【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
オフシーズンの間、仲の良い恋人がいる伊川はイチャイチャを繰り返していた……なんて事は無かった。
唯奈は超強豪校である薬師野球部のマネージャーなので、遊び呆けている暇は無いのである。
最優秀選手賞と最優秀新人賞、最多安打賞と最高出塁率に最多盗塁者賞を獲得している彼も、遊んでいるだけではダメだった。(ちなみに最多本塁打王などは、敬遠されまくったせいで取れなかった様だ。)
お互い内心はもっと会いたいと思っていたのだが、相手への迷惑を考えて自重してしまったのだろう。
「あ〜、伊川は今日から本格的に練習を再開するんだ。じゃあ俺と一緒にアメリカでどうだ?」
「それ良いな!ついでに真田先輩にも聞いても良いか?」
「賛成!それ良いな!」
こうして1月後半から、彼ら3人はマリナイズでトレーニングキャンプを行う事になった。
ちなみにメジャーリーグは基本的に海外選手の研修を受け入れていないのだが……北瀬の功績を見た職員達によって柔軟な対応が行われたらしい。
「呼んでくれてサンキュ!」
爽やかな笑みを浮かべ、真田は北瀬と伊川に挨拶した。
だが内心は1軍選手でも無いのに、メジャーでの練習に招待された事に対して複雑な心境をしている。
北瀬や伊川に今も慕われている事や、最先端の練習をさせて貰える事は素直に嬉しい。
けれど結果を出せていないのに、自分だけ伝手でいい思いをして良いのだろうかと頭を悩ませていたからだ。
「俺も真田先輩と練習したいって思ってたんで!」
「俺もです。普段の練習も良いですけど、ここなら幾らでも一緒に練習出来ますし!」
「だな!じゃあ早速練習するか!」
『はいっ!!』
こうして彼らは2か月もの間、マリナイズでトレーニングキャンプを行う事になった。ちなみに掛かった費用は全額北瀬持ちである。
まあ5年150億の大金を持っているのだから、妥当と言えば妥当だろう。
まずはウエイトトレーニングをしようと、真田達は室内練習場に向かった。
「これはベンチプレスっていうんですけど、無茶しちゃダメなんですよ。俺は240kgあたりまでやってますけど、初心者は50kg位から始めた方が良いと思います!」
「日本にもあるけどさ……240kgは絶対ムリだから!」
「えっ?」
北瀬は日本記録に迫っている事に対して無自覚で、伊川や真田を呆れさせていた。
北瀬の異次元のフィジカルに慣れている伊川はともかく、野球以外の能力はあまり知らない真田を困惑させながら練習は続いていく。
「俺は140kgがベターっスね。」
「2人共すっげぇな!俺、100kgしか出来ねぇわ……」
伊川は伊川で、現在の日本プロ野球最高記録を出している事に気付いていない。ワザワザ他の人とベンチプレスの話をしないからである。
偶に練習の時間が被った時に感心されていたが、そこまでの事とは考えていなかった。
後輩2人に大差で負けている真田は、流石は天才2人と思いながらも少しだけ悔しがっている。
プロとして先輩として、このままではいけないのだと思ったのだろう。
「体重よりは持ち上げられてますし、それで十分じゃないっスか?筋力があった方が良いのは確かですけど、そこに拘り過ぎてもマズイっすよね。」
「確かに、出来る範囲で頑張ってくしかねぇよな!」
「だよな!野球は筋力の自慢大会じゃないと思います。」
北瀬の言葉を聞いた真田は、確かにそうなんだけどフィジカルの天才に言われてもなぁと、内心思っていた。
175kmのストレートを投げる天才にそれを言われても、心には響かなかったらしい。
だがコミュ強の真田は、その感情を表には出さず爽やかに笑っている。北瀬の励ます気持ちは、十分伝わってきたからだ。
彼のそういった所が人から好かれる要因なのだろう。
「確かに他の一流選手だって、俺より速い球を投げまくってるかと言われるとそうでも無いしな!それはそれとして、ここでフィジカル強化もしときたいけど。」
「はい、お互い頑張りましょう!」
「俺も190km投げられる様になりたいですね〜。」
『それは厳しくね??』
北瀬の滅茶苦茶な目標にツッコミを入れた後、彼らは練習を再開し始めた。
休憩はこれくらいで十分だったので、その後は真面目に練習に取り組んでいる。
練習している理由は、北瀬や真田は野球が好きだから強くなりたくてであり、伊川は高い給与に対する取り組みとして行っているという違いはある。
それでも3人共、オフにしっかりと身体強化に努めているから問題は無いのかもしれない。
北瀬達3人がマリナイズで練習に取り組んでいる頃、三島は1軍メンバーに混じって練習をしていた。
守備面がプロとしては未熟で1軍と2軍を行ったり来たりしているが、将来の4番として首脳陣にはかなり注目されているらしい。
高卒1年目の1軍成績は打率.267と薬師勢にしては控えめだが、なんと打席数250回で10本のホームランを記録していた。
これなら確かに、将来のホームラン王として期待されても当然と言えるだろう。
それと、悲惨な守備を見せた雷市と比べられて「アイツよりはマシだな……段々取れる様になって来てるし」と思われたのも大きいのかもしれない。
本当に、本当に轟雷市の守備は酷かったので。彼の守備率は歴代ワースト1位を記録してしまっていたのだった。
今期1軍オリックフィアーズの最下層レベルに収まっているだけ、本当に三島はマシであった。
ついでに秋葉もプロレベルでは無かったようでポロポロとボールを零し、伊川もショートに衝突して1人を短期離脱させている。
これにより、また轟監督への評判が荒れていた。
高校時代の悲惨な守備を覚えさせた、打撃特化の育成をする彼に称賛と非難が同時に集まっていたのである。
――カコーン!
「くっ、ホームランにはならなかったか!」
「相手はうちのエースやん!当然やろ!」
「ホンマ、薬師出身はよく分からんわ」
練習とはいえ真剣勝負の中、三島は長打をバンバン放って注目を浴びていた。
ウホウホ長打マンとしての実績を、たった1年で積み上げているのである。
――バシ、コロコロ……
「あっ!スンマセン!」
「ったく、またアイツのエラーか。」
「あんな奴、もうプロじゃねーよ。」
三島はまたエラーをして、先輩達を呆れさせていた。
ついでに地味に、エラーで謝れる様になっている。毎回の様にエラーをして先輩方に詰められかけて、事の重大さに漸く気付いたらしい。
ちなみに今後10年間、日本プロ野球の守備指標が薬師野球部によって滅茶苦茶にされる事を今の選手達は知らない。
――ブォン!ブォン!
一方同時刻、秋葉は1人でバッティング練習を続けていた。1軍選手にも関わらず黙々と素振りを続けている彼は、どうやら球団に馴染めていないらしい。
一般的な感性へのズレと人見知りな性格が災いして、周囲から敬遠されてしまっているのだ。
彼は伊川と表面上は割と似ているが、伊川と違って宇宙人として受け入れられる程の実績を残せていないのが駄目なのかもしれない。
「おぅ秋葉!また1人で練習してんのかよ?!俺も混ぜろ!」
「あ〜うん、また勝負するのか?」
彼に積極的に話し掛けて来るのは、同じく1軍選手として活躍している青道高校の沢村位であった。
沢村の事を友人と思っていながらも、思ったよりも自分にコミュニケーション能力が無い事にようやく気付いて嘆いている。
在学中、三島に人に話し掛けるコツを教えて貰えば良かったなと思っているらしい。それなら沢村に教えて貰えば良い気もするが、基本的に頼る事が出来ない彼には思い付かなかった様であった。
「いや?今日はノースローデーだからな!一緒にバッティングの練習をして、お前の打撃力を盗んでやるぜ!」
「俺程度の技術を盗んでも仕方ない気もするけどな……まぁ、見たいだけ見てって良いぜ。」
秋葉はそう言って少し笑うと、映像で自分の姿を確認しながら素振りを再開し始めた。
頼まれても無いのに、沢村に対して何かしようとは思わなかったらしい。
――ブォン!ブォン!
(沢村、いつもネコ目で凄く見て来るんだよな……)
本当は少し、見られ続ける事にやり辛さを感じていたが、球団唯一の友人に指摘は出来なかった様だ。
だから沢村は今日も、秋葉への悪影響に無自覚だった。
――カッコーン!
「カハハハ!飛んだ飛んだ〜ッ!!」
「うわ、また雷市がやってるよ。」
「ホント投手潰しだよな、アイツ。」
対して雷市は、意外と福岡ハードバンクに馴染んでいた。バカ過ぎて可哀想になった一部の先輩達に、世話を焼いて貰えているらしい。
本気で泣きながら内野守備コーチや1軍選手に扱かれている酷い守備を見せる姿に、憐憫を覚えた選手も多かったのだろう。
ドン引きされながらも、一応は同じ1軍の仲間として迎え入れられていた。
――カッコーン!
「ギュインて曲がった!凄い!!」
「敬語使えや!……それで打たれちゃ世話がないんだよな。で、何かコツとかねぇのかよ。」
先輩に頭をグリグリとされながらも、彼は意見を求められている。だから雷市は、暫し悩んだ。
「いだだだ!うーーん……カーブをこう、ギュインじゃなくてグリンって感じにしたら……トオモイマス。」
「良く分かんねぇけど、ゆっくり曲がらせる感じか?」
「……うん。後は、もう少しゆっくり曲がれば……」
「なるほど。打者の手元でっつうより、曲がり幅を大きくしろって事だな。考えてみるよ。」
気付けば彼の理解者となっていた先輩が、口が上手くない彼の言葉を翻訳出来る様になっていた。
なんやかんや、雷市には理解者が現れやすいのだろう。
幼少期は極貧で言葉足らずにも関わらず、三島や秋葉といった親友が2人も出来ていたのは、彼の持つ魅力によるものなのかもしれない。
流石、別世界で主人公になっている男と言えるだろう。
真田の様なコミュ強とは違うが、続々と人々に後方理解者面をされる自分の魅力に、彼は無自覚だった。
というか、周りも気付いていなかった。
仕方ないから世話してやるかと、人に思わせてばかりだからだ。そう思わせるのも魅力の1つだと思われるが。