【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
解釈違いがあったらすみません。
薬師と美川実業の戦いを、ベンチ入りメンバー全員で見に来ていた、3回戦で戦う事になる青森安良高校。
薬師高校がホームランを打った時は思わず打撃能力の高さに唸っていた青森安良。
だが、予測はしていたとはいえ連続でチョンボした薬師守備陣を、汚物を見るような目線で見ていた。
3軍の1年でも取れる平凡なフライを落球するなよ……うえっ、楽勝の遅っそいゴロをエラーしやがった……
「あのカスチョンボやったら一生赦さんからな」
「知っとる! ……あんなヘボ、やる訳ないだろ!!」
凄く仲の悪かったエースと主砲だが、この時だけは全力で次の対戦の戦術を検討していた。
バカげたベイス★ボールに最強の打撃陣が付いた、甲子園慣れしていない自称強豪校の薬師。
あんな奴らに負けたら一生の恥だと、珍しく超真剣に話し合っていたのだ。
そもそも、薬師高校は強豪校を自称などしていないが……まあ全国制覇を目標に掲げた時点で、あながち間違っていないかもしれない。
「にしても、薬師のピッチャーは可哀想や。吐き気のするエラー祭りに毎回突き合わされてるんやからな……」
「本当に有り得ない守備だよなぁ。三振の時以外、2回に1回はエラーしてないか?」
「ホンマにありえへん。流石にぶん殴ってもエエやろ」
青森安良のエースは、この試合に物理的な意味で吐き気がしてきた様で、青い顔をしながら試合を観戦していた。
「まあいま投げてる轟も、野手やってる時はエラーの雨あられだけどな」
「人数不足極まりすぎや、あいつ野手投げしとったで……にしても、ホンマ北瀬は可哀想やわ」
「……お前がそういう事言うの珍しいな。何か変な物でも食べたか?」
主砲の真貝と話していて、相手を憐憫するのは珍しいなと言われたエース。
まあ確かに、俺は相手の事情なんてどうでも良いが、流石にアレは同情したくもなるわと憐れみながら口に出した。
「だってなぁ……あれだけの球速、球種、コントロールがあって地方大会平均失点7点。キャッチャーは明らかに急造で、守備がなっとらん。内心どれだけキレてても、ヘボに当たり散らせんやろうしな」
「? 北瀬だって、お前みたいに当たり散らせばいいじゃん!
てかあれだけ悲惨な守備なら、怒られてる本人だってどれだけ責められても仕方ないって分かるだろ」
真貝の言葉に、そんな考え方しか出来ないからお前はダメなんだと小馬鹿にする顔をしながら、一応エースの舞元は理由を説明してやった。
「相手は実質12人の弱小校やで? 1人嫌ですいうて抜けられるだけで大損害や……インタビュー見る限り、実力差関係なく仲良うやってるらしいしな
……格下と仲良くせざるをえんのや、北瀬は。ちょっと考えれば分かるやろ」
その言葉を聞いた真貝は、だから薬師高校の奴らはどれだけミスが起きようと仲が良いままなんだろうと納得。
俺達青森安良は、カスがどれだけ居なくなろうとも困らないから陰険な奴が多いんだろう。
特にエースのこいつ、最悪な性格してるからなぁ。環境が性悪を作ったのかもしれんと考えながら返答した。
主砲の真貝も、薬師高校のメンツと比べたら大分性格が悪いが、仲良し強豪校モドキと比べても仕方ないのかもしれない。
「そういう事か、言われてみりゃ確かに可哀想だよな。エラー祭りされてる北瀬に、なんかキャッチャー運用もされてる伊川。そしてピッチャーまでやらされる轟か……
なんであんなヘボチームにいるんだろうな」
下位打線の薬師高校の先輩達をコケにしてはいたが、彼らの目は真剣に試合を見ている。
最終的に、甲子園2回戦目で17本のホームランを出した薬師高校を、化け物を見るかの様な目線で見ていた。
「うわぁ……ホンマに大差勝ちしよった」
「何であの守備でここまで勝てるんだよ……化け物か?」
この試合の所感を熱心に話しながら、主砲はエースに先発の予想を聞いてみた。
まあコイツの意見が正しいかは全く分からんが。そう考えながらである。
「てか、次の試合北瀬と真田どっちが先発すると思う?」
「微妙な所やな
全国制覇っちゅう目標考えたら、なるべくエースは温存したいやろうけど……うちらは2番手使って勝てる程、甘くは無いで」
「いやいや、エースが来ても勝てよ」
「言葉の綾に決まってるやん!」
そして少し時間が経った頃、薬師高校の監督は、エースに対して苦渋の決断を下そうとしていた。
「単刀直入に言う……俺達が優勝するなら、北瀬が三連投するしか道はない」
「そっすか」
轟監督としては最悪の、だがチームの勝利を考えたらこれしかないという決断である。
彼の様な天賦の才を持った人間を、たかが高校生の大会でぶっ壊したらどう責任を取れるのか
___いや、絶対に取れる訳が無い。
こいつはピッチャーとして、何億何十億と稼げる逸材だ。それを壊した責任を、たかが実業団所属だったおっさんが取れる筈が無い。
今からでも前言撤回して、三連投は回避させなければいけないと頭では分かっている。
けれど、北瀬を登板させなければ、俺達の勝利はほぼ有り得ない。名門青森安良に、俺達の野球が通用する可能性は低いだろう。
優秀なピッチャーが何人もいて、野手陣だって全員が優秀。
こんな学校を相手にするなら、こちらもエースを出さなければ士気にだって関わる。
本当に、北瀬を三連投させて良いのか? 俺の判断を、後で後悔する事になったらどうするんだ?
北瀬に投げさせ続けるなら、せめて監督として偉そうに、俺が正しいと信じさせる言い方をしなければならない。
それが分かっているにも拘らず、轟監督は苦悩している表情を隠せずにいた。
当たり前だ。可愛がっている生徒に理不尽を押し付けておいて、どうやって大口を叩けばいいんだ。
そうやって、轟監督は苦悩していた。
……だが当の北瀬は、なんか悩んでるっぽい監督を心配しつつも、三連投だからどうしたという顔をしている。
彼はなんとなく、三連投位なら負担にならない自信があるのだ。
パワプロ転生する前から、彼の身体は妙に耐久性が強く、ちょっとやそっとじゃ壊れなかった。
高校生になってから、更に疲れなくなっている。やっぱり筋トレしっかりしているからかな?
それに、伊川は全力投球をし続けろと指示しなくなった。手加減していいとすら言ってくる時がある。だから特に何の問題もない。
北瀬は自分の肉体の耐久性がどれくらいかを直感しているので、三連投位なら絶対大丈夫だと確信しているのだ。
逆に周りの人間の脆さを分かっていないので、練習とか試合をしただけで壊れていく周りを見て、なんでこうなってしまうんだろうかと困惑していた。
「お前の身体は頑丈だと分かってる。だが三連投は、いくら何でも選手生命を縮めてしまうかもしれない
やりたくないならそう言ってくれ。少ない勝利の可能性にかけて、3試合目は真田に投げさせる」
「普通に大丈夫だと思います
そりゃ1日で500球投げろとか言われたら考えますけど、3日で500球位なら余裕ですよ?」
北瀬の発言は、轟監督にとっては謎の自信に過ぎなかった。
三連投がどれだけ身体に負荷が掛かるか、こいつは気付いていない。これで登板させるのは、騙し討ちに他ならない。轟監督はそう考えていた。
だが轟監督は、北瀬の言葉に縋って投げさせてしまう事にした。
球児の夢である甲子園出場、その上全国制覇という不可能に近い野望を、諦めきれなくなってしまったのである。
「……分かった。これから先の試合は、お前に任せる!
少しでも身体に不調を感じたら言えよ、真田に交代するからな」
「ウス。万が一痛くなったら言います」
試合直前、薬師高校の轟監督は普段通りの適当な発言をしながら、大胆不敵に笑っていた。
「俺達の作戦はいつも通りだ! 守備はなんとかして、打撃力で突破する!
ここから先は、テメェらの仕事だ……大好きなホームランをしこたま打って、全力で楽しんで来やがれ!」
『ハイッ!!』
対して青森安良高校の麻生監督は、試合直前のこの時間は試合予測を力説していた。
「相手の打線は強力で、エースもメジャー級だ
だが戦えば、俺達青森安良が勝つだろう。なぜだか分かるな? キャプテン」
「ハイッ! 薬師高校の守備がお粗末だからです!」
キャプテンの言葉を聞き、監督はウムウムと頷いてこう話した。
「そうだ! 野球は総合力のスポーツ。どれだけ他が優れていようと、どこかが駄目なら崩れていく物だ
___行くぞお前ら! 名門校の戦い方というのを教えてやれ!」
『ハイッ!!』
1回表、青森安良の攻撃。セカンドの陽画はカス当たりだったが、薬師のショートのエラーにより出塁。
サードの雅は、平凡な浅いフライをなんとか取った薬師のセンターによって凡退。
キャッチャーの黄河はまたもやゴロを打ってしまったが、サード轟の悪送球でセカンドの陽画はホームイン。犠打が付いた。
そして青森安良の主砲であるショートの真貝は、北瀬のスタミナを削ろうとカット打ちを目論んでいた。
北瀬のスタミナなら1日400球位までなら行けそうなので、明らかに不可能なのだが……そんな事は薬師部員以外知らない。
「ファール!」
2球、3球と順調にファールを積み重ねた様に見える真貝。伊川のリードは、カット打ち作戦を決行しても全く変わらない。
烏野高校の影山に書いてもらったリードを丸写ししてるだけなので、意図を全く理解していないのだ。
当然、相手の出方によってリードを変えるような高度な技術は使えない
一見、真貝の作戦は順風満帆に見えた。
既にたった1打席で11球を投げさせ、普通に考えたらエースピッチャーのスタミナを多く削る事に成功している。
それなのに彼は、内心顔を顰めていた。
「汚ねー! 弱小校相手にカット打ちかよ?!」
「甲子園ベスト4は弱小校じゃないだろ……」
「良いぞ! 北瀬のスタミナを削ってくれぇ!!」
「160kmが居なくなったらつまらん……」
別に、観客の野次に嫌気がさした訳でもない。自分の良心が、カット打ちを咎めている訳でもない。
青森安良高校の主砲真貝は、身長163cm。
スポーツをするには相当不利な体格をしている彼が、野球でプロ入りするには、この手段しかないと信じている。
(何だこの球は?!
___重すぎる。 本当に普通のボール使ってるのかよ?!)
直球160kmの剛速球に、打球が飛び辛くなる怪物球威を兼ね備えている北瀬。
彼のボールをカットする度に、真貝の手首が悲鳴を上げていたのである。
一方北瀬は、相手のそんな状況に全く気付いていない。
なんで俺はずっと主砲相手に投げているのだろうか? 変な打ち方してるけど、あんなのアリかよ……
クソっ、稲城実業のバント作戦は、俺達の守備が悪過ぎたから仕方ない。
でも……こんな嫌そうな顔をしながら、ずっと俺の前でバットを振らないでくれよ!
最近エースとしての自覚が出来つつある彼は、苛ついていた。卑怯に見える作戦に、まんまとハマっている自分に苛ついていたのだ。
それに北瀬は無自覚だが、信念を持った相手打者との真剣勝負が好きなのである。
苦しそうな顔をしながらバットを振り続ける真貝に、苛ついてしまっても仕方ないだろう。
確かに彼は、卑怯な作戦に嵌まっている自分に苛ついていた。
まあ本当の問題は、影山のリード集の在庫が無くなってきたから、今までのリード意味も理解せず、適当に合体させたリードをしている伊川にあるのだが……
そんな事を北瀬は知らない。
(こうなったら、俺の全力ストレートでアウトを取る! スタミナの無駄かもしれないけどな……俺はそうしたい! ……悪いな伊川)
(別に? ……やりたいならやれ。俺も守備が長くて面倒になってきた所だし)
謎のテレパシーで、伊川に全力ストレートを宣言した北瀬。
最近使用していなかった、全力のストレートを、彼のミットに投げ込んだ!
___ガギン!
「イ゛ッッ」
「……アウト! スリーアウトチェンジ!!」
この全力ストレートにも、バッターの真貝はカット打ちを決行していたが、遂に手首がヤられてしまった!
伊川は変な方向を向いているバッターの手首を気にせず、自分の方向にすっ飛んできた変な打球を捕球Aで難なく処理。
1塁に投げてアウト。これで薬師高校の攻撃の番だ。
だが、ファイアーフォーメーションの薬師の攻撃になった事より、観客達を驚かせている事があった。
「計測ミス……じゃないよな?」
「163km……また球速を上げてきやがった!」
「どこまで行くんだ? この男」
「やはり天才か……」
「全く成長しなくてもメジャー行ける男だぞ?! 天才に決まってるだろ!!」
それは、北瀬の最高球速が3km上がり、163kmまで上がっていた事である。
160kmもメジャー級なのに、まだこの青年は成長していくのか?
観客達は感動するというより、いっそビビっていた。
何だこいつ……やはり化け物か。コレが1年前まで無名だったとか、おかしいにも程があるだろ……
観客達は現実逃避を始め、彼を野球の世界に連れて行ったと思われる轟監督の慧眼を褒め称えている人もいた。
「北瀬ー良いぞー! もっとヤレー!!」
「轟監督ー! あんたは最高だー!!」
「北瀬! 北瀬!」
「北瀬! 北瀬!」
『北瀬! 北瀬!!』
いつの間にか北瀬コールが鳴り響く甲子園球場。カット打ちで自業自得気味な負傷をした青森安良の真貝の事は、すっかり忘れ去られていた。