの風切り音!」

「俺もあんな打ち方がしてぇ!!」

 

 2軍の1年生達が、思わず手を止めて見惚れていた。

 キセキの世代筆頭の、北瀬涼という選手に魅了されていたのだ。競技レベルが高い程、彼の凄さが分かるのだろう。

 

 そして、暫くの間北瀬を見続けていた彼らを見て、素振りを中断した彼が近付いていった。

 彼らは慌てて、深く頭を下げている。

 

 

『お、お疲れ様です!!』

「ありがと。……今暇だったら、もし良ければバッティングを見せて貰っても良い?俺、一応コーチとして来てるからさ。」

『えっ??……お願いします!!』

 

 こうして北瀬は、多くの選手達にパワーと球速とエラーを振りまいた。

 既に投壊しているが、今回のOB訪問によって更に投壊野球部として加速していくだろう。

 

 まあそれでも、色々な意味で黄金世代よりは普通のチームのままだと思われる。

 本質的にはゴロ型ピッチャーの、黄瀬や木兎からすれば朗報なのかもしれない。

 

 

 

 

「北瀬さん!ピッチングのコツを教えてください!」

「北瀬先輩!バッティングのコツを教えてください!」

「北瀬っち!今から勝負しないっスか?!」

「オッケー!ちょっと待っててな、今から順番にやってくからさ!」

 

 日数が経つにつれ、北瀬は新たな薬師野球部に馴染んでいった。彼を神聖視していた1年生達も、大分気安く接し始めている。

 まぁ流石に、直接練習に誘って来るのは1軍選手ばかりだったが。木兎の様な奴は例外なのである。

 

 無尽蔵の体力を活かして、今日も後輩達の要望に応えきった彼は、付いてきているマネージャー2人と笑い合っていた。

 

 

「いやー、やっぱ薬師野球部楽しいよ!メジャーも楽しいけど、やっぱ部活も良いよなぁ!」

「俺も懐かしいというか、1年前に戻った気分だ。」

 

 この場所に慣れている佐藤は楽しそうにしていたが、本当のマネージャーは少し渋い顔をしていた。

 ここには最新鋭の機器が無いので、効率的な練習がし辛いからである。ついでに、後輩達の練習ばかり手伝っている彼を見て微妙に感じていた。

 

 オフに遊び歩いている選手よりは明らかにマシだが、どうせ練習するならもっと自分の力を磨く事だけに尽力して貰いたいらしい。

 本当に楽しそうにしているから、禁止は出来ないが。

 

 

「でも、流石に1か月は居すぎじゃないか?」

「えっ、俺そんなに居たっけ??」

 

 なんと彼は、30日間も野球部の練習に加わっていたのだ。最早、コーチ業が様になっていた。

 ノックにも慣れて、熟練した名監督の様になっている。

 

 

「えっ、気付いてなかったのか。」

「そろそろアメリカに戻ったらどうだ?」

「うーん、そうかも……」

 

 こうして彼は、1か月のOB訪問を終わらせた。

 涙ながらに「また来てください」と話す後輩達を見て、来年もコーチとして頑張ろうと思ったらしい。

 

 残念ながら、来年からはメジャーリーガーの練習参加も禁止されてしまう事になるが。

 北瀬が居る事によって、あまりにも薬師野球部が有利に成り過ぎたのである。

 確かに、175kmのバッティングピッチャーが無償で居るのは狡すぎるだろう。

 

 

 

 

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