【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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メジャーリーグ編
248球目 合意


 

 

 

 プロ入り3年目の俺は、打撃タイトルを4つも取ってMVPに選出された上で、チームも日本シリーズで4連勝して優勝し、割と順風満帆だった。

 薬師野球部の頃ほどチームの雰囲気は良くないし、試合も塁と塁との間を走ってるだけだから面白くは無いけど、仕事なんてそんなモンだろ。

 

 なんか最近、俺の事をこのチームのボスだと思ってる先輩がいる感じがするのは腑に落ちねーけど。

 俺には出場する選手を決める権限なんて無いから、普通の後輩扱いで良いんだけどな。

 

 チームを回すとかマジで向いてないから、そういう立ち回りが求められる様な雰囲気を出すのは辞めて欲しい。

 それと誰と一緒に練習するのかで揉めるのもな。

 

 俺は真田先輩と練習するに決まってるだろ!

 だからって、真田先輩を取り合うのも辞めて欲しいけど。あぁ、俺のせいで先輩に迷惑が掛かってる……マジすみません。

 

 

 まあ個人的に叶えたかった真田先輩との同時1軍出場も果たしたし、大雑把に言うと良い事が多いって感じ。

 

 人生って分かんねぇなぁ。

 俺が皆から応援される野球選手になるなんて、昔の俺に言っても鼻で笑われるだろ。

 

 ずっと友達でいたい正しい仲間も出来て、大切な優しい彼女も出来て、地位とか名誉とかまで手に入るなんて、不思議だよなぁ……この幸せを手放さないようにしねぇと。

 

 

 

 

 日本シリーズが終わって打ち上げも終わった後、俺は真田家に遊びに行った。

 もちろん、結菜に会う為だ。

 

 何回か行ってるから道は完全に覚えてるけど、真田先輩が一緒に行こうって言ってくれたから一緒にタクシーに乗る事にした。俺も真田先輩も車を持ってないからなぁ。

 免許だけは取ったけど、俺は運転するつもりが無い。煽り運転とか当たり屋が怖えぇしな。

 

 つーか結菜と、ホテルか彼女の実家でしか会えないのって面倒だな……家とか買おうかな。

 でも球団から、給与はまだまだ上がるだろうから家は買わないでくれって言われてんだよなぁ。

 正直ワンルームでも良いから家族の場所が欲しいけど、安い家だとセキュリティも不安だからって言われると、仕方ねぇ気もするよ。

 

「そういや始はさ、結菜と結婚式とかを挙げる気はあるのか?」

 

 真田先輩が、若干真面目そうな顔をして聞いてきた。

 軽い口調だったけど何となく大事な事な気がしたから、少し考える時間を取った。

 

「はい、俺はあります。結菜が大学を卒業してから上げて、いずれ子供も2人位は欲しいなとか思ってます。」

「なるほど、子供はそのうち欲しいのかぁ。」

 

 真田先輩は、何故か苦笑いをしている。

 ……まさか、やることやってるのを非難してるのか?

 

 いやでも、流石に付き合ってるなら普通だろ。

 俺達はちゃんと避妊もしてるし、最悪責任は取れる給与も稼いでるし。

 

 ……不安になってきた。

 まさか、俺の常識がズレてるってオチはねぇよな?

 

 正直、有り得るな。

 そうだったら、けっこうマズイしヤバい。まさかそれで嫌われてたり、振られたりする事は無いよな??

 

「は、はい。でも今は早いと思うので、付けてはいるんですけど……俺、駄目な事をしていたでしょうか……」

「あー、やっぱりな。いや、駄目な訳じゃねぇんだ。」

 

 真田先輩は、すぐに話題を変えた。

 別に脅された訳でも無いけど、俺は真田家に着くまで割と真剣に悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

「始くん、ひさしぶり!お兄ちゃんもひさしぶり。」

「久しぶりね、始くん、俊平。」

「いやぁ始くん、活躍はニュースで見てるよ。」

 

 俺と先輩は玄関で歓迎されながら、綺麗な一軒家にお邪魔した。

 まあ、これが普通なのか俺には分からないんだけど。

 部屋も散らかってないし、壁にスプレーで落書きされてないし、壊れてる箇所も無いから綺麗で合ってるよな?

 

 って言うか、今日はお義父さんもいるのか。単身赴任で忙しいんじゃ無かったっけ?

 

 会うの3回目だけど、今日はサインとか書くのかな。

 なんか前は、会社内のミーハーな人達に求められたらしいんだよな。お義父さんは申し訳なさそうにしてたけど、別に俺はどうでも良いよ。

 寧ろ、これで彼女の父親からの好感度が少しでも上がるなら、かなりお買い得って感じ?

 

「ありがとうございます、自慢の夫に成れる様にこれからも頑張ります!」

「最初から始くんは、自慢の彼氏だったけどね。」

 

 結菜はそう言って微笑み、お腹に一瞬だけ手を当てた。

 普通の動作だったけど、俺は少し違和感を感じた。

 

「ありがとう、結菜。あ、これお土産です。」

 

 今日買ってきたのは割と有名なブランドのチョコレート、60粒19800円。

 俺はこういうのを貰ったのはプロになってからだし、センスは自信が無いから有名なのを買ってきている。

 

 取り敢えず、割と大衆的に有名で量もあるから、これで大丈夫だよな……?

 初めて結菜の家を訪ねる時に一緒に手土産を買いに行って、高級バック2つとかにしようとしたら「こういう時はお菓子とかで大丈夫だよ。」って言われちゃったしな。

 マジで知らなかったから恥ずかしい所を見せちゃって、少しこっそり落ち込んだんだよなぁ。懐かしい。

 

「ありがとう、後で食べさせて貰うわね。」

 

 お義母さんはそういって受け取った後、結菜の方を向いて目を見つめた。そして、結菜は気不味そうな顔をした。

 えっ、何だよ。意味が分かんねぇし、すげぇ怖い。

 

 まさか、何か大変な事をしてしまったのか……?

 結菜がやりそうな犯罪なんて思い付かないけど……例えば、俺の名前で借金しちゃったとかかな。

 

 うん、まぁそれなら今の稼ぎで借りれる額位なら、多分頑張れば返せるだろうし、そこまでの問題は無いけど……それ位であって欲しいな。

 

『…………』

「この子は言えないみたいだし、私から説明するわね。」

「は、はい。」

 

 俺は凄く緊張しながら、お義母さんの方を向いた。

 彼女は結菜に対して、バカな子を見る様な顔をした後に俺の方を向いた。

 

 ああ、良かった。呆れる程度で終わる話っぽい。

 少なくとも、人を殺しちゃったから隠すのを手伝ってとかでは無さそうだな。

 

「この子、ピルを知らなかったらしくてね……妊娠しちゃったみたい。」

「えっ??」

 

 取り敢えず、思ったよりも深刻な話では無かった。

 いや確かに人生設計は変わるけど、別に悪い事をした訳では無かったみたいだ。

 俺は、善人だと知っている大切な家族を疑った事を、心の中で謝った。

 

 ……つうか、ピルを知らないなんて事が、この年齢で起こり得るのか?

 友達のビッチとかが、普通は誰かしら知ってるだろ。

 結菜は普通に友達とかも居るんだし……いや、俺の常識がおかしいのかもしれない。

 

「あ、はい、分かりました。じゃあ早く結婚式場とかを探しますね。」

「えぇ、そうしてくれると助かるわ。」

 

 お義母さんは安心した様な顔をしている。

 まあ確かに考えてみれば、予定に無かった妊娠で離婚とか、有り得る話ではあるしな。

 俺はそんなつもりは無いけど。

 

 それにしても――俺に家族ができるのか。

 いや、結菜も確かに家族なんだけどさ、子供がいる生活っていうのが想像付かねぇや。

 

 俺なんかに、ちゃんとした父親が出来るのかな。

 そんな人、しっかり見た事なんて1度も無いんだけど。

 俺の父は良く知らないし、北瀬の父親は不倫してるし、お義父さんの事はよく知らないし……知ってる中では、轟監督が1番良い人だろうな。

 

『プルルル、プルルル。』

 

 そうやって感慨に耽っていると、急に俺のスマホから電話が鳴り始めた。

 もちろん、今は重要な話をしてるから無視をした。

 

「取り敢えず、結菜の大学とかはどうしましょうか?それと、やっぱり家は必要ですかね。セキュリティとかも、かなり必要になってくるらしいんですけど。」

『プルルル、プルルル。』

 

 俺は努めて気にしないようにしていたけど、電話は鳴り続けている。

 空気を読まない誰かに、俺は少しイラッとした。

 いやまぁ、俺の事情なんて相手が知ってる訳が無いんだけどさ。

 

「とりあえず、電話を取って良いわよ?何か急ぎかもしれないし。」

「すみません……もしもし。」

「もしもし、こちらヤクルスワローズ事務室の高橋です。

 今季の契約について私共の方針が決まりましたので、至急監督室までお願いします。」

 

 意味が分からないけど、緊急の呼び出しらしい。

 行かなきゃいけない雰囲気だと察したけど、今はマジでそれどころじゃ無いんだよなぁ。

 

 

「えっ?今凄く忙しいので、後では駄目ですか?妻の妊娠が発覚して、今は実家を訪ねているのですが――」

「心中お察し致します。ですが、本当に大変申し訳ないのですが、こちらも緊急ですので……」

「えっと……すみません、取り敢えず聞いてみます。」

 

 俺はスマホを机に置いて、結菜達の方を向いた。

 多分、今の俺は相当情けない顔をしてると思う。

 

「あのぉ、何故か球団に緊急呼び出しされたので、取り敢えずそちらに向かって良いでしょうか……?断りたいんですけど、断れる感じがしないっていうか……」

「ええ、聞こえていたので分かりました。行ってください、結婚式の話とかは、今すぐ必要な事では無いので。」

 

 いっそ断ってくれたら行かないんだけどなと思っていたけど許可されたから、仕方なく球団にトンボ返りする事になった。

 呼び出されるレベルの用事があるなら、寮を出発する前に言ってくれれば良かったのに……

 

 

 

 

 

 

「失礼します。」

「ああ、椅子に座ってくれ。」

 

 俺は渋々、不承不承、恨みがましく思いながらも30分以上掛けて球団に戻って、監督室に向かった。

 高原監督は珍しく、申し訳なさそうな顔を前面に押し出している。

 そうですよ、クッソ迷惑だったんですよ。

 

「聞いたよ、妻が妊娠したらしいな。おめでとう、で良いのか?」

「はい。」

 

 知ってるなら遠慮してくれと思いながら、俺は何とか返事を返した。

 たった1年分の契約金とかどうでも良くなる話をしてたんだから、マジで後にして欲しかったんですけどね。

 

「人生設計が変わってきた頃だと思うがな――来季、君はメジャーに行って貰う事になる。」

「ハァ??」

 

 は?意味が分かんねぇんだけど。

 メジャーに行くとかって普通、選手本人が決める事じゃねぇのかよ?

 結果が出せなくて契約が決まらなくてマイナーリーグに行く事は稀にあるらしいけど、俺は正直そういう選手じゃないだろ……無いよな??MVPだもんな?

 あ、やべ。咄嗟にタメ口使っちまった。

 

「あ、すみません。いやでも、俺は来季もヤクルスワローズで契約をしたいんですけど……」

「――ダメだ。お前という世紀の天才を扱える程、うちのチームは成熟してはいなかった。

 もう、無理なんだ。お前がいると、このチームは依存してしまう。チームの再生に、現段階でも5年は覚悟している状況だからな。」

「そんな――」

 

 寝耳に水な事を言われてしまって、俺は呆然とした。

 チームの空気が良くは無かったのって、俺のせいだったのかよ?!俺は、全く知らなかったし気付いてもいなかった。

 

 よく分かんねぇけど、悪い人は居なかった訳だから、俺が悪いんだと思う。

 結果的に、真田先輩にも迷惑を掛けてしまったと気付いて、凄く自分にイライラした。

 

「俺は、迷惑をかけてしまっていましたか……」

「いや、伊川が悪い訳では無い。だが、他選手との実力差が有りすぎた上に、浮ついたチームを纏められる様な奴が居なかったのだろう。」

「そう、ですか。」

 

 そういう事なら仕方ないので、俺はチームとの契約無しに同意をして、記者会見で言う事を決め始めた。

 大分チームに有利な様に言う事になったけど、お世話になった自覚はあるから仕方ない。

 それに俺も、真田先輩達に今以上の迷惑を掛けたくないしな。

 

 ……来年から俺が居なくて、このチームは本当に大丈夫なのかな。寂しいし、疑問が残っちゃうな。

 今年の得点を計算すると、半分以上が俺なんだけど。

 

 

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