【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
薬師高校野球は、基本的に試合観戦をしには行かない。なぜなら、見て活かせる人材が少ないからである。
……だがこの日だけは違った。
明治神宮野球大会決勝戦。稲城実業対巨摩大藤巻。どちらも薬師高校が負けてしまった、因縁かもしれないライバル校の対決である。
そして稲城実業が勝てば、薬師高校が春の甲子園に出場する事が決定する。
監督が汗を搔きながら、なぜかニヤリとした顔をしてこう質問した。
「……この試合、お前らはどっちが勝つと思うよ?」
監督の問いにちょっと考えてから、成宮さんの方が好感度高いしなぁ、というか本郷は良く知らないと思った北瀬がこう答える。
夏の甲子園で負けた相手をあまり調べない薬師野球部は、どこかイカれているに違いない。
……まあ相手の情報より優先すべき所が多すぎるだけだ。ちなみに優先すべき事とは、ホームランを狙う事や、ホームランを狙う事である。
「どっちが勝つかは分かりませんけど……俺は、どうせなら稲城実業に勝ってほしいです」
試合を見る眼を養わせたい監督は、はぁと呆れながら子供っぽい口調で言い返した。
当然俺達は稲城実業に勝ってほしいさ、春の甲子園が掛かっているんだからなと呆れながらである。
「そりゃ俺達は、稲実が勝てば甲子園なんだからそう思うよな……そうじゃなくて、どっちがどうして勝つと思うか聞いてんの!」
この言葉で部員達は、この質問は気まぐれじゃなくて、俺達に試合展開を考えさせる為に言ってるんだなとようやく気付いた。
いや、元から気付いていた部員もいなくはないが、少数派だったのである。
キャプテンの真田は、少し考えてこう話した。
「どっちが勝つか……少なくとも、投手力は同じ位ですよね。バッティングは巨摩の方が良いけど、守備は稲実の方が良いし。結局分かんないッスね」
轟監督は、真田のいい子ちゃんな回答を聞いて、文句を言う様な口調で話し始めた。
俺は面白い回答が聞きたいの! お前の答えつまんねぇ! みたいな子供っぽさ剥き出しの話口調である。
「つまんねーの、そこは何となくこっちが勝ちそうで良いんだよ! ……まあ、ちゃんと分析してるからギリ良いけどよ」
「そうですね……私は稲城実業が勝つと思っています
___彼らの強さは、良く知っていますから」
轟監督の話を聞いた片岡コーチは威厳を保ちつつ、はっきりと稲城実業が勝つだろうと回答した。
その言いっぷりに何となく感動した彼らは、ワイワイ騒ぎながら予想していく。
なぜ感動したかというと、強さを知っているという元強豪校の監督らしさ溢れるセリフと、彼らの勝ってほしい稲城実業有利という言葉にテンションが上がった為、ぶっちゃけその場のノリでしかない。
彼らの話は予想というより感想に近い気もするが……まあ良いのではないだろうか? どうせ、薬師高校がちゃんとした理論を展開するなんて不可能に近いと思われる。
「やっぱ稲実も強いっすよね!」
「俺ら実質、夏も成宮には勝ってない所ありますしー」
「打ち崩せる前に事故で降板したもんなー」
「でも何となく、巨摩大藤巻の方が強そうなイメージがある」
「てかそれなら、監督も予想してくださいよ!」
その言葉に、むむむと考え始めた轟監督。割と悩んだみたいだが、最終的には選べたらしい。彼は、自信満々な顔で堂々と言った。
「……んーじゃあ、俺も成宮が勝つで良いかな。あいつイケメンだし、顔が良いし。金の匂いがプンプンしやがる!」
「それ、勝敗と関係あるんすかね……?」
「あるだろ、観客の空気は重要なんだぞ!
試合の場所も関係してるだろうが、応援されてるのは明らかに成宮だ!」
轟監督は、理屈が通っている様な通っていない様な微妙な理屈を熱演している。
薬師部員達は、思わず納得してしまったけど、やっぱり納得したくないという顔をしながら話し始める。
「まあ、確かに?」
「そういった事もあるかもなー」
「それで良いのか? 野球って競技」
「さぁ……」
轟監督は話している最中、ふとイイ事を思い付いた。
彼の顔に気付いた聡い部員は、この顔をしてる監督は、良い提案か悪い提案か両極端なんだよなぁと微妙な心境だったらしい。
「そうだ! 1回が終わる毎に、どっちが勝つと思うか投票しろ。1番最後まで予測が外れてた奴が、皆にジュース奢りな」
「マジすか!」
「楽しそうですね!」
「てか、監督が外れたらどうするんです……?」
唐突な監督の提案に、楽しそうにしていた彼ら。
だがふと、家計が火の車の轟家が負けたらどうなるのか気になって聞いた部員がいた。
確かに……部員達は少し頭が冷え、考えた。いやまあ、轟家だけは奢り無しでも良いけど、賭けがちょっと詰まらなくなるよなぁ。
提案者だけ罰ゲームが許されるのはズルい気もするが、それを許す位の優しさはある薬師部員だった。
監督はその言葉に少し考え、こう解釈する。
「じゃージュースの代わりに、撤収準備を全部やるのでもヨシってしよう! ゴミを捨てて、荷物をバスに運び込むまでやるって事で」
その言葉になるほどねーと納得した部員達。それなら罪悪感無く、楽しく賭けられる! はしゃぐ気持ちが沸き起こり、皆が楽しそうにし始めた。
この試合で春の甲子園行きが決まるのに、余裕の面持ちである。謎の強豪校だ……
「良いですね、それなら安心して掛けられます!」
「これなら平等だな。じゃあ俺巨摩大で!」
「俺は稲実で!」
「俺は巨摩大っすかね」
「俺は稲城実業に一票」
……
「俺も俺も! うーんやっぱり成宮だわ」
最終的には9人が稲城実業派で5人が巨摩大藤巻派だった。
確かに記者相手の受け答えは成宮の方が明らかに良いから、何となく成宮応援ムードになってもおかしくはない。
それより、成宮が勝てば甲子園に行ける事の方が彼らにとっては大きいだろうが、謎の余裕であまり気にしていなかった。
……いや、内心気にしていた部員も割といたのだが、楽しく試合を見るのに邪魔だと思ったので、口にはしなかった様である。
「じゃー今んとこ稲実に9票か……まぁ、後から投票は変更してくから今のはあんま関係ないだろうけど」
「あっ、そろそろ始まるみたいですよ」
……
「まさか、7回裏まで両方無失点とはなぁ」
轟監督の言葉に、うんうんと頷く薬師野球部。こんなロースコアの試合は、俺達の試合ではありえない。
薬師の数人はもう飽きたのか、3DSを取り出してゲームをしていた。試合観戦をしている強豪校とは思えない、とんでもなくダラダラした雰囲気だった。
この試合は、超有名ピッチャー同士が投げ合う息の詰まる様な投手戦。
見に来ている大体の高校野球ファンは、目が放せない一戦だと盛り上がっていたのだが……ホームランにしか興味がない薬師にとっては詰まらない戦いだった様だ。
「伊川! 今のカルロの見たかよ?! フェン直をダイビングキャッチしやがった!!」
「あー、凄いな! 俺達じゃ危なくてできねぇ」
試合に目を釘付けにされながら、楽しそうに伊川に話しかける北瀬。伊川は、実は目を閉じて寝かけていた為、やっべ見てねぇと思いながら適当に返した。
「にしても本郷も成宮もヤバいよなぁ、打つの楽しそうだ!」
「確かに、アイツらのボールは打ち辛い」
キラキラした目で本郷と成宮を語る北瀬。彼は、実は自分の方が強いピッチャーだと言う事を理解していない。
打たれるって事は弱いピッチャーって事だろ? キャッチャーがアレなのに気付いていない為、全責任は自分にあると思い込んでいるのである。
それに守備陣も明らかに問題があるのだが、それなら俺が対応して三振を取りに行けない所に問題があると信じていた。
ヘボキャッチャーがゴロになる様に指示を出していて、そのリードのまま三振を取ろうとするのは無理があると思われるが……
そして、ピッチャーライナーと三振してこいという指示以外で打率を落としたことがない伊川。
彼も一応、本郷や成宮のボールは打ち辛いと考えていた。ツーストライクまで追い詰められて、凄く面倒だった。
伊川は三振を実質取られた事が無いので、1回ツーストライクを取られたというだけだが、本郷と成宮を高評価していた。
まあ本郷も成宮も、高校野球三強に入るピッチャーの為、あながち間違いでは無いのだが。
……
9回裏、0-0でワンアウトランナー3塁と、追い詰められている稲城実業。
打順は5番、キャッチャーの円城。
「摩大!! 摩大!!」
「頑張れ鳴ちゃーん!!」
「稲実!! 稲実!!」
「円城! 一本頼むぞー!!」
「頼む勝ってくれー!!」
観客達の熱気は最高潮。ゲームをしていた薬師メンバーも、1回中断してこの場面だけは見ようとしている。
「これで勝負は決まるか……? 雷市はどう思う」
「カハハハ……打つと思う?」
「そう見えるか! じゃあ巨摩大藤巻の勝ちかぁ。俺ら21世紀枠で出られりゃ良いけどな」
雷市の疑問符が付いた一言で、真田はこれで巨摩大藤巻の勝ちだと確信したらしい……轟親子への信頼が重すぎる。
「いや、雷市は適当に言っただけじゃないすか?」
「確かにそんな気がしたよなー」
雷市の幼馴染である、三島と秋葉が真田先輩に本気で言ってる訳じゃないと忠告した。
なんか、真田先輩って轟親子のいう事なら簡単に騙されちゃいそうな感じがするんだよなぁ。彼らはそう感じていたのだ。
まあ真田先輩は、轟監督の軽口を本気で信じる程バカでは無いのだが、多少変な事でも真面目に言われれば騙されてしまうかもしれない。
それは、ノリで生きている薬師メンバー全員に言えそうな気もするが……
___ガギーン!
鈍く大きな男が鳴り響き、ライト奥にゆっくりと飛んでいく。早乙女がキャッチ、その瞬間ランナースタートを切った、バックホーム間に合うかどうか!
「……セーフ! 試合終了!!」
『わああぁぁ!!』
「やった、やった……!」
「クソ、負けた……負けたんだ……!」
アウトかセーフかギリギリの所だったが、審判はセーフと判断し、試合終了。
1-0で、巨摩大藤巻の優勝である。
完全に蚊帳の外の観客気分で見ていた北瀬達。楽しく見ていた一部の部員達はキャッキャとはしゃぎながら感想を言っていた。
「良い勝負でしたね!」
「これぞ高校野球って感じだったな!」
「まあホームラン無かったのは残念だけど」
そんな彼らを傍目から見つつ、轟監督と片岡コーチは神妙そうに話す。
「あいつら、コレで神宮枠が無くなったの忘れてんのかね?」
「分かりません。ですが彼らは、次を見据えて戦おうとしている___強い子達だと思います」
片岡コーチの言葉を聞いた轟監督は、心が強いとは何か違うようなと疑問を抱いた。
甲子園に行けない可能性が上がったのによくはしゃげるよなぁ、キツイ練習してきたのによう、と少しだけ不満に思っていたのだ。
だが、仕方ない監督歴2年で甲子園行ったしな、これ以上の結果を狙うのは高望みし過ぎだろうと勝手に脳内で納得して終わった。
「じゃあ8回で成宮に賭けてた部員5人とコーチは、巨摩大藤巻に賭けてた6人に自販機でジュース買って来い! 俺と雷市は後片付けして来るからよー」
ギリギリの勝負だったので、普通に予想を外していた監督とコーチ。マトモな人間であるコーチもなぜかジュースを賭けていた。
まあ最大でもたった13人にジュースを奢るくらいなら破産する人は出ないし、これ位の楽しみはあってもいいだろう。
そもそも、彼らは野球をしたくて集まった人間ではないしな。これ位なら、まあ良いか? そう考える片岡コーチは、完全にこの学校の気風に流されていた。
少し不真面目になるデメリットより、薬師高校の部員達に馴染めるメリットの方が大きそうだからまあ良いだろう。
コーチはちゃんとお金を持っているので賭けに負けた部員達とジュースを買いに行き、持っていない轟親子は後片付け係になったらしい。
「じゃあ夏の甲子園目指して頑張るか!」
『おう!!』
轟監督は、夏の甲子園目指して頑張るぞーという部員達の話を聞きながら、おいおい違うだろとツッコんでいた。
「……頑張るのはいいけど、まだ春の甲子園の可能性残ってるぞ」
「そうでしたね!」
「忘れてました!」
「___低くても、可能性はある。それを念頭に入れて、お前達は練習に励め。努力は、けして無駄になる事は無い」
『はいっ!!』
新たなコーチとも完全に馴染んだ薬師野球部。大体の部員が基本人好きな人間なので、実は性格が凄く良い片岡コーチと馴染むのが早かったらしい。
なぜコーチは薬師高校に来たのかと、安易に聞いてしまった三島。それは聞いちゃ駄目なのではと思いつつ、気になって仕方ないので聞き耳を立てる部員達。
青道高校で監督を追い出されたという話で強豪校って怖すぎると慄き、監督業をクビになったのに未だ慕う部員がいて騒ぎになったと聞いてコーチを慕うのは分かるわぁと納得。
最後に薬師高校のコーチを打診されていると聞いた青道部員が、行ってくださいと全員で背中を押してくれた話で涙していた。
青道高校って、良い奴らだなぁ……! 勝手に薬師高校野球部からの支持が上がっていた青道高校。そんな出来事を、青道野球部は知らない。
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