【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
___先週までの試合で、64校まで野球部が絞られた。
今日からまた試合が始まり、今回は轟-秋葉がピッチャーとしてマウンドに立った。対戦相手も弱くはなかった気もするけど、普通に、20対8で勝利。
……彼らは普通の点数だと考えているが、20対8はかなり投壊しているのだが、彼らは気付いていない。後、今回も守備が酷く、エラーは17回だった。
試合が終わった後本当は明日戦う市大三高の調子も生で見ておきたかった。
だが移動時間が足りなかったので、現地でビデオを取ってもらっている真田母との合流待ちだ。
別に解散して轟監督に受け取って貰えば良い気もするが、それだとバスで来ているので二度手間になってしまう。
ちなみにバスを運転しているのは、ハイスペックな食堂のおばちゃんである。なぜかバス免許を持っているらしく、残業代を支払い来てもらった。
64校で抽選し直しがあり、キャプテンである真田先輩と轟監督がくじを引いてきている。
次からの試合、2戦目は市大三高、3、4、5回戦目はよく知らない学校と戦い、決勝戦は稲城実業か青道高校、または帝東高校か成孔高校の予定だ。
決勝戦の相手が曖昧な言い方になってしまっているが、強いチームは沢山あるのでどこが勝つか全く分からないのだ。
特に青道と帝東と成孔が連続で当たる死のブロックは、どうなる事やら注目されている。
今回真田先輩が引いてきたくじは、割と良い方だった。流石は、なんでも器用にこなしてきた男! そんな感じで薬師高校部員達は真面目に称賛していたが、くじ運と小器用さに関係はあるのだろうか……?
ちなみに部員達は帝東や成孔の事を良く知らないが、割と強いらしい事は知っている。
帝東の向井は、なんかボールゾーンとストライクゾーンをめちゃくちゃ有効に使うらしく、もしかしたらコントロールだけを言えば北瀬以上かもしれないらしい……彼らは向井の情報を、よく知らなかった。
情報を調べに行く人が、実質真田母しかいない現状、当たるかも分からない段階で調べて貰う事は出来ないのだ。
成孔は……ガチムチ筋トレ部らしい。相手の球種も知らない癖に、無駄な噂話ばかり知っている薬師高校だった。
「あー……カラオケ行きてぇ」
「そんな時間は無い」
「最近流行りの曲なんだっけ?」
「さぁ……」
「真面目に部活してたら、他の事なんてやる時間ねぇよなー」
部員達は、凄く疲れているにも拘らず、凄く楽しそうな声でどうでも良い事を話しながら真田母を待っていた。
そして、真田母が近付いてくる。呼吸が粗く、全速力で走ってきたようだ。そこまで急がなくてもても良いのにと、人の良い部員達は考えていた。
だが、真相は予想の斜め上を行った。
「野球部の皆さんー! 大変な事になりましたー!」
「おっ、なんだ? 真田のお母ちゃん」
「……市大三高が、鵜久森に、1対2で負け。次に当たるのは鵜久森です!!」
次の対戦相手が鵜久森に変更された事を、一刻も早く伝えようと真田母は焦っていたのだった。対戦相手の情報を、気持ちを、少しでも早く切り替えて貰う為に。
次に当たるかと思われていた市大三高は、まさかの鵜久森に敗退。あいつらだって、流石は西東京四強の実力者揃いなのに……薬師メンバーは驚きを隠せなかった。
「嘘だろ?! あの市大三高が鵜久森に負けただって?!」
「あいつら強かったのになー」
「鵜久森は……更に強いって事?!」
「市大は呪われているとしか思えない」
確かに市大三高校が負けたのは驚いた……でも呪われてるとか、前回市大三高を負かしたお前らが言う? 轟監督は内心ツッコミを入れていた。
まあ、鵜久森が市大三高より極端に強いと言う可能性はないだろう。点差も1点だし、そもそも今回鵜久森が勝ったのはマグレの可能性がある。
野球はギャンブルに近い。超低確率でも当たる時は当たるのだ。轟監督の野球美学は、そういった感じだった。
強い学校と当たる時は、マグレ当たりを祈って奇襲攻撃。弱い学校と当たる時は、運が悪かった時を考えても仕方ねぇ。正々堂々勝ちに行く。
ギャンブラーとしての才能は無かったが、弱小野球部を強豪校にしていく才能はあった轟監督。
コイツらが市大三高に勝ったのはマグレじゃないけどな! 監督は親バカと冷静さを織り交ぜながら、そう考えていた。
「どんな試合だったんだ?」
「鵜久森はよく走り、初回からチャンスが出ていましたが後一本が出ず、5回までは1対0で市大三高がリードしていたのですが……
6回表で鵜久森がタイムリーツーベースで逆転すると、エースの梅宮君が縦スライダーを解禁。市大三高も慌ててエース天久君を投入してきたのですが間に合わず、1対2で鵜久森が勝ちました」
市大三高は、サボって退部していた筈の天久が帰って来た事に多少の反発があり、それもあって打撃で勝とうとする気風が強くなっていた。
そこを鵜久森がつき、5回に逆転してから決め球である縦スライダーを解禁。泡を食ってエース天久に継投させたが、点差は縮まらなかった。
ちなみに、真田母は縦スライダーと紹介しているが、エース梅宮本人曰くパワーカーブである。まあ打者からすれば縦スライダーっぽい軌道なので問題ないが。
「なるほどな。纏め切らなくて良いから今日中に、できれば夜までにデータ送ってきてくれないっすかね。軽く検討するんで
で……この話で分かったろ。相手を恐れる事はねぇ!」
『うす……?』
「……何で今の話で、恐れる事が無いって話になるんですか?」
センターで副キャプテン、真面目な性格の平畠がそう監督に聞いた。部員達の疑問の総意を汲み取ってくれたらしい。
やはり、真田じゃなくて平畠の方がキャプテンに向いている性格をしているだろう。
その言葉に対して、実は薬師は調子に乗っていないと萎縮して守備が更に悪くなっていくのを知っている轟監督は、実際に思っている事と誇張発言を交えて話し始める。
まあ恐らく試合になればテンションも上がるのだが、念には念を入れる事は重要である。
ちなみに、薬師高校のテンションが高かろうと低かろうと、打撃能力は大体一定だ。
全員の個人能力が高すぎる上、基本的に長打を狙う姿勢を崩さないので、その場の空気でのムラとかは出そうもない。
「そりゃー、ロースコアの試合だしな。マグレツーベースだってあるだろ。精々市大三高と同じ位の強さじゃね? ……寧ろ市大三高相手より、積み上げてきた強さってのが無い分楽かもな!」
『……なるほどー!』
「そりゃラッキーっすね!」
「よし、勝ったな」
大体ノリで生きている薬師部員は、市大三高相手より楽かもという意見に納得してテンションを上げていた。
積み上げてきた強さがないのは、薬師高校も同じだと思われるのだが……彼らは深く考えていないというか、気にしていない様だ。
いや、もしかしたら。薬師高校の部員も、積み上げてきた歴史の強さを知っているのかもしれない。
彼らにはほとんど無いが、守備の洗練さとか、勝利への執着心、コンビプレーだとかの強さを、彼らが全く知らないという事はないのだ。青道高校とのバント特訓で、あまりの熱意に萎縮していたし。
市大三高と薬師に、もし因縁でもあれば簡単に気持ちは切り替えられなかったかもしれないが、彼らにとって市大三高とは地区内で強そうな学校の数有る1つに過ぎない。
まあ良いかと簡単に気持ちを切り替えて、次の対戦相手を考えてドキドキワクワクしていた。判断が早い! 鱗滝さんもニッコリ……かもしれない。
鵜久森高校対、薬師高校の試合が始まろうとしている。
「いいか、俺らに守備は期待出来ない! とにかく相手のピッチャーをタコ殴りだ! 打てる、お前らは打撃だけなら日本一だ!」
「打撃なら負けない!」
「よし来た任せろ!」
「俺に任せろ!」
「カハハハハ……打つ!」
「まー勝てるんじゃないっすかね!」
薬師高校は普段通り、楽観的でポジティブシンキングな発言を多用している。
基本的に誰も打線を繋ごうという意識がないが、まあとにかく打つのが薬師高校の持ち味なので、これはこれで良いのかもしれない。
最後に轟監督が、予め決めていた掛け声で締める。
「薬師ーっ!」
『ファイオファイオファイオー、ファイオファイオーッ、ファイ!!』
ちなみにかなりダサめの掛け声は、バスの中で話している時にノリで決めた物である。青道高校の掛け声の格好良さを見習った方が良い。
……何となくで決めた物なので、多分2度と使用しないと思われる。
1回表、鵜久森高校の攻撃は、1番センター近藤。走塁盗塁技術が高く、1度塁に出たら止められないだろう。
……だがそれも、塁に出られなければ変わらない。
___ズバシッッ!!
「アウト! スリーアウトチェンジ!」
「ありえねー!」
「今日の伊川はヤベェぞ!!」
「やはり天才か!」
「今回はどんな法則なんだ?!」
今回は、珍しく相手に全く読ませないリードが出来た北瀬-伊川バッテリー。
あまりのリードの読めなさに、薬師高校は喜ぶを通り越して困惑していた。
実は昨日、甲子園で戦ってメアドを交換した影山に、しつこく聞いてきていた食生活や普段の練習内容を全て教える代わりに800打席分リードを作って貰った為、ランナー状況を一切ムシしてそれを投げ続けている。
影山は何のために作っているのか知らずに渡した為、知ったらめちゃくちゃ呆れるだろう。相手の読みを考えず、ピッチャーの状態も考慮しないなんてバカじゃねぇのとキレられる筈だ。
しかも影山は、北瀬のボールを受け取るという想定からU-18で影山が正捕手として一緒に戦う場面を想定して、リードを書いていた。
薬師高校の酷い守備で実践するとは聞いていないので、基本的には効率良く1、2球でゴロにする前提で書いている。これではゴロを打たれても仕方ない。
ついでにど真ん中の指示も多い。守備が硬ければ、北瀬ならど真ん中でもアウトが取れるのである。但し、守備が硬ければ、だ。
ちなみに監督には無断で行ったので、バレたら怒られるかもしれない。
どうせまた烏野と当たる確率は低いんだし、別に良くない? 伊川はアホみたいな考えに支配されていた。
伊川が読ませないリードを行った事で、5対16で薬師高校の勝利。この試合で薬師高校は一躍、都大会優勝筆頭に躍り出る事になる。
この作戦が凄そうに聞こえるが、今までの薬師高校のキャッチャーと野手陣が余りにも酷すぎただけである。1つでも、少しだけでも改善すれば、甲子園優勝するポテンシャルすら割とあるのだ。
まあ、ショートの米原とセカンドの増田が疲れ切って交代した事により、殆どセカンドをやった事が無い森山が緊急登板。守備が割と崩壊していたが、まあ勝ったから良いだろう。
さらにこの交代で、この試合で交代可能な人数は、1人となってしまっていたが……まあ勝てば官軍である。良しとしよう。
「轟監督! 薬師高校の都大会ベスト16入り、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「鵜久森もエース梅宮君が奮闘しましたが、流石は打撃の薬師高校と言う事で、しっかりと打ち勝ちましたね!」
ちなみに薬師高校の総エラー数は、20を越えていた。あまりにも酷い守備である。これで5点に抑えた北瀬に感謝すべきかもしれない。
「あざす。ピッチャーの北瀬とキャッチャー? の伊川が頑張ってくれました。守備は……うん。ホントに酷かったんですけど……」
「……総エラー数は23回、やはり今後の課題は守備という事でしょうか?」
「そうですね、何やっても守備が治らないんで、治るかは期待薄ですけどね」
轟監督の発言の中で、キャッチャーの伊川の、キャッチャーの後に疑問マークが付いていたのに気付いていたリポーターだが、揉め事の可能性を面倒に感じてスルー。
そこではなく、監督の何をやっても守備が治らないという不思議な発言に対して、リポーターは不思議そうな顔をしながら質問した。
基本的に守備より、打撃の方が才能が関係してくるイメージがある。薬師高校の打撃力は高校最強どころか、プロでも通用しそうな打撃力にも拘らず、守備は全くセンスが無いなんて事があるのだろうかと、真面目に疑問に感じたからである。
「何をやっても、薬師高校の守備は治らないんですか?」
「いや、もしかしたら守備だけを永遠にやらせ続ければ治るかもしれないけどよ」
監督は微妙そうな顔をしながら答える。何をやってもでは無いかもしれないと感じたからだ。
……本当は守備だって伸ばしたい。だが1人も才能がある選手がいないであろう守備だけやらせて、打撃能力を無くした中途半端なチームじゃ勝ち抜けないだろうなと、彼は考えているからである。
ここまで打撃力に特化しているチームは、今まで存在しなかった。
あまりにも珍しいチームだから、対抗する為の策があまり無い為に基本的に真正面から潰そうとしてくれて、自力で劣る薬師高校が勝ち抜けている面もあるのだ。
「ではやはり、轟監督は打撃特化のチームを作りたいという事ですか?」
「いやいや、ここまで打撃に特化したいとは思ってねーんすけど……だってあいつら、守備の才能全く無ぇんだもん! それなら打撃伸ばした方が良いじゃん!」
薬師高校のクソ守備を自分のせいにされかけて、轟監督は悲鳴を上げるような声で反論していた。半分肯定している気もするが、恐らく反論の筈だ。
薬師高校の部員は守備の才能が無い。だから俺は打撃練習ばかりさせている。よって俺のせいじゃない。
そんな三段論法を掲げながら、轟監督は強く主張した。この言葉により、轟監督は才能を活かす名監督か、弱点を消さない迷監督かというSNSでの論争が白熱し始めた。
元々監督責任だと思っていた人の一部の人が、あまりの否定の強さに、もしかして轟監督の責任ではないのでは? と感じ始めたのである。
ちなみに今後、雷市達が卒業した後の薬師高校の試合を見て、監督責任もあるが本人達の資質もあったという結論で大体の人間が合意していた。
確かに新しい薬師高校も、打撃が強くて守備が悪めだが、毎回守乱レベルまではいかなかったのである。
伊川はリードの勉強をしてる最中に(これ俺が勉強するより、他の人に考えて貰った方が良いのができるのでは……?)
という真理に気付いてしまいました。