【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

62 / 288
51球目 守備力

 

 

 

 

今日は春のセンバツ決勝への切符を掛けた、日本中から注目される、準決勝第2試合。

薬師高校の対戦相手はこの夏準優勝校の巨摩大藤巻。

巨摩大藤巻高校は夏甲子園優勝校である大阪桐生相手との激戦を勝ち抜き、甲子園ベスト4まで駒を進めて来たのだ。

 

薬師高校も、夏の甲子園では巨摩大藤巻高校に敗北した。勝利した筈の巨摩大藤巻高校も、実質エースであった本郷から4点取られた苦い記憶がこびりついている。

お互いを強いと認めあった、強豪校同士。新たな強豪校か、元々の名門校かという違いはある。

だがどちらも今、高校野球最強クラスのチームである事は事実である。

 

 

 

 

試合直前、轟監督は薬師高校の野球という信念を、ありったけの情熱を乗せて熱弁した。

 

 

「いいか、本郷相手に1回で10点取るとかは期待出来ねぇ

だから基本、上位打線が点数を入れてく事になるだろう……その為には、下位打線がとにかく出塁しなきゃいけねぇ!

 

___だからって当ててくだけのバッティングはするな!

俺達の持ち味はあくまで長打! 打って打って打ちまくり、相手の守備を破壊するのが持ち味だ!

試合はお前達の物だ! 俺を、甲子園決勝まで連れて行ってくれ!!」

 

『ハイ!!』

 

 

 

 

 

対してリリーフに定評がある巨摩大藤巻高校の新田監督は、継投策に拘っているだろうという観客達の予想に反して、エースに対してこう述べていた。

 

 

「正宗___行けるな?」

「当然ス」

 

高校最強打線を相手にする事になる、本郷は気負いも見せず、出来ると答えていた。

彼には、実力に見合った高いプライドがある。そして、自分が出たなら必ず勝つという、強い信念があるのだ。

当然、本郷は1度も負けた事が無い訳ではない。彼の強すぎる野球への想いが、絶対に勝つという執念に繋がっているのである。

 

 

「何点取られようが、今日投げるのはお前だ

勝てばお前の功績、負ければお前の責任……分かるな?」

 

「俺が投げるなら負けません」

 

本郷は、先日の大阪桐生戦で2イニングしか投げさせてくれなかった監督への恨みや怒りを視線に乗せながら、絶対的な自負を持って敗北は無いと確信した言葉を吐き出した。

その言葉に新田監督は、積年強豪校で高校野球に関わってきた実力を兼ね備えた威厳を見せながら、重々しい声で言い捨てた。

 

 

「フン。そう言うなら見せてみろ、本郷正宗という男の力を」

 

口では悪態を吐き続けている新田監督。だが内心、本郷に対して監督人生40年の中で、最高の素材だと非常に強い期待を乗せていた。

 

(桁外れのセンスにアビリティ。本郷という男は、本来なら既に日本一とピッチャーとして騒がれていた筈だった……

___認めよう。薬師高校の北瀬涼という男は、高校最強を名乗るに相応しい男だ

だが、チームとしては未熟に過ぎる。こんな奴らに、全ての野球人が切望する、紫紺の大優勝旗を渡す訳にはいかん)

 

 

 

歴代甲子園投手2番手である、MAX151kmの剛速球。

切れ味鋭いスライダーとスプリットを持ち合わせ、どれだけ延長が嵩んでも投げ切れると確信出来るスタミナまで兼ね備える。

そして、全ての感情をピッチングで表現出来る、天井知らずのセンス。本郷という男は、自他への怒りに飲まれている程強くなる。

 

本郷正宗という男の才能に魅了されている新田監督は、彼が巨摩大藤巻という極寒の地で野球を続ける決断をした事に深く感謝していた。

 

 

 

だが、生まれた時期があまりにも悪過ぎるだろう。

 

轟という、将来的には日本の主砲として活躍するであろう桁外れのホームランバッター。

伊川という、いつ生まれても日本が誇る安打製造機として活躍するであろう特異的な天才。

そして北瀬という、本郷と同じピッチャーであり今からでもメジャー選手として活躍出来るであろう桁外れの原石。

 

彼ら3人と、本郷と同学年の相手として、3年間戦い続けなければならないのだ。

本来なら本郷を称えていたであろう民衆は、薬師高校という新星や、北瀬という世界クラスのピッチャーを支持し続けている。

 

声援など彼本人は気にしていないだろうが、まだまだ考えが浅い。場の空気というのは、彼が考えているよりも精神に大きく影響する物である。

もしかしたら本郷は影響されない可能性もあるが、たかが高校生とも言える他のチームメイトは、確実に影響されるだろう。

 

 

 

そして、プロ入りが決まるドラフト会議。本郷は本来なら、ドラフト1位で3球団競合程度が妥当な素晴らしいピッチャーである。

 

だが、それすらも薬師高校が阻みに来る。

北瀬や伊川、轟は確実に競合レベルの逸材だ。それに大きく影響された場合、三島や秋葉といった選手も元々の才能以上に強くなる可能性がある。

こうなってしまえば、本郷という逸材ですら外れ1位がギリギリ程度まで優先順位が落ちてしまうだろう。

 

野球の神様がこの世にいるとすれば、本郷に対してあまりにも苦しい試練ではないか。

 

 

 

だからこそ薬師高校相手でも勝てたという実績を、今日の試合に勝ち、本郷や他の選手に付ける必要性がある。

今の薬師高校は人数不足で、付け焼き刃でしかない部員達を甲子園に引っ張ってきている現状だ。

だが、来年はどうだ? 確実に優秀な部員が入り、薬師高校の弱点は大きく塞がれていく事になるだろう。

 

ワシが監督として立てる内に優勝したいのであれば、本郷が居る内に優勝したいのであれば、今ここで勝つしかない。

 

新田監督は、自身の指揮する巨摩大藤巻高校や本郷へ待ち受ける受難を内心嘆きつつ、甲子園優勝に懸ける想いを業火の様に燃やし続けていた。

 

 

 

 

 

 

「あれ、薬師はエース登板じゃないんだ……」

「巨摩大藤巻相手に温存? やるなぁ薬師」

「いやいや、普通に一昨日頭打ったからだろ?」

「163km見たかったなぁ……」

 

秋に負けた稲城実業や、夏に負けた巨摩大藤巻を強く意識している轟監督。

だが今回の試合は2番手ピッチャーである真田を先発として登板させると、片岡コーチとギリギリまで悩んだ末に決めた。

 

やはり轟監督や片岡コーチにとって、一昨日バットが北瀬の頭に当たった事への懸念は大きかった様だ。

最終的には、前半は野手として起用する事で変な動きをしないか様子見して、真田のスタミナが切れた時に問題が無ければ登板させるという考えで合意していた。

 

当然、北瀬を最初から最後まで登板させるより勝率は下がるだろうが、選手の安全には代えられない。

甲子園という場所に特別な思い入れを持つ彼らが、散々話し合った結果決めた結論であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1回表、巨摩大藤巻の攻撃はセンターの阿久。全体的に能力値が高く、特にミート力が高い選手で、強豪校の1番に見合った選手である。

 

薬師高校のピッチャーは、キャプテンの真田と1年生の秋葉バッテリー。

真田のスタミナ問題もあるが、急造捕手である秋葉のリード力等にも問題がある、前途多難なバッテリーである。

まあ秋葉のリードは、伊川の他人任せのコピペリードよりはマシだが。

 

 

___カキン!

 

ピッチャーの真田と、バッターの阿久の戦いは、阿久に軍配が上がった。

普通の強豪校でも落としそうな、ライトの深い所に飛んでいった打球。

薬師高校の守備では、確実にセーフになると思われた。

 

 

……だが北瀬は、走力Bを活かして全力で走る。フェンスギリギリに落ちるかと思われた打球に追いつき、全力で手を伸ばした。

 

 

___バシッ、バン!

 

ネットに突っ込む勢いのまま腕を持ち上げ、ボールが落ちるスレスレで後ろを向いたままの体勢で掴む事に成功。

走った勢いのまま胴体は壁に激突したが、恵まれた身体能力のお陰もあってボールは落とさなかった。

柔軟な筋肉もあり無傷な北瀬は、大切な友人達ににっこりとした笑顔を見せながらこう叫ぶ。

 

 

「……ワンアウトー!」

 

北瀬の故障ギリギリを縫うファインプレーに、一瞬呆気にとられた薬師部員達。

秋の大会で起きた平畠の脳震盪や、一昨日の頭部バット直撃を思い起こして青い顔をしていた。

 

だが北瀬の笑顔を見て、まあ頭をぶつけた訳ではないから大丈夫だろうとホッと一安心。

怪我してなくて良かったという気持ちや、これで巨摩からワンアウト取れたという喜び、そしてこんな試合の序盤から無茶するなよという呆れが混ざり、北瀬以外の部員は苦笑いしていた。

 

 

「……! 凄いけど危ねー!」

「涼ー! 無理してまで捕らなくて良いぞー!」

「でも良くやったー!」

 

今日の北瀬はけが人予備軍扱いされているのもあり、甲子園とはいえ無理をしてほしくないと考えている部員達。

程々にボールを追って、駄目そうなら見失わなければ問題ないと考えていた。

彼らは人が良いので、将来を懸けてプレーに没頭しろとは思えないのである。

まあ、そもそも部員が足りないから離脱者が出ると大問題だという理由もあるが。

 

というか無理して捕らなくて良いと、今投げているピッチャーでキャプテンの真田が口にしていた。

ネットギリギリのボールを捕るという軽い無茶すら、部員全員がしなくて良いと考える、守備崩壊の薬師野球部は相当おかしいと思われる。

 

 

 

この後真田が三振をしっかり取った事で、無失点で初回を終えた薬師高校。

 

「よっしゃあー! 初回無失点で終わったぜー!!」

「珍しいよな、俺達が点取られないとかさ」

「カハハハ……本郷、打つ!!」

「おっ、雷市やる気じゃん」

「折角ならホームラン頼むぜー! 俺達の主砲なんだからな!」

 

……実は甲子園に来てから、一度も初回を無失点で終えていなかったので、部員達は目の前で奇跡が起きたかの様な喜びかたをしていた。

 

だが攻撃に入った瞬間、守備で起きたラッキーなど細かい事だったかの様に、ただでさえ高かったテンションが更に上がっていた。

やはり、薬師高校の本質は投壊野球。

ホームランが大好きで、毎試合ホームランを見ないと気が済まないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の攻撃は1番秋葉。

薬師高校にしては珍しく小技も使えて守備もそこまで悪くない、薬師高校に進学したい中学生にとってはある意味希望の星な選手である。

つまり、入部しても守備能力を維持できる可能性があるという意味だ。

 

ボール球を見極めながら、フルカウントまで粘った秋葉。だが最後は球威のあるストレートでゴリ押しされ、あえなく三振となってしまった。

 

 

 

 

薬師高校の2番は秋の甲子園で打率10割の男、伊川である。

ある意味では高校野球で1番怖いバッターなのだが、彼の立ちふるまいからは強者の風格など感じられない。

 

 

___カキン!

 

1球見てストライクを取られた後、普通にヒットを打ち1塁に進んでいた。

伊川が打席に立つと、大体はヒットかツーベースなので、両校や観客達も普通の事として受け止めていた。

伊川本人は、今回はツーベースを打つ予定だったのに失敗してしまったなと、少しだけ残念がっていたのは誰も知らない。

 

 

 

 

ワンアウト1塁で打席に立つのは、ピッチャーも兼任している北瀬。

今回は先発ではなかったが、高校野球最強のピッチャーであり、薬師高校の絶対的エースとして君臨する素晴らしいピッチャーだ。

打撃能力も非常に高く、ファイアーフォーメーションと呼ばれる薬師高校で主軸を担っている。

 

そんな彼は初回からブンブンバットを振り、ボール球で振ってしまった事でノーボールツーストライクまで追い込まれていた。

3球目は明らかにボール球だったので見送り、これでワンボールツーストライク。

本郷-円城バッテリーは欠片も油断せず、全力でストレートを投げ込んだ。

 

 

___ガギーン!

 

ボールはセンター方向に飛んでいったが、本郷の剛速球によりネット際で失速し、あえなくアウト。

ちなみにネット際とはいえ、北瀬と違って守備慣れしている巨摩大藤巻のセンターの阿久は、壁に衝突したりなどしていない。

 

阿久が凄いと言うよりは、ボールの落下地点を推測するのが遅れ、慌ててボールまで全速力で走り、壁と衝突しながらキャッチする北瀬がアホなのだ。

まあそんな事をしても一切怪我がない北瀬は、ある意味守備にめちゃくちゃ向いているのかもしれないが……

 

 

 

 

ツーアウトランナー1塁で打席に立つのは、将来の日本の主砲だろうと野球に詳しくない人ですら知っていたりする、薬師高校の主砲轟である。

 

 

「カハハハ……本郷! 打つ!!」

 

ちょっと怪しげな日本語を話しつつ、大はしゃぎで打席に立っていた。

 

そして持ち前の選球眼でボール球を見極めた結果、高校野球3強と呼ばれるピッチャーである本郷から四球をもぎ取った。

 

 

 

目の肥えた観客達は、やはり轟の魅力と言えば長打力もそうだが極端に見逃し三振が少ない選球眼にあるなぁと唸っていた。

選球眼の化け物である伊川も薬師高校には在籍しているし、轟監督には何か優れたメソッドがあるのだろうと考えられている。

 

確かに轟監督のバッティング指導力は優れているのだが、彼のメソッドによる選手への影響よりも、実際は北瀬や伊川のパワプロ能力の方が大きそうなのだが……

まあ彼らの能力は打撃の練習効率を3倍にするものなので、轟監督の指導が悪ければ、薬師選手の能力は開花しなかったと思われるのでその認識でもまあいいだろう。

 

 

「四球なんて求めてねーぞ!」

「雷市ー! ホームラン打てって言っただろー!」

「1塁進むだけじゃ割に合わねぇぞー!」

「後でするエラー分の点数、先に取っといてくれよー!」

「まあエラー位全員するけどなぁ……」

 

だが四球で出塁するのは、薬師部員からの評価は凄く悪かった。

薬師野球部はクリーンナップがバカスカ点を取り、下位打線もそれに続くスタイルなのでそんな物かもしれない。

 

だが彼がプロ入りしてからは、対戦するピッチャーの平均的な実力が上がると思われるので、選球眼を今のうちから養っていく事は重要なのではないだろうか?

まあ、そんな細かい将来の事を考えている部員はいなかった。

どうせ雷市はホームランバッターとして打ちまくるんだから、ボールの見極めとか要らなくねという反応である。

 

似たような事を考え実践しているのが北瀬なのだが、そのせいで雷市より明らかに三振率が増えているのを部員達は気付いていなかった。

流石に轟監督や片岡コーチは気付いていたが、無理に治させる程悪い癖ではなかったので放置一択だった。

というか、それ以前に治させなきゃいけない事が多すぎるのである。

 

 

 

 

 

薬師高校にしては地味な打撃が続いて、ツーアウト1・2塁で打席に立つのは、5番三島。

1年生にも拘らず、他の強豪校なら4番に座っていただろうと言われるホームランバッターである。

だが、薬師高校上位選手である北瀬、伊川、轟に紛れてあまり単体では目立てていなかった。割と不憫だと思う。

 

主砲でエースになる事を全く諦めていない三島は、表情に打撃への強い執着を見せながら全力でバットを振っていた。

 

 

___ガギッ!

 

だが、彼程のバッターでも本郷という男の投げるボールのキレや球威に負け、なんとかバットに当てたとはいえ力のない球が飛んでいった。

 

 

「アウト! スリーアウトチェンジ!」

 

 

 

 

「クソッ……流石俺の倒す男リストに乗っているだけあるな! 本郷!!」

「…………うるせぇ」

 

粘ったが討ち取られてしまった事に悔しさを滲ませつつ、本郷に対して帰り際に友好的に話しかけた三島。

だが勝利に飢えている本郷にとっては、敵チームの声かけなどウザいとしか思わなかった様で、イライラした顔で交流を拒否されてしまっていた。

 

本郷からすれば、三振に取る予定だった三島に当てられた事が非常に腹立たしかったらしい。

まあイライラしていなくても、基本塩対応の本郷がマトモな対応をする事はなかっただろうが……

 

 

「惜しかったぞ三島!」

「やるのはやっぱりホームラン狙いだよな!」

「本郷って、北瀬が討ち取られる位凄いもんなー」

「てか今までで1回終わって0対0ってあったっけ?」

「それな!!」

 

打撃だけに特化した野球部なのに、1回で1点も取れなかった事は気にしていない薬師高校。

そんな事もある、次で点を取ればいいさ! 彼らはあくまでこういった思考回路だった。

 

轟監督や片岡コーチは、1点を争う試合になる事を察して、いつ北瀬を登板させるか頭を悩ませていたが……

多少の不安はあれど、選手の為に取り繕った顔をしていた監督達の内心など、眼の前の試合が楽し過ぎる彼らは知りもしない。

 

 

 

 

 

 

 

卒業した後の北瀬のアンケートです

  • 無回答
  • 高卒メジャー入り
  • 高卒プロ入り
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。