【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
25球目 マグレ当たり
甲子園での激闘が終わり、自宅に帰って行った部員達……というか薬師高校の全生徒。
全生徒を合計しても200人しかいない為、全員で応援に駆けつけてくれていたのだ。自分の学校が甲子園出場校になるというドキドキイベントに、乗らない奴はいなかった。
1週間程の夏休みが終わり、各自普段通りに教室の席に立つ。
甲子園でベスト4の戦いを見て本気で感動していたクラスメイト達は、野球部の戦いを興奮気味に話していた。
「北瀬の投球マジヤバくなかった?!」
「北瀬160km出してたじゃん、プロの平均って140kmらしいよ!」
「プロ以上?! 天才かよー!」
160kmがどれだけ凄いのかを話す部員や、通算最多安打更新の凄さを、話す部員もいた。
「轟ぃ! お前って暗いやつなのかと思ってたけど、試合では全く違うんだなぁ!」
「それな! 誰だよアイツはって思ったわ!」
「クラスに甲子園選手が4人もいるなんてスゲー!」
「カ、カハハハ……」
地味で暗い奴だと思っていた轟に、熱心に話しかける生徒もいた。轟は照れているが、始めてマトモにクラスメイトと話せて少し嬉しそうだ。
「三島もけっこう打ってたなー」
「俺の大活躍を見てなかったのか?!」
「いやまあそうなんだけどさ、北瀬、伊川、轟と比べるとなぁ……」
明るい性格の為、実はクラスカーストが高い三島は、友達と普通に会話していた。
ホームランを4本打っているのに、程々活躍したみたいに扱われた三島は憤慨した。
たしかに凄い活躍だが、北瀬や轟と比べられては仕方ないだろう。そこで仕方ないと思わない所が、三島の精神面な強さでもある。
「伊川も普通に打ってたよねー。甲子園なのに」
「普通所じゃねーよ! 通算最多安打取ったんだぞ?!」
「それって凄いの?」
「甲子園に出場した歴代メンバーで、1番ヒットを打ったって事だ!」
「まじ?! じゃあ結局、北瀬と伊川と轟って、誰が1番強いんだろう」
甲子園のヒーローが誰であるかを、彼らは熱心に語っていた。
野球に興味無い人でも引き込まれる、ド迫力の試合。それを身近なクラスメイトがやったとなれば、そうもなるだろう。
『ちわーす』
「よっ! 我らがエース!」
「化け物みたいな打撃だったな!」
「伊川もけっこう凄かったぞ!」
2人で教室に入ると、まるでヒーローが来たかの様な大歓声が起きた。
その感想は、あながち間違えでは無いかもしれない。あの甲子園で大活躍しベスト4まで連れて行った選手なんて、まるで身近なヒーローだろう。
地区大会を勝ち抜いたより、甲子園でベスト4の方が分かりやすく凄い為、クラス中が湧き上がっていた。
ちなみに、甲子園打率9割の化け物さを分かっているクラスメイトはあまりいなかった。というか、そもそも9割だと気付いていない。
野球ド素人は、とりあえずホームランと160kmと甲子園ベスト4が凄い事位しか分からないのだ。
放課後になり、野球はミーティングを開く事になっていた。身体の疲れがまだ残っている為、やる場合でもストレッチに近い筋トレ位にする予定だ。
「いやー甲子園効果凄いっすね!」
「そうだなぁ。俺も普段より、女の子達に囲まれちゃってさ」
北瀬の話に対し、真田は朗らかに答える。彼は松葉杖を置き、ミーティング室の床に座っていた。
「俺、女の子に全く囲まれてないんですけど!」
「顔じゃね?」
「真田先輩のファンって圧ありますよね……」
三島がそう憤慨したが、他の部員はさもありなんと言った表情だ。イケメンで人当たりも良くて野球が上手い、こんな完璧な人間がモテない筈が無いと分かっているからだ。
「おし、そろそろミーティング始めるぞー」
『はい!』
「まずアレだ……俺達の強みは何だ?」
耳をほじりながら、轟監督は録画していた甲子園での試合を流しながら話す。
「打撃力!」
「重量級打線!」
「最強のバッター陣!」
部員達は異口同音の言葉を口にした。当然だ、薬師はどう見ても打撃に全振りしているチーム。最初に出すならコレだろう。
「まずはソレだ! で、他には?」
『……』
部員達は、一瞬特には思いつかなかった。え、俺達って、打撃以外に取り柄ってあったっけ? と疑問に感じたのだ。
まさか、それ以外が無いって結論では無いだろうなと、一部の部員は疑問に思った。
「主砲3人の超火力?」
「それさっきと変わらなくないか?」
2年生の1人が薬師の強みに対して、主砲3人の火力の高さかもしれないと話す。だが別の2年生は、それは打撃力と変わらないのではないかと疑問視した。
「いや、そーいうので良い。部員全員の打撃力と、主砲3人の打撃力は別モンだ
……で、ほら。他にもドンドン言ってけ! 俺が満足するまで言わせるからなー」
監督に急かされ、部員達は慌てて考え出す。もう主砲達の話はしちゃったしな。俺達に打撃力以外の強みなんてあったっけなんて考えていた彼らだが、4番手ピッチャーの三野が思いついた様だ。
「北瀬と真田は投手として完成されてるよな。エース達だけ見れば、俺達が強豪校みたいだ」
「おー。まだまだ実力は付けてもらうが、まあそこも強いな……ほい次!」
三野が他人事の様にではあるが、自分のピッチャーとしての非力さを認めながら話す。監督は真田達に対して、まだ発展途上としながらも強さを認めた発言をした。どうやら、三野が自嘲してるとは気付かなかった様だ。
「団結力じゃないか? 人数少ないし、仲良いし。そんなに意見が分かれないよな」
積極的な2年生が、少数精鋭によるメリットを語った。
薬師高校は練習量が多くキツい練習がある上に、才能のある選手が加入した事で強くなった学校だが、実績の割に人数が少ない。
よって、お互いへの影響力が1人当たりで考えると大きくなっていて、意見が割れにくい。
ちなみに、意見が割れないというのは一見良いことばかりに聞こえるが、デメリットもある。
実は北進学園戦で真田と渡辺がラフプレーをしたのは、本人が望んでいたというよりは尊敬している実力者の伊川に言われたからという事が大きかった。
身内への共感性が高くなってしまい、本人だけなら取らない悪い選択肢も取れるようになってしまっているのだ。集団の怖さという奴である。
まあ強豪校も、監督指示によってやらかしたりするのであまり関係ないかもしれないが……
「そうだな! 強豪校特有のギスギス感ってのは俺達にはねーな。まあ後輩が入って来るまでかもしれんが」
「俺らって、そんなに後輩虐めそうに見えますか? ……しないっすよ」
轟監督が言った、後輩が入って来るまでしかギスギス無しの空気が残らないかもという言葉に対し、薬師高校の中ではぶっちぎりで性格が良くない自信がある北瀬が言い返した。
別に俺と伊川は積極的に他人を虐めた事は無いと思うし、そう言う系の悪い事はしてねぇしと思いながら弁明した。
そして、それ自体は事実であった。北瀬は罪悪感から、伊川は無関心さから、そう言った行動は殆ど取ったことがなかったのだ。
だが監督の言うギスギスした空気の可能性は、別に調子に乗った先輩が虐めるからという意味ではない。
「うちは今回の夏甲子園ベスト4だし、今年の実績だけを見れば超強豪に見える。だけどまだスカウトとか居ねーし、入部希望の奴だけを歓迎する事になる
んでマトモな指標がまだねーから、入部希望の奴は基本ド素人でも全員入れることになるだろうな
……その条件で、協調性があってチームカラーに合わせられる系の奴だけ入って来ると思うか?」
「絶対ねーすね」
「そこまで言わんでも……」
伊川は、確かに良い人だけ入って来る訳が無いと思って強く同意した。
轟監督はそこまでは言ってない気もするが、誰でも入れる強豪モドキでは変な奴が入って来るだろうと言う言葉に、完全に納得した。
監督はそもそも絶対問題児が入って来るとまでは言っていないのだが、伊川はヤベェ奴が100%入って来ると信じた様だ。
「マトモな奴しか入って来なくても、弱小校の雰囲気は消し飛ぶかもしれねぇな。何人入って来ると思うよ? 希望者だけで言えば100……200人位は行くんじゃねーの? まー入部希望者数は、学校側がどこまで入れるかで変わるだろうけどな!
じゃ、それはおいといて次行くぞ」
「……その話はちょっと気になりますけどね。他には打撃力が安定してるのもあるんじゃないですか?」
「点の入り方は兎も角、試合中で好調不調で打撃力が変わる選手はあんまり居ねーよな。メンタル面の特訓もしてない事はないとはいえ、ここまで安定感出るとは思ってなかったわ
やっぱり主砲達が安定してるのが大きいか?」
来年の薬師の行方は極端に言えば関係無いにも関わらず、人の良い3年生な来年の心配を内心しながら、薬師高校の強さはいつでも打撃力がある事とした。
確かに9回裏であろうとも、相手エースが降板した瞬間打撃が炸裂するのは凄まじい瞬発力だ。それに……得点の可能性が高い相手に対して、確実に決められるバッター陣。
相手エースに対してでもそこそこ決めてくれるその実力は、確かに安定感がある。
ぶっちゃけ才能が一般レベルの奴らまでここまで打撃力が上がった事に対し、監督はしきりに首を傾げていた。
確かに練習はさせたけど、こんなに強く成れる筈がないんだけどな、と。
確かに轟監督の指導により打力が強くなったのもあるが、北瀬と伊川のパワプロ能力が、打撃に関してはいい感じに働いていたのも大きい。
逆に北瀬達の意識によって、薬師高校のパワプロ的な育成方針が打撃に固定された事もあり守備力があまりにも伸びず、味方スタンドが阿鼻叫喚する実力になってしまったが……
「じゃあ後1つ位? 薬師の良い所あげてくれ」
「諦めが悪い人ばっかりって言うのはどうですか? 中学のチームメイトより、勝とうとする意識が強い気がします」
轟監督が最後の1つを適当に促した時、話し始めたのは秋葉だった。確かに普通の弱小校より、薬師高校は凄く諦めが悪いだろう。なんせ北進学園戦で、9回裏9点差から奇跡の逆転劇を決めている。
まあ主な理由は相手ピッチャーのスタミナ切れなので、奇跡ではないかもしれないが。
「確かに諦めの悪さは、並の強豪を超えてるな! 流石俺が育てたチームだわー」
「監督も大概、野球関連は諦め悪そうですもんね」
真田はニヤッと、どこか誇らしげに口にした。轟監督の諦めが悪い所も真田は尊敬しているからだ。
俺は轟親子が来るまで、何かを全力でした事が無かった。だからこそ、野球を全力で続けて来た彼らが眩しくて仕方ない。
半年間とはいえ轟親子達の全力に付いて来ていた真田自身は、あくまでそう言った考え方だった。
雷市達の様な、努力を努力と思わない程の地道な練習もして来なければ、北瀬や伊川の様な光り輝く圧倒的才能も無い。そんな俺は今の所、彼らのお溢れに預かったに過ぎない。
取材が偶に俺に来たりするのも、実際のエースである北瀬がレフトも兼任しているから、程々の愛想があって名目上エースであるから重宝されているだけだ。
そういう物だと考えている真田。確かに間違ってはいないかもしれないが、薬師の強豪クラスの練習量に付いて来てピッチャーで6番に座る、自分の才能をもう少し信じても良いかもしれないが……それは、プロになった場合の彼しか思えないだろう。