【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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46球目 春のセンバツ!

 

 

 

 

春のセンバツ出場まで数日を切った、薬師高校。

彼らは最後のミーティングとして、対戦する事になる相手の最終確認を行っていた。

轟監督は、珍しく真面目に説明を行っていた。

 

 

「初戦の相手は堅固高校! 県立の星だかなんだか知らないが、まあ勝てる相手だろう

 

次! 2回戦で当たるのは、真田のお母ちゃんによると美川実業。MAX145kmの1年生でカーブ、フォーク、シンカーの使い手がいる

 

3回戦は青森安良の可能性が高い。真田お母ちゃんデータによるとだが……球持ちが良いナックル、フォーク、シンカーの使い手と、足がすげぇ速いショートがいる

 

準決勝は、大阪桐生か巨摩大藤巻。決勝は稲城実業かCL学園と見てるが……まあこの辺の説明は相手が決まってからで良いだろう」

 

部員+マネージャーの太平は、真剣な面持ちで監督の話を聞いていた。

そう、なぜか中学生の真田太平も作戦会議に参加しているのである。部外者が作戦等を聞いていたらマズい気もするが……

 

話し始めた時には太平も同じ部屋にいて、まあ大丈夫だろうという楽観思考でそのまま監督は話し始めたのだ。適当過ぎる。

 

しっかり監督の話を聞いていた部員達。だが太平が、思わずといった表情で質問した。

なにやら、どうしても気になる疑問があったようである。

 

 

「轟監督! ちょっと良いですか?」

「良いぞ、言ってみろ」

「堅固高校は、ここぞという時に大胆な奇襲を起こす冒険的な野球にシフトチェンジしたという噂が、かなりネットで流れてたんですけど」

 

『…………』

 

太平の言葉で、薬師野球部に静寂が訪れた。

なぜかというと、その情報を薬師高校の誰もが知らなかったからである!

ネットで少し調べれば情報を書いている人はいるのだが、部員達は調べるタイプがいない。真田母はいるが、偵察で酷使しているので、これ以上頼る事は出来ないと考えていた。

片岡コーチは多忙だし、轟監督は学校にあるパソコンを使いこなせていないのだ……当然、情報を得られる人物はいなかった。

 

轟監督は、慌てて太平に聞き返した。そんなの聞いてないという表情をしている。

聞いてないも何も、誰にも調べてもらってないから情報を監督に言わない事は当然なのだが。

 

 

「マジで……? よし、キャプテンのお母ちゃんに調べて貰おう! 重要な情報くれてサンキューな! 太平!」

 

太平は監督に褒められた事で、少し照れたような仕草で首を少し掻きながら答えた。

 

 

「薬師の助けになれるかもしれなくて、良かったです……俺センバツの間、なるべく情報を調べてきます!

だからセンバツの間も、情報共有に先輩方のホテルに伺って大丈夫ですか?」

 

「え、いいの?」

「有能!」

「もう部員として連れて行きたい……」

「おー、自腹ならイイぞ! 情報収集係が欲しかったしな、そういうのマジありがてぇわ」

 

部員達が口々に感謝する中、センバツ最中の薬師野球部を尋ねる事を、轟監督もありがたいという顔をして了承した。

マネージャーというのは口実だった筈なのに、なんだか本当にマネージャーみたいな活動をし始めた太平。先輩部員からめちゃくちゃ好評だった。

性格も良く、かゆいところに手が届く有能マネージャー、彼がいる事で、実際色々助かる事は多かった。

 

但し、轟監督と太平の会話を聞きながら北瀬と伊川は疑問を抱いていた。

 

(太平ってさ、野球部からはホテル代出ないよな……自腹で付いてくるつもりか?)

(そうかもな。太平って本当に野球が好きなんだなぁ)

 

北瀬と伊川は、太平は野球が好きなんだろうと思いこんでいたが、彼は野球というより、どちらかというと薬師高校の野球が好きなのである。

特に、秋葉、伊川、北瀬、轟、三島の強力クリーンナップが大好物だ。

実は彼は部活を引退するまでピッチャーだったのだが、ホームランが打ちたくてバッターに変更している。

 

それに実際の所、太平一家は既に甲子園をわざわざ見に行くと最初から決めていた。

うちの息子が強豪校に入れるなんて! その上、先輩方にも可愛がって貰ってるの? なら皆さんの活躍を見に行かなくては!

太平の両親は、有給を大量消費して見に行く事を決めた様だった。

 

それもあり、太平が情報を伝達する事が可能になっている。

まあその予定がなくても電話やメールでなんとかなったかもしれないが、やはり対面の方が情報は正確に伝わるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦会議から少し時間が経ち甲子園初戦、薬師高校の対戦相手は、前回も1回戦で戦った県立堅固高校。

 

ギリギリの所で真田母の偵察が間に合ったらしく、その情報を聞いて監督は少しだけ焦っていた。

……思ったより、大分堅固高校が強くなっている事に気付いたのである。

 

だが少なくとも、北瀬には準決勝と決勝を連投してもらう事になる。だからここで、エースを出す訳にはいかない。

轟監督と片岡コーチは悩んだが、当初の予定通り真田キャプテンが先発する事にした様であった。

 

ちなみに、テニス部6人は無事にテニス部から出荷されて、甲子園のベンチメンバー入りしていた。

 

 

 

 

 

1回表、堅固高校の攻撃は1番センターの西。南米の人らしき顔付きの、俊足と堅守に好打が揃っているらしい名プレイヤーらしい。

まあ、命令違反も目立つようだが……監督に掴みかかる雷市よりはましだろうか?

 

注目の初球、真田キャプテンが投球を開始した!

 

 

___ガギーン!

 

相手を観察しようともせず西はバットを振り切り、鈍い音が阪神甲子園球場に鳴り響く。

打球はセンター平畠真正面!

 

これはアウトだなと会場の誰もが、それこそ全力で走っている西すら考えたが……

 

 

「……しまった!」

 

残念、守備をしているのは投壊野球がウリの薬師高校である。甲子園の風に対応できず、平凡なセンターフライを落っことしてしまった。

 

慌てて駆け寄ったレフトの森山。だが、気付けばボールを見失っていた。

気付けばバッターは3塁を周り、ホームに帰還しようとしていた。ランニングホームランをする気満々である。

 

 

「…………セーフ!」

 

ランナーが帰還してもボールは見つからず、明らかに帰還成功した西。だが審判は呆気にとられていたらしく、セーフ判定が遅れていた。

まあ審判が呆然としても仕方ない。西の打球は、明らかにセンター真正面。どう考えてもアウトになる筈だったのだ。

 

それがまさかのランニングホームラン。

あまりにピッチャーが可哀想な展開に、審判が虚無になっても仕方ないだろう。

 

 

「どんまいどんまい! そんな事もあるさ!」

「次は捕るからな!」

「見失わないようにするから!」

 

だが、思わず絶句するような守備を披露されても、キャプテンでピッチャーの真田は笑っているだけである。

真田先輩は薬師の崩壊守備に慣れきっているので、甲子園という大舞台でのミスもなんのその。

やっぱりなぁ、三振に取れなかったら実質俺達の負けなんだよなぁと言う顔をしていた。

 

打撃力は神がかっているのに、守備力は予選1回戦レベル。そんな悲しきモンスターみたいな薬師高校に、野球が好きなマトモな観客は怒り狂っていた。

ただでさえ高校生相手でも怒鳴りたくなる守備を披露しているのに、守備陣は全く謝らないのである。これは怒りたくもなるだろう。

 

 

「このクソボケー!!」

「平畠ー! テメェ覚えてろよー!!」

「キャプテンが可哀想だと思わんかー!!」

「薬師ー! 良いぞ、もっとヤレー!」

「舐めてる部活を潰せー! 堅固ー!」

 

怒声を浴びている薬師高校は、だが無関心。

あー何か、甲子園に出てない無関係なおっさん達が騒いでるなぁ。馬耳東風とばかりに観客の声をガン無視する薬師高校は、外野からの声に麻痺している様だ。

 

普通の弱小野球部だった部員達が、こんな大きな舞台に何度も出ているのだ。多少感覚がおかしくもなるだろう。

テニス部員達は、怒鳴り声に真っ青な顔をしていたが……彼らはベンチにいるだけで、何もしていないので関係ないだろう。

 

 

「……よーやく守備が終わったかぁ」

「真田先輩、ナイス三振!」

「まぁ5点取られちゃったけどなー」

 

 

その後も、薬師の緩慢な守備の隙を突いたヒッティングや盗塁、走塁などで、堅固怒涛の5点先取。真田先輩の孤軍奮闘も虚しく、打順は一周していた。

目を覆いたくなる様なアリエナイ守備を披露し続けた薬師高校に、観客達は呆れ返っている。

 

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の1番の秋葉を簡単にアウトにした堅固。こんな強いチームだったかと、観客達は驚いていた。

県立の星と呼ばれるチームではあるが、強豪校の無い県を何とか勝ち抜いているだけのチームでもある為、特別に目立っていたりはしないのである。

 

2番の伊川は普通にツーベースヒット。だが、3番の雷市になると、堅固キャッチャーの田中が立ち上がった。

 

 

「何やってるんだ? あのキャッチャー」

「まさか……」

「おいおい嘘だろ?!」

「まだ1回裏だぞ! ふざけんな!!」

 

 

そう、これは敬遠である。堅固高校は、轟か北瀬の前に2、3塁にランナーがいる場合、どちらかには四球を出す外道戦法に出たのである。

だって、目の前にランナーいるし……怪しい言い訳の元、彼らは邪道戦法に打って出た。

 

 

 

 

これで、ランナー1、2塁。流石に堅固のキャッチャーは座り直し、北瀬との勝負に挑む。

 

 

___カスッ……

 

「アウト! ゲッツー!!」

 

ノーボールツーストライク。慌ててバットを振った北瀬。

堅固のまさかの戦法に動揺していた彼は、簡単に超スローボールで仕留められてしまった。

そう、薬師高校は北瀬の超スローボールに慣れきっているが、北瀬本人は自分のボールが打てていないのだ!

 

初めて打席で見る超スローボールに、相手の衝撃的采配。これだけのデバフが積もれば、北瀬だって簡単にアウトになってしまう。

 

 

……

 

 

それから薬師の下位打線は、田中圭一と田中圭二の兄弟バッテリーに思い切り翻弄されつつも、上位打線が得点を入れていく展開。

対して堅固は、荒削りながらも大胆なバッティングで薬師守備陣を翻弄。結果的に、8回裏までは同点が続くというシーソーゲームを見せていた。

 

カス守備vs四球攻め、最悪な采配を見せ合う戦いに、一部の観客達の怒りは最高潮。

だが最強打線要する薬師高校に、県立の星堅固高校が抗う様は面白い。そう判断した観客も多く、歓声と怒声が混じり合う地獄の形相を見せていた。

 

 

「いけー薬師ー!」

「クソ守備何とかしろやー!!」

「四球攻めとかありえんわー!!」

「頑張れ堅固ー!」

「雷市ー! 一本頼むぜー!!」

 

 

 

 

 

 

 

9回裏、9対11で堅固が勝っていた。

クリーンナップではないとはいえ、他の学校ならクリーンナップであろう1番秋葉を、守備陣の助けもあってアウトにした堅固ピッチャー。

これで堅固は、後ツーアウトで春のセンバツ2回戦進出である。

 

一発の可能性が比較的少ない伊川は打たせた後、雷市と北瀬を四球で妨害するクレバーな投球を見せた。

エースの田中は、持ち前の器用さから1球ずつ打者に合わせてリリースのタイミングを変えるというトンデモ技術を見せているのだが、連続敬遠の悪印象には勝てなかった様だ。

 

 

「ファー! これは無いやろ……!」

「薬師の守備も有り得ないけどなぁ……」

「ビール代返金しろやー!」

「新監督の責任やー!!」

 

 

 

ワンアウト満塁の場面で、打順は5番三島に回った。

ホームランが出れば逆転サヨナラだが、ダブルプレーを取られたら試合終了。

そんな場面でも、薬師高校のメンツは不敵に笑っていた。

 

 

「ガハハハ、ここで打てばヒーロー……!」

 

「三島ー! 一発打ってサヨナラだー!」

「ヒットでも俺が打つぞー!」

「主砲になりたいんだろー、ここで打たなきゃ成れないぞー!」

「お前なら打てるー! ……多分!!」

 

こんな場面でも負けるとはチラリとも思っていない薬師高校。9点差を土壇場でひっくり返した事もある為、この試合も何とかなるさと考えているのだ。

薬師高校の野球はしょっちゅう点差がひっくり返る為、彼らにとって3点差位なら誤差範囲だった。

 

 

 

最高のテンションを続けられている薬師高校に対して、堅固高校のエースは、アドレナリンで気付いていないがいつ離脱してもおかしくない程疲れ切っていた。

 

(おいおい嘘だろ?! ふざけんな!! ファー! これは無いやろ……! ビール代返金しろやー! 新監督の責任やー!! そんなに皆、俺達の事を非難しているのか……?)

 

彼は疲れ切ってしまっていたせいか、非難してくる観客達の声が、非常に大きな物に感じられていた。

1人1人の怒鳴り声が脳内に鳴り響いて、彼を苦しめ続けていた。

 

(違う。監督のせいじゃない! 俺達がやったんだ。俺達が、監督と野球を続けたいだけなんだ……!)

 

堅固高校の監督は、甲子園で初戦を勝ち抜かなければクビが決まっている。

今までの校風とは合わない型破りな作戦を好むが、部員から慕われている監督。どうにか彼と野球を続けたいと、部員達は奮起していた。

 

 

 

薬師打線に9回まで投げ続け、過度なプレッシャーに晒されている堅固ピッチャー。

対して、ノビノビと、あくまで自分が目立つ為に打とうとしているバッター。勝利の女神は、バッターに微笑んだ様である。

 

___カッキーン!

 

「ぁっ……」

「よっしゃぁ! 確定ホームラン!!」

 

「やったー!」

「三島カッケーぞー!」

「ホームラン! ホームラン!」

「俺達の打線って強すぎ!」

 

 

 

歓喜に沸く薬師高校に対して、敗北の苦い味を噛み締める堅固高校。

俺達を、新しくて破天荒な野球に導いてくれた名将が、ここで終わってしまうなんて……

そう考えながら、大粒の涙を流し続ける堅固。彼らの監督も、泣きながら彼らに指示を出す。

 

 

「クソっ! 負けたッ……」

「ううっ、勝てるかもって思ったのに……」

「大木監督……」

 

「皆っ! 整列だ、最後は声を出して終わろう……!」

『……ハイッ!』

 

 

 

「12対11で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

 

 

 

ギリギリで堅固に勝った薬師高校。ほんの少しのズレで負ける所だったのだが、彼らは特に気にしていなかった。

負けて元々の、部員12人弱小チーム。マグレでも勝てたんだから良くね?

お気楽なムードに入っている彼らだったので、テニス部員の一言にも適当に答えた。

 

 

「甲子園が凄い所だとは分かってたけど……ヤバかった。見てるだけで汗がぐっしょりだよ……」

「そう? まあ最初はビビるよな」

「俺達、絶対試合出たくないからさ。頼むから怪我しないでくれよ?」

「悪い、しないとは言えねぇわ……万が一の時は突っ立っててくれ!」

『…………』

 

全国規模の大会にド素人のまま参戦させられるという、あり得ない展開に、宇宙ネコのように虚無を味わっているテニス部員。

 

彼らは試合に絶対出たくないと考えているのだが、一応合意してここまで来てしまった以上、そう言われると何も言えない。

半ば騙されてここに来てしまったばかりに、観客達の怒鳴り声に晒される可能性に怯みまくっていた。

 

舞台に立つ可能性はマジであるので、テニス部員は覚悟しておいて欲しいと思う。

 

 

 

 

 

薬師高校とは関係ないが、今回の負けや采配からOB会長から解任を言い渡された堅固の監督。

だが部員の猛反対と、再就任予定の前監督の痛風が発覚した事で解任は無かった事になった。

 

この展開に大喜びしながら、打倒薬師高校を掲げて猛練習する事になる。

流石にまた薬師高校と当たる可能性は相当低いと思われるが……頑張って欲しい。

 

 

 

 

 

 

 




人生百一さん、オリジナル学校投稿ありがとうございます!

「北瀬・伊川・雷市への対策として超テンポ投球や超スローボールに四球攻め」
を拡大解釈して書いたのですが、もしかしたらこういった学校じゃなかったかなと書き終わってから思いました。すみません
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