【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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23球目 深紅の大優勝旗

 

 

 

北進学園相手に対して、ギリギリの逆転劇を演出する事に成功した薬師高校。

 

 

だが___その代償は大きかった。

 

まず不動のショート、3年の小林が足の不調を訴え一時離脱。病院で診てもらうと軽度の筋肉断裂が起きていた。これでは試合に出せない。

 

そして、連れ添って一緒に病院に行った真田の足に対し、病院の院長先生が違和感を感じ確認すると、こちらは部分骨折していた。当然これでは試合に出せない。

真田は足に違和感を感じてはいたのだが、小さな部位だった為アドレナリンによって誤魔化せてしまっていたのだ。

 

成宮といい、堀川といい、薬師高校は足が呪われているのだろうか?

 

いや、本人達はそう疑ったが違った。

彼らの試合時間が長すぎるのだ。守備で時間を取られ、打席で時間を取る。それにより、敵味方問わず怪我する可能性が上がっている。

 

 

 

 

ホテルの自室に帰り、珍しく北瀬と伊川は深刻そうに話す。こいつら、成宮に打球を当てた時は全く悩まなかったのに。

ヤンキー特有の、身内だけが大切な思考が身についている彼らだった。

ちなみに部屋は、人数の関係で2人だけだった。部屋割りを考えた時に本当に適当に決めたらそうなったのかは、轟監督のみが知っている。

 

 

 

「……真田先輩、酷い怪我って本当だと思う?」

「そりゃそうだろ……この場面で、嘘をつく理由が無い」

 

北瀬は嘘だと言って欲しいと思いながら質問した。北瀬は人に、重要な場面で適当な嘘をつかれた事が何回かあったから、今回もそれであってほしいと思ったのだ。

 

伊川はそれに対し力なく首を振り、本当に酷い怪我なんだろうと肯定する。あんなに甲子園に出たがっていたのに、こんな事で出られないなんて……始めて他人の怪我に対して、悔しいと思った。

成宮を怪我させた時は、まあ良いか位に思っていた伊川だが、真田の怪我は許せなかった様だ。真田より成宮の方が全力で、甲子園に行きたいと望んでいたのだが、彼にとっては他人の事はどうでもいい事だった。

 

ちなみに小林先輩も怪我をして離脱していたのだが、北瀬達は話題に挙げなかった……いや全く興味が無いかと言われればそんな事もないのだが、真田先輩と比べると彼らにとっての価値が低すぎた。

 

 

「真田先輩、あれだけ甲子園出たがってたのにな……」

 

北瀬が残念そうに話す。

……北瀬達にとって真田は身内に近い存在である事に、彼ら本人は気付かなかった。

まあ仕方ない。他人に愛着を持つ事自体が、彼らにとって始めての出来事なのだから。

 

北瀬は、伊川がそう言うならそうなんだろうと確信した。本人はここで納得したいとは全く思ってなかったが、最終的にはした。

 

 

「仕方ない、終わった事だ……甲子園終わったら、真田先輩に見舞い何持ってくよ?」

 

伊川は無意識に、本能的にこの出来事は一旦忘れようとした。明日も沢山の人前に立ちスポーツをするのだ。その為には悩みを忘れて休息を取らなければならない事を、本能的に分かっていた。

 

 

「……そうだ、絶対アレが良い!」

「なんだよ、そんなに良い物って?」

 

悩んでいた北瀬が急に確信したように答えた事に、伊川は疑問を持つ。そんなに真田先輩が欲しがっていた物で、俺達の所持金で買えるものはあっただろうか? とも考えた。

北瀬が言いたいのはそういう物では無い。それだったら、そこまでお金に困っている訳でも無い真田自身で買うだろう……いや、自由に使える金額は彼らの方が多いが。

 

 

「シンクの大優勝旗だ! 欲しいに決まってる!!」

「何だよその旗?」

 

伊川が不思議そうにというか、高そうな名前だけどお財布の中身的にに買える物なのかと疑問な顔をしていると、北瀬はまるで簡単そうに疑問に答えた。

 

 

「甲子園で優勝した時に貰える旗だ!」

「なるほど……! つまりそれを持って帰って真田先輩に上げたら……!」

「実質真田先輩が出て、一緒に優勝した事になるだろ!!」

 

実際の所……彼らが優勝し、彼らがいくら望んでも真田先輩に上げる事は出来ない。

なぜなら大深紅旗は部員一人一人が貰える物では無く、学校に渡される物だからだ。

それでも真田は非常に喜ぶだろうから、結果オーライかもしれないが……甲子園出場メンバーなのにそれを知らない彼らは、あまりにもアホ過ぎた。しかも、深紅の漢字が分かっていない。

 

 

 

 

ベスト4を獲得した薬師高校。決勝への切符を掛けた試合、薬師高校の対戦相手は巨摩大藤巻高校。エースは1年生の本郷正宗。150km近い直球に、切れ味鋭いスプリットが特徴の凄いエースらしい。

 

 

「こいつらは強いぞ……気を引き締めて全力でバットを振れよ!」

「北海道ってあんまり強いイメージないんですけど、そんなに強いんですか?」

 

北瀬以外のピッチャーを取る時は正捕手の渡辺が、疑問に思って口を開く。

雪が降る地域は、練習時間が取りづらくて基本弱いからだ。

 

 

「ああ。打撃、守備も然ることながら、1年エースの本郷が超強えぇ。成宮クラスのピッチャーだ。金のニオイがプンプンしやがるぜ!」

「へー……でも、それは雷市や北瀬、伊川もですよね! 多分俺達なら勝てますって!」

 

監督の言葉を聞いた、実は小林先輩が離脱した事により公式戦初出場の米原は、まるで簡単な事の様に言った。

 

 

「おーそうだな……お前らなら勝てる

……相手は甲子園優勝クラスの強豪だ! 全力で振って、全力で目立て! お前らの強さを、全国に知らしめろ!」

 

『おうっ!!』

 

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃。薬師高校の攻撃は、1番伊川。彼は甲子園打率10割、最強格のバッターだ。

伊川を打ち崩さんとするのは、巨摩大藤巻の本郷正宗。

 

 

___カキーン!

 

普通に打ってヒット。だが自身は驚愕していた。

 

(様子見した訳じゃ無いのに、ツーストライクまで追い込まれたのは初めてだ!)

 

この男は打率9割9分を記録しているだけあり、ストライクは取られないし守備陣がいる所にも打たない。

にも関わらず、ツーボールツーストライクと追い込まれた。

真田先輩に大深紅旗を上げるという目標もあり、自分で追い込まれていたのだろうか? 違うなと、彼は確信する。

 

相手ピッチャーが投げると分かる、正しい打ち方の高さと角度。それは普段通り分かっていた。

だが、身体の反応が正しさに追いつかないと分かってしまったのだ。正しくない打ち方をすればアウトになってしまうかもしれない。だから威力は置いておいて、正しい打ち方をしているのに。

 

伊川は野球をしていて初めて、相手ピッチャーのボールを打てないかもしれないと思った。

 

 

伊川の後、北瀬はフライアウトで、轟はゴロ、ついでに秋葉が三振と強打の薬師にも関わらず連続でアウトを取られてしまう。

まあ薬師は、守りはどうせ打たれるから変わらず、打撃力は球種等を見た後半の方が強いので、今の所問題ないと言えばないのだが。

 

 

1回裏、北瀬-伊川バッテリーは普段通りが1番強いとテンプレ投球を辞めなかった。

1番はサクッと三振。2番にヒットを打たれるも、3番4番と連続三振。

……なんと、投げるコースも球種もバレているにも関わらず、薬師バッテリーは0点で抑え切ったのである!

 

 

「今日の俺は絶好調!」

「北瀬!! 真田先輩に、赤くて凄い旗をあげるぞ!」

 

実は本当に、今日の北瀬は絶好調。MAX160kmを常時投げられる状態な上、変化球も今までに無い位のキレがあった。

凄まじい野球センスを活かせる、勝利への飢え。それを少しだけだが初めて手に入れたのだ。赤くて凄い旗を真田先輩に渡す為に。

……大深紅旗の名前を忘れて、赤くて凄い旗と呼ぶ伊川の語彙力には大分問題があったが。

 

 

 

「知ってはいたが……なんちゅうボールだ」

 

巨摩大藤巻高校の新田監督は相手ピッチャーの、もうメジャー行けよとすら思うボールに思わず唸っていた。

アレがまだ1年生……ワシの育てた本郷もやるが、アイツも凄まじいな。あいつ等もこの場所に来てたらみっちり鍛えてやったのにとも考えた。

 

「だが、キャッチャーがアレではたかが知れている……そして、正宗! 今日の為にお前を登板させて来なかったんじゃ! 死にものぐるいで全力で抑えろ!!」

「うっせぇすよ……」

 

言われなくても分かってんだよ、知っとるわそんなの! 投球への執着が凄まじい本郷はこう考えた。

 

(……それでも俺は全部の試合で投げてぇ。今日の試合、全部一人で抑えてやる……!)

 

 

……

 

 

5回表、なんと試合は5対2とロースコアで進んでいた。

1回表で伊川、北瀬、轟を以てしても無得点だったのが大き過ぎるのだ。当然彼ら以外はノーヒット、3回表で伊川達がなんとか2点を返したものの、それ以外は続かなかった。

 

ツーアウトランナー無しで打順は1番伊川。彼だけは薬師高校の打順を見ていて思った。これ勝てなくねぇか、と。

打撃力を売りにしている薬師高校が、4回で2点。そして相手ピッチャーは、息すら切らしていない。今までのピッチャーは7回までで降板していたが、この人……確か、本郷という名前のエースはしないかもしれない。

 

 

仕方ない……打球を相手ピッチャーに飛ばそう。伊川は決心した。普通に考えればしてはいけない内容だが、伊川の心は決まっていた。

 

北瀬は勝ちたいだろうし、別にピッチャーに打球を飛ばしちゃいけないという理由は無いし。

そのルールが無い理由は普通狙って飛ばせないからであり、出来るとしてもやっちゃいけないのだが、伊川はそんな事を勘定に入れなかった。

そして無自覚だが、薬師メンバーの勝ちたいという思いも伊川が勝ちたい理由の勘定に入れていたのだが気付くことは無かった。

 

……それに、この試合に勝って真田先輩に赤くて凄い旗を渡さなくちゃいけない。

俺達の金銭事情じゃお見舞い行くにしても、大した物は買えないんだ。それだったら甲子園を優勝して旗を入手し、それをお見舞いのお土産にするしかない。

 

とんでもない論理の飛躍だが、伊川はそれに気付かない。本人は大真面目に、この試合は真田先輩へのお土産を得る戦いだと思い込んでいる。

そらに伊川は心の奥底では、真田先輩が甲子園の最中に離脱したのがショックで、内心を誤魔化す為に手間がかかる北瀬が言ったお土産作戦に賛同した面があるのだが……彼らは無自覚だ。

 

本郷が腕を振る! 伊川は全力で、本郷へ目掛けて打球を飛ばした!

 

 

___パン!

 

「?!」

「…………」

 

打球は本郷の右腕に飛翔し、寸前の所でミットに収まった。

相手投手に狙ってブチ当てるには、一寸の乱れもないバットコントロールが必要だった。

才能はあれど練習不足だった伊川は、出来ると思っていたそのコントロールが、実は完璧には出来ていなかった。

 

「あっぶねー! 今本郷の所ドンピシャで飛んだぞ!」

「ミラクルが起きたな!」

 

「大丈夫か本郷!」

「ああ……問題無い」

 

観客も巨摩大藤巻も、流石に伊川がピッチャーを狙っていた事は気付かなかった。当然だ、まさかそんな針の糸を通す様なコントロールを持つ選手がいるとは思っていなかったのだ。

そんな選手は、メジャーでも聞いた事が無い……いやもしかしたら、この世界でも公言してる選手がいないだけで居るのかもしれないが、そんな事を彼らは知らない。

 

(ちぇっ、破壊しそこなったか……)

 

伊川は堂々と不満そうな顔をしていたが、甲子園打率10割が今ので途切れていた為に疑われる事は無かった。

 

 

 




実は彼らが彼ら以外と話す場合、監督への相談、取材への対応、人に用事がある、チームに声援を掛ける、そして真田先輩と話すのほぼ5択にしています。

いやまあ厳密に言えば北瀬は降谷と話しかけてますけど、アレは場所から退かない為の用件って感じな気もするので除外してください。

彼らは真田先輩の事を尊敬している設定です。でも真田先輩は、轟親子の方が大切です。まあ、彼らも親友の事の方が大切なんで仕方ないって事で。

続きのルート再投票です。票数の分かれ方微妙で悩ましい為、2択でアンケートを取ります。できれば再投票お願いします。

  • 青道合併・ハッピーエンド
  • 薬師高校・ノーマルエンド
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