【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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253球目 そういう奴

 

 

 懐かしいな、北瀬。俺達が挑戦者だって事が。

 高校1年生の夏、市大三校、青道高校、稲城実業を連続で撃破した、挑戦者としての夏。

 あの頃の俺達はそんなに期待されてなかったし、負けても先輩たちが早く引退してしまうだけだった。

 (いや、俺にとって嫌なことではあるけど。)

 

 あの頃の俺は、自分に野球の才能があるなんて知らなかった。

 だからか、野球で勝つなんてどうでも良くて。

 ――でも確かに、北瀬に出会った時と同じで、あの夏から俺の人生が変わったんだ。

 

 その前から段々と、チームメイトの絆を知っていた。

 その後から段々と、王者のプライドやプレッシャーも分かっていった。

 

 野球のお陰で俺は、妻にも出会えて、大切な友人達も出来て……だからこそ、無様に負けてしまう事が、怖くてたまらない。

 

 なんで北瀬は、負ける事が恐ろしくないんだ?

 確かに今日の北瀬も無失点、だけど、俺が不甲斐なかったら負けるってことじゃん。

 自分のせいじゃないから、怖くないって事なのかもな。

 

 

 

 

 9番の北瀬が、打席で瞳孔を大きくさせ、筋肉に最適な力を入れて打席に立っている。

 やや極端に前傾姿勢で、ホームランを打ちたいあいつに丁度いいフォームだ。

 こういう時の北瀬の打率は極端に高いから、綾瀬川が相手でも打てるかもしれない。

 

――バシッ!

「ストライク!」

 

 ネクストバッターサークルに立った俺は、北瀬の背中と、綾瀬川のピッチングを眺めている。

 もちろん、綾瀬川の投球の癖なんかは確認してるけど、ついチラチラと兄の姿を確認してしまっていた。

 

 ……こういう時の北瀬は、カッコいいからな。

 間近で見られるとなったら、眺めてしまっても仕方ないだろう。

 試合を見に来る観客だって、面白いから見に来てるんだろ?だから、俺がそうなっても仕方ない。まぁ、金を貰っているプロ失格だと言われたら、その通りなんだけど。

 

――バシッ!

「ストライク、ツー!」

 

 北瀬は速球系をメインで狙っている。

 というより、体制を崩されても、世界最高レベルのフィジカルで打ち切るつもりっぽいな。

 

 綾瀬川が、投げる動作を始めた。

 あいつのピッチングは完璧だから、俺でも投げられるまでは球種が分からなくて困る。

 流石は天才、綾瀬川次郎だ。

 

 綾瀬川の手から球が離れた。

 右に大きく曲がっていて、回転数は3300~3350位、球速は134~135kmだ。

 これは確実にパワーカーブだな。狙いが外れた北瀬は、反応出来るか……?

 

 北瀬は即座に打ちに行って、体制が明らかに崩された。

 それでも北瀬は、強靭な背筋を使って無理やり合わせに行った。

 バットの先、上の部分に当たる。

 

――ガギーーン!!

 

 打球は大きな弧を描き、センター方向のフェンス付近まで飛ぶ勢いだ。

 けれど、メジャー最高峰のセンターが、打球に向かって駆け出している。

 これは……ギリギリ守備範囲内だろう。

 

 起死回生の一打だったけど、残念な結果に終わってしまうだろうな。

 北瀬は今回の勝負を凄く楽しみにしてたから、落ち込まないと良いけど……

 今回の俺は、全く役に立ってないしな。

 

――バシッ

 

 センターは打球に飛びつき、ボールをキャッチし、身体を回転させながらも落とさなかった。

 

「わあああぁぁ!!」

 

 歓声、熱気が爆発している。

 流れはやはり、ロッキーズにあるようだ。

 ピッチャーにも関わらず三塁を回っていた兄は、やっぱり出塁が出来ずに終わった。落ち込まなけれは良いけど……

 

 次の瞬間、兄は目を緩め、頬を無理に上げ、俺だけを見つめていた。

 悔しいだろうに、俺に心配はいらないと笑いかけていた。

 

 お前は、そういう奴だよ。

 北瀬。俺は、お前を支えられる人間に、ずっとなりたかった。

 だけど、どれだけ兄の為を思っても、肝心な時は役に立たないんだよな。

 

 

 

 

 ツーアウトランナー無しで、打席には俺が入ってしまった。

 今日はノーヒットだけど、別に調子が悪い訳じゃないし、綾瀬川が相手でもヒットを打つ事は可能だろう。

 それでは点に繋がらない可能性が高い事を除けば、四タコを確実に避ける事がベターな選択の筈だ。

 

 ……それで、本当に良いのか?

 兄の為に、ここはリスクを取るべきじゃないのか?

 

 でも、愛する結菜の為にも、ここは安定を取るべきだよな……

 俺はファミリールームに来ている、お腹が膨らんでいる妻を見た。

 心配そうに、それでも俺を期待しているような表情をしている。

 

「打って、私たちを楽にして。」

 きっと、そう思っているのだろう。

 無様な所を見せてしまっても、彼女は信頼してくれているんだ。

 

 やっぱり俺は、成果だけを考えて……

 

「伊川ー!ホームラン、頑張れーっ!」

 

 綾瀬川が、投球を開始した。何を投げてくるかは分からない。

 兄の声が、俺の脳を反響している。

 

 綾瀬川は、後で左に鋭く曲がる、回転数2700程度で、球速145~146kmの球を投げた。

 ここはヒットを打つべきだ。

 前から来ている風で回転数が多くなる影響をしていそうだから、これはスライダーの可能性が高い。だから、ホームランを狙えるかもしれない。

 

――カコン!

 

 俺は、手堅いヒットを打ってしまった。

 

 決断は、変えられない。

 俺は、せめてもの償いとして、二塁を陥れることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 俺は8回表はツーベースを打ったけど、一塁ランナーは帰れず。

 9回まで無失点で耐えきった北瀬も、遂に10回にランナーを貯めてしまい……

 北瀬にとって重要な試合は、負けで終わってしまった。

 

 俺は臆病で、やっぱり肝心な時に役に立たない。

 何も学ばない奴なんだと、分かってしまう試合だった。

 

「…………」

 

 北瀬は固く目を瞑り、両手を手を額に当てて、ベンチで一人、黙り切っている。

 不甲斐なかった俺は、気まずくて仕方なかった。

 

 チームメイト達がどこかに行った後、北瀬は目を開けて、俺を強いまなざしで見た。

 この瞬間、俺は、自分の心臓がドクドクと嫌な音を立てている事を自覚した。

 

「今日の試合、さぁ。」

 

 北瀬の目は、光を取り入れてキラキラと反射していて、白い頬に血が巡って、赤らめている。

 嫌な事を思い出している空気では、ないみたいだ。

 

「負けちゃったのは残念だったけど、めっっちゃ楽しかったな!」

 

 兄は、少年らしさを残した顔立ちを夢いっぱいに煌めかせて、嬉しそうに笑っている。

 

「そうだな!」

 

 北瀬は野球が好きだから、強い相手と戦えるだけで楽しいみたいだ。

 良かった。これで俺は、大切な後輩を恨まないで済む。

 

 最悪な試合を、俺は楽しかった事にした。

 俺は嘘を、大切な兄弟に話している。

 

 でも次からの俺は、あんな無様を見せるつもりはない。

 黄瀬の無茶苦茶なピッチングには驚いたけど、同じ球を投げられたら対応できるし、これからの攻略難易度は下がる……筈だ。

 だから嘘をついても、問題ない。俺はそう判断した。

 

 俺は憂鬱になりつつ、兄が悲しんでいなくて、怒られもしなくてホッとしていた。

 

 本当に、良かった。

 

 

 

 

 

 2回戦はロースコアな展開になって、1-4でマリナイズの勝利。俺は無難に2打点を入れた。

 

 3回戦は乱打戦っぽい空気になって、結局11-13でギリギリ負けた。俺は7点に絡んだ。

 

 4回戦は北瀬も登板して制圧、5-0で圧勝した。俺は4安打だけど、1打点と微妙だった。

 

 5回戦は綾瀬川が投げ続けて、3-2で負けちまった。俺は3安打ソロホームランだった。

 

 後がない6回戦は延長戦になり、5-3で勝った。どちらが勝ってもおかしくない、熱気の籠もった試合だったと思う。

 

 勝っても負けても恨みっこなしの最終戦は、北瀬無双で0-8だった。俺と北瀬で、全打点に絡めたからな。良い試合だったと思う。

 

 

 

 

 マリナイズの栄光は、4年目になっても崩れなかった。

 完璧な勝利は得られなかったけど、俺達は最強の座を保ったままだった。

 

 それでも、北瀬の目はどんよりとしている。

 俺も……北瀬程の落ち込みじゃないと思うけど、同じように悲しいと思っている。

 

「まさか、思わないだろ?ちょっと投げただけで、黄瀬がトミー・ジョン手術が必要になるなんて……」

「ああ……だって4回を投げただけだぜ?確かに言われてみれば、色んな投げ方をすれば怪我しやすいってのも分かるけどさぁ。」

 

 そう。黄瀬はあの試合で、野球肘の中でも重傷な、内側側副靭帯損傷をしてしまっていた。

 詳しい事は非公開だから分からないけど、恐らく異常な球種数によって不慣れなまま変化球を投げた事が悪さをしたらしい。

 

 俺は、気付いていたんだ。

 黄瀬が絶対に、怪我をしていると言う事に。

 なのに俺は、「まぁこれくらい大丈夫だろ」という、不確かな思い込みで、指摘をしなかったんだ。

 

 こんな俺の事を、結菜とか北瀬とか真田先輩が知ったら、きっと幻滅されるんだろうな。

 

「黄瀬、早く復帰出来ると良いなぁ。」

「うん。」

 

 トミー・ジョン手術の復帰確率は、けして低くはない。

 それでも俺は、嫌な予感が消えなかった。

 

 黄瀬の怪我は、普通では起きない方法で起きた。

 つまり、治す方法も前例がない可能性があるという事も有り得る。

 

 あいつも北瀬にとって大切なライバルだし、俺の大切なチームメイトの1人だ。

 だから、早く治って元気に投げて欲しいと思っているけど……

 

 ――俺は、心のどこかで気付いている。

 黄瀬は二度と、同じ輝きを取り戻せないのだと。

 

 

 

 

 

 

 俺はワールドシリーズが終わった後、真田先輩に電話を掛けていた。

 俺のせいで黄瀬の怪我が悪化したと、バレてしまうかもしれないのに。

 

 ……もしかしたら、誰かに断罪して欲しかったのかもしれない。

 大切な後輩を壊した罪は、俺にあると。

 

「はい、そういう事なんで……俺は、黄瀬の復帰確率は低いと思います。」

「マジかぁ、良い選手だったのに残念だな。」

 

 真田先輩は、少し軽いトーンのまま残念がっている。

 なんというか……友達の友達が怪我をしたとか、そういう感じの空気だった。

 

「それに、それに……俺は、俺は!黄瀬の投げている姿を見て、怪我をしていると思ったんです!!」

「うん。」

「なのに試合中だから良いやとか、相手チームだから言い辛いとか、軽い怪我だろって思い込んでいます……放置してしまったんです。」

 

 だから、優しい真田先輩に、俺は、つい自分の罪を話してしまっていた。

 大切な後輩の怪我を、放置していたという大罪を。

 

「それは、仕方ないんじゃないか?」

 

 真田先輩は、包み込む様な優しい声で肯定してくれた。

 

「だってさ、野球の頂点を決める試合中だぜ?相手チームのいう事なんて、誰も聞いてくれねぇだろうし。

 言った所でさ、試合の邪魔をしようとした悪者扱いだったかもしれねぇと思う。」

 

 真田先輩は、本当に俺が悪いと思っていない様な声色をしている。

 ……俺は、先輩にとっても大切な、チームメイトの不調を故意に見逃したのに。

 

 だから俺は、そんな先輩に縋りたくなってしまった。

 

「真田先輩は……黄瀬を助けなかった俺を、許してくれるんですか……?」

「そりゃな。別にそもそもお前が悪い事をした訳じゃねぇし。それに黄瀬には悪りぃけど、ソイツは俺の直接の後輩じゃねぇし。」

 

 先輩は、バツが悪い様な雰囲気を出しながら、俺を許してくれていた。

 ……そっか。優しい真田先輩でも、同じチームにいないと特別優しくしたりはしないんだ。

 

 本当に、良かった。

 俺が、真田先輩の1個下の後輩で。

 

 俺は、全てに許されたような気がしていた。

 

 

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