【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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47球目 中堅校

 

 

 

 

1回戦の四球攻めに打ち勝ち、打撃の薬師ここにありと示した野球部達。クリーンナップ以外の部員も、投壊野球をウリにするチームとして称賛されるべき打撃力を兼ね備えている。

 

そして2回戦。次の相手は美川実業という、彼らが聞いた事もない学校である。

 

……それはそうだろう。

相手は甲子園常連とはいかないギリギリ強豪校な上、その地区は強い学校が存在しない。

薬師高校ではない、もう1つの21世紀枠と当たったから甲子園1回戦を突破できた、マグレ勝ちに近い学校であった。

 

 

 

 

監督は試合直前の話で、甲子園2回戦と考えるとあんまりにも酷い言い草をしていた。

 

 

「えー……1回戦は四球攻めもあって苦戦しましたが、次は99%勝てる相手です

145kmの速球派、カーブ、フォーク、シンカーと変化も多彩な1年生がいますが、スタミナが無いので多分途中で降板します

よって先発は雷市、リリーフは秋葉で行きます!」

 

『ハァ?!』

 

彼の言い出した、意味不明な言葉に困惑する薬師野球部。

いくら何でも、そこまで舐めプするのは不味くないか? 相手だって地方大会を勝ち抜いてきた強豪校だし、俺達って実質12人の弱小校だし……

薬師部員達も相手を少し舐めつつ、あまり手抜きするのはよろしくないのではと考えていた。

だって俺達、甲子園優勝を目標にしているって全国放送しちゃったのに、ここでコケたらダサくないか?

 

 

 

 

相手の情報を良く知らないのに、轟監督の一言だけであくまで勝てると考えている部員達。一度、自分達が弱小校だった事を思い出した方がいい気もする。

 

ちなみにほぼベンチに座っているだけのテニス部員達も、全国クラス相手にそんな適当な事を言って良いのかと困惑していた。

全国に相乗りしている俺達が言えたことじゃないけど、流石に相手をコケにし過ぎじゃないかと考えていたのだ。

 

 

「いやいや監督、その布陣は弱小校相手用ですよね? 相手は甲子園出場校っすよ?!」

 

真面目な副キャプテン、平畠の言葉をそりゃそうだがと轟監督は笑い飛ばしつつ、こう結論を述べた。

 

 

「ははっ、まーそりゃそうなんだがなぁ……うちはピッチャーが足りんのよ。マトモに運用出来るのは、北瀬真田、オマケで三島しかいねぇ」

「オマケじゃ無いっス!」

 

オマケ扱いされた三島は憤慨していたが、彼の適正ポジションは明らかにファーストなので仕方ないだろう。

打撃力に特化した才能に、パワプロ打撃育成能力が重なって大変な事になりつつあるのだから……打撃も守備もである。

 

監督は適当に三島をあしらいつつ、監督は自分の持論を自信満々に語っていた。

 

 

「この3人組で甲子園を勝ち抜く上、野手としても同時運用しなきゃいけないんだ。当然、楽出来そうな所はすべきだろ!」

 

「うーん、まあそうかもですね……?」

「カハハハ……三振イッパイ取る!」

「頑張れ雷市ー」

「こりゃ大変な事になりそうだ……」

「嘘だろ……??」

 

轟監督の手抜き作戦に、最終的にはなんとなく同意した薬師高校野球部。

まあ良いか、何とかなるさ! そう楽観的に考えて、殆ど投球練習をしていない彼らをマウンドに送る事に同調していた。

 

テニス部員達はドン引きしていたが……正規部員ではないので轟監督達は無視。

邪魔してこないなら采配に不満があったままで良いと、何もフォローしないまま話は進んでいった。

 

そして最後、片岡コーチが話を締めくくる。

 

 

「相手が誰であろうとも、自分達のプレースタイルを貫け

___大丈夫。お前達なら、絶対に勝てると信じている」

 

『はいっ!』

 

いつの間にか、轟監督ではなく片岡コーチが場の空気を整える様になっていた薬師野球部。

コーチの人柄が良いから問題ないかもしれないが、そろそろ轟監督は監督交代の危機に焦った方が良いのではないだろうか。

 

 

……

 

 

試合は5回表まで進み、薬師高校は5度のホームランと7度の長打で8点を奪っていた。

対して美川実業は、5番手ピッチャーの轟相手に相手守備陣のミスによる5点しか奪えていない。

冷静にエラーと盗塁による得点を挟み続けてはいたが、相手ピッチャーのスタミナ切れを虎視眈々と狙っている薬師高校相手に前半戦で負けている様では、勝利の可能性は低いだろう。

 

だが美川実業は、勝つことを全く諦めてはいなかった。

元より投壊の薬師相手には乱打戦前提を想定していたのもあり、冷静な対処ができているからだ。

まあ理屈で分かっているだけでホームランを打たれようが、試合の集中力を維持し続けられる美川実業は、かなり精神力がある方だと思われる。

 

 

 

 

 

だが6回表、予測の通り美川実業1年生エースのスタミナが尽き降板してから、前線は一気に薬師高校に傾いた。

 

打率の悪い下位打線など存在しない薬師打線、一度捕まれば阿鼻叫喚の地獄が始まる。

3番手ピッチャーに代えても無限に打線が続いていた。

 

 

特に酷かったのは、この回5得点でなんとかツーアウトなのに、悪魔の様に現れた男、伊川始。

ツーアウトランナー無しで、彼が余裕のツーベースヒットを打った後、打順は雷市に回る。

 

 

 

 

 

ネクストバッターサークルで待っていた北瀬は、既に直前のイメージトレーニングが終わっていた。

手持ち無沙汰に待っていた彼は、轟監督の衝撃的なサインを目にした。

 

(あの、右手に帽子を持って背後を振り返るポーズは……ディスボールサインだ!)

 

ディスボールサインとは、投手が投げるこの球で走れ、というサイン。

万が一初動が遅れたとしても絶対スタートを切らないといけない、あまり使われないサインで、普通ならフルカウント等で出てくる合図である。

まだワンストライクだから、マトモな思考なら使わないであろうサインだ。

 

 

(伊川! ベンチからディスボールサイン出てるぞ!!)

(絶対盗塁しろって……俺、盗塁やった事ないんだけど……)

 

轟監督のこのポーズ。

実はたまたま右手で帽子を触っていた時、あまりにも煩いベンチについ振り返ってしまっただけだった。

 

___だが野球経験の浅い北瀬達は気付かない。

何か深い意図があるんだと信じて、伊川は指示通りに盗塁を開始した。

 

 

 

美川実業のピッチャーが投球を開始! 

 

 

___ダダッ!

 

デカい足音を立てながら、伊川は全力で盗塁を決行した。

彼のパワプロ的能力は走力Cで走塁Dと、甲子園ではまあ普通かな程度の速さである。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

 

「サード行ったぞ!」

 

 

雷市は盗塁のサイン(?)に気付いていない為、補助は全くしていない。

だが相手バッテリーも、まさか伊川が盗塁してくるとは考えていなかった為、判断が少し遅れた。

大差負けしているこの展開で、隠し玉であろう伊川の盗塁をするとは思わなかったのだ。

 

 

 

慌てて3塁に投球したキャッチャーだが、判定は……

 

 

「……セーフ!!」

 

判定はセーフ! というより、実は割とあからさまに間に合っていた。

全く警戒していなかった伊川の盗塁を阻止出来る程、彼らバッテリーは成熟していなかったのである。

まあ成熟していても阻止するのは難しかったかもしれないが、所詮たらればの話なので良いだろう。

 

 

「えっ、今伊川盗塁したよな……?」

「良く分かんねぇけどナイス伊川ー!」

「てか意外と上手くね?!」

「伊川良いぞぉ! できるなら普段やってくれてもイイんだけどな!」

 

轟監督が間違えてサインらしき物を出していた事に気付いていない薬師ベンチは、なぜ伊川がリスクの有る盗塁を決行したのかと困惑していた。

……困惑していたが、伊川がやりたかったならヨシ! ついでに成功したしなと、楽観的な思考放棄をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

美川実業の部員達は、事前データが崩れた上で完全に薬師に情報戦負けした事を悟る。

その結果、ギリギリの所で保っていた士気が崩壊してしまった。

 

長すぎた守備にいきなりの盗塁で攪乱され、集中の糸が切れた彼らは、普段であれば捕れたはずのフライなども捕れなくなり、更に点差が離されてしまった。

 

 

「礼! ありがとうございました!」

『ありがとうございました!!』

 

 

最終的には、35対8で薬師高校の圧勝。観客達は、流石薬師打線だと感嘆の声を上げていた。

 

 

「ホームラン祭り楽しかったなぁ!」

「それに2回戦も勝てたし!」

「てか伊川って何で盗塁したんだ?」

「? だって監督、ディスボールサイン出してましたし……」

『?!』

 

伊川が初めて盗塁したのはなぜだろう、行けると思ったのか、やってみたいと思ったのか。1人の部員が、好奇心から質問した。

それに対して伊川は、平然と盗塁をしたのはベンチからのサインだと主張。

 

そういや、ディスボールとかいうサインも一応決めてたな。どうせ俺達は打つし、絶対使わないと思ってたから忘れてた。

薬師部員や轟監督すらそう考えていた。野球には真剣な監督だが、どうしても適当な所が残っているのである。

 

伊川の衝撃的な盗塁の真実が発覚しつつ、薬師高校はノリノリで今の試合を振り返っていた。

 

 

「ありゃ。そういや帽子を取りながら後ろ向いたら、そのサインだった気がするわ……」

「えっ? じゃあサインミスなんだ、完璧に決めてたのに」

「監督ちゃんとしてくださいよー」

「俺のせいかよ? 後ろでギャーギャー騒ぐのが悪いんだろうが!」

「そりゃ無いっすよ……」

 

轟監督が言い訳になってない言い訳をしながら、薬師ベンチ側の片付けを素早く終えて撤収した。

殆どの部員が試合に出ている為、疲れてない人間がいない。単純に人数が少ないから、1人1人の負担が大きい。

 

次の試合の為に早く片付けなければならないのに、人数不足により撤収作業すらキツい作業となっている薬師高校。彼らは軽い雑談をしながら、高速で支度をしていた。

ちなみに、右往左往しているテニス部員は殆ど戦力外である。

 

 

 

そして、薬師高校を偵察に来ていた強豪校は伊川の盗塁により、対薬師の想定が崩壊して悲鳴を上げていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

甲子園2回戦が終わった次の日、薬師高校は軽い調整を兼ねて練習していた。彼らは、コーチのノックで守備練習をしている。

轟監督はそれを見ながら、明日の登板を誰にするかを検討するのに没頭していた。

 

真剣に、野球をしている彼らを眺めていたテニス部員の1人、佐藤がベンチに座っているだけの轟監督に声をかけた。

 

 

「すみません、轟監督……ちょっと良いですか?」

「ん、何だ? えーっ、佐藤だっけ」

 

佐藤の意を決した様な声を聞き、今忙しいんだけどという顔をしながら轟監督は一応返事をした。

 

 

「俺を、野球の守備練習に参加させて貰えませんか?」

「……マジ?」

 

その言葉に困惑した轟監督。

こいつらって、野球やりたくないのを無理矢理連れて来た筈だよな。

佐藤が1人だけ少し練習したら、人数不足の場合確実に指名されるって分かって発言してるのか?

 

轟監督は、甲子園にド素人を出す事が可哀想だと分かった上でテニス部員を呼んでいる。

下手に練習をさせてしまえば、ミスをした時に自分自身に言い訳ができなくなってしまう。

観客の怒りを、負けた事への罪悪感を、一生抱えて過ごす事になってしまうかもしれない。

 

___だから轟監督は、自分から練習したいと言い出す奴がいるとは思っていなかったのだ。

 

 

「俺、無理やり連れて来られただけですけど……後悔したくないんです。こんなに凄い人達と全国でプレーするなら、少しでも上手くなりたいんです!

下手くそだから、練習の邪魔になってしまうと思いますが……」

 

自分だけ練習してしまえば、人数が足りなくなった時に指名されてしまう。

それを覚悟した上で、ド素人の佐藤は発言していた。

 

野球は畑違いだが、薬師高校のバッターが凄いのは分かる。下級生相手に憧れてしまいそうな程、彼らのスイングは素晴らしい。

 

もし試合に出たら、絶対に迷惑をかけてしまう、絶対に色々な人にバカにされるだろうと分かっている。

それでも彼は、北瀬達の野球に加わりたいと感じていたのである。

 

 

「分かった___付け焼き刃だが、俺らでフォローしてやる

とは言っても、俺達も守備は下手くそなんだけどな! 言い出してくれて良かった。これで俺達の取れる手段が1つ増えた!

 

……おい真田、そろそろ休憩だ! 森山はレフトに移動しろ!」

 

轟監督の発言に、とりあえず従った彼ら。

真田は守備練習抜けられてラッキーと思ってベンチに座った後、困惑した表情で質問した。

 

 

「てか俺が抜けたら、誰がライトやるんすか?」

「テニス部の佐藤だ」

「マジ……?!」

 

 

 

轟監督と佐藤の会話が聞こえていなかった部員達は、急にライトに入って来た佐藤に困惑していた。

 

ちゃんと困惑していたが、良く分かんないけどまあ良いかの精神で練習を継続。甲子園の真っ最中にも拘らず、能天気過ぎる連中である。

 

 

___ボテッ

 

「悪い、野球部の皆……」

 

「そんな事もある!」

「俺らもミスるしな!」

「正規部員でも、1試合で10エラーした奴もいるしな!」

「それは言わないでくださいよ……」

 

もしかしたら、練習に参加した佐藤の判断が、薬師野球部を救う事があるかもしれない。

それと同じ位の確率で、何かトンデモナイ失敗をしそうな気もするが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




形成さん、オリジナル学校提供ありがとうございます!
戦う場所を、地方大会から全国大会に勝手に変更してすみません。
旧バージョンと新バージョンがあり、どちらを使用しようか迷いましたが、旧バージョンを使わせて頂きました。
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