【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
申し訳ありませんがご了承ください。
ちなみに、日時は変わってもメンバーは変わらない為、似たような出来事は起こっている裏設定です。
国体が終わり、なんか良い感じの雰囲気で学校のバスに乗って帰ろうとする薬師野球部。
そこに轟監督が、衝撃の1言を発した。
「おいおい1年と2年! 何終わったーって顔してやがる、明日から秋季大会は始まるんだぞ?」
『嘘だろ?!』
大阪桐生と全力で戦い、疲れ切っていた彼ら。また明日から試合が始まると聞き、寝耳に水とばかりに騒ぎ立てていた。
……というより、部員の誰も日程を疑問に思わなかったのだろうか? 元々だと、国体と秋季大会の日程は被っていたのだが。
「そりゃそうだろ! つか元々、国体と秋季大会は被ってたんだ。甲子園にまた出られるチャンスがあって、超ラッキーだろ?」
「えっ、そうなんスか? ……ラッキー!」
基本的に単純な彼らは、監督の一言で納得したようだ。
蚊帳の外になっていた為騙せなかった3年生達は、ヒソヒソと話しながら呆れていたが。
「日程ズラしてくれた高野連に感謝しろよ?」
『アザース!!』
高野連のいない所で感謝を表する薬師野球部。あまり意味が無い気がするが、まあ心の持ちようと言う事だし、良いのかもしれない。
そんな彼らを尻目に、今日引退する3年生はヒソヒソと話していた。
「……それ、監督が何も言ってなかった事に代わりなくね?」
「疲れてるのは変わらないしな」
「今俺、2年じゃなくて良かったわ……」
轟親子と後1年も試合が出来る2年生達を内心羨ましがっていた3年生だが、この時ばかりは3年生で良かったと思っていた。
まあ、轟監督が説明してなかった事には、一応思惑があった。次の日にも試合が続くと考えていると、全力を出し切れない可能性を考慮していたのだ。
その後監督から、キャプテンを真田にすると紹介されて驚いたり、平畠と北瀬を副キャプテンにすると言って采配を疑問視されたりしていた。
が、明日からの試合の為に今は休もうと思ったのか、少し時間が経てばどうでも良くなる事になる。
まあ俺達12人の部活だし、誰がキャプテンでも関係ないか。来年の夏、大量に新入部員が入って来るであろう事を、彼らは非常に軽視していた。
次の日の朝、オーダー票を手に持ちながら話す轟監督。
……実は監督も、相手チーム名すら覚えていなかった。だからオーダー票を見ながら話しているのだ。
当然、薬師高校部員は1人も相手を知らなかった。そもそも彼らは、秋季大会が今日から開催されるのも昨日知った為、当然ではあるが。
「今日の相手は、米門西高校だ
まー早々負ける事はねぇー相手だ。多分。真田のお母ちゃんに調べて貰ってないけどな! 聞いた事無いし、大丈夫じゃね?」
轟監督は、適当にそう話す。薬師部員達は、もし雷市みたいな新入生が相手にいたらどうするんだよと、少しだけ思っていた。
彼らだって雷市みたいに凄い選手がホイホイ出てこないのは頭では分かっているのだが、歴史の無い薬師高校に3人も現れた事を考えれば疑って当然である。
ちなみに轟監督のやるべき事は沢山あった。
部員達への指示出し、強豪校の情報を分析、来年推薦で取る選手のピックアップ、歴史的に見れば格上の野球部からの練習の申し込みをどうするか、甲子園で応援してくれた青道高校吹奏楽部へのお礼等である。
あまりにやる事が多く、彼は内心疲れ切っていた。
まあ伊川の生活と比べればマシかもしれないが……彼が無茶を出来ているのは鉄人で若いからである。普通の範囲を出ない耐久力のおっさんと比べてはならない。
薬師高校はたった2年で強くなった為、雑務を熟してくれる様な人がいないのである。
書類作り等は、特に野球部と関係ない教員達に何とかやってもらえていたが、野球のルールすら知らない様な人間に出来る事は限られていた。
真田母も手伝ってくれていたが……普通の主婦に出来る事は限られている。ちなみに、半年前まで野球ド素人だったとは思えない、凄まじい集中力で強豪校を偵察してくれているらしい。
元々は自分の一人息子の為に始めた事だったが、最近試合を分析するのが楽しくなってきたらしいのだ。
真田が卒業したからと居なくなられたら薬師野球部が崩壊しかねないので、来年頃には偵察部隊として薬師高校に雇われる事になっているだろう。
「少しもデータは無いんですか?」
慎重派を自称する、副キャプテンの平畠が質問する。確かに薬師野球部の中ではめちゃくちゃマトモな人間だ。
……まあ全く影響を受けていないかといえば、そんな事も無いのだが。落ち着いた性格の筈だったのに、フットワークがめちゃくちゃ軽くなっている。
「おいおい……薬師高校は実質、野球部歴2年の赤ちゃん高校だぞ。都合良く毎回試合のデータがあると思ってんのか? そういう時の良い練習になったと思え!」
『うす!』
ノリで全てをなんとかしてきた部員達は、彼の言葉に何となく納得。元気な返事を返していた。
こいつら、将来変なツボ買わされないだろうな……? あまりの騙されやすさに少し心配になった監督だが、今それを言ってはならないと気を取り直して最後の締めに入る。
「……俺達の薬師新体制、ぶっつけ本番の初戦相手としちゃ丁度良い相手だ! 全力で打って守れ!
新体制でも薬師は強いと、初戦からワザワザ見に来てやがる観客達に教えてやれ!」
『おう!!』
1回表、米門西高校の攻撃は1番蓮沼。しぶとい打撃が持ち味で、くじ運が良ければ、3回戦までは戦えたかもしれない程度の実力のバッターである。
対する薬師高校のピッチャーは、とりあえず正捕手扱いの秋葉。ちなみにキャッチャー適性がそこまである訳でもなく、本人もやりたがってはいない。
彼のプロ入りを見据え、監督も出来れば別の奴にやらせたいのだが、適性が無くもない奴が三島しかいなかった。
三島は既に、ピッチャーとファーストを兼任している為、流石にキャッチャーまでやらせる訳にはいかない。まあ秋葉が登板する今日みたいな日はやってもらうしかないだろう。
元からキャッチャーも兼任していた伊川がいるだろうと思う人もいるかもしれない。
だがあいつは将来、ファーストかDHで生きていくべき男。
彼にキャッチャーとしてのイロハを教えるのは練習時間の無駄だと感じている監督は、出来れば彼もキャッチャーとして継続させたくはない。
まあ160kmを急造捕手に取らせるのは無理があるので、伊川にやってもらうしかないのだが……
ワンボールツーストライクになり、米門西高校の蓮沼は必死にバットを振った。だがボールが掠っただけ、どう考えてもアウトになる。
ボールはコロコロと、セカンド伊川の方向へ転がった。
『えっ……?』
だが元々そこは、3年生の元ショート小林先輩の守備範囲内。伊川は当然の様に見送ったが、守備に慣れていない2年の米原では届かない。慌てて追いかけ、すっ転んだ。
転々と転がっていくボールを眺めていた伊川。しばらくぼけーっと眺めていたが、途中でハッとした顔をして慌てて追いかけていった。
……ちなみに慌てていたからか、奇妙に前傾を傾けたナルト走りの様な格好だった。
「……セーフ!」
ランナーは結局2塁に進み、秋葉はツーベースヒットを打たれたとスコアブックに書かれてしまう。ボールに触っていなかった為だ。すごく可哀想。
これが薬師高校のファイヤーフォーメーション。三振を取らなければ、それは実質打たれたのと変わらないのである。
「ひぇーっ! これが新体制薬師の守備かぁ……」
「野球舐めとんのかー?!!」
「国体見た時はどうなる事かと思ったが……オモロくて良い!」
「流石、超重量級守備陣だなぁ……」
観客達からは色々な声が飛び交う。米門西高校は野次に慣れていないのか、少し戸惑っている様だ。彼らが言われている訳ではないが、ここまで煩いと気になっても仕方ないだろう。
「どんまい伊川ー! そんな事もあるー!」
「米原ー! 次打って清算だー!」
「アレ俺かよ?!」
「三振だ……! 三振しか無い……!」
その後も秋葉達は必死に投球を続けたが、エラーっぽい何かが沢山重なり1失点。
ピッチャーの実力からすれば簡単に点を取られる相手では無いのだが……これが薬師高校だからしかたない。逆に、1点で済んでラッキーだったのではないだろうか。
1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。薬師高校にしては慎重な打撃が持ち味の巧打者だ。
守備も薬師高校の1年生とは思えない程良く、甲子園ベスト4の野手として見れなくも無い程度の実力がある。まあ、他の学校ならサードに移動させられているかもしれないが。
流石に甲子園打率9割超えの伊川程の能力ではないが、高校最後の夏には打率0.667と、甲子園出場チームの中でも相当優秀な打撃力になる男である。
というか、どんな強豪校ピッチャー相手でも塁に出て当然のバッターなど、全く前例に無い化け物である。彼の衝撃は、直球160kmキレキレの変化球持ち北瀬に匹敵するだろう。奴と比べてはならない。
元から才能があるのに、友情タッグトレーニングにより北瀬から筋力アップを、伊川から技術力アップを学び、1年生とは思えない打撃力を身に着けていた。
ちなみに友情タッグトレーニングをした際、北瀬達は守備能力の経験値を下げて来ているが、そんな事は誰も知らない。
(アンダースローか。あんまり見ない投げ方だな……でもよ、普段打ってる俺達のエースと比べたら)
___カッキーン!
「……遅すぎるんだよ!」
薬師では平均以下とも言われる長打性能の秋葉だが、米門西の10番から、初回ホームラン。
この打撃を見ただけである観客達が、今回の試合は薬師が勝つと確信する程素晴らしいホームランだった。
「初回からホームラン来たー!」
「流石薬師ー!」
「カーッ! これを見に来たんだわ!!」
「秋葉ー! ナイスホームラン!」
「勝ったな!」
「伊川ー! お前もホームラン打てよー!」
「5連続ホームランで頼むわー!」
「そこは、お前も打って6連続ホームランだろうが!」
観客達も薬師高校も大盛り上がり。
それはそうだろう。1回戦からわざわざ試合を見に来ている観客は、基本的に薬師の打撃力を見に来ているのだ! 相手投手を燃やし尽くす薬師高校1番を見れば、ボルテージも上がるだろう。
……彼らの実力を見に来たスカウトや偵察部隊は、呆然と笑ったり青ざめたりしていたが。
薬師高校の攻撃は続き、2番の伊川が打席に入る。やる気のないというか、ぼけーっとしてるというか。覇気の感じられない顔である。
だが彼は、甲子園打率9割超えの男。米門西如きがアウトを取れる選手では絶対に無い。
野球に絶対は無い筈だが……観客達や薬師メンバーは、この男は絶対に打つと確信していた。
「……おなしゃす」
(この投げ方は見た事ないな。球速遅いから打てるとは思うけど、まあ無難に行くか……)
___カキン!
伊川が無難にツーベースヒット。盛り上げムードなのにやる気が無い選手である。
……いやツーベースヒットを無難と言うのは違う気もするのだが、彼の実力ならホームランが打てて当然レベルのピッチャー相手である。普通と言われても仕方ないだろう。
「おおー! 伊川はやっぱり出塁したか!」
「1球目から打つとは……やるなぁ!」
「打とうとすりゃホームランも打てたんじゃね?」
「おいおい、伊川は出塁率が売りだろうが!」
「ナイス無難なツーベース!」
「つまんねーぞー!」
「もっとホームラン狙おうぜー!」
「悪くはねーよ! 悪くは!」
薬師ベンチは歓声っぽい野次を飛ばしていた。どうやら、伊川のツーベースが不満だったようだ。
普通ならツーベースは喜ぶべき打撃なのだが、薬師高校の超重量級打線に慣れきっている彼らは物足りなかった様だ。
……
「33対4で、薬師高校の勝ち! 礼!!」
『ありがとうございました!』
試合の途中から、スタミナ温存の為にワザと三振させるという、めちゃくちゃな作戦を立てたりした轟監督。5回コールドでシャットアウトしつつも、一部の観客からブーイングが届いていたが……順当に初戦を制した。
この作戦で伊川の打率はめちゃくちゃ下がってしまったが、彼自身は特に気にしていなかった。
「よし勝った!」
「次どこ相手だっけ?」
だが……平畠、米原、森山の呼吸がおかしくなっていた。2年生のスタメン達は、この試合で既に疲れ切っていたのである。国体には殆ど出ていないのに、たった1試合で何が起きたのか。
なぜなら___彼らは練習試合も含めて、高校野球で代打以外で試合に参加したのが初めてに近いのである!
夏大会は基本的に年齡の優位がある3年生と、天才軍団の1年生を優先して出していた。
人数不足なので、2年生も起用したりしていたが。それは疲れ切った試合の後半が多く、5回も出す事はなかった。
元弱小校だったので、そもそも練習試合を申し込む相手があまり見つからなかったのである。
そして国体により、新体制の始動が遅れていた。
これでは、打ちまくるから攻撃が終わらず。ただでさえ薬師高校は守備が苦手な事もあり、コールドとは思えない程試合が長引いて当然の話だった。
……特にショートの米原は、自分も上手くないのに北瀬、伊川、雷市に囲まれて四苦八苦。座り込みそうな程、疲労が溜まっていた。
だがショートという聖域に、内野控えなのに守備は雷市並の下手さな福田を置いては薬師守備が崩壊してしまう。
薬師高校が勝ち抜くためには、実は米原の孤軍奮闘が必須であった……守備も打撃もそこまで上手くないので目立たないが、頑張ってほしい。