【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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1番 秋葉・ピッチャー
2番 三島・キャッチャー
3番 森山・ライト
4番 轟 ・サード
5番 真田・ファースト
6番 伊川・セカンド
7番 小林・ショート
8番 大田・センター
9番 北瀬・レフト

の想定です


28球目 国体

1か月と少しが経ち、全国の超強豪校が集う国体の日がやってきた。

 

ここまで来るまでに、伊川がリードの組み立て方マニュアルを暗記したり、北瀬のスタミナがどれ位で切れるのかを検証したり、薬師メンバーの守備をほんの少しだけ改善したりと色々な事があった。

彼らは街で、薬師高校のファンを自称する人に話しかけられたりといったイベントが割と頻繁に起きて、打撃力に対しての自信をつけ順調に打撃力への拘りを上げていっていた。監督は泣いて良い。

ちなみに北瀬達はスタミナ検証を、監督に無断で勝手にやっていたのだが……前日の疲れを残していなければ、北瀬は250球までは楽々投げられる事が分かった。化け物だろうか?

 

 

 

 

「じゃ、国体初戦の相手を説明するぞー。相手は3年前の夏に全国制覇してる、四万十義塾だ

 

要注意人物は、エースで4番の川谷……こいつだけは要注意だ。ボールが遅れて来るような投げ方でスローカーブ、スクリュー、サークルチェンジ、高速シュートを使用してくる。後クイックが得意だ

まー他にもクリーンナップに本山とか浦戸とかがいるけど、お前らの打撃程の威力は無いから気にしないで投げろ

 

四万十義塾って今年はいわゆる不作って呼ばれる年で、例年よりかは強くねぇんだよな。奴らがベスト8に残れたのは運が大きいだろう!」

 

「そういや、そんなに詳しい情報をワザワザ誰が調べたんですか?」

「真田のお母ちゃんだ!」

『またか……』

 

轟監督の説明が終わった後、ふと誰がこの資料を作ったのか疑問に思った2年生が質問すると、轟監督はあっけらかんと答えた。それに大多数の部員達は、また真田のお母さんかよと驚いていた。

県外の学校について監督が詳しい時、いつも真田のお母さんが登場している気がする。こないだなんて、わざわざ北海道まで行ってビデオ取って来てくれたし。真田のお母さんって暇人なのかなと、部員達は不思議に思っていた。

 

そして真田俊平は、もしかして轟監督と再婚する気か?! と言う妄想にリアリティが帯びてきた気がして、こんなに凄い親子を狙うなんて母さんやるなぁと関心していた。

……全くもって違う。真田のお母さんは専業主婦で趣味が無く、手の掛からない高校生の1人息子がいるだけなので暇を持て余していただけである。

だから、こういった情報を調べるのは、いつの間にか彼女の仕事になっていたのだ。

 

 

「で、先発だが……秋葉で行く」

 

監督の衝撃的な発言に、一瞬薬師ベンチの空気が死んでいた。いや、秋葉って投手練習してないですよね?

大体の部員は、実は秋葉と三島が勝手にバッテリーを組んで練習していた事を知らなかった。

真田先輩に先発を取られるなら仕方ないが、いくら何でも秋葉はねぇよ! と思った北瀬は批判覚悟で采配に反対した。

 

 

「……えっ、ちょっと待ってくださいよ! 秋葉ってピッチャーやった事無いですよね」

「そりゃそうなんだが、あいつら自主練の時に勝手に隠れて練習してやがった! やりてぇ事があるなら、ちゃんと監督に言ってからやってくれると有り難いんだけどな……どうせなら、使わなきゃ損だろ!」

 

無茶苦茶な采配に関しての不満は無くも無かった為、北瀬への批判は全く来なかったが……この有り得ない采配に対して、部員達はこう思った。

 

(ヤベェ事言うなぁ……でも全国掛かった試合で、青道相手のナメプかまそうとした時よりはマシか……)

 

部員達は結局、野球に対する監督の熱意を尊敬していたので批判は起こらず。即席バッテリーが本当に国体で戦う事になった。

 

ちなみに、監督には当然思惑があった。唯でさえベンチメンバーが18人と地方大会では上限人数に足りていないのに、ここから3年生が6人減って12人。

どこの1回戦負け弱小チームだと言う程、春大会では非常に人数が少なくなってしまう。

 

ただでさえ弱小校の逆襲、打撃特化の薬師高校として注目されまくっているんだ。秋葉がピッチャーをやる位の、欺瞞情報を流しておいた方が良いだろう。

まあ場合によっては、本当にやらせるかもしれんが……ピッチャー3人しかいないしな。来年の夏は解消されている筈だが……

監督は甲子園ベスト4とは思えない、トンデモナイ人数不足を嘆きつつも自分に出来る事はしようとしていた。

 

本来ならもっと部員がいる筈だったのだが、最初の方で北瀬と伊川に才能の差を見せつけられた部員達が辞めていってしまい、悲惨な部員数になっていたのだ。

監督は基本的に、野球では去る者追わずが正しいと思っている為、無理に引き止めたりはしなかった。もし非常に才能のある、北瀬か伊川に言われたら引き止めたが……

 

野球はやはり、才能のスポーツである。

それを持たない物も、俺が現役の頃の様に熱意を出して努力するならサポートするが……心が折れた凡人を立ち直らせて走らせる程、無駄な事はあるまい。

やるだけお互い時間のムダだし、努力している部員のやる気を下げかねないから普通に出ていって貰った方が良いだろう。

 

そう考えている轟監督は、退部を申し出た部員を引き止めなかった事は後悔していないが、それにより部員不足で追い詰められていた。

結果を出しているから暫くの間は監督を続けられる事は確定しているが、彼の次の目標である全国制覇の為、轟雷蔵は駆けずり回っていた。

 

ちなみに、監督はSNSで言われている事を殆ど知らない。なぜならスマホが普及していないこの時代、パソコンを持っていない彼が知る由もないからだ。

 

 

 

 

1回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉から。薬師高校にしては凄く堅実な野球をするバッターであり、守備も薬師にしては素晴らしい出来だ。

 

総合力で言えば部の中で6位と割と下の方だが、甲子園ベスト4のスタメンに相応しいと思えなくもないプレイヤーだった。

どうして割と優秀な彼が、甲子園ベスト4に相応しいと確定出来ないのかと言うと。基本的に薬師高校野球部は、北瀬、轟、伊川の3人が優秀なチームであり、後はオマケ扱いされているからである。

3人全員に守備位置が囲まれている小林は、もっと注目されても良いのではないだろうか?

彼は守備範囲が普通のショートの3倍近い為、とんでもないチョンボをかます事がある。よって観客達には彼の凄さが伝わり難いのだ……苦難は今回の国体までだから、小林は頑張って欲しいとディープな薬師ファンにはちゃんと思われていた。

 

 

___カキン!

 

「よし、続けよ三島!」

 

変速サウスポーとはいえ136km/hと、普段打つ練習をしている北瀬と比べると20km以上遅い彼のボールをあっさり打った秋葉。

ーアウト1塁で、次の打順は三島に回った。薬師高校はコロコロ打順が代わるが、なぜブンブンバッターの三島を2番に置いたのだろうか?

……轟監督はこの試合は勝てるだろうと考えていて、それならタコ殴り打線を試してみたかったらしい。

 

 

___カキン!

 

「おっしゃー! 見たか!」

 

「ツーベースで威張るなー!」

「でも良いぞ三島ー!」

「どうせならホームラン打てー!」

 

三島もツーベースを打って、ノーアウト2塁。割と俊足の秋葉は、簡単にホームへ帰れた。

国体で薬師高校初の得点を奪った三島は嬉しそうだが、ベンチからの声掛けは塩だった。

なんとなく、秋葉と三島が初回から連続で打った時点で、相手のピッチャーが破壊される事を察していたのだ。これは北瀬の番にホームラン行くだろうな。と、次の打席に心を奪われていた。彼らは、非常に打撃に心を奪われている。

 

 

……

 

 

1回表の段階で、薬師高校は6得点。内外野の完璧な連携が売りである、鉄壁の守備陣を持つ四万十義塾高校だが、打撃が強すぎてあまり活かせなかったらしい。

……いや、守備陣が完璧な打球処理をしていなければ、薬師高校は20点位取ったかもしれないからどうとも言えないが。

 

1回裏、薬師高校のピッチャーは7番の秋葉。サイン交換を明らかにやってない、素早い投球テンポで投げていた。センターの縄樹はあっさりアウト。

 

 

「アウト!」

 

ワンアウトで四万十義塾は、2番セカンドの武市が打席に入った。彼は割と打球にバットが追いつけたが、当たりどころが悪かった様でボテボテのセカンドゴロ。

 

 

___ガギン!

 

「すまんカバー!」

 

「……セーフ!」

「またかよ伊川ー!」

 

……セカンドゴロの筈だったが、そこにいるのはこの男。薬師3大守備難の伊川だ。飛び出しが目茶苦茶遅れ、1塁はあっさりセーフにされてしまった。

記録上はヒットだが、これでは秋葉が可哀想である。

 

ワンアウト1塁で、相手バッターが出てくる。彼らは名前を覚えていないが、相手バッターの本山はバントの構えをした。

 

 

(あっ、バントする気だな? このバッター)

 

秋葉−三島バッテリーは、相手の偽バントにすっかり騙されていた。実は四万十義塾は、この点差が付いているからこそバントをする気は無く、揺さぶりのつもりでやっていた。

だがキャッチャーをやっている三島は、こう思ってしまった

 

(バントされるならされれば良いんじゃねぇか? ランナー1つ進むだけでアウト取れてラッキーだな!)

 

斜め下の考え方で、四万十義塾の作戦を無効化した薬師急造バッテリー。薬師高校の環境に、完全に汚染されている。

このポジションでも試合勘の少ない三島達の、あまりの開き直りに対して逆に困惑させられてしまった本山はあっさりアウトを取られてしまう。

これでツーアウト。エースで主砲、川谷がバッターボックスに入った。

 

 

……

 

 

試合は7回表。途中でピッチャーとキャッチャーが交代するも、4-33と既に決着が付いたと確信した轟監督。ノーアウトランナー無しの場面で、2年3番森山の所に3年生代打1人目を投入。

実は3年生で1人だけ、試合経験が無かった阿部は完全に緊張していた。だが……

 

___ガギン!

 

完全に心が折れていた、実はちょっと心が弱い相手エース川谷のボールになんとかバットが触れる。

 

「ファースト!」

「……アウト!」

 

結局鉄壁の相手では全く相手にならず、簡単にアウトになった阿部だが、甲子園ベスト8相手に一応打つ事が出来た事に大満足。清々しい顔でベンチに帰っていった。

実は、まだ7回と8回の守備が残っているのだが、守備が苦手な阿部は都合良く忘れていた。

 

 

……

 

 

試合は8回裏になり、4-35と圧勝しているこの場面で薬師高校はピッチャーを交代。8番センターの太田を下げ、ポジションをぐちゃぐちゃに変えながら三野をマウンドに送った。

 

(嘘だろ?! 俺がガチであの四万十義塾相手に投げんのかよ?! しかも国体で?!)

 

薬師高校の中ではダントツで小心者である三野は、完全に萎縮していた。

甲子園程では無いとはいえ、見渡す限りの観客に見守られながら投げなければならないとなれば当然だろう。

しかも彼は、上手くいっても地方大会3回戦負けのエース位の大した事無い実力なのだ。一生笑い者にされかねないと恐怖に震えて当然だろう。

 

まあ2005年薬師高校出身と言ってしまえば絶対、あの倒壊薬師の1人なんだと覚えられてしまうので既にどうしようも無いのだが。

ちなみに彼は、高校卒業後就職して直ぐなぜか営業に回されてしまい、開き直って国体ノーアウト5失点ネタで生きていく事になる。

 

 

「三野先輩がんばってくださーい!」

「5回打たれたらどうせ降板ですよー!」

「どれだけ打たれても点差は変わらねぇぞー!」

「思い切って打たれろー!」

 

薬師ベンチから打たれても良いよという、熱心に野球をしている球児からすればフザけた指示が飛び交う。

ぶっちゃけベンチも、三野先輩は絶対に失点すると分かり切っていた。だって三野先輩のボールは、ベンチメンバーでも簡単に打てるし……

そんな惨状でも国体に記念出場させるのに対して反対しない彼らは、ある意味人が出来ているのかも?

逆に、ネットで一生ネタにされる仲間が出来て嬉しいなと、内心喜んでいる酷い奴もいたのを彼は知らない。

 

駄目だこりゃと諦めた顔をしながら、永遠の4番手ピッチャーである三野は投げた。

こんな適当に国体に出場する奴らに、負ける訳にはいかない。そう奮い立った下位打線の小栗は、意地のホームランを見せた。

 

「やっぱりかぁー……」

 

「センパイ! 後4点ですよー頑張ってください!」

「いや、ちょっとは抑えて後3点位にしろー!」

「4失点に抑えたらダッツ買ってやるー!」

 

薬師高校ベンチから温かい声援()を聞きながら空を仰ぐ先輩。

ホームランを打たれた後も駄目だこりゃという諦めた顔を続けていて、ある意味へこたれてはいない三野は、そのまま次を投げた。

 

___カキーン!

___カッキーン!

___カキン!

___カッキーン!

 

1回だけフェン直ツーベースが混じったが、たった5人に投げただけで4回ホームランを打たれた三野先輩は、あー疲れたという顔をしながらベンチに戻った。

この惨状で心に対して傷がつかないのは、ある意味心が強い証拠かもしれない。というか、そうじゃなければ薬師野球部ではやっていけなかった。

部活は轟監督が来てから目茶苦茶厳しくなったし、天才バッターの後輩達が5人入部。心が弱い奴はドンドン辞めていく部活だったのだ。

結果部活に残ったのは、やたらとテンションが高くノリで生きている高校生達。元々は普通っぽかった奴も、その雰囲気に乗せられてちょっと変な奴になっていた。

 

話は戻って……三野先輩は確かに打たれまくったが、たった5点では試合の結果は変わらない。

その後も思い出代打を何回か出してネット上で物議を醸させながらも、薬師は国体1回戦目を勝ち進んだ。

 

 

 

 

試合が終わった瞬間、少しキリッとした空気の薬師野球部は一瞬でなくなり騒いでいた。

 

 

「バット振るの気持ちいいなー!」

「相手のバッター打ち頃のボールだったしなー!」

「阿部は惜しかったよな!」

「俺達が守備やってたら出塁出来てたのになー!」

 

ワイワイ騒いでいた薬師高校。そこに轟監督は、衝撃的な初耳情報を垂れ流して来た。

 

 

「そういや言ってなかったんだけどよ……来年から俺達、薬師野球部に寮が出来るらしい」

『へー……えっ??』

 

どうでも良い事だろうと聞き流しモードに入っていた薬師メンバーだったが、重要情報過ぎて一瞬空耳かと勘違いしていた。

1番早く立ち直った三島が、ひょんな事に驚きながら叫ぶ。

 

「えっ、マジすか?!!」

「隣にあるボロアパートとか空き地を買い取ってそのまま使うんだとよ。来月から出来るから、入りたい奴がいたら言ってくれ。あ、コレが毎月の代金とかね?」

「へぇ……ていうか、監督達はどうするんですか?」

 

そういえば隣に、ボロアパートあったな。

どうでも良かったけど、もうすぐ俺達の寮になるんだ……別に入れと強要されてはいないのだが、皆が入るだろうから俺も入りたいなぁと考えた1・2年の部員達。

彼らは結局、家が近い人も全員入る事になった。

監督は(お金を持っていないけど主軸な)監督達はどうするのかという三島の言葉を聞き、ニヤニヤと頬がゆるんだ顔で答えた。

それに対して、部員達は凄く嫌な予感がした……ちなみに、その直感は正しくなかった。

 

 

「それがなぁ! 雷市と北瀬と伊川は野球特待生扱いにして、無料で入らせるらしいわ! 俺も監督責任が付く代わりにタダ飯食えるし、ありがてー!」

「良かったっすね! ……で、何でその話を今したんスか?」

「なんとなく。気まぐれ」

 

部員達は、食料が不足している轟家が普通に食べられる様になると聞いて、自分の事の様に嬉しそうな顔をした。

適当な奴らばっかりだが、基本的には根の良い奴ばかりの部活なのだ。轟親子の夢に共感して努力している人ばかりなので、その反応も当然だろう。

 

普通ですよみたいな顔をして、監督は気まぐれなんてまた適当な事を言う。マトモな強豪校の監督はもっと威厳があるのだが、彼はそういったタイプの監督ではない。

……それを知っている薬師メンバーは、監督がどんなに適当な発言を連発してもまたかーで済ませていた。

今回自分達が、特待生になったという初耳の話を聞いた北瀬達も、へぇ良かったね雷市、俺達もラッキーだなぁで済ませていた。伊川はこれで野球を更に辞め辛くなってしまい、頭を抱えていたが……今更である。

 

薬師野球部に在籍していると、色々な考え方が適当になるらしい。元から適当な傾向があった奴らが多数派だが。

 

 

 

 

 




春大会は全員参加野球が強要されます

神谷主水さん、対戦する学校を提供してくださりありがとうございました!
展開が変わってしまってすみません。
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