【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
相手バッターの腕が折れたり、北瀬にバットが直撃したりと、様々なアクシデントはありつつも、薬師高校は準決勝まで駒を進めていた。
春のセンバツ準決勝は、3月30日。今日は休養日に近く、明日4校が戦う事になる。
今日は午前中に軽く練習をした後、午後は取材が詰め込まれる事になっていた。
だが北瀬は、頭を打ったから今日は運動してはならないと言われてふてくされていた。
俺だけホテルで待ってろって言うのかよ、何も無かったんだから良いじゃんという感じである。
1人寂しくホテルで待っていた北瀬。部員達の練習が終わった後、北瀬も合流して取材を受ける事になっていた。
これから取材とか面倒だなぁ、俺達って野球をしにきたんじゃなかったっけ?
ホテルの大部屋で、もうすぐ始まる取材に憂鬱な北瀬と伊川。
そんな明らかに嫌そうな顔をしている彼らに対して、取材対応係に近いキャプテンの真田が朗らかに話しかけた。
「今日の取材が面倒くさいって顔してるなー
確かに、特に北瀬なんかは昨日金属バットに当たったばかりだし、ゆっくりとさせてくれても良いのにな」
真田先輩が話しかけてきたので少し喜び、北瀬と伊川は雑談に乗っていた。
彼らが尊敬している真田先輩が話しかけてくれていて、今は何もやる事がないんだから当然の話である。
「ホント、取材とか柄じゃないんですよ。何を言えば良いのか全く分からなくて、頭真っ白になっちゃうというか……
真田先輩が色々話してくれて、凄く助かってます!」
「俺も、頭真っ白にはならないけど失言してしまうんで、いっそ全部真田先輩に聞いてくれたら良いのにって思います。そこまで行くと真田先輩も面倒かもしれないですけど……」
北瀬の言った、真田先輩が取材対応してくれて助かるという言葉に対して、真田は俺はやりたくてやってるだけなんだけど北瀬を助けられていて良かったと考えていた。
そして伊川の言った全部真田先輩に聞いてくれたら良いのにという言葉に、確かに俺は嫌じゃないけど記者は雷市、北瀬、伊川の天才達に聞きたいだろうなと笑っていた。
俺達の主軸はやっぱスゲェから色んな人に見てほしいけど、この3人は取材対応が好きじゃないんだよなぁ。
そんな所も、俺が助けになれる所があって嬉しいんだけどさ。
基本的に人が良く、天才達に脳が焼かれている真田は内心そう考えていた。
野球を真剣に始めて2年で、強豪校相手にマトモに投げられる彼も普通に天才なのだが、周りにいる天才の輝きが強すぎて気付いていない。
「いや別に? 俺は目立つの嫌いじゃないしなぁ
まあ雷市に涼に始はスゲェから、じゃんじゃん目立って良いと思うけど
でも、今日だけで取材の人沢山来るよなぁ。センバツ途中なのに流石に多くね?」
「ですよね! 俺達は野球をしに来たのに、これじゃあ取材を受けに来たみたいですよ……」
大手の出版社やテレビ局の取材は、片っ端から受けている薬師野球部。
目立つのが好きな真田先輩や三島は喜んでいたが、それ以外の部員はへとへとである。
野球をしに来たのに取材を受けに来たみたいだと話している北瀬だが、野球で勝ち進んでいるから取材が沢山来るのである。
そういった理屈を、野球に委しくないからちゃんと理解していない北瀬と伊川だった。
「まーできる所は俺がフォローしてくからさ、何とか頑張ってくれよ。涼はうちのエース様なんだから、記者もなるべく話を聞きたいだろうし」
真田先輩の優しい言葉にホッとした北瀬達。
確かに俺がつまらない答えを言っても、大体真田先輩が盛り上げてくれてるなぁ! それなら大丈夫だな、良かったー!
そんな事を考えながら、北瀬達は真田先輩にお礼を言っていた。
「いつも真田先輩のフォロー助かってます、ありがとうございます! 俺、何とかやってみます……」
「俺も、取材量は北瀬と比べたらマシだと思って話すようにします。いつもフォローしてくれてるの感謝してます」
雑誌の取材をいくつか受けた後、有名テレビ局の女性アナウンサーが取材に来ていた。
生中継ではないが、明日の朝のニュースで流す予定らしい。
明らかに問題がある発言は省略してくれるから、思った事自由に言って良いと話す轟監督に、部員達は一安心していた。
そして取材に来たアナウンサーがあまりにも美人な女性だった為、脳内でめちゃくちゃ喜んでいた彼ら。
うわー、めっちゃ美人! この人に取材をされるなら悪くないなぁ!
内心取材を拒否したいレベルだった北瀬達も多少やる気を出し、ちゃんと答えてあげようと考えていた。
やはり、美人とそれ以外では対応が違っても当然だ。
「21世紀枠で、春のセンバツベスト4を成し遂げた薬師高校の皆さんに取材をさせて頂きます! リポーターの高原です、よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
リポーターの声かけに、部員達は元気よく挨拶をした。
元気よく挨拶したとはいっても声が大きめなだけで、強豪校特有の凄みというのは無かったが……どうせ薬師高校に、そういった雰囲気は求められていないだろう。
「薬師高校は、昨年秋までは予選1回戦敗退と振るわない成績でした。ですが、北瀬くんや轟くんといった1年生プレイヤーが入学してから飛躍! 夏も甲子園ベスト4と素晴らしい活躍を見せてくれました!
彼らを指揮するのは監督歴2年の名将、轟雷蔵監督。薬師高校の主砲でホームランバッターの轟雷市くんとは、実の親子関係になります!
轟監督は、薬師高校の飛躍についてどうお考えでしょうか?」
リポーターの言葉に対し、轟監督は胡散臭い笑顔で答えた。
……勘の鋭い人が見たら、嘘だと直感するかもしれない適当な発言である。
「いやーやっぱり打撃力ですね! 上位打線から下位打線まで全員が甲子園でもホームランが狙える、高校野球最強の打線ですから!
個人個人が、雷市や北瀬といったスタープレイヤーを目標に打撃力を強化していて、それが上手くハマったんでしょう……多分」
轟監督は内心、目標を明確にした努力だけで、特段才能が優れている訳でもない部員達まで打撃力が非常に強くなっている事に対して、かなり疑問を抱いていた。
たった2年の努力だけでここまで強くなれるなら、俺はプロを超えてメジャー選手になっていただろう。
でも、部員全員にプロ入りクラスの才能があったという説はめちゃくちゃじゃないか? 元々強豪校ならともかく、薬師高校は元々弱小校だぞ?
轟監督は薬師高校の飛躍に対して、実は非常に困惑していた。
だが実際結果は出ているので、理屈は分からないがそういった事もあるのだろうと一応納得しようとしている。まあ、完全に納得はできていないが。
だから轟監督は、薬師高校の飛躍についてしっかり説明する事はできないのである。
「轟監督、ありがとうございました! クリーンナップを中心にした、明確な目標が強さの原因なんですね!
では次に、全国制覇を目指す薬師高校のキャプテンの、真田俊平くんはこの快進撃をどう考えていますか?」
次に話すのは真田キャプテン。
轟監督が冷や汗を滲ませながら胡散臭い笑顔で答えた質問と、全く同じ事を聞かれていた。
だが真田先輩は、ニコニコしていて全く怯んでいない。なぜなら薬師高校が強くなった原因は、轟監督の指導力と各部員達の努力、そして天才達の存在ゆえだと信じているからだ。
真田キャプテンは内心、この快進撃は俺達の天才陣の活躍によるものだと回想していたが、テレビ向けの人好きのする笑顔でこう断言した。
「そうですね……轟親子を甲子園に連れていくという目標が、俺達を強くしたと思います
北瀬や伊川といった野球初心者に近い天才達も、彼らの目標に同調する形で練習を積み重ねてきました
一応俺がキャプテンですが、強豪校のキャプテンらしくチームの為に動けたとは思えません
センバツベスト4まで来られたのは、薬師高校というチーム全体が1つの目標に向かって努力してきた成果だと思います」
リポーターは、真田キャプテンの聡明な話し方を聞いて、この高校生はアナウンサーも向いてるんじゃないかなとも思っていた。
野球で忙しく、取材の練習などする時間もない彼が、少ない時間でここまで分かりやすく正確な発音で話すとは。
甲子園クラスの強豪校の部長で、部員達からも慕われている。その上、努力無しで美しい発音まで出来るイケメンって、天は彼に何物を与えたのか?
まあ、取材する側としては彼の様な人間がいると凄くありがたいんだけどね。
ぼんやりとそう考えながらリポーターの高原は、この取材の本命である北瀬に注意深く話しかけた。
メジャークラスの逸材である彼は、取材が苦手で短い言葉しか返してくれない事がデフォルトだ。
どうにか答え易い内容を話し、場が冷めない早さで言葉を引き出しつつ、面白い回答をして貰わなければならない。
そこまで考えなくても、163kmの選手というだけで話題性はありそうだが、上昇志向の強いリポーターは北瀬に全力で挑んでいた。
「ありがとうございます! 轟監督達の熱意が、チーム全体を動かしたという事ですね!
では! MAX163km剛腕の天才である北瀬くん、彼の強さはどうやって形作られた物なんでしょうか?
北瀬くんは、どうして自分がここまで強くなれたと思っていますか?」
尺の関係もあり、北瀬の凄さを簡単に説明した後、彼本人が自分に質問してると分かる様に名前を連呼して質問していた。
北瀬は、自分だけに質問してると感じないと返事をしてくれない事があるのだ。当然、なるべくテレビの前で話したくないからである。
北瀬は、俺の強さはどうしてかって言われても知らねぇよ。この身体にした神様かK◯NAMIにでも聞いてくれと思いつつ、なんとか答えをひねり出した。
「えっと……肉体の才能と運だと思います
俺より努力してる人は沢山いて、でも全国大会で優秀な成績が出せました」
彼の発言を正確に言い直すなら、肉体の才能と、初心者だった俺を支えてくれる人達と同じ部活に入れた運による物だと思います。
俺より努力している人達は沢山いましたが、総合力で考えると薬師が強かったから全国大会で優秀な成績が出せました、である。
明らかに言葉が足りないが、北瀬にしては最低限を口にしたのではないだろうか?
この言い方だと、自分の才能を誇っている様にも聞こえてしまうが……リポーターは全く気にしていなかった。
「なるほど。素晴らしいセンスと、良い偶然があっての快進撃という事ですね!
では北瀬くんにとって、野球をしていく中で1番運が良かったと思う出来事は何ですか?」
北瀬は少し考えた。
才能を手に入れた事だろうか? でも俺は、薬師高校にいたら才能が無くても楽しかったと思う。
強くて楽しいチームに入れた事だろうか? これは確実に正しいけど、漠然とし過ぎてないか? 北瀬は普段のコメントを棚に上げてそう考えた。
それとも、伊川が同じ部活に入ってくれた事か? でもこれは、俺達の中の良さなら普通の話だ。運ではない。
……そうだ、真田先輩が薬師野球部にいた事だ。
北瀬はそう思い付いた。伊川の次に大切な、優しくて面白い人気者な先輩。
俺が野球部に入らなければ、関われる事は無かったであろう凄い人。彼がいた事が、俺と伊川にとって1番の幸運だったと思う。
北瀬はそう思った後、明らかに圧縮された言葉で話し始めた。
「……真田先輩が同じ部活にいた事です
真田先輩の声がけが凄く嬉しくて、頑張れています」
北瀬は言葉が足りなく、緊張で顔が強張っているため、まるでキャプテンに言わされているかの様な風貌だった。
だがディープな薬師ファンからすれば、北瀬がここまで取材で楽しげに話す事が無かったのを知っている。
そして試合とは関係のない情報まで集めている薬師高校ファンは、真田は主砲の轟にも慕われている事を知っているので、明らかに実力のある後輩達からも慕われる真田キャプテンの人望に慄いていた。
「なるほど! キャプテンである真田くんの声がけに、いつも助けられているという事ですね!
では伊川くんは、薬師野球部はどういった部活だと思いますか?」
伊川は、真田先輩の声かけは確かに嬉しいけど、野球の快進撃と声かけにはあまり関係がないのではとちょっと思った。
けど気分的には助けられているし、そんな細かい事は聞いていないかと脳内で結論を出す。
その後、薬師野球部がどういった部活かという漠然とした質問に少し悩み、12人のチームメイトを思い浮かべた。
みんな良い人で野球が好きだよなと考えて、そういった雰囲気をなるべくちゃんと説明しようとした。
伊川は性格が悪めだが、記者にしっかり答えようとする程度には真面目な人間である。
ちなみにアナウンサーが北瀬相手と違い、伊川には漠然とした質問をしたのは、伊川ならある程度しっかり答えられると知っているからである。
適性があるというのは、必ずしも本人にとって良い結果ばかりを生み出す訳ではないのだ。
「そうですね……少数精鋭な事を活かした、轟雷市を中心としたチーム編成をしているのが薬師野球部です
先輩方は轟親子と会うまで、野球という競技に真剣に向き合って来なかったらしいのですが、彼らに感化されてここまで来たらしいです
俺や北瀬も、そういった薬師野球部の動きに合わせて強くなっていったと思います」
伊川は、真田キャプテン程話は上手くはないけどまあ無難に話を纏めたつもりだった。
確かに彼の別に言葉遣いとかは上手くはないが、伊川の強豪校らしくない発言なので、これはこれで面白いから有り難いとホクホクしているレポーター。
彼は賛否両論な発言をするから、真田キャプテンとは別方向でありがたいんだよなぁと考えながら、次は口下手な主砲にインタビューだと気合を入れ直した。
「なるほど! 轟監督と、その息子である轟雷市くんの熱意が、薬師高校を強豪校にしていったという事ですね!
では伊川くんの話に出た、薬師高校の主砲である轟くんは、次の巨摩大藤巻高校相手にどういった活躍をしたいですか?」
「カハハハ……本郷から、いっぱい打つ! 打ちたいです!」
今まで質問した内容の中で、1番答えやすい質問を息子の轟に回したレポーター。
轟雷市は話が非常に下手くそで、単語数個しか話してくれない事が事前情報で分かっているからこその対応である。
どういった活躍をしたいかという質問に、雷市は本郷の打球を思い出して目を輝かせ、早く対戦したいとワクワクした顔で想いを話した。
まあ口下手なので、彼の情熱とは裏腹に、相手エースから打ちたい事しか伝わらなかったが……
「なるほど。エースである本郷くんからいっぱい打てば、薬師高校の勝利が近付きますね! ありがとうございます
ちなみに轟監督に質問なのですが、10月に行われた秋季大会より6人人数が増えて、今はベンチメンバー枠が埋まってますよね?
甲子園に向けて、新たな部員を募ったという事でしょうか?」
「…………」
流石にテニス部から借りてきたとは言えねぇ。
轟監督は口籠ってしまった。薬師野球部の機密情報な事もあるが、甲子園という神聖な場所に兼部の部員を連れてきたという事が、あまりにも不敬で言い辛かったのである。
当然、部員達もどうしようと困っていた。
彼らは機密情報だと口籠ったのではなく、甲子園に他部員を連れて来るのはマズくないかと漠然と考えただけだが、だからこそ答え方が分からなかったのだ。
見かねた真田キャプテンがレポーターと部員、双方の空気を読みつつも、監督から勝手に発言権を奪い取り、後ろ暗い事など何もない様な笑顔で話してくれた。
ちなみに、放送する時は轟監督に質問というワードを削り、さも最初から真田に聞いていたかの様に報道されている。
「……そうですね、ハイ
人数不足により、フォーフィッテッドゲームで負けてしまった時から、春のセンバツに向けての部員の獲得が急務でした
そこで甲子園までになんとか部員を募る事に成功して、ここまで来て貰った形になります」
テニス部から半強制徴集した事実など、全く無かったかの様に話す真田キャプテン。
嘘はついていないが、6人が兼部している事情など全く口にしていない。
柔軟な思考力で即答したあまりの頼もしさに、轟監督は真田も大きく頼もしくなったなぁと感動していた。
本当は平畠の方がキャプテンに向いていると思っていたが、真田を指名して良かった。
こういう時、真田はめちゃくちゃ頼りになるなぁ! 流石、部活中に茶道部に誘われる男、イケメンめ!
そうやって関心していた轟監督。だがそれを真田が知ったら、野球の技術向上で関心して欲しいですねと呆れるかもしれない。
まあ真田の人当たりの良さは素晴らしい才能とも言えるし、キャプテンとして活動する事で磨かれているのも確かなのかもしれない。
リポーターは、真田にしてはつまらない回答だなと残念に思いつつ、これからも取材をするであろう彼らの機嫌を損ねない様に話をズラした。
ここで突っ込んだ質問をしたら面白い答えが得られるのかもしれないが、将来のメジャー選手であろう北瀬達の信用を失ってまでする必要は無いと考えたのである。
「……なるほど、新規で部員を集める事に成功したんですね! では次に、薬師高校のクリーンナップを務めている1年生、三島くんに昨日の試合についてお話して貰います!
3回戦で戦った、青森安良はどういった所が強かったと思いますか?」
……
散々色々聞かれてクタクタになった薬師野球部。
カメラで取られながら、散々どうでも良い事や聞かれたくない事まで聞かれて、精根尽き果てていた。
最初はこのアナウンサー可愛いなどと思っていたが、今は悪魔かと疑問視していた。
彼女が悪いというよりは、全国クラスの強豪校なのに取材慣れしていない部員ばかりな薬師野球部が悪いのだが……
そんな事を彼らは知らない。
そして、殆ど野球なんてしていないのに何分も質問されたテニス部達は、分からないから答えられない質問をどうにか捌いた疲れで目が死んでいた。
そんな死にかけみたいになっている部員達を見て、1人だけピンピンしている様に見える真田は、苦笑いしながら監督にこう尋ねた。
「明日も試合なのに死にかけてるじゃないですか、もうちょい取材削れないですかね? ……いや、好感度を稼いで観客に応援されると有利なのは分かりますけど」
真田のその言葉に、真面目な対応が苦手で疲れている監督は、急に大きな声で反論した。
ただでさえ取材対応が下手な部員ばかりなのに、真田にまで面倒だと思われてしまったら、マトモな対応が不可能になってしまうのである。
だから真田には、あくまで意欲的に記者を相手にして欲しいのだ……大人って汚い。
「良いじゃねぇか、注目されてる内が華だ!
雷市とか北瀬とかはともかく、お前が高卒プロ入りするなら知名度は欲しいだろ?
ありがたいお話だと思って、ちゃーんと聞いて話してくれや。真田は話すの上手えんだからよ」
「別に俺は取材を苦に感じないんで、沢山あっても良いですけどね! ……てか、流石に俺が高卒プロ入りは難しくないですか?」
注目されている内が華という言葉には納得した真田。
だが注目が必要な理由として、彼本人の高卒プロ入りの可能性を挙げられ、そこまで俺は強く無いだろうと苦笑いしていた。
たった12人の部内でも真ん中位の実力である真田が、高卒プロ入りなど笑い話にしかならないと考えていたのである。
実際彼は、野球部を引退した後ヤクルスワローズにドラフト上位で指名されて驚愕するのだが、それを今の彼は知らない。
片岡コーチは、才能があるのに自信がなさそうな真田を見て、お前なら行けると考え話し始めた。
「可能性はある。お前は荒々しいピッチングではあるが、強気な投球に強打のピッチャーだ
___もう少し、自分の才能を信じても良いと思う」
「アザース!」
真田は片岡コーチの言葉を聞き、やっぱりこの人良い人だよなぁと思いつつ、あまり真面目に信じてはいなかった。
環境というのは、自分をある程度客観視出来る人間ですら感覚を狂わせてしまう。
プロ入りを熱烈に志願している人間が1人しかいない、天才ばかりになってしまった薬師野球部は、真田の価値観を大きく狂わせていた。
轟監督は彼の発言に、真田らしくねぇな、もっと強気にプロ入りを目指せよと、彼を取り巻く状況を無視した思考をしていた。
実際真田は高卒プロ入りを目指せる逸材なのだが、たかが元弱小校の2番手ピッチャーであると考えている真田には難しい考え方だろう。
色々優秀とはいえ、真田はまだ高校生だから言い聞かせなければ分からない。
幼い頃から野球漬けだったにも拘らず、ずっと夢見ていたプロ入りが出来なかった轟監督からすれば、真田も素晴らしい才能を持っている事は一目瞭然。
だからこそ逆に、才能があると言い聞かせ続ける発想が無かった。
真剣に野球を初めて1年ちょいで、ピッチャーとして強豪校とマトモに戦えているのだから、敏い真田は自分の才能位分かるだろうと考えてしまったのだ。
やはり積み重ねた物がない薬師高校に漂う、元弱小校特有と適当さが、色々細かい所で不具合を起こしていた。