【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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青道高校視点なので分からないと思われるのですが、神谷主水さんの市大高賀山と戦っています。投稿いただきありがとうございました!


32球目 打撃のチーム

 

 

 

 

秋季大会3回戦目の薬師高校の試合を見に来ているのは、青道高校の偵察部隊っぽい感じになっている渡辺と、落合コーチ。

渡辺が普通に偵察に行く所を、良ければ一緒にいかないかと誘った落合コーチに従ったようだ。

 

 

「あの……本当に僕って付いて来て良かったんですか?」

「そりゃな。そうじゃなきゃ誘ってない」

 

部員達から冷たい印象を持たれている、来年からは監督になるかもしれないコーチ。

彼が冷たい人だと言うのは、あながち間違いではない。

そもそも基本的には、エース予定の降谷と主軸兼正捕手の御幸位しか育て切ろうと言う気がないのだ。

勝利至上主義が間違いだと言う訳ではないのだが、人格者の片岡監督と比べてしまうと冷たく感じられるだろう。

 

 

「そろそろ始まりますね、3回戦の試合……確か、落合コーチは、薬師高校の1回戦も見てたんですよね。新体制はどんな感じでしたか?」

「そうだな……守備は、言っては何だが夏大会より悪くなってるな。12人しかいないチームじゃ仕方ないが、甲子園出場校と考えると、野手陣は全て穴だ。打てばエラー量産してくれるだろうなぁ」

 

渡辺は、あの酷かった薬師高校の守備が、更に酷くなっている想像がつかなくて混乱していた。何をやったらそんな事になるんだ……と困惑していたのだ。

2年生は、3年生より長く北瀬達と練習している。北瀬達のパワプロ能力により、彼らにもエラーがついてしまったのだ。つまり、秋葉以外全員エラー持ちである。

代わりに全員に固め打ちとパワーヒッターが付いたから、まあ差し引きで言えば+という事で良いだろう……多分。

 

ちなみに、元からパワーヒッターが付いていた三島は、なんとアーチストが付いた。順調にDHとしての素質が開花し始めている。

3年生の夏頃になるが、元々アーチストが付いていた雷市は真・アーチストになり化け物ぶりを加熱させていた。尚エラーと送球△2つ持ちの為、実質DH専門だろう。

……薬師高校はDHと代打専門養成学校なのだろうか? 監督が現役の頃もDH専門だったので、本当にそうなのかもしれない。

 

 

 

「じゃあ、夏大会より勝ちやすいチームといった所ですか?」

「いや、総合的に見ればそこまで弱体化はしていない。打撃は元々、2年生の方が上手かったんだろう。下位打線までホームランを量産していたな」

 

これも実は、北瀬達のパワプロ的能力が関係していた。北瀬と練習すると守備が伸びにくい代わりにパワーがつく事があって、伊川と練習すると守備が伸びにくい代わりにミート力がつく事があるのだ。

そして伊川は野球に対してのやる気がない為、北瀬との友情タッグの方が発動しやすく、パワーお化けのチームになっていた。

 

まあ本人達が、打倒ピッチャー北瀬を掲げて猛練習している事も凄く大きいが。

轟、北瀬のホームランを見続けて何やら感銘を受けたらしく、俺達のエースから全員ホームランが打てる様になれば最強じゃね? と思いバットを振り続けているのだ。

明確な目標は、彼らを強くした。最高峰のピッチャー相手に、ひたすら特訓をしているのだ。強くなっても当然だろう。まあ、伊川のリードで練習している為、あまり配球を読む能力は上がらなかったが……

 

 

 

そんな裏事情はつゆ知らず。落合監督と渡辺が試合が始まるのを待っていた。すると、早速新情報を入手。

初回に、まさかの轟が先発してきたのだ。事前情報にない登板に、観客達はざわめいていた。

 

「まさか、轟が先発してくるとは思いませんでした。見に来て良かったです!」

「なるほどな……」

「落合コーチ、何か分かったんですか?」

 

落合コーチがこの起用に納得した所を見て、分からなかった渡辺が質問した。落合コーチは、渡辺を偵察部隊として必要な人間扱いしている為、快く質問に答える。

 

 

「恐らく5番手ピッチャーとしての無理な起用だろうが、おかしな話ではないって事だ

 

2番手ピッチャーの真田は怪我持ちかスタミナが無い人間。3番手ピッチャーの三島も、4番手ピッチャーの秋葉も所詮は急造投手。スタミナが無くて当然

 

彼らをピッチャーとして鍛え上げるより、轟を弱小校相手に投げさせる事にしたんだろう。どうせ強豪校には北瀬か真田を登板させるだろうからな」

 

「なるほど……ありがとうございます!」

 

落合コーチの言葉に納得し、教えてくれたお礼を言う渡辺。ちなみに、薬師高校の部員と違ってノリで返事をしている訳ではないので、意味はしっかりと理解している。

轟と秋葉の投球練習を見て、思わず感嘆の声を出した。

 

 

「投球練習、轟は速い球なげますね……!」

「恵まれた身体能力を活かしたボールだな。荒削りだが案外悪くない」

「彼を、もしかしたら俺達相手でも先発させてくるかもしれませんね」

 

その言葉を聞いて一瞬考えた落合コーチ。確かに薬師高校がくじ運に恵まれなかった場合、青道高校相手なら十分だろと考えてくる可能性はある。

落合コーチは今の所、稲城実業か帝東高校、そして薬師高校の方が青道高校より強いと考えているからだ。

 

ちなみに、北瀬が怪我のしにくさAを超えた鉄人である事を、薬師高校以外のチームは知らない。

逆に、なぜ薬師高校が知っているかというと、練習で250球投げましたと普通の事のように北瀬達が報告してきたからだ。轟監督は、凄く慌てて病院に連れていった。

 

検査結果は、球児とは思えない超健康な身体だった。化け物め……付いて来ていた為、ついでに検査した伊川は睡眠不足だったらしい。

とりあえず寝ろと睡眠薬を渡され、1日7時間以上寝ることを約束させられていた。

睡眠時間の話をしている最中、寮になったから4時間は寝ているとドヤ顔をした彼は、医者にドン引きされていた。ハードな部活を熟して、それだけしか寝ていないのか……? どうなってるんだ彼らの肉体。医者は初めて見る鉄人達に驚きを隠せていなかった。

 

 

「……確かに、可能性は無くもないな。エースを温存したいような状況なら可能性はあるだろう」

「やっぱり……轟も良い球なげてますもんね」

「いや、キャッチャーのリード等を総合的に見ても、やはりエースの方が上だろう。轟を出されたら、格下相手だと舐められてるって事だ」

 

落合コーチの言葉を聞き、渡辺は困惑しながらイラッとした。青道高校は名門であり打撃が強く、御幸や降谷といったスタープレイヤーもいる。舐められてる程弱くはないと思っているのだ。

それは事実でもある。事実でもあるが、観客達の評価では稲城実業か薬師高校の優勝の可能性が高いと見られていた。単純に青道高校は、同地区の学校が強過ぎるのだ。

 

 

「そんな! 青道高校は強いチームです! キャプテンの御幸なんて、プロ入り確実の素晴らしいキャッチャーですし、舐められる事は無いと思います……」

「あっちにはプロ入り確実が3人もいる。絶対勝てないって程じゃないが、多少舐められても仕方ないだろう

まあ向こうさんだって、青道にはエースをぶつけたいだろうが……くじ運によるな」

「……そうかもしれませんね」

 

 

 

試合の話に戻り、轟は先頭バッターをしっかり討ち取った。

だが相手バッターがまぐれ当たり。それでも、あまりのボールの速さに振り負けた様で、ボールはショート方向にゆっくり飛んでいった。

これはアウトだな。渡辺と落合コーチは、長年の経験からそう判断した。だが、結果は違ったらしい。

 

 

「……凄い、あんな遅い打球でトンネルを……」

「確か社会人野球で、轟監督は主にDHを担当していたな。だから守備が教えられないのか……?」

「彼らの元々の適性もあると思われますが、そうかもしれませんね……」

 

ショートの米原が、初回から大ポカ。

彼をなんで薬師高校はショート扱いしているのだろうかと、疑問を抱いていた。

理由は当然ある。内野守備陣が、全員エラー持ちだからだ。仕方ないから、一応守備範囲の広めな米原を守備の要であるショートに置いている。酷い。

 

 

 

「轟監督ー! 何教えとんじゃー!!」

「打撃練習に決まっとるやろー!!」

「下手くそー!」

「いいぞ薬師ー! もっとやれー!!」

 

様々な罵声や歓声が轟く中、渡辺は思わずこう呟く。

 

 

「観客席で、凄い言葉が飛び交ってますね……」

 

品のない野次が飛び交っていて、ここだけまるで昭和の世界。なんで薬師高校を見に来る人って、モラルの低い人が多いんだろうかと渡辺は疑問に思った。

理由は、ギャンブルの神様として、薬師高校は最近ギャンブラーに大人気だからである。

全員がそうという訳ではないのだが、元から格下相手の試合を見に来る人数は少なく、割合が多くなってしまっていた。

 

 

「あんなのどうだって良い……必要な情報は、薬師高校はどんなエラーをして、どんなボールなら取れるのかって事だ」

「それもそうですね。すみません」

 

落合コーチが一刀両断した事に納得して、渡辺は軽く謝った。落合コーチも、別に対して気にしていない。

そもそも、自主的に偵察を熟してくれる選手は貴重だからある意味凄く期待している。

確かに命令すれば聞く部員もいるだろうが、いやいややっているのと本人がやりたいからやっているのでは質が違ってくるだろう。

 

落合コーチは、1軍当落線にある選手より下手したら渡辺の方が使えるかもしれないとすら考えていた。

彼の纏めてきた資料を読んだが、丁寧で隙がなくポイントがしっかり纏められているのだ。

後1年しかいないのが勿体なくなる程に、彼の分析は優れていた。

 

 

野手陣のやらかしに急造捕手……これが重なって、薬師高校は初回2失点。相手が頑張ったというよりは、薬師がひたすら自滅していた印象だ。

 

 

 

 

グダグダとした1回表だったが、ようやく裏の薬師高校の攻撃になった。やはり薬師高校の打撃を見に来たという人間が多いらしく、薬師守備の時より明らかに観客達に熱がある。

 

 

「よーやくか! 待ちくたびれたわー!」

「打撃の薬師を見に来たんやー!」

「ファイヤーフォーメーションの薬師……」

 

「やっと守備終わったー!」

「もう守備やりたくねぇ……」

「お前ショートだろ! ちゃんとやれや!」

「俺もやりたくない……」

「オラそこの二遊間! 適当言うんじゃねー!」

 

渡辺と落合コーチは割とグラウンドに近い席で見ていたので、薄っすらと薬師高校メンバーの声が聞こえた。

……今、守備やりたくないって聞こえた気がする。何なんだコイツらは、本当に甲子園ベスト4のチームなのか? 渡辺はもちろんの事、コーチ歴が長い落合すら困惑していた。

 

多数派の薬師部員が、守備をやりたくない模様。生きた情報を手に入れられたと、落合コーチはホクホクだ。

本当はもう少し見やすい所を取りたかったけど、この場所にしておいて良かった。コーチは運の良さに喜んでいた。

 

というか、コレを轟監督は制御しようとしてるのか……可哀想に。落合コーチは少し考えた。

こんな守備難気風を改善していくのは難しいぞ、下手に勝っちゃってるから、下手したら一生続くんじゃねぇの? そう思いつつ、バントだけは青道高校との練習であっさり改善したらしいので、読めないチームだなと思っていた。

 

当然青道高校は、薬師高校の弱点も探りつつ合同練習をしていたので、タダの善意じゃない。

まあ……守備面の弱点が多すぎて、逆に今はどこに打っても変わらないという結論が出そうだが。

 

 

 

 

彼らはクソみたいな発言を繰り返していたが、薬師高校の攻撃が始まった途端、顔つきが変わる。

絶対打てるという、確信に満ちたその表情。流石は甲子園ベスト4のチームだと、思わず納得してしまいそうな自信に満ちた瞳をしている。

 

そして、その結果は……

 

 

1番秋葉がホームラン。

2番伊川がホームラン。

3番北瀬がホームラン。

4番轟がホームラン。

5番三島がホームラン。

6番真田がホームラン。

7番森山がツーベース。

8番平畠がヒットを打ち。

9番米原がツーベース

 

……

 

9番米原がアウトで、ようやくチェンジ。打順が完璧に2週もしてしまっていた。

 

 

「なんじゃこりゃあー?!」

「流石は薬師だー!」

「打撃の神様ー!!」

「コレコレ! コレを見に来たんだわ!!」

 

6打席連続のホームランに対して、先ほどと違い、観客達は大歓声を上げていた。

薬師と比べたら弱小校相手とはいえ、6回連続のホームランは有り得ない。偵察に来ていた人間らしき人達は、思わず引き攣った笑いが出ていた。

 

 

「……コーチ、コレって何ですか……?」

「……流石に守備難で甲子園ベスト4なだけあるな。打撃力は化け物に近い……」

 

青道高校の偵察2人組は、頭を抱えながら対薬師の戦略を練っていた。

 

 

 

 

 

 

 




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