【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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26球目 面倒

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかもな。で、この話で最終的に俺が言いたいのは。こんなに凄い能力を持った俺らが、今出来ない事を出来るようになったらどれだけ強いかって事だ

つまり……今は出来てない守備力も鍛えましょう! はい」

 

『でしょうね』

『えっ?』

 

轟監督は守備力を鍛えましょうという、予め用意していた答えを告げた。

自分達の長所の話とあまり話が繋がっていない気もするが、最初から注意される場合と自分達の自己肯定感を高めた上で言われる場合では、受け止め方が違うだろう。

そんな事で拗ねるような子供っぽい部員はいない……というか轟監督本人しかいないが、せっかく実力相応の自信が付いて来た所を叩く必要はあるまい。

 

話は戻るが、守備強化の話を聞いた薬師高校の部員達は、驚く人と納得している人の2パターンに分かれていた。

 

ちなみに基本的に、北瀬や伊川に三島達といった基本的に猪突猛進型なタイプはマジかという顔をしていて、真田や秋葉達の冷静なタイプは完全に同意していた。

基本的に単純な彼らは、俺達って打撃力に全振りするチームじゃなかったのか? と驚いていたのだ。

普通、打撃力中心のチームだろうと、ここまで守備は酷くならない……ならないしそれでは勝ち進めないのだが、甲子園ベスト4まで来れてしまったので良いのだろうと勘違いしていたのだ。

 

轟監督は、流石にここまで打撃力に特化しろとは言っていない。部員の攻撃力への執着と、北瀬達のゲーム能力により攻撃力ばかり強化された事でここまで来てしまっただけである。

ベイス★ボールの責任はお前にあると言う扱いをされている雷蔵は、なぜここまで攻撃力だけ鍛え上げられたのかしきりに首を傾げ、試合を見て胃を痛めていた。可哀想。

 

一方ある程度冷静な部員達は、ここまで守備力が酷いと毎回勝ち進めるか怪しくなってしまうので守備強化に賛成していた。

 

特に、このまま春大会まで行くとセカンド伊川とサード轟、ついでにレフトの北瀬3人のサポートをさせられる予定の、2年生ショートの米原は監督の宣言に半泣きで喜んでいた。

1人いるだけでも守備力を大幅に下げる北瀬達を、3人も補助しなければならないとはどんな拷問だ。俺は甲子園クラスの選手の中では、守備力は低い方なのにと、内心悲鳴を上げていたのである。

普通に、凄く納得出来る言い分だろう。甲子園出場校として最低限以下までしか補助出来ていなかったとはいえ、半年間懸命に補助してきた小林先輩をもっと崇め奉った方が良い気がする。

 

ちなみに雷市はというと、事の重要さをわかっていなかった。だが、周りの賢い人達を見習って賢ぶり同意していた。

いや今から守備力を鍛える事は分かったのだが、彼は大好きな野球が出来るなら打撃でも守備でも良いという考え方だったのだ。

 

 

「えっ、マジすか監督。薬師に守備力強化メニューとかあったんすね!」

 

三島が思わず監督に言う。野球に対する学校の方針とかはまだ決まっていないから関係ないだろうが、轟のお父さん的な野球美学はバットで取り返す感じだと思っていたのだ。

河原で100円で野球を教えて貰っていた時も、バットの振り方しか教えてなかったし……

 

監督は三島の言葉を聞き、照れながらこう言った。

 

 

「いやーまぁ、俺だって打撃だけ教えられんならそれが良いんだけどな?

でも俺のやってるのは打撃指導コーチじゃなくて野球部の監督だしなー。やっぱり最低限の守備は出来ねーと、危なっかしくて見てられねぇわ」

 

「いや、何で照れてるんすか……?」

 

秋葉がちょっと嫌そうに言った。30過ぎの無精髭が生えっぱなしのおっさんが、意味不明な所でてれてれしているのだから少し気持ち悪いと思っても仕方ないだろう。

 

 

「いやぁマジで、やっぱ守備もやんなきゃ駄目だわ。ちゅー訳で特に1年! もうちょい守備の練習するぞ……分かってんのか? 特に、お前らの事だぞ、雷市、北瀬、伊川、三島!」

 

「えっ俺もスか?」

 

轟監督は最終的に、彼にしては凄く真面目そうな顔で守備の上達を告げた。

それに対し薬師メンバーの中では別に守備が下手ではない三島が、俺もかよと言う感じのとぼけた顔で聞き返した。

それを見た監督は、普通に小学生の頃から野球やって来てるお前も分かってねぇのかよ! という感じの、いっそビビった顔で言った。

 

 

「三島まで分かってなかったのかよ! ……確かに俺達の中じゃ下手ではねーけどよ、甲子園スタメンって考えたら最下層に近いだろーが! 1年でセーフな守備してるのは秋葉位だぞ」

 

 

1年生で唯一、守備能力が許された秋葉は微妙そうな顔をしながら一応喜んだ。

あまり喜んでいない理由は、俺だって打撃は甲子園基準で考えても悪くない筈なのに、なんか1年生の中で1番下手なんだよな……と、打撃中心の薬師高校としてのプライドが囁いたからだ。

代わりに守備が上手いと言われても、最低限度以下の薬師野球部だけの話だし。と、対して自分が強くないと薄々思いながら話を聞いていたので微妙そうな反応になってしまったのだった。

比べる相手が、今すぐでもプロである程度活躍出来るであろう雷市だったり、甲子園で戦った相手だったりするので基準が崩壊しているだろう。だが、あくまで自分の置かれた立場で考える秋葉はそうは思わなかった。

 

ちなみに実は、薬師高校野球部の1年生は、雷市、三島、秋葉、北瀬、伊川の5人しかいない。

凄く熱心な活動をしている野球部を見て、元々入部希望の予定だった人達は皆いなくなってしまったのだ。実績も無いのに無限に練習させられる野球部だと思われたら、その反応も致し方無いだろう。

 

 

「3年生は逆に打撃の練習強化だな。大学とかでも野球するなら、もうちょい打力あっても良い」

『ハイッ!』

 

「……というか、先輩達っていつ引退するんですか? いや、もし卒業までいてくれたら嬉しいんですけど」

 

3年生の打撃強化の話を聞き、純粋に疑問に思った北瀬は思わずこう口にした。

先輩方の事は割と気に入ってるので、別に留年して部活に来てくれても良いのだが、実際にはそうは行かないだろう。

なぜ夏の甲子園が終わったのに部活に来てるのだろうか。もしかして、春にあるらしい甲子園にも出るつもりなのだろうか……受験は大丈夫ですかね?

 

出場資格がよく分かっていない北瀬は、あくまで真剣にこう言った。

大半の部員達は、そう言えば初心者の北瀬は知らないだろうなという顔をして、説明するであろう監督の話を待った。

分かっていた事だけど、やっぱり北瀬と伊川は初心者なんだよなぁ。才能の暴力だわ。なんて、才能への羨ましさと彼らのチームメイトである誇らしさを織り交ぜた感情を抱きながら考えていた。

 

 

「あー説明してなかったな……甲子園で準々決勝まで進んだ8校が出場するデカい大会があんだよ」

「国体の、得点対象にはならない特別競技な」

 

轟監督の説明が終わった後、部活を卒業しないのか聞かれた3年生が答える。北瀬がスケジュールの事すらよく分かっていないのは知っていた事だし、と引退を勧められたに近い事に対してイラつきはしなかった様だ。

 

 

「えっ? なんで説明してくれてなかったんですか?」

 

北瀬はビックリした顔で監督達に聞いた。これが、3年生の先輩達と出られる最後の試合だと思っていたのに……と、嬉しいのか苦々しいのか微妙な顔をしながらだ。

ちなみに彼は、野球は国体の得点対象にならないと言われても、そもそも国体という物を知らないから意味がなかった。

 

 

「そりゃぶっちゃけ、この時期でここまで来れると思ってなかったからな。他に説明しなきゃいけない事は山程あったし

……この試合は、基本3年生を優先的に出場させる大会だ。うちは3年生だけでチームは組めないが……渡辺、福田、小林、大田、三野、阿部。お前ら全員、どこかしらで出す事になるから覚悟しとけよ!」

 

北瀬の疑問に答えた後の1言に素っ頓狂な声を上げた、4番手ピッチャーの三野。彼は自分の投手能力を、格下校相手でも厳しい実力だと考えているからだ。

青道や稲実に通じる実力が無い以上間違いとは良いづらいかもしれないが、彼の炎上履歴は大体野手陣のミスによる物なので、必ずしもそうとは言えない。

 

 

「えっ?? 俺、甲子園ベスト8相手に投げるんすか?」

 

地方大会予選1回戦、明らかな弱小校相手に8失点している三野は大きな大会で投げられる喜びよりも、どれだけ失点するかの恐怖に臆された声で聞いた。

 

 

「えー投げたくねぇの? なら、1回が終わるか打者5人に打たれた後に交代してやる……折角の大舞台なのに、勿体ないなぁ」

 

監督はそれを聞き呆れたような言葉を掛けながら、脳内で予定通り三野の試合出場数を減らしてあげた。

こんな機会2度と無いかもしれないんだから、どうせなら出たいって素直に言えばいいのに。でも3年生が強くなった所で、次の甲子園には出られないし……まあ良いか?

誰もが雷蔵の様に野球狂いで目立ちたがりやではないのだが、彼はその辺を考慮する能力は低かった。

まあ轟監督がもし共感力が高い人だったとしたら、やる気のない弱小校を強豪校に仕立て上げる前に、人の嫌がっている顔で心が折れてしまったかもしれないし、逆に新たな強豪校の監督としてはメリットですらあるかもしれない。

 

 

「おっと、起用の話は良いや。じゃあそういう訳で、明日から守備練やるからなー。嫌な奴も覚悟しとけよー」

 

責任感が無いのではなく、あくまで起用を考えるのは監督の責任だから生徒は特に知らなくても良いと考えている轟監督はそう言って適当に話を終わらせた。

薬師部員達の大多数は、青道高校での練習を思い出して嫌そうな顔をしていた。

 

そんな顔しても、守備練習は削らねぇからな! 実際の所、守備より打撃をやったり教えたりする方が好きな監督は、若干心を揺らされながらそう考えた。

当然だ。泣かれても辞められても、この段階まで来たら守備練習はさせなければならない。

いくら何でも、この悲惨な守備で高校4強を名乗られたら、全力で野球をし続けている他の野球部達は、日本の高校野球の禍々しさというか無情さに悲鳴を上げるだろう。

 

ちなみに現在、国体への出場が決定してしまった3年生の三野は悲鳴を上げていた。

俺、北瀬と真田−三島が出ない弱小校相手の繋ぎのつもりでいたのに。えっ……マジで出なきゃいけないのだろうか? 絶対ボコボコにされると思うんだけど?

 

ノーアウトで5失点される予定の4番手ピッチャーは、自分の運命を知って悲鳴を上げていた。

野手なら自分の所にボールが飛んでこなければ精々無様な三振を晒す位だが、ピッチャーは大変な事になりかねない。だから甲子園に連れて行って貰っただけに近い、1年半必死に練習しただけである小心者の彼がビビっても仕方ない。

 

 

 

 

「明日から守備練習もさせられるとかマジかよ……俺、ぶっちゃけ面倒くさいんだけど」

 

下校中、野球がそもそも好きではない、特に守備が嫌いな伊川は言った。

流石は成り行きでなんとなく甲子園ベスト4の男だ。野球へのやる気の無さは他の甲子園選手の追随を許さない。

 

 

「まあ良いじゃん、俺達が強くなるには絶対に必要でしょ!」

 

北瀬の、野球に対して前向きな発言に対し、伊川は脳内でこう愚痴った。

 

(別に、野球で強くなりてぇなんて思ってないんだけどな……)

 

伊川は野球で生計を立てていくつもりもない。バットを振るのも好きじゃないし、そもそも守備が嫌いである。甲子園で準決勝まで進んだにも関わらず、積極的に野球をする気が無いのだ。

結局、北瀬の付き添い+惰性で続けている伊川は、本格的に野球が辞めたくなっていた。

 

……まあ、辞められないのだが。

その程度の感情で、こんなに熱心な部員達に水を差す様な真似が出来るなら、中学生時代のクソ部活なんてとっくに辞めていただろう。

アレよりはマシだし、まあ良いか。マジで面倒になったら、未来の自分が辞めてくれ。

未来への無関心さも合わさり、結局伊川はこの状況を受け入れる事にした。

 

それに……こんな程度で一緒に住んでいる北瀬と揉めたら嫌だしな。面倒事を解消する面倒臭さに負けた伊川は、この程度の感情でリードを勉強する事になった。

 

 

「まあ……そうだな……」

「面倒かもしれないけどさ! 一緒に頑張って強くなろうぜ!」

「……! ああ、そうだな!」

 

伊川は、ちょっと嬉しそうに同意した。リードを勉強するとか無意味だし面倒臭いけど、北瀬が楽しそうなら仕方ない。喜ばれた程度でそう思い直す伊川は身内にチョロ過ぎる気がするが、そういう性格の奴なので仕方ない。

実際の所、辞めるのが本当に面倒だったのか。それとも北瀬の信頼を裏切れなかったのかは、彼本人すらも知らない。

 

 

 

 

 

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