【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
「とりあえず、北瀬。キャッチャーがどういうリードをするべきか、1時間位見てきたから説明するな」
「おー! 頼む」
守備面を鍛えると言う事で、次の日からリードのやり方を一緒に勉強してみる事にした伊川と北瀬。とりあえず一応2人の中では頭の良い伊川が動画を見て来た上で、解説する事になった。
「まず、野球・リードの基本的な考え方という動画の説明だ。俺達のやる事は3つ。ストライク先行、前回のボールを活かす、ピッチャーが楽な球種を投げるという事だ」
伊川はYouTubeで30分位で公開されていた動画の1つを、まるで完璧に正しい意見だと言うように説明する。
その動画はリードを知らないド素人用動画であり、甲子園ベスト4のキャッチャーレベルの動画では無いのだが……いや、伊川のリード力で言えば正しい気もする。
「ふーん! で、つまりどういう事? いや、ストライク先行はなんとなく分かるけど」
「ストライク先行は、大雑把に言うとフォアボールを出さないと言う事。俺達は出した事が無いから大丈夫だな。次は、前のリードを活かす事だが……」
「活かす事だが?!」
この発言だけを切り取れば、伊川同じく甲子園ベスト4の、背番号1でこそ無いが恐らくエース扱いの、衝撃の160kmを投げるピッチャーとは思えないだろう。
たった3つのリードの意味に対し、ストライク先行しか分からないという話を堂々と言う北瀬。
まあこのゴミリードキャッチャーの相棒と考えるのであれば、凄く妥当な内容かもしれないが。特に、ピッチャーの楽な球種の意味が分からないのはヤバ過ぎる。
投げる時にスタミナとかは全く気にしないのだろうか? 気にしていたら、巨摩大藤巻に対して全力投球を続ける事は出来なかっただろうから、まあ良いのか?
それに、フォアボールを出した事が無い事で、リードが可笑しいと気付かないのだろうか。基本に忠実であれば全て良しと言う訳では無いのだが……
まあそんな事はさておき、北瀬は非常にワクワクした声で続きを聞いた。
「前回投げた対角線上に投げさせるか、前回と途中まで同じコースで、違う球種を投げさせれば良いと言う事だ」
「……なるほど?」
分かっているのか分かっていないのか微妙な声で、北瀬は小難しそうな顔をしながら返事をした。
「インコース高めに投げたらアウトコース低め、インコース低めに投げたらアウトコース高めに投げる
又は……いやこれからの説明の為にも、北瀬の投球コースを縦×横で、7×7で分割してみたから聞いてくれ。長いけど良いか?」
「良いよ。てかそんな事までしてくれたんだ。ありがと!」
北瀬は意外そうな、けれど嬉しそうな顔をしながら伊川にお礼を言った。伊川がそんなに野球が好きではない事は分かっている為、一生懸命考えてくれた事実だけでも嬉しいのだ。
それにこんなに真剣に考えてくれたなら、きっと凄いリードが出来るに違いない! 1時間の動画を覚えただけの伊川に対して、滅茶苦茶な期待をしていた北瀬。
正確に言うなら、覚える作業などが入ったのでまあ1時間は優に超えているが、その程度の努力で素晴らしいキャッチャーに成れる訳がないだろう。唯でさえ元が酷いんだから、当然だ。
北瀬は、伊川のリードが酷い事を知らない為、元から本気で伊川のリードは悪くないと思っている。巨摩大藤巻に負けたのは伊川のリード力も大きいのだが、北瀬は全く知らない。
まあどうせ知っていても、全力で知らないフリをしたかもしれないが。
「ボールゾーンまで言うなら縦1〜7、横1〜7の場所があるとして分割した。ストライクゾーンだけで言うなら縦2〜6×横2〜6だ。
例えばど真ん中は4×4で、右バッターのインコース低めギリギリは、6×2として説明する……ここまでは良いか?」
「多分、恐らく……」
北瀬は自信無さげに、多分大丈夫だと口にした。あまり自信は無さげだったのに伊川は気付いたが、ここが重要な訳ではないのでスルーして話し続けた。
「ストレートはど真ん中の4×4に行くとする。
途中まで同じコースに投げたらスライダーは左に2ズレる。つまりインコースの4×2に移動する
カーブは左に2、下に2ズレる。つまりインコース低めの6×2に移動する
フォークは下に1ズレる。つまりどちらかと言うと低めの5×4に移動する
超スローボールはストレートと軌道は同じ、つまり真ん中の4×4だ」
「なる……ほど」
分かり辛い説明を淡々と行っていく伊川。だが、紙に書いて説明しているだけマシかもしれない。
それに対して、なんとなく分かった気もしたので生返事をする北瀬。これ以上難しい話が来たら分からないぞと思いつつ、一応分かったので返事を返した。
「分かったか?
……じゃあ話は戻って前回のボールを活かす話だが。途中まで同じコースに投げると、相手バッターは同じ球種が来たと勘違いするらしい。俺はした事ないけど」
「だろうな……なる程な。言われてみれば、そういう似た球種が来て、アウトになった回数は多い気もする」
伊川の打率が10割近い事を知っている北瀬は、まあどんな球種が来ても別球種とは勘違いしてないだろうな、と普通に言い放った。
というか、そもそも球種が分かっていなくても打つだろうから関係ないだろうけど。といった顔だ。北瀬vs伊川で、ピッチャー北瀬として1人で投げても、半分以上は打たれている。
逆に、あの伊川から半分近くアウトを取れている北瀬を褒めるべきかもしれない。
よく考えても意味不明な選球眼だが、それを当然の物だと考えている北瀬は何気ない事を話すかの様な顔だ。だが、伊川もそう思っているので、普通に聞き流した。
それにしても、北瀬はあれだけの打率とホームランを叩き出しておいて、同じコースあたりにボールが来る意味を全く分かっていなかった様だ。
よく考えなくても甲子園出場選手としてヤベェ奴だが、同じかそれ以下の知識量だった伊川は気にせず、説明を続けた。
「つまり、スライダーで4×2に要求したのと、カーブで6×2に要求したのは、最初に4×4の場所からボールが始まっているから同じに見えるらしい
……そういう、同じ所に要求している様なリードをしろって事だとさ」
「へー。キャッチャーって色々考えているんだなぁ」
そして、普通のピッチャーなら出来る訳の無いめちゃくちゃ細かな分割を、北瀬なら出来ると信じ切って口にする伊川。普通変化球の変化量はコロコロ変わるのだが、北瀬の球種はある程度一定だった。
いや……信じていると言うよりは、北瀬は実際にやれているが正しいかもしれない。
というかキャッチャーって色々考えていると言うよりは、今まで考えていなかった伊川がヤバいのだが、2人はまだそれを知らない。
「今回の動画では、最後にピッチャーが楽な球種を投げるのが良いらしいと言っていた。北瀬にとって、投げるのが楽な球種は何だ?」
「普通のストレートが1番楽で、絶対160km出すストレートが1番キツい。変化量はその真ん中より普通のストレート側位かな?」
北瀬の発言を聞いた伊川は、へぇそうなんだ。と一応は理解した。エースピッチャーが疲れるボールを知らないのはどう考えてもヤバいのだが、彼からすれば初耳だったのだ。
その上北瀬の疲れるボールや楽なボールは、普通に考えて当然の話だったのだが、伊川は当然の如く初耳だった
「へーそうなんだ。じゃあ次から、ストレート中心で投げさせるわ。つまり、155km位が中心になるって事だろ?」
「そうだけど、大丈夫? 打たれて打たれて20点位取られないか、それだと」
それに対して、伊川は自信を持ってこう答えた。
「大丈夫だ。お前のストレートは……普通より速い!」
「それは良かった!」
キリッとした顔で、バカみたいな回答をする伊川。普通より速いと言うより、今の所軽く投げても高校最速なのだが、適当に球速について調べた伊川は分かっていなかった。
そのクソ回答に対して、北瀬はガチで安心したように答える。実際、その言葉に安心していた。良かった、俺のピッチングはそこまで悪くないのかもしれないと、希望を持ったのだ。
彼のピッチング自体は、高校最強所かメジャーでも通じると思われるのだが、2人とも気付いていない。
そして速いだけでバッターをアウトに出来るなら既に出来ていると思われるのだが、2人は気付かなかった。
……それにしても、本当にこの回答で良いのかと言うと良くないと思われる、甲子園キャッチャーが本気で考えた投球術とは思えない軽い中身なのだが、2人は全く気付いていない。
「これが、2つの動画の内片方の解説だ。じゃあ後1つの、これから草野球で通用するリード術について説明するな」
「オナシャス!」
伊川は真面目そうな顔をして半分の解説を終え、もう片方の説明に入る。北瀬は素晴らしい話を聞いたと思い、まるで投球術の師匠に教わるかの様な弟子風の回答をして答えを待った。
この程度の答えで非常に満足してしまうから、コイツらのリードが改善しなかったのだろう。
というか動画のタイトルから草野球に通じると言ってしまっているのだが、甲子園バッテリーの彼らは本当にソレで良いのだろうか?
ちなみに彼らは、草野球の意味を分かっていなかった。特に北瀬は、芝生の上でやる野球だろうと勘違いしていた……もしそうだとしたら、その競技は野球ではない。尚更その投球術を利用しない方が良いだろう。
「キャッチャーのリードには3つの考え方があって、ピッチャー主体で考える事と、バッターの傾向を考える事。ついでに状況を考える事だ
……で、状況を考える事は意味が分からなかったから、投手主体と打者傾向について解説するぞ」
「おうっ!」
甲子園ベスト4のキャッチャーの癖に、状況を考えるという意味が分からなかった伊川。そのぶっちゃけた説明に納得してしまう北瀬。
どちらもヤバいが、本当にどちらもヤバいが、どちらかと言うと自分の問題を放置している伊川の方がダメかもしれない。
「ピッチャー主体というのは、ピッチャーの得意なコースに投げさせる事だ。それで、北瀬の得意なコースを教えてくれ」
「特にないかな……?」
「えっ……困ったなぁ」
キャッチャーの癖に、エースピッチャーの得意なコースが分からない所か、堂々と相手に聞く伊川。そして、その簡単な質問に答えられない、エース北瀬。
無理矢理彼らを擁護する答えを出すならではあるが、北瀬の投球はどのコースでも一流だからまあ分からなくても仕方ない、かもしれない。
「まあ良いや、そして……バッターのバットが横になってる場合は、高めが得意らしい!」
「……えっ?! 何で分かるの?」
まあ良いやと、得意コースの模索という初心者レベルの話が分からない事を放置する彼ら。
伊川は適当に得意コースの話を終わらせた後、衝撃的な真実を口にした様に、バットが横倒しの場合は高めが得意だと話し始めた。
北瀬はソレに衝撃を受けた様で、ビックリしながら質問した。これが分からないホームランバッターって、世界のバグではないだろうか? 彼らの転生事情的に、本当にそうかもしれない。
まあ……この世代はまだYouTubeが普及していないので、普通に説明出来ないバッターはいるのかもしれないが。検索能力が最低限はある彼らがそれでは駄目だろう。
「説明聞いてたけど、長いから要約。その構えだと低めが打ち辛いらしい」
「なる程……つまりバットが縦になってたら……!」
「良く分かったな! 低めが得意らしい」
甲子園ピッチャーをバカにしているのかという位、簡単な話の先を読んだ事に北瀬に対して、伊川は本気で褒めていた。もしかしたら、ヤンキー中学生はこの程度が分からない事が当然なのかもしれない。義務教育の敗北である。
「この知識を活かして、対角線上に投げてもらうか途中まで同じコースに投げてもらう。そして相手バッターの持ち方で、どのコースを中心に投げてもらうか決める……俺はこんなリードをする予定だ!」
「凄い……! 流石伊川、頭良いなっ! これからも宜しく頼むわ!」
本当にキャッチャーとしての基礎の基礎しか言っていない伊川に対して、それを素晴らしいリードだと勘違いして感動する北瀬。
こんな程度しか分からずに、伊川は本当にキャッチャー◎が取得出来るのか……別に本人は、取得したいとも思っていないからまあ別に良いのかもしれない。
そして、7×7リードの話は最後まで出てこないで話は終わってしまったが良いのだろうか。まあその話は、次から伊川がボールを要求する時に使うから問題無い、だろう。多分。
パワプロ脳に汚染され切った彼らは、このトンデモリード術を正しい話であると思い込んで理解した。
まあ、テンプレリードよりはマトモなリードになりそうだし、160kmピッチャーが投げるので安心しても良いかもしれない。