【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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2球目 まともな部活

こんな事があったのにぐっすり八時間睡眠を取った彼らは、本当は有ったはずの春休みに後ろ髪を引かれながら、入学する高校に向かう。

そして昨日までヤンキーにパシられていた癖で、無駄に入学式の1時間前に登校し、そのまま校庭に歩いていった。

普通の事のハズだが、タバコの吸い殻も落ちてない、バイクも止まってない校庭に感動した。

 

「おーデカいなお前ら……新入生か? ならうちの野球部に入りな。初心者でも歓迎するからよ!」

「あの……すみません。あの、在校生の方でしょうか?」

 

普通に考えてそんな訳が無い。ベンチから声を掛けてきたおっさんは明らかに30代は超えている。

なのに彼らはおっさんを、卒業生なのに部活に来ている部員(?)だと確信していた。

 

勿論違う。

普通に考えたら教師か監督の筈だが、彼らのいた中学校には不良を超えてヤクザの元在校生が部員を勧誘しつつ、部室で麻雀していたので、経験からそう判断した。

 

「んな訳ねぇだろ! 監督だよ監督、野球部の!」

『まじすか』

 

何で監督がこんな寒空の中校庭にいるんだ、そもそもこんな時間の校庭なんて気合入ったヤクザしか居ないだろ。彼らはそう思い、脳内でツッコんでいた。

この場合ズレているのは彼らの常識だが、口に出さなかったので3人共気付かなかった。

 

「マジだよ。で、お前ら良い体格してるなぁ。百八十超えてるだろ、その体格を活かせる部活は野球部しかねぇ! という訳で野球部入れ、激アツな高校生活にしてやるからよ!」

『……入部します』

 

野球は比較的だが、体格がそのまま活きるスポーツではない。そんな事は少しぼんやりしている自覚がある彼らでも知っている。

だから彼らは監督の言ってる意味が分からなかった。

ぶっちゃけ部員数稼ぎか何かの、口からでまかせだと思っていたが、超受動的な彼らは断るのが面倒になって入部を決めた。

監督の言葉を正確に直すなら、うちの学校で活発に活動している部活は野球部しか無いから、体格が良いお前らはどうせなら野球部に入ろう。という事だったが、適当な彼らは脳死で入部した。

 

わざわざ監督が校庭に出待ちする様な学校なら、部活が活発に違いねぇ。あるらしいよな、時間だけは無駄に取る自称強豪部だらけの学校は。昔買った漫画に書いてあったもん。

つまり部活に入るのが強制の高校なんだろう。それなら断るより適当な部活に速攻入った方が、色んな部活に勧誘されて方なく部活を選んだ後、選ばなかった部の先輩達にボコられながらどうにか断るより、手間が省けて楽だ。

彼らはそう思い、学校の内情を何も確認せずに入部した。

実際この学校は部活に入らなくても良いし、それどころか糞忙しい部活は野球部だけだったのだが。

彼らはそれを、甲子園出場が決定して絶対退部出来ない状況になってから知ったので、後の祭りだった。

 

実際の所監督の内心は、昨年の三年生が厳しさに耐えかねて全員辞めた影響もあり人数を確保したかったので、きちんと練習すれば芽が出そうな奴を適当に誘っただけだった。

だから彼らに断られた場合、無理に勧誘はしなかったので彼らの望んでいた帰宅部に簡単になれただろう。

だが、適当な監督と適当な新入生の化学反応(?)により即戦力で経験者の天才2人が加入したので、結果的には監督の超ファインプレーだったと知ることになる。

 

 

 

 

野球部をようやく卒業した次の日に野球部入部が決まっちゃった。なんでだろうか、運がないな。

自分達で了承した事を都合良く忘れて、アイコンタクトで愚痴っていると、「薬師、高校! 薬師、高校!」という微妙にダサい掛け声が聞こえてきた。

2人がそっちを見ると、野球部のユニフォームを着た人達がこちらに向かって走って来ていた。

不良野球部にいた彼らは非常に驚いた、坊主姿の奴が何人も朝から走っていたのだ! これは真面目な部活に違いない、まともな部活万歳!!

 

多数派の人間は周りに合わせる為適当に入った部活がガチっぽかったら嫌がると思うのだが、とんでもねぇ闇部活に入っていた彼らにとっては、真面目な部活なだけで朗報だった。

というか彼らの中学は近くにラブホと飲み屋がある治安お察しな学校だったので、野球部程では無いが他の部活も荒れていた。

よって不良じゃない奴が何人も在籍しているという事実だけで、彼らにとってはSSRの部活だった。

 

『おはざーす!!!』

 

彼らは先輩だと認識した瞬間、無意識の内に大音量で挨拶した。そうしないとタコ殴りにあったからだ。

そんな事はつゆ知らない野球部の部員は、体育会系の出身だろうなと判断した。まあ確かにヤンキーも体育会系ではあるが、何か違う。

 

「おっ、元気の良い新入生じゃん! 野球部入るの? 歓迎するよ」

 

彼らはビビり散らかした。母校では歓迎=ボコるという意味だったからだ。

挨拶した彼の髪型が黒髪だがオールバックで、ヤンキーでもおかしくなかったからだ。体格が割と良く強そうに見えた事もあり、彼らは初対面でも判るほど震えていた。

 

「おい真田ぁ! 貴重な新入生をビビらしてんじゃねー!!」

「えっすいません! ビビらそうとしてないっすよ! なんか悪りぃな、怖がらせたみたいで。俺は2年の真田俊平、こっちがキャプテンの同じく2年の平畠涼」

「おう、2年間よろしくな」

 

良かったぁ、先輩がガチヤンキーじゃなくて!

俺達を脅かそうとしてきたとはいえ、彼らにとってセンコーに言われた程度で謝るって事は悪い先輩ではないだろう。

 

彼らは心の中で、速攻手のひらを返して喜んだ。

そもそも脅かそうとしてきたというのは被害妄想気味の誤解だが、口にしてないので察しの良い真田も流石に気付かなかった。これで分かったらエスパーだ。

 

「あっ、北瀬涼っす! オナシャース!!」

「伊川始っす! 2年間オナシャス!!」

「こいつ等も今日から入部して部活参加するから、キャプテン部室案内してくれ。てかしばらくの間こいつらの面倒見てくれ」

 

金髪だ……ヤンキーかな? 迷惑掛けたら殺される!

彼らはまたビビったが、さっき真田にボコります宣言された(されてない)時程恐れてはいなかった。

まともな真田先輩に紹介された平畠さんなら、多分半殺しで済ましてくれる!

ボコられ慣れていた2人は、悲しいことに骨が折れない程度で殴られる事なら慣れていた。

 

「わかりました……じゃあ案内するから付いてきてくれ」

『はい!!!』

 

澄ました顔だがクソデカボイスで返事をした。

元弱小部だから体育会系慣れしてない薬師の野球部員は、返事が体育会系過ぎてちょっと気後れし始めた。

 

「……ここが部室。開いてるロッカーの紙に名前書いて使ってくれ。」

『はい!!!』

「そんな大声で返事しなくていいよ……」

「スンマセン……」

 

先輩に怒られた(怒ってない)ので慌てて小さい声で返事した。

怒られたけど、先輩いい人だ! だって気に食わない事しても殴って来ない!! ……というかそもそも怒られてるのだろうか、これ?

遂に彼らは、被害妄想かもしれないと言う真実に気付き始めた。意外と気付くのが早い。人の視線を気にする毎日だったから、本人達が思うより状況判断力が上がっているのかもしれない。

 

「というより、別にうちはそんな体育会系じゃないからガチガチにしなくていいよ」

「は、はい!」

「まだちょっと固いかな……まあいいや、次の部屋が筋トレ用のジムな」

 

北瀬と伊川は、灰皿も吸い殻も無い事に感動していた。

これが、これがちゃんとした部活か! この部に入って良かった! 俺ら良い部活を選んだな!!

さっきは運がないとか思っていたのに、良い部活だと思った瞬間、こんな良い部活に自分で考えて選んだ俺達偉いじゃん! と誇りに思った。

判断が早い! これには鱗滝さんもにっこりだろうと、若干アニオタの気質な彼らは心の中で自慢した。

判断が間違いだらけだから駄目だろうと、根本的に賢くない彼らは考えなかった。

 

筋トレジムを紹介された時点で強豪だと気付けば、もしかしたら入部を撤回できて部活漬けの毎日ではなくなったのかもしれない。

いややっぱり無理だっただろう。停学上等の糞ヤンキー部に、ヤンキーでも無いのに惰性で通い続けた彼らに辞めると言える度胸なんて物は無い。

この段階で気が付いていたとしても、野球自体が嫌いな訳でもないので、まあいいかと流された筈だ。

 

「そう言えば、君達って野球経験者? 違うなら中古の初心者用ルールブック渡すけど」

「経験者です!! でも細かいルールは怪しいです!!」

「なら雷市と一緒に説明聞いてくれ。あ、雷市って言うのは1年生で監督の息子で、うちの四番な」

 

1年生で四番? なんでだ。彼らは疑問に思った。

別に彼らのいた中学で四番に拘っている奴は居なかったけど、入ってきたばかりの一年生が四番だと決めているのは不思議だなと思った。

ああ成程、息子を依怙贔屓してるのか。監督の権力が強いんだな。そう彼らは確信したが、不満には思わなかった。

中学時代は喧嘩に強い奴が、弱い奴に試合を押しつけてその時間も喧嘩に明け暮れていたので、態々監督に頼んで試合に積極的に出ようとするなんて雷市はまともな奴だなぁとすら思った。

 

それは違う。

監督の依怙贔屓ではなく彼が圧倒的だったのだ。2人は練習で思い知る事になる、轟雷市やべぇ。この部活ガチ部だ。と。

先輩達も思った。なんでこんな強い奴が、こんな弱小校に3人も入ってくるんだよと。

この親子持ってるなぁ、これならあの都のプリンス成宮鳴を倒して全国行けるかもしれないなと、ガチ部として練習し続けて初めて思った。

 

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