【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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活動報告で募集している、神谷主水さんの展開をまた使わせて頂きました。ありがとうございます!


39球目 魂のノック

 

 

 

 

 

 

 

 

轟監督が、ニヨニヨしながら部員達に話しかけていた。

片岡コーチは真面目そうな顔付きで監督の意見に賛同しているが、なぜか部員達は渋そうな顔をしている。

 

 

「いやーラッキーだなぁ、まさか帝東が俺達を招いて練習合宿を開いてくれるなんてな! そう思うだろう?」

 

『はい……』

 

 

11月下旬の今、秋季大会では戦わなかった帝東高校が、わざわざ薬師高校を招いて練習会をやってくれる事になったらしい。

薬師高校の高校最強打線の理由を知りたいのだろうか?

対して、部員一同は凄く嫌そうな顔だ。青道高校のバント特訓がそんなに嫌だったのだろうか?

……当然だ。練習量は強豪校並みにあるとはいえ、今の薬師高校は所詮、仲良し少人数野球部。強豪校の、絶対に上に行ってやるという熱意を向けられると苦しくなってしまう。

 

本人達の考えている事も正しいが、青道が薬師に負けてからたった1週間程度。基本的には人の良い青道部員も嫌味を飛ばしたくなって当然の状況だった。

飛んでくる嫌みは、大体は守備が苦手な薬師高校にちゃんと問題があったが、やはり青道高校メンバーの気分も関係していた。

だから尚更、また強豪校に出向いて練習なんて勘弁して欲しいと思っているのである。

 

 

「帝東高校の岡本監督が、俺達をわざわざ呼んでくださった。良い機会だと考え、共に研磨していこう」

 

片岡コーチの、心の籠もった一言で薬師メンバーは少しやる気を出した。場の空気に流されやすい部員達である。

 

 

「そうっすね! 強豪校と一緒に練習出来る機会って中々無いですし!」

「はぁ……決まったからにはやらないとな!」

「前の青道バント練習も、めちゃくちゃ為にはなりましたし……」

「てか、俺らって一応名門じゃね?」

「それは無いだろ」

「名門に謝れ」

 

薬師高校のメンツは、片岡コーチの意見によって何となく一致団結。一応覚悟を決めて帝東高校に乗り込む事になる。

 

……練習内容は、思っていたよりも数倍キツかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝東高校との合宿が発表されてから数日後。食堂のおばちゃんが運転してくれたバスを降り、ここから先は強豪校。

ドキドキゾワゾワしながら薬師部員は降り立った。

 

 

「ここが帝東高校か……!」

「うわ、歴史がありそうな雰囲気……」

「……流石強豪校って感じだな。まあ俺達も負けてねぇけど!」

 

ここはまだ野球部の敷地ではないので、強豪校の空気が感じられるのは、彼らの心境が大いに関係していると思われるが……

 

北瀬達の恐れをなしているような一言に対して、一応キャプテンである真田が自信ありげに言い放った。俺達も負けていない、良いチームだと。

そのチームを想う一言に感動した薬師部員は、意外と真田先輩キャプテンはアリだったかもと思い直した。

こんなキツい練習が待ち受けている前に、泣かせてくれるじゃん! モチベーターに向いてる所あるんだよな、真田先輩……まあ、米原先輩の方が向いている気がするのは変わらないけど。

 

そんなどうでも良い事を考えながら、今日止まる寮に向かっていく薬師高校一同。

薬師高校のお出迎えをしてくれているのか、朝早くにも拘らず人が立っている。

 

 

「2日間よろしくお願いします。帝東高校のキャプテン、木戸護です」

「ご丁寧にどうも。一応キャプテンの真田俊平です」

 

ニカッとしながら、キャプテンの真田先輩が挨拶をした。だが、その発言に不可解さを覚えた木戸キャプテン。

疑問だという顔を隠さず、堂々と真田先輩に質問した。

 

 

「というか、一応キャプテンとは……」

「米原の方が向いてるんですけど、知名度の関係でなんか俺になったんですよね」

 

その言葉を聞いた木戸は、なるべく感情を出さない様にはしていたが、熱心な声色を隠せずにこう言った。

 

 

「……真田は甲子園ベスト4、薬師高校のキャプテンだ。だから、そんな卑屈な奴に見られかねない事を言わない方が良い」

 

帝東高校のキャプテンは、強豪校主将としての責任感が強い人間である。

甲子園や秋季大会で俺達より優った新たな強豪、薬師高校のキャプテンたる人間が、その様な弱腰な態度ではいけない。

相手が間違っていると考えたらしっかり指摘する人間である木戸は、真田に対して注意をした。

 

 

「たしかに……俺の評価が、雷市達に多少は影響しますもんね……」

 

真田先輩は、えっそんな事まで考えなきゃいけないのかと思った。

だが、小林先輩と握手をしてた青道元キャプテンのイメージを思い出し、ああいうのが強豪校のキャプテンらしいキャプテンなんだろうなと思った。

真田は今、強豪校のキャプテンである自覚をほんの少しだけ持った。

 

 

「……主砲とはいえ、部員を贔屓するのも良くないぞ」

 

この弱腰の、新たな強豪校のキャプテンを、俺が2日間で育ててやる!

めちゃくちゃ責任感の強い木戸は、少し話しただけである薬師高校のキャプテンを直さなければと、責任感を持った。

これから合同練習をするとはいえ、他校のキャプテンにも発揮される責任感は、あまりにも強過ぎる気がするが……まあ無いよりは良いだろう。

 

 

「えっ、まあ確かに……でも俺達は、轟親子を甲子園に連れていく為に野球をしてますから。大体の部員は雷市を贔屓してますし……」

 

その言葉に困惑した木戸。監督を甲子園に連れて行きたいのは分からなくもないが、監督の息子である後輩も連れていきたいと言う発言は謎である。

どれだけ、たかが1年生に依存しているチームなのか……? 木戸は内心慄きながら、こう言い放った。

 

 

「確かに、轟雷市は薬師高校の中でもトップ層に入る人間だ……だが、あまり露骨にやり過ぎても良くないだろう

__ベンチ入りメンバーは、なるべく平等であるべきだ」

「ベンチ入りメンバーっすか? 全員じゃなくて」

 

真田は困惑しながら話した。正しい意見としていうなら、部員全員の中が良くて平等な部活の方が良くないかと考えているのだ。

だが古くからの強豪校のキャプテンは、全く視点が異なった発言をした。

それに雷市は真田先輩が責められている事に不安を抱き、北瀬や伊川は木戸の事を内心罵倒していた。

 

(真田先輩の良い所を何も知らない癖に、真田先輩に文句ばっかり言いやがって……! だよな、伊川!)

(本当だよ、何だこいつ……真田先輩に対して偉そうにしやがって。それに俺達は、今の真田先輩が好きなんだよ!)

 

 

「試合に出れる人間、出られない人間で区別するのは当然の事だ。試合に出られる選手という枠を超えて、後輩に接する事は宜しくないだろう」

 

「……」

 

「人数が少ない今だから問題が起きないだけで、新入部員が入って来た時もやっていると、部全体の問題となりかねない

強豪校キャプテンとしての、自覚を持て。そして……」

 

 

急に木戸が頭を下げ始めた。

えっ、何。この人急に何で謝り出したんだ?! 薬師部員は困惑していた。なんか説教臭い人間だと思ってたけど、急に謝り出したぞ……

真田先輩が、強豪校キャプテンとしては無責任極まりない態度だと気付いてない部員達は、木戸の発言に内心イライラしていた。

だがプライドの高そうな彼が頭を下げた事で、嫌いから困惑に変わっていった。

 

 

「薬師高校のキャプテンであるお前を、部員達の前で叱ってしまい………すまなかった」

 

「いや全然! 多分正しい事言ってるんだなって事は、分かるからさ……気を付ける様にするよ! ありがとな」

 

真田は、明らかに強豪校のキャプテンとしての自信がある木戸が突然謝った事に慌てて、慌てながらも爽やかに返答していた。

まじか、こんな良い感じの他校のキャプテンが言ってくる位、俺って酷いのか? 自分の言動を振り返りながら、少し反省していた。

 

そこまで謝る必要はあるのか? と、薬師部員も困った顔をしながら、今の木戸さんがしていた話を相談したくて仕方ないといった顔をしていた。

キャプテンがそこまで言われるって事は、もしかして俺達も強豪校らしくしなきゃいけないって事か?! やだなぁ……大体そんな、無責任な事を考えていた部員が多い。

 

 

(真田先輩がキャプテンになって、俺達に構ってくれなくなったら嫌だ!)

(真田先輩に強豪校のキャプテンらしさなんていらない! 薬師高校は薬師高校なりのキャプテンで良いんだ!)

 

北瀬や伊川は、今の性格の真田先輩に懐いているので、もしかしたら真田先輩にそっけなくされてしまうかも?! と大層慌てていた。

 

 

「ちなみに先に言っとくけど……監督のノックはかなりキツいぞ」

『マジで……?!』

 

一応言っておいてやるかと、善意で練習内容を明かした帝東キャプテン。

それを聞いた、守備に自信が無い部員しかいない薬師野球部は……完全に硬直した。

強豪校のキャプテンがキツいっていうノックって、どれだけキツいんだ?! そう考え、薬師メンバーの大多数がビビっていた。

ビビっていないのは、超ポジティブシンキングの三島と野球狂の雷市だけである。

 

 

「もう何も考えたくない……」

「大丈夫かもしれないし! もしかしたら、俺達相手なら手加減してくれるかも……!」

「でも、強豪校だし……」

「……勘弁してくれ」

 

「そこまで絶望しないでも……俺が虐めたみたいだから止めてくれ」

 

薬師部員のあまりの絶望した顔を見て、馬鹿じゃねぇのと内心思いながら帝東キャプテンは宥めていた。

強豪校なら強豪校らしく、苦手な練習もキッチリやれよ……と内心呆れながらである。

 

薬師高校は投壊のチームだから、どうしようも無い。

敵のピッチャーのメンタルを破壊し、味方ピッチャーの防御率も破壊する。味方ピッチャーは、崩壊守備に慣れてるから実質ノーリスク!

彼らは、そういったチームだ。

 

 

……

 

 

「薬師高校の皆さん! 良く来てくれたぁ! 初日は魂のノックと薬師打線フリー勝負を行い! 2日目は練習試合ってなる! よろしく頼むわ!」

 

『はいっ!!』

 

「……はい」

「……ゥㇲ」

 

大きな声で返事をしているのが帝東高校の皆さんと、雷市&三島。か細い声で泣く泣くといった表情をしているのが、その他薬師高校のメンバーである。

 

 

 

 

 

魂のノックという、聞き覚えのない謎のノックをやる事を宣言された薬師高校。

困惑していた彼らだったが、帝東の皆さんが見本を見せてくれるらしい……だが見本のあまりの過酷さ、守備の華麗さに、彼らはあ然としながら恐怖していた。

えっ、これを本気でやらせてくるのか? と考え、絶対無理だろと絶望していたのだ。

 

 

 

___カキン!

 

「良いぞっ佐本ッ!」

 

 

___カキン!

 

「おりゃあー江藤ナニやっとるー!」

 

 

___カキンッ!

 

「トーマス! 練習だと思うな!!」

 

 

完全に固まっている薬師メンバーを見て、片岡コーチが助言をしようとしていた。

 

 

「確かに、今の練度では帝東と同じ様にやるのは難しいだろう___だが、挑戦する事には意味がある

お前達の打撃に、守備の堅さが付けば……どれだけ強くなれるだろうと思わないか?」

 

「まあ、確かに……」

「これの半分でも付けば、全国制覇だって夢じゃないかもな!」

「はい、頑張ります……」

「まあ……そうっすね……」

 

片岡コーチの助言により、薬師高校の生徒達が頑張るかぁと何とか気を持ち直したのを見て、轟監督が感嘆のため息をついた。

 

 

「うちのメンツが、守備をやる気になるとは……!」

 

薬師メンバーは渋々という顔付きをしている気もするが、今だけでも守備をやる気になったのは、轟監督にとっては驚きの出来事だった。

公式試合でも守備から逃げようとする彼らだ。監督がそう思っても仕方ないだろう。

 

 

「生徒達は、考えているよりも強く、成長していく存在です。私達はそれをサポートするだけで良い。そう私は思っています」

 

(生徒達は、考えているよりも成長していくねぇ……やっぱ良い言葉言うねぇ、このコーチ

どこまでチームを信じれば良いのかは分からんが、コイツらは絶対守備をやりたくないってのは思い込みだったかもな)

 

 

……

 

 

___カキン!

 

「ぎゃー!」

「ナニやってんじゃ北瀬!」

 

 

___カキン!

 

「すんません!」

「こっの下手くそー!」

 

 

___カキンッ!

 

「…………?」

「不思議そうな顔してんじゃねーべ!!」

 

 

 

帝東のノックが終わり、薬師のノックが開始した。

……最初は下手くそな薬師メンバーを笑っていた帝東メンツだったが、初級のノックなのにミスしかしない彼らを見ていて、逆に顔が青ざめてきていた。

 

 

「なんじゃ、ありゃ?!」

「……マジで守備が駄目だな」

「頑張れー! 薬師ー!」

「コレで全国ベスト4……?」

「あまりにも酷い」

 

3軍でも取れるウォーニングアップの段階で、何回ノックをしても一向に捕れない薬師メンバー。眼が死んでいる。

何故奴らが甲子園ベスト4まで行ったのだろうかと、めちゃくちゃ疑問に感じていた。

いや打撃が凄まじいから甲子園に行ったのは、彼らも試合を見て分かっているのだが、それでも困惑してしまう守備難軍団だったのである。

 

 

「……まあ全国に行ったのは、3年生の守備有っての事かもしれないが」

「あっ、そういう?」

「北瀬とか轟とかタレント揃いなのに、これじゃ勿体ないな……」

 

 

 

 

結局、薬師高校のノックは初級編を10回取っただけで終わり、帝東高校部員を困惑させていた。

……俺らなら、こんだけ初級編をやらされてりゃ200は取ってたぞ。

自分達の守備力を誇る気持ちは微塵も沸かず、頭のおかしい守備を披露した薬師高校を見ていて、いっそ内心辟易としていた帝東高校だった。

 

 

 

 

 

初級編の魂のノックだけで、打撲傷だらけでボロ雑巾の様になった薬師高校。予定に無いにも拘らず、仕方ないから少し休憩を入れてくれた。

疲れ切ったバッターと戦わせても、帝東の利益が無いと考えたのだ。この判断を、後で帝東の監督は後悔する事になるが……

 

その後、気を取り直した薬師打線vs帝東2軍ピッチャーのフリー勝負が始まる。

先ほどまでぐったりしていた薬師メンバーだが、打線に入る瞬間、目をキラキラと輝かせていた。

打撃が大好きな、気分で動く軍団だから当然である。

 

 

___カッキーン!

 

「良い球来てるよー!」

 

 

___カッキーン!

 

「楽しー!」

 

 

___カッキーン!

 

「やっぱ打撃はイイなー!」

 

 

……

 

___カッキーン!

 

「ご褒美タイム!」

「ハァ……ハァ……」

 

 

北瀬や轟だけではなく、薬師のベンチメンバー全員にホームランを打たれ、帝東2軍ピッチャーは真っ白に燃え尽きていた。

あまりの重量級打線ぶりに、見ていた帝東の全員がビビっていた。

 

 

「マジかよ……」

「2軍って帝東の上澄みだぞ?!」

「流石に、夏甲子園ベスト4は違うな」

「マジで打撃だけで勝ち抜いて来たチームだなぁ」

 

 

 

 

古くから続く強豪校の帝東と、ひよこマークの付いた新規強豪校の薬師。異文化交流を図りながら、彼らの合宿は後少しだけ続く。

 

 

 

 

 

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