【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
展開がまた変わってしまってすみません。そして名前をミスって学校名にして書いてしまいすみませんでした。
感想を書いてくださってる方、評価を入れてくださった方、ここ好きを入れてくださった方、そしてここまでで読んでくださっている読者様、本当にありがとうございます!
連載当初は伊川の設定も決まっていなかったのに、ここまで書いてこれたのは、誰かが読んでくださっているという喜びによる物です。
ありがとうございます、これからも出来れば宜しくお願いします!
国体1戦目を突破し、2回戦まで進んだ薬師高校。次の相手は、あの巨摩大藤巻を破って全国制覇した大阪桐生が相手だ。
よくある事だが、試合前の薬師高校メンバーは若干ビビっていた。
「ギャー、あの、巨摩大藤巻を破った奴らが相手だぁー!」
「やべー俺達勝てるかなぁ?」
「薬師高校ってマジで運無くね?」
「国体2戦目だぞ、そりゃ超強豪校だって当たるだろ!」
対戦当日になってから、見苦しく喚く一部の部員達。特に3年生。無いとは思うが、まさか大阪桐生相手に思い出起用をされないだろうか警戒しているのだ。
確かに国体は、卒業する3年生の為の試合である。でも、だからといって……実力も才能も無い俺達を無理くり出すのは違うだろ! 特に0アウトで5失点した4番手ピッチャーの三野は、ヒーヒー言いながら焦っていた。
実は轟監督は、1回試合に出したから展開が悪くても無理矢理試合に出すのは止めようと思っていたのだが、いつ試合に出るかという緊張感を持ち続けていて欲しいので口には出さなかった。
……薬師高校は層が薄いので、誰が急に出場する事になってもおかしくなかったのもある。
ちなみに実際の所、巨摩大藤巻高校が負けたのは、本郷や野手陣のスタミナなどを薬師高校が削った事も大きいのだが彼らは気付いていない。
分かっている生徒もいる事にはいたが、ワザワザ説明をしなかった。どうせ試合が始まったら、彼らはテンションバク上がりになると分かっているからだ。
「はいお喋りタイムここまで! 相手の大阪桐生について説明するぞ」
『ハイッ!』
「まず先発してくるであろう坂根、2年生。スライダーとフォークの切れ味鋭い、最速が153km/hの大型ピッチャーだ。こいつはドラフトで競合するだろうな
次、ランニングホームランが趣味の藤澤。地方大会では毎試合ランニングホームランをしていたらしい
一応最後、エース番号を付けている垣本。縦横二種類のスライダーとフォーク、カーブが武器で、低めにスゲェよく決まる……だけど昨日先発完投してるからまず出てこないだろう
他にも色々情報はあるけど、試合直前に言っても仕方ないから省略するわ」
大阪桐生の化け物じみた能力を聞いて、思わず悲鳴を漏らした2年生が監督に質問する。
「ひえっ、あの……弱点とか無いんですか?」
「……強いて言うなら、今年の夏も2年生が完全に主力の、精神面が幼そうなチームで、年下系ムーブを続けたまま若いチームで有り続けた所だな。逆に言えば、来年も大体このままのチームで実力アップしやがるって事だが……」
「それ、俺達が言います?」
相手は2年生が主力の若いチームで、来年も大体このまま。悩んだ末の監督の一言に対して、3年生がツッコミを入れた。
1年前までは弱小校にも関わらず、1年生5人を主力として甲子園準優勝まで勝ち上がって来た若いチーム、薬師高校。その自覚が非常にある彼はボソリと、だが部員達の耳に残る声でそう言ったのだ。
確かに……相手チームは2年生が主力だと聞いて驚いていた一部の部員は、だけど確かに俺達なんて主力が殆ど1年生だよなと思い直した。
よっしゃ勝ったななんて脳内で考える彼らは、何かに勝った気がしたようだ。
まあ大阪桐生の主軸が2年で、薬師の主軸が1年だからと言って試合に勝てるかは関係ないのだが。適当に考える節がある彼らはそんな事を無視していた。
「まー大丈夫だろ! 俺達のエースは強えぇし、バッテリーだって最近上手くなって来てるからな
今回、北瀬には完投してもらう……だからそれ以外のお前らは、とにかく打って打って打ちまくる事だけ考えろ! よし、薬師ー!」
「ファイ!」
「行くぞー!」
「高校ー!」
監督がなんとなく掛け声をかけると、各々がそれっぽい掛け声を返した……全く揃っていなかった。
歴史のある青道とかとは違い、薬師高校は特に決まっていなかったのである。
円陣も組まず返事はバラバラ……こんな調子でも実は監督命令にしっかり従う、打撃破壊の薬師高校だった。
監督命令に従う気質は、実は他のチームにはバレていない。
監督と主砲の1人が、物理的に喧嘩している所がSNSで拡散されているので、まさかそう言ったチームだとは思われていないのだ。
薬師高校が、強豪校と特に関わりが無い所も大きい。関わったのは青道高校との合宿の時だけである。
これにより来年U−18に呼ばれた北瀬達は、見知らぬ人達が仲良さそうに話している場面を見て、疎外感を感じまくる事になる。
1回表薬師高校の攻撃は、1番レフトの秋葉。甲子園レベルで見れば器用貧乏な、薬師では珍しい技巧派のバッターだ。
___ズバッッ!
「ストライク! バッターアウト!」
流石、相手は超強豪校である大阪桐生。薬師高校の1番バッターである秋葉を難なく三振にさせた。
「秋葉ぁ! もうちょい粘れー!」
「代打に俺を出して貰おうかー?!」
「お前の守備じゃ秋葉の代わりには成れねぇぞー!」
「伊川ー! 甲子園打率9割の実力を出せー!」
2番には甲子園での打率9割を記録している、化け物じみたキャッチャーの伊川。
その圧倒的な打撃能力に対して、リードはお粗末と言っても生温い程酷い出来だ。大阪桐生はこの選手を、打撃の特殊訓練を施された人物だと仮定している。
実際の所、親に打撃の特殊訓練を施されたのは轟雷市なのだが、そんな事を彼らは知らない。
彼も甲子園最強格の化け物1年バッターなのだが、同じチームで同じく1年生、北瀬と伊川のあまりに化け物じみた戦歴に、若干だがインパクトが薄れさせられてしまっている。
1年生の高校最強格バッターが目立たないなんて普通有り得ない話だが、160km&ホームランバッターの北瀬と、甲子園準決勝まで打率10割の伊川がいれば仕方ないだろう。
___カキン!
伊川は余裕のセーフを記録しながら、次のバッターである北瀬の方向を向いていた。その圧倒的な打撃センスを見て、大阪桐生の2番手ピッチャーである坂根は思った
(やっぱりバカなだけやないなァ、伊川っちゅう男は。キャッチャーじゃ無ければ、素直に奴の打撃を尊敬出来ただろうに……)
理想を強く持つからこそ、自分が投げる相手であるキャッチャーにはつい厳しくなってしまう坂根。
尊敬出来る打撃力ではあるのだが、味方である筈のエースをコケにするリードを見ている為、彼に対して素直に感嘆出来なくなってしまったのだ。
……ちなみに伊川は、盗塁をする気配も一切無い。バッテリーが警戒するだけ無駄であると悟る程、1塁に張り付いたままである。
「北瀬ー! 1点返してリードを楽にしてくれー!」
キャッチャーである伊川を楽にしてくれという、意味不明な野次を飛ばす余裕まで見せつけていた。普通、楽にして欲しいのはピッチャーの北瀬だと思われるのだが……
彼の謎の野次を聞き、大阪桐生のピッチャー坂根は内心ツッコんでいた。
(なんやねん、キャッチャー楽にしてくださいって。バカじゃなかろうか? ……いや、コイツは本当にバカやったな……)
大阪出身ではない坂根だが、大阪桐生に入部してから大阪魂が宿った彼は、ツッコみたくて仕方なかった。
彼らが、まだ地方大会の弱小校なら分からないでもないが、彼らは国体2戦目の対戦校である。しかもある意味では、優勝した大阪桐生より目立った憎き相手だ。
……内心で散々伊川達をこき下ろしながら、冷静であろうとする彼は投球した。
___バシッッ!
「ストライク! バッターアウト!」
フルカウントまで粘られたが、どうにか北瀬をバッターボックスから降ろした坂根。
ちなみに北瀬は、伊川の後ろの3番でほぼ固定されていた。理由としては、彼らは連続で打席に立たせた方がなぜか長打率が上がったからだ。
練習試合も含めた試合回数が少ない為、マグレの可能性もあるが本当の可能性はあるだろう。
どうせ3番と4番は雷市と北瀬のどちらでも良いのだから、マグレにでも縋りたいのである。
4番に座りたかった北瀬だが、こんな所でも伊川の影響を受けていた。
珍しくフルカウントまで粘られた大阪桐生のピッチャーは、やっぱり薬師高校の打撃はひと味違うなと思いながら次の打者を睨む。
次は、4番サードの轟。北瀬と同じく、打率も期待出来る高校最強格のホームランバッターである。
___カキーン!
「……アウト! スリーアウトチェンジ!」
バットの芯に当たったその打球だが、風がちょうど本塁方向に吹いていた……風とボールの重さに負け、ネットギリギリの所で内側に落ち、スリーアウトチェンジ。
1回裏、大阪桐生の攻撃はセンターの藤澤。甲子園優勝校の名に恥じぬ威圧感のあるバッターだが、北瀬−伊川バッテリーは大阪桐生の野外疑似オーケストラの様な演奏の方が気になっていた。
(この曲は最近流行りのファンタスティポじゃないか?)
(最新の曲じゃん、いつの間に練習したんだろ……?)
2005年のカラオケランキングベスト2に入る事になる、ファンタスティポを利用した応援歌を聞いた彼らは、思わず以心伝心でそう呟いていた。
甲子園が終わって青道高校の応援が無くなった為、彼らに応援歌は無い。
甲子園が終わった後、吹奏楽部が本格的に稼働し始めたらしく必死に練習しているが、曲を練習し終わるのは来年の甲子園あたりらしいのだ。
吹奏楽部の応援すら付かない野球部では、とても国体出場のチームだとは思えないだろう。
右打席のバッターに対して、伊川はこう考えた。
リードを考えやすいのは、インコースに切り込む変化球が多いからアウトコース高めからだな……とりあえずソレでいっか。
相手が高め低めどちらが得意かという観察を、咄嗟に忘れていた伊川。だが相手のバットは縦に構えられている為、恐らく低めが得意らしい。初級はマグレ当たりなリードをしていた伊川だった。
___ズバッッ!
「ストライク、バッターアウト! スリーアウトチェンジ!」
新しいリード術により、大阪桐生のバッターを3人共三振で切って捨てた伊川達。
別に伊川のリードは優れてなどいないのだが、とにかくピッチャー性能が高過ぎたのだ。
……
今までの薬師打線を見れば意外な事だが、4回までで2対2と彼らに取っては超ロースコアな試合展開で進んでいた。
なぜかと言うと、まず主軸以外は基本的に打てない。そして、打っても相手が焦らないのだ。
これでは、基本は相手ピッチャーの自滅待ちに近い薬師打線の付け入る隙が無い。
「悪いな北瀬、次は決めるから!」
「そりゃそうっすよ……俺達なら決められます!」
3年生の小林がまた三振で仕留められ、つい北瀬に謝った。2連続三振して謝った直後に、次は打つと断言出来る所が薬師部員の強さだろう。
北瀬は4回で2点しか取れていなかった事なんて気にしていなかった。仕方ない、そんな事もある、次でホームランを打てば良いんだ。
仲間の打撃力を信頼しているので、絶対に薬師打線は打つと断言していた。才能のある自分の事を言う時、打てるなんて格下相手でしか言わないのに、仲間が打つ事だけは信じていた。
4回2得点なら良いだろうと思うかもしれないが、点を取られる時はエラーが毎回絡んでいた為、北瀬の自責点は0だった。小林はエラーをした上にノーヒットな為、エースに謝ったのである。
「いや逆に考えてさ……北瀬が後を無失点で抑えれば良いんじゃねー?」
(北瀬が打たれてるのは伊川のリードのせいだっての!)
伊川はキャッチャーにも関わらず全部北瀬任せの様な、あまりに適当さを伺わせる無責任な1言を言った。
エースが抑えろという言葉自体は間違っていないのだが……下手くそなリードを世間に晒しているキャッチャーが言わないでほしい。
流石の薬師高校も、思わず心の中でツッコんでいた。
ちなみに、ここまでで伊川のリードを具体的に改善してくれる部員が現れないのには理由がある……伊川のプロ入り後、全部人に聞いた戦術を使うのではやっていけないからだ。
プロに入れば、間違った事を本気で教えようとしてくる輩は必ず現れる。それを全部利用していたのでは、とても身が持たないだろう。点を取られるだけなら良いが、間違った練習法で身体を壊されては堪らない。
だから今は、自分で調べて実践する努力を伊川に教えようとしているのだ。
甲子園に行くのが第1目標ではあるが、実は怪物共を育てる事が非常に大好きな轟監督。甲子園で優勝するより重い価値を、北瀬と伊川、そして息子の雷市に感じていた。
勝利の価値を軽視している訳ではない……と、轟監督は偶に脳内で言い訳していた。
だって、こんなダイヤの原石がいたらプロ入りさせたくなるだろ? 普通。無理にプロ入りさせる訳にはいかないけど、自ら選ばせる様な指導をするなら自由だろ!
だから轟監督は、彼らを補填する為の主砲3人以外鉄壁策ではなく、薬師部員全員が楽しめる様な超打撃特化戦術を取っている面もあるのだ。
割と北瀬達は、チームの雰囲気で気分が左右されるので。
轟監督は今の所チーム全員をしっかり見れているが、野球に狂わされた男として、内心ちゃっかり才能の有る奴を贔屓していたのだった。
まあ才能の無い部員達の意見もしっかり聞き、野球を楽しませている為、恐らく問題は無いだろう。
それに強豪野球部の監督としては、才能の有る奴を贔屓するのはある意味正しい選択でもある。
コレ、来年部員が増えたらどうなるのだろうか。そもそも監督歴3年が、100人超えの面倒を見れるのだろうか。それは分からない。