【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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未成年の飲酒、ダメ絶対。



241球目 昇格

 

 

 

 

 北瀬は高卒2年目にして、MVPその他諸々を2回連続獲得の偉業を成し遂げ、世間を大いにざわめかせていた。各国の野球ファンは既に、北瀬を絶対的なピッチャーとして崇めている。

 そんな中、野球機構の役員たちが態々球団までやってきて、伊川に対して土下座寸前の勢いで懇願している。

 

 

「どうか!!どうかWBCに出場して、野球界を盛り上げて欲しいんです!!」

「北瀬と綾瀬川以外は薬師メンバーの出場が無いんですよね?申し訳ないのですが、ヤクルスの2連覇を目指している所ですので今年は辞退させて頂きたいです。」

 

 

 前よりは自己主張ができるようになった伊川は、WBCに出場するメリットが感じられなかった。

 確かにまた北瀬とチームを組めるというのは多少魅力的だが、「別にわざわざまた一緒にプレーしなくてもいいかな」と冷静に考えている。

 

 もちろん、久々に顔を合わせたら楽しいだろうし、直接会えるのは悪くない。しかし、真田先輩や結菜、そして今のチームを放り出してまで、たかだか数日間のプレーに全力を注ぎたいとは思えなかった。

 しかも、WBCはただ試合をするだけではなく、コンディション調整だのメディア対応だの、色々と面倒なことがついてくる。だったら、もっと薬師のメンバーが呼ばれるようになってから誘ってほしい──というのが正直な気持ちだった。

 

 彼の事は確かに親友で兄貴だと認識しているが、仕事を一緒にやりたいとは、もうあまり思っていないのである。

 まだ本人は無自覚だが、伊川は北瀬への依存から脱却しつつある様だ。

 それと、捕手時代のバッテリーの噛み合わなさを心のどこかで覚えていて、自分が居ない方が兄は輝くだろうと感じているらしい。

 

 

「そこを何とか!!ささっ、一杯どうぞ!!」

「はぁ。(酒は嫌いなんだけどな。)」

 

 乾杯する流れに持ち込もうとする役員達。なぜか高級酒が用意されており、伊川の手元にグラスが差し出される。

 未成年の仕事中に、飲酒を強要するのはどうなんだ?と誰かにツッコミんで欲しいが、相手は野球界の大御所達である。

 渋々、伊川はグラスを掴んで飲み干した。

 

 

 

 

 一方、その頃。

 北瀬は 今回のWBCに意外とノリノリだった。

 

 

「どうか!!どうかWBCに出場して、野球界を盛り上げて欲しいんです!!」

「確かにWBCはデカい大会らしいっスし、分かりました。元薬師野球部のエースとして、日本人として戦おうと思います!」

「おおお!!期待しています!!」

 

 役員たちは感激し、握手攻めにする勢いで北瀬を囲んでいる。

 

(まぁ、母さんにも言われてたしな……)

 

 彼がWBCに乗り気だった最大の理由は、母とアメリカで再会していた際に「WBCって涼も始くんも出られるの?また2人で戦う所が見られたら嬉しいわね。」と言われていたからである。

 久しぶりに伊川とも野球がしたいなぁと感じていた彼は、母のお願いもあって今回の大会に出場しようかと思っていた。

 但し実は、母親本人は息子にWBCへの出場を頼んだつもりは無かった。自分の感想を率直に伝えただけのつもりだったのだ。

 

 

 

 

「WBC楽しみだな!やっぱ日本人の代表として戦うって凄い事だし、色んな国の選手とも戦えるし。母さんも、俺と伊川のタッグを楽しみにしてるって!」

「……そうだな!俺が打って、お前を援護してやるよ!」

 

(北瀬の親には色々と迷惑を掛けたしなぁ。出るか、WBC。これも親孝行みたいなモンか?まあ俺の親じゃねぇけど、兄貴の親だしな。俺としては似たようなモンだろ。向こうがどう思ってるのかは知らねぇけど。)

 

 こうして、伊川もなし崩しでWBCに参加する事になった。

 伊川としては今回の大会を、北瀬への義理や4年後の予行練習として捉えているらしい。

 

 それを知らない多くのファン達は、彼ら3人の出場が決定して大盛り上がりであった。

 彼ら薬師野球部の主力3人組が、世界を相手に戦う事が楽しみだったのだろう。

 ついでに、オリンピックでの屈辱を晴らす最高の舞台だと感じているのかもしれない。まあ、薬師野球部から野球を観るようになった新規ファンは気にしてもいなかったが。

 

 

 

 

 

「どうか!!どうかWBCに出場して、野球界を盛り上げて欲しいんです!!」

 

 役員の声は懇願に近かった。日本代表として世界と戦うこと、それはただの個人の挑戦ではなく、国の誇りを背負う使命でもあった。

 

 

「良いんですか。俺はまだプロにもなっていませんし、大きな実績は残せていないんですけど。」

 

 綾瀬川次郎は静かに問い返した。彼はまだ最後の甲子園を制しただけ。メッスでの地位も確立し切れていない若き投手だった。

 こんな段階で日本代表に選ばれる資格が本当にあるのか――彼の疑念はもっともだった。

 

 

「ええ!綾瀬川次郎という投手の実力は、日本中が分かっていますから!!」

 

 役員の声には迷いがなかった。むしろ、当然のことのように言う。綾瀬川は息を吐き、わずかに視線を落とした後、目を閉じて決意を固めた。

 

 

「ありがとうございます。では、ぜひ出場させて欲しいです。」

 

 こうして、綾瀬川は自らの意志でWBC出場を決めた。

 しかし、それは決して軽い決断ではなかった。

 

 まだプロ野球選手ですらない彼が、この大会に参加することはリスクを伴う。プロ選手やファンの信頼を得る前に、国際大会に出ることで、負けた場合の世間のバッシングは苛烈極まる可能性もある。

 

 それでも、彼は迷わなかった。

 

(大和──お前の夢は、代わりに俺が叶えるよ。俺が最強になればさ、お前という選手の凄さを分かって貰えるもんな。)

 

 彼の心には、ある一人の選手の影があった。

 天才と呼ばれながら、志半ばでこの世を去った友── 園大和。

 

 綾瀬川は、彼とWBCで一緒に戦う約束をしていた。しかし、その約束はもう果たされることはない。

 

 それでも、綾瀬川は戦う。

 天国にいる大和に、自分の活躍を見せつけてやるために。

 そして、あの日果たせなかった約束の続きを、自らの手で紡ぐために。

 

 

 

 

――バシッ!

――バシッ!

 

 ヤクルスのホーム試合が終わった後も、伊川はいつものように2軍の選手たちと自主練習に励んでいた。

 いや、むしろ「遊び場」に近いかもしれない。

 

 1軍に定着し、すでに主力として扱われるようになった今でも、彼は変わらずこの場所に足を運ぶ。

 もう人間関係のフォローをしてもらう必要はないが、それでも 「真田先輩と野球がしたい」 という気持ちは変わらなかった。

 

 

「おい始、そろそろ一本、俺の球打ってくれよ!」

「じゃあ……今の10球目、打ちますか。」

 

 

――カコーン!!

 

「低めギリギリなのに……やっぱお前のバットコントロールおかしいって!」

「いやいや、俺は普通に打ってるだけっスよ!」

 

 笑いながらバットを掲げる伊川と、苦笑いする真田。

 才能がぶつかり合うこの練習場は、2人にとって戦場であり、同時に最高の遊び場だった。

 

 

 伊川は 「勝ち運」を持つカリスマ を間近で感じるのが好きだった。

 だから彼は、メジャーではなく 「真田と一緒に野球ができる」 日本を選んだ。

 

 もともと受動的な性格である伊川は、「この人について行けば安心だ」と思える相手と共に戦うことを好んでいた。

 兄である北瀬のことも大好きだが、彼はどこまでも「未熟な天才」であり、ついていくというよりは共に助け合う事が多かった。

 

(だからさ、俺はこっちの野球を選ぶよ。)

 

  野球の上手さじゃない。 彼ににとっては「どこでプレーするのが楽しいか」が大切であった。

 

 

 

 

 

「真田先輩のピッチングは、もう1軍レベルだと思うんですけどね。そろそろ成るんじゃないっスか?」

「かもなぁ!実は呼ばれてくんね〜かなって思ってる。」

 

 最近の真田先輩はピッチングの時の威圧感が増し、まだ2軍選手である事が信じられない程の好成績を残し始めている。

 伊川からすれば「ここまで良い状態なのに1軍に呼ばれないのは何かの陰謀では?」と思う程だった。

 

(監督、先輩をさっさと昇格させてくださいよ。)

 

 ……実は首脳陣も真田が1軍で十分に戦えることには気づいていた。

 監督は 「大切に育てるため」 に2軍に置いていたのだが、伊川としては 、これだからインテリヤクザは…… という思いである。

 まぁ、怖いので表には出していないが。

 

 

 

 

「――え、はいっ!頑張ります!」

 

 その言葉と共に、ついに 真田の1軍昇格が決定した。

 本当は2軍で下積みをさせたかったが、投手の怪我人が続出してしまったらしい。

 

 

 

「珍しいっすね、緊張してるの。」

「そりゃあ、今は挑戦者じゃねぇし。球団を背負って戦う以上、負けて元々なんて言えねぇからな。やっぱり緊張しちゃうよ。ま、そもそも出れるかなんて試合状況によるだろうけど。」

 

 試合前、ベンチでの会話。

 今まで2軍で「挑戦者」として戦っていた真田も、これからは「球団の看板」を背負う立場になる。

 その重圧が、ほんの少しだけ彼を緊張させていた。

 

 そんな彼を見て、伊川は甘いピンク色の瞳を細め、薄く笑った。

 

「大丈夫ですよ――俺が絶対援護しますから。」

 

 「任せろ」 と言わんばかりの力強い宣言。

 真田がどんなにプレッシャーを感じても、この天才は「俺が何とかする」と言ってくれる。

 そんな言葉を聞けば、自然と肩の力も抜けるというものだ。

 

 真田は普段通りのカラリとした笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 いつもとは違い、4番打者を志願した伊川。

 今日の彼には、本気で負けられない理由があった。

 

 

『ただ今より本日の、阪真対ヤクルスワローズの試合を始めます。1回の表、守備につきますヤクルスワローズの選手をご紹介いたします。

 

 ピッチャー、石垣。キャッチャー、福河。ファースト、デンドナ。セカンド、伊川。サード、宮木。ショート、川鳥。レフト、福知。センター、青元、ライト、ガリエル。』

 

 

――バシッ!

 

『三振!石垣選手、素晴らしいスタートを切りました!』

 

(秋葉を三振に出来るのは、流石エースってトコだな。)

 

 

――カコーン!

――バシッ!

 

『キャー!伊川くーん!』

『そこは届くぞ!今回も伊川選手が華麗な守備を披露しました!!』

 

 

――バシッ!

 

『三振ッ!今日の石垣選手は非常に安定感があります!』

 

 

 

 

 1回表はランナーを前に出さない完璧な立ち上がりで、野手陣も活躍する完璧な終わりを見せた。

 そしてヤクルスの攻撃番である1回裏は3番が打ち、ツーアウトではあるが伊川の前にランナーを置く事に成功した。

 

 ここまではヤクルスの監督にとって想定内であった。

 が、彼が実力に絶対的な信頼をしている主砲の、今までに無かった自己主張するかの様な強い瞳を見て、今日の試合は一味違う事になると確信した。

 

(今日の伊川は一味違うな、何故だ――なるほど、慕っている先輩に活躍の機会を与えてやろうと言う事か。普段からその眼をしていれば良いのだかな。)

 

 高原監督は優しげに、一見裏の無さそうな笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 阪真バッテリーもそれを察していた。

 今日の伊川は 「何か仕掛けてくる」。

 

 だが、それでも敬遠以外の選択肢を思いつかなかった。

 「手を出せない外角へ」──そう判断し、ボールを投げた。

 

 

――カッコーン!

 

『わあああぁぁ!!』

『は、入ったーーッッ!!クソ玉をバットの端で打ち切り、そのままホームランにしてしまいました!

恐るべきスイング、恐るべきバットコントロール!これが日本最強の安打製造機、伊川始ーーッッ!!』

 

 敬遠なんてさせるか。

 俺が打って、試合を決めるんだ。

 

 監督はそんな伊川を見て、獰猛な笑みを浮かべる。

 「出来るなら初めからやらんか!」と。

 

 

 

 

 ちなみに、クソ球を打たれた大卒3年目の投手は呆然としていた。どうやら捨て駒的に出された選手だったらしく、気持ちが全く落ち着けられない様だ。

 

 

 

 5回表終了。

 

 

「真田、次行かせるぞ。」

「ハイッ!」

 

 ついに、 真田の1軍デビュー戦が訪れた。

 

 

 

「ありがとな、始! お陰で気軽に投げられそうだよ。」

「逆に点差を付けすぎたかもしれないっスね。」

 

 スコアボードは 10-1。

 試合が決まりつつある展開だった。

 

「じゃっ、ちょっくら行ってくるわ!」

 

  最高の舞台。最高の相棒。

 そんな中で、 真田は最高のデビュー戦を飾る。

 

 

 

 

――バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!」

『これは完璧な立ち上がり!リリーフとしての適正が感じられます!』

 

 

――バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!」

『またも三振!高卒3年目とは思えない軽快なピッチング!』

 

 

――バシッ!

 

「ストライク!バッターアウト!」

『わあぁ!』

『本日1軍初登板の真田選手が、完璧なピッチングを見せてくれました!流石は黄金世代の元キャプテン!!これからが楽しみな選手です!』

 

 真田先輩は伊川や薬師ファン達の期待に応え、完璧なピッチングを披露してくれた。

 彼本人も今日の試合で手応えを感じた様で、好青年らしい爽やかな笑顔をファン達に振りまいている。

 

 

「やったッスね!次もよろしくお願いします!」

「おう!いや〜我ながら良いピッチングだった!」

 

 天才達の楽しい野球は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

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