【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「久しぶりだな〜!雷市も4番で活躍してんだっけ、流石は黄金薬師世代の主砲ってトコだな!」
「自分から黄金って言うなよ〜!」
「カハハハ……!プロスゲェ、もっと打ちてぇ!!」
2009年、WBC開催時期の彼らは和気あいあいと話をしていた。
元薬師野球部の中から北瀬、伊川、雷市、綾瀬川の4人が呼ばれたので、仲良く一緒に行動しているのである。
……確かに今でも仲が良いのは良い事だが、先輩達への挨拶をおざなりにして身内で話し続けるのはマズいかもしれない。
「打たせねーよ、だって俺が抑えるもんね!」
『あ、成宮さん!』
薬師特有の独特な空気感を破壊しに来たのは、嘗て彼らに苦汁を舐めさせられた成宮鳴だった。
周りと関わろうとしない彼らに、助け船をだそうとしているのだろうか?
いや、どうも薬師部員達を見ると挑発しに行かずには居られないらしい。プライドが非常に高い彼らしい行動をしただけだった様だ。
「初めまして、ピッチャーの綾瀬川次郎です。」
「知ってるよ、この大会で2番手の先発投手なんでしょ?そのせいで、この俺がリリーフ扱いになっちゃったんだからさ!」
「すみません……」
「謝んな!余計腹立つ!!」
通常運転の成宮節が発動した辺りで、北瀬は目を丸くしている。どうも、彼のわがままプリンスぶりを知らずにいたらしい。
『…………』
「なんか言えよ!」
黙り込んでしまった彼らに、彼はプンプン怒っていた。
ここまで人間関係に消極的な奴を成宮はあまり見たことがないから、無視されている様な感覚に陥ったのだろう。
実際の所、薬師勢はプロ1年目から1軍なので、彼の様な同年代に近い選手と関わったことが無いだけなのだが、そんな事は成宮にとって考慮に値しなかった。
自分に誰もが注目すべきだと、ナチュラルに思っているのだ。流石は我が儘プリンスと周囲に言われるだけはあった。まあ、嫌われている感じではないから問題は大きく無いのだろう。
「確か3番手投手は、レットソックスの竹阪大輔選手なんですよね。どんな人が知ってますか?」
「俺も会った事無いし、記事に書いてある事位しか知らな〜い!」
伊川が何とか絞り出した質問を、成宮は一刀両断した。
無視されるのは腹が立つが、興味ない事を言われても乗ってはあげない様だ。
だが伊川はこの反応を予想していた様で、間髪入れずに返事をした。
「ですよね〜。」
「……俺、読んだ事が無いので教えてくれないっすか?」
『えっ??』
北瀬のとんでもない発言に、成宮と、近づいてきていた彼は大層驚いた。
まさか平成の怪物と呼ばれた大投手について、ほぼ知らないWBCメンバーがいるとは思わなかったのである。
「えぇ、俺の事知らねぇの?!」
「あ、その……えっと、すみません。」
「あーコイツ、U-15とかも呼ばれるまで存在を知らなかったポンコツなんでアレなんですよ、すみません。」
「それは伊川もじゃん!」
北瀬を下げる事で非礼を誤魔化そうとした伊川は、当の相方に背中を撃たれる様な発言をされて冷や汗を流していた。
プロ野球選手もプライドが高い人が多いと気付いているので、結果を残している先輩から睨まれたら大変だと感じているのである。
ちなみに彼は、自分が昔ならこの程度のリスクで北瀬を下げる様な発言はしなかった事には気付いていない。
「あー、お前らは野球を本格的にやり始めたのが高校生からなんだっけ。そりゃ確かに知らね〜よな!俺は竹阪大輔29才、スタミナとストレートの伸びがウリだな!ん?これって北瀬と同じか?」
「うーん。俺は球の重さがウリなんで、若干違うかもしれないっスね。」
竹阪選手は自分の発言に首を傾げているが、北瀬は冷静に違いを述べた。漸く自分の野球人としての長所を把握出来るようになったらしい。
高校時代の防御率は平均程度だったので、イマイチ実力を把握し切れていなかったのだろう。まあ、単純に知識が無かっただけかもしれないが。
……ちなみに竹阪選手は当然、北瀬と自分の違い程度は理解している。似ている所を言って場を和ませたかっただけだ。
結局、北瀬は野球への知識が浅くて冗談を理解出来ていないのである。
「確かにな!そうなるとさぁ、隕石弾の北瀬と球界の頭脳綾瀬川、そしてストレートの伸びがウリの俺に変化球の成宮って、大分違った持ち味の投手が集まってるよな〜。」
『なるほど〜!』
北瀬と伊川は感心した様な顔をして頷いている。
やはり彼らは、自らチームを分析して戦うという、プロとしての基本にまで辿り着いていないらしい。
2人はそれより前に、覚えるべき事が沢山あるのだ。
北瀬はそろそろ大人らしい英語を話せるようになるべきだし、伊川はリーグ内の有名な投手の癖を覚えるべきである。
情報を噛み砕いて身に着けるという上級者向けの事なんて、まだまだ彼らには早いのだった。
「確かに全員、投手としての持ち味が違いますよね!えっと、俺、もし良ければ竹阪さんや成宮さんとも一緒に練習出来たらって思うんですけど……俺達、暇な時に一緒に練習しようねって約束してるので、良ければ。」
亡き友との約束の為に歴史に残る投手を目指している綾瀬川は、それでもライバル達と共に練習に励もうとしている。
彼が目指している地点が、記録よりも記憶に残る投手であると言う事も大きいのだろう。
それでも綾瀬川次郎が、優しい性格であると言う事は間違いない。
シニアの頃の彼は単体で結果を出し過ぎて色々と誹謗中傷もされていたが、本当の彼は心優しい人間なのだ。
「良いのか?やった、ありがとな!じゃーなんかアドバイスとかあったら教えてくれよ!代わりに俺も、伸びのコツとか教えるからさ!」
「伊川に球を見られちゃうのはヤだけど……まっ、ライバル達の技を見れるってのは悪くないね!」
初めて会った後輩からの話を喜んで聞いているのが竹阪、自分の利益だけを考えた発言をしたのが成宮だった。
フレンドリーで人に好かれるのが竹阪選手の性格で、ワガママだがカリスマ性はあるのが成宮選手だからだろう。
他の選手達も、正義感はあれど無神経な北瀬に、表向きは明るくても闇深い伊川、優し過ぎて逆に周りが辛い綾瀬川など、性格面でも個性的な選手が集まっていた。
「よーし、じゃあ自主練すっか。」
『はいっ!』
合同基礎練習が終わった後、彼ら6人と捕手3人は自主練習を始めた。主力投手が練習をする以上、彼らが参加しない訳にはいかないのである。
別に北瀬達はそこまで重く捉えていなかったが、彼らは自ら志願してくれた。若手の身内だけで固まっていて入り辛い空気の中、よく来れた物である。
寧ろ練習効率で考えると、内野手の伊川がいる方が可笑しい話ではあるが……彼にとってはどうでも良い話であった。
「じゃー先ずは俺から行くな!」
『どうぞ!』
――バシッ!
先陣を切ったのは、ここにいる投手としては年長者の竹阪選手だった。
回転数の多い伸びのあるストレートは、北瀬達も持ち得ない彼特有の持ち味である。
「え〜、凄い!何ていうか、良く分かんないけど凄そうっス!打席で見てみても良いっスか?!」
「おぉ、良いよ良いよ。」
――バシッ!
「うわすっげ!なんか上に飛んでないッスか?!」
「おう!どうだ、スゲーだろ!キレのあるストレートは上方向に行くんだよな〜!」
口はあまり上手くないが、目が輝いている北瀬の言葉を聞いた竹坂は胸を張った。
世界最高と称される投手に褒められて、まんざらでも無かったのだ。
竹坂世代と評される程の実力者でもあるにも関わらず、才能のある後輩からの賛辞を素直に受け止められる所が彼の長所の1つである。
……ちなみに野球界では常識である事を先輩が態々説明してくれたのは、北瀬の無学さは誰もが周知の事実だからだった。
もし本人が知ったら、少し悲しむかもしれない。
「面白いっス!俺も練習してみようかな〜。」
「辞めた方が良いんじゃね?球の重さとキレは両立しねぇと思うぞ。」
「えっ?どういうコトっすか?」
北瀬は不思議そうな顔をして聞き返した。
彼は未だに、球の回転数などを殆ど理解していないのである。なぜこいつは他の選手に怪物球威を教える事が出来たのだろうか……?本人達は知らないが、完全にパワプロ能力によるものだった。
「うーん、何て説明すれば良いのかな……」
「あ〜、俺も知ってるんで説明しますね。球の重さはボールの回転数が少ない方が強くて、球のキレって言うのはボールの回転数が多い方が強いんだよ。」
まさかこんな初歩的な事を聞かれるとは思っていなかった竹坂先輩は、真面目に説明内容を考えていた。良い人だ。
そんな彼を横目に、伊川は北瀬に対して簡潔に説明してあげた。最近の彼は(当社比で)真面目に野球の勉強をしている為、今回の事は説明できたのだ。
こんな事も知らない北瀬は、まあ、苦手な英語の勉強や伊川との自頭の違いもあるので仕方ないのだろう。多分。
「え、そうなの?知らなかった。」
「ハァ?!知らないであの球投げてたの?!」
成宮が大声で嘆いている所を見て、北瀬は少し引いていた。
もちろん、可笑しいのはコイツのほうである。
「え。まぁ、そうなりますね……つまり、回転しないボールを投げたら超重い球になるってコトですか?」
「それじゃナックルだけど……まぁ投げられたらな。例えばもし、150kmで飛んでくるナックルなんてあったらさ、誰も打てねぇだろ〜な!」
「へ〜マジすか、ちょっと投げてみます!」
北瀬は何も考えていない、ではなく素直な笑顔を見せながら投球を始めた。
まさか、今まで一度も投げた事が無い変化球を本当に今投げられるはずがないと、他の選手は内心考えている。北瀬の才能を間近で見続けた、伊川以外は。
――バ、ガシャン!
『嘘ぉ??!』
「あれ?あんま思ったよりキレが無いっすね。」
そう、伊川の予想通り、この実験は成功してしまった。
確かに北瀬の持つ他の変化球と比べると、まだまだ改善の余地は大きいだろう。
――だが、この球のポテンシャルはその程度では無かった。
「いやでも成功じゃね?打つのけっこう面倒だろコレ。」
「マジで?伊川でもキツい?!」
「うんキツい、だっけ予測が遅くなるもん。」
北瀬のワクワクした顔を見ながら、伊川は強く断言した。
確かに甲子園でも、俺達はナックルを打ち砕いてきた。だけど、剛速球ナックルは話が別だと今正に肌で感じたのである。
「――マジか!!今からこれ練習しよっと!」
北瀬はとても嬉しそうな声で宣言した。最近の彼は、伊川をライバルとしても認識していたのだ。
すっと負け続けて来た相手に対して、初めて勝てる道筋を見つけられた事が本当に嬉しかったのである。
「それはどうだろ……だってさ、こんな球、捕れる人いんのかよ。」
そんな北瀬を見ながらも、伊川は控えめな声色で懸念を話した。
どこに飛んでいくか分からない剛速球ナックルを、俺以外が捕れるのかと心配になったのだ。
捕手でもないのに自信過剰というべきなのか、正当な実力差だと思うべきなのかは微妙な話である。
そんな伊川の暴言を聞いて、北瀬の現相棒である城鳥は決意した。
日本一の捕手としてのプライドと、最高の投手である相棒の足を引っ張りたくないという思いが、彼の心を燃やしたのだ。
「――俺が取る。今直ぐは取れねぇけど、絶対……だから北瀬は、そんな事気にせず練習しろよ。」
「やった!アザッス!」
こうして北瀬はナックルボールを手に入れた。
この判断が吉と出るか凶とでるかは、まだ誰も知らない。
……ついでに伊川の捕手フラグがまた立ってしまった事も、まだ誰も知らない。
現状の北瀬のナックルは135kmです。