【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
5回表、巨摩大藤巻の攻撃で、薬師高校はワンアウト1・3塁と追い込まれていた。
現時点では4対4とかなり接戦の状態で、これ以上点を取られたくは無い。
守備は頼りにならない薬師野手陣を考えると、真田の三振能力が試される場面であった。
そんな緊張する場面でも、真田キャプテンは強気なインコース攻めを続けていた。
だが、真田がいくら強気なピッチングを続けていても、人は慣れる物である。
相手が流石強豪校というべきか……巨摩大藤巻は段々と2番手ピッチャーである真田の投球に慣れつつあった。
___カキン!
今まで三振が続き、良い所が見えてこなかった巨摩大藤巻下位打線のバッターが、プロ入りを噂される真田のボールを遂に捉えてしまう。
薬師高校相手なら絶対に抜けるだろうと思われる、右中間への鋭い当たり。
___だが伊川は、その打球を読んでいた。
(なんか最近、落ちる場所の予測が立てられるんだよなぁ……守備ってこんな簡単だったっけ?)
伊川は難しい打球をしっかりダイレクトキャッチし、送球Aを活かして凄く捕りやすいボールを2塁に送球。
所詮控え選手だから、薬師高校という事を考えても守備が酷い急造ショートである福田先輩も、流石にしっかり捕球。ゲッツーで巨摩大藤巻の攻撃を終わらせた。
「アウト! ゲッツー! スリーアウトチェンジ!」
実は北瀬や伊川は、パワプロ能力で得られる経験値のほぼ全てを、無意識に守備力に費やしていた。
だから甲子園という大舞台で守備の才能が開花し始め、数ヶ月前の彼らでは有り得ない程ちゃんと守備が出来るようになって来たのだ。
とは言いつつ、北瀬の球速は163kmまで上がったりと、彼は他の能力も微増していたりする化け物ぶりを披露していたが……
伊川はサボり癖があるので、北瀬程に能力は上がらなかったが、元々化け物バッターなのに守備力まで付いた完全無敵ぶりを世間に披露している。
「サンキュー始! マジ助かった!!」
「お互い様ですよ! ……いつも真田先輩達に助けられてるんで」
「マジ凄かったな伊川ー!」
「絶対捕れないと思ったのにな!」
「やったー! 次は打撃だー!」
三振を取れなかった上に鋭い当たりでは、絶対にツーベースは行くと思っていた真田は、めちゃくちゃ伊川に感謝していた。
助かった、これでなんとか休憩が取れるという歓喜である。
ピッチャーとしてマウンドに立っていた真田先輩の心からのお礼に、伊川は少し顔を赤くしながら普段の感謝を伝えていた。
キャプテン達のほんわかした雰囲気にほっこりしながらも、薬師部員達は伊川を褒め称えていた。
彼の守備が、野次を飛ばしがちな薬師高校にとってそれだけ衝撃的だったのである。
まあ実際、ちょっとしたファインプレーで大げさに驚いてしまう程、普段の守備が酷いだけなのだが……
巨摩大藤巻の先発ピッチャーである真田は、4回までで4失点と、薬師高校の守備も考慮した場合は素晴らしいであろう成績を残していた。
対して薬師高校の得点も4、相手ピッチャーが疲れてきた後半に強い薬師打線を考えると、十分射程圏内と言えるだろう。
ここまで巨摩大藤巻相手に真田が投げ抜けた理由は運も大きいが、やはり真田も成長し続けているのだ。
だが大きな懸念もある。気力だけで保たせていた真田のスタミナが、完全に尽きかけていたのを誰も気付いていなかったのだ。
元々、高校野球で2度の怪我を経験している真田。そもそも彼は元から、パワプロ表記で言うと怪我しにくさ△であり、これ以上投げ続けると怪我が再発しかねない。
(くそ、左足が痛てぇ……でもここで、マウンドを任された俺が降りるのは駄目だ!
涼は昨日、バットで頭を打ってる。アイツの身体を思うなら、俺が完投する勢いで投げなきゃいけないんだよ!)
怪我のリスクは足の痛みから薄々分かっていた真田だが、彼には投げ続けなければならない理由があった。
北瀬の怪我と、正規部員の枯渇である。
5回表までで薬師高校は、地味にショートとレフトが疲れで降板、残り交代可能人数が実質1人しかいない薬師高校。
真田まで離脱してしまうと、北瀬が不調に気付いた時も、交代要員の枯渇で抜けにくくなってしまうのである。
ベンチに帰って来た真田キャプテンは、流石の精神力で痛みを顔には出さなかった。
だが真田がマウンドから降りた後、無意識に左足を少し庇いながら歩いていた彼を見て、轟監督はすぐさま真田の不調に気付いた。
「おい真田ァ! ちょっと待てや」
「なんすか? 俺早く、ネクストに行かなきゃいけないんですけど」
轟監督に呼ばれた事を呼ばれた不思議そうにするフリをしながら、真田キャプテンは内心冷や汗をかいていた。
ヤベぇな、俺が疲れ切ってるのバレちゃったかという焦りから来る物だった。
真田は自分の不調に気付いてないのかもしれないと、轟監督は真田の表情に少し騙されながら、彼が隠していた事をあっさり見破った。
「お前今、足痛ぇだろ……交代だ」
轟監督の言葉に驚いた顔をする部員達。彼らは1人も、真田キャプテンの怪我に気付いていなかった。
バレると思っていなかった真田は、なぜバレたと思いながら一応言い訳しようとしていた。
凄い強豪校と投げ合い続けたいという想い、そしてチームの為に戦わなければならないという使命感が、真田の隠蔽癖に繋がっていたのである。
「マジすか? ……でも別に、足とか痛くないっすよ?」
真田のとぼけた発言に、呆れ返った轟監督。
コレ足に気付いてない訳じゃねぇな。俺相手に、まだ不調を誤魔化せると思ってやがるな?
轟監督は内心イライラしながらも、努めて冷静であろうとはしていた。まあ無理だったが。
お前だってプロで活躍出来る才能があるんだ、もっと自分を大切にしろ!
野球を愛する監督にとって、プロ入り出来る才能を溝に捨てようとしている真田が許せなかったのである。
……だが甲子園に拘る気持ちは分かる。この舞台は、どんな賭け事より人を熱くさせる聖地だからな。
轟監督はそうやって自分をなんとか納得させながら、監督という存在を馬鹿にしているとしか思えない真田に、軽い説教をかましていた。
「んな訳ねぇだろ! 顔に出てるんだよ、バレバレだっての……あんま大人を舐めんな!」
珍しく強豪校監督の威厳を見せながら怒る轟監督。高校生の考えている事位、顔を見れば分かると宣言していた。
実際の所、真田の不調が分かった理由は顔ではなく歩き方なのだが、またコイツは怪我を隠しそうな気がするから教えない監督。
彼は基本適当な人間だが、こういった所は頭が回った。
真田先輩の不調の可能性が確定したと分かった後輩達は、心配そうにしながら試合に対する強気な発言で、キャプテンを励まそうとしていた。
「真田先輩! ……ゆっくり休んでてください。俺達で勝ってくるんで!」
「カハハハ……俺、絶対打つから! サナーダ先輩は待ってて!」
「ここは、リリーフの北瀬に任せてください……大丈夫です、コイツもけっこう強いんで」
薬師高校のクリーンナップ達は、尊敬するキャプテンの思わぬ怪我の可能性に動揺しながらも、強い気持ちで勝利を宣言。
勝てると宣言した頼もしい天才達に、真田は少し安心していた。
(そうだよな。俺だけで出来る事なんて限られてる。俺は天才じゃないからな
だから今の俺は、薬師が誇る天才が活躍してる所を、黙って見てれば良いんだ……!)
少しだけ試合に出れない悔しさを心に残しつつ、真田は自分の行動を所詮凡人の努力だと考え、敬愛する天才達に全てを任せようと決心した。
真田本人は雷市達の頼もしい言葉を聞き、交代を心から納得したつもりになっていた。実際の所、完全には出来ていなかったと思われるが。
まあどうせ交代を決心しなくても強制的にさせられただろうが、納得したつもりになっていた方が心のダメージは少ないから良いだろう。
自分を天才ではないと考えている真田。だが実際の所、たった2年弱で超強豪校と戦える位の才能があるのだが、彼は気付かない。
というか幼少期からバットを振り続けていた雷市や、不良の暴力から逃げる為に、野球とは関係なく身体を動かし続けていた北瀬達と自分を比べない方が良いと思われる。
所詮、高校生までは部活をダラダラやっていただけだから他の天才と比べてスタミナに難があるのだと、全く気付いていない真田キャプテンだった。
ちなみにだが、怪我を察知する能力はどちらかと言うと低めな片岡コーチも部員達と同じで、真田キャプテンの怪我に気付いていなかった。
監督歴の浅い轟監督は気付いたのに不思議だと思うかもしれないが、確かに轟監督も片岡コーチも打撃偏重育成タイプで似ているが、全く同じスキルを持っている訳ではないのである。
片岡コーチは轟監督より大人数への対応が優れている様に、轟監督は片岡コーチより怪我予防が得意なんだろう。
薬師高校に小さい揉め事はありつつも、そんな事は全く関係ないといった表情である巨摩大藤巻の本郷。
というよりも、薬師高校の先発がどうして交代したかなど、巨摩大藤巻側が分かる筈もないが……
7番平畠から簡単にアウトを取った後、1人ランナーを出しはしたが、余裕の三振で豪打の薬師高校に1点も与えなかった。
「選手交代をお知らせします。6番、ピッチャー真田くんに代わりまして、増田くん。
ポジション変更のお知らせをします。ピッチャー真田に代わりまして、北瀬くん、北瀬くん……
キャッチャー秋葉に代わりまして、伊川くん、伊川くん……
ライト北瀬くんに代わりまして、秋葉くん、ライト秋葉くん……」
部員が枯渇している薬師高校は、1人抜けると大幅にポジションが変わっていく。
観客達は、めちゃくちゃ長いポジション変更のお知らせを聞きながら、元々予選1回戦負けのピッチャーでありながら、5回まで巨摩大藤巻と互角に戦った真田に温かい拍手を送っていた。
「真田ァ! 良くやったぞ!」
「お前も強かった! 流石キャプテンや!」
「後は北瀬に任せとけー!」
「あれ、結局北瀬をマウンドに送るんだ……」
「来年はお前の完投が見たい!」
こうして試合は6回表に入る。多くの観客が待ち望んでいた、163kmの剛速球ピッチャー、北瀬がマウンドに上がった。
(真田先輩の足が不調なのは悪い事だ。少なくとも、俺は彼の怪我を望んでなんかいなかった
……けどどこかで、この試合にピッチャーとして出たいと思っていたのは事実だと思う
確かに真田先輩だって強いけど、俺だって一応薬師高校のエースなんだから、当然だ)
バッターとしての活躍もしたいが、やはり自分はピッチャーだと定義している北瀬。
彼は一昨日完投したばかりだが、投げがいのある接戦を前に、ワクワクする心を抑えられなかった。
いや真田先輩が怪我しないで完投してくれたなら、それはそれで嬉しかったが、ソレとコレの話は違うのだ。
それに彼はピッチャーとして登板出来なかったせいで、パワプロ能力の超投打躍動が使用出来ていなかった。
超投打躍動というのは、ピッチャーとして活躍すればバッターとしての能力が上がり、バッターとして活躍すればピッチャーとしての能力が上がるスキルである。
自分の隠し持つ能力をみすみす腐らせている事を心の何処かで察知していたのか、彼はこの接戦の試合に登板できた事に対し、どこか喜びを感じていた。
リリーフピッチャーとしてこの試合に登板して最初に当たったのは、下位打線の6番で巨摩大藤巻のエースである本郷。
そんな、脳内でライバル扱いしている彼を相手に楽しくなってきたのか、北瀬は全力で投球したいと考えた。
(エース相手だから、せっかくだし全力で投げたい! 良いだろ伊川!)
(ええ……相手は所詮下位打線だぞ? まあ良いけどさ……)
___バシッッ!
「ストライク! バッターアウト!!」
効率的に考えると明らかに無駄な全力ストレートの配球を、まあ北瀬がやりたいなら良いかと適当に許可した伊川。
そのせいで、ただでさえコピペをしていたリードがめちゃくちゃになっていたが、まあ三振を取れたという事は良かったのだろう。
その勢いのままバッテリーは、巨摩大藤巻の下位打線相手に簡単そうに三振を奪っていた。
これで5回が終了し、薬師高校と巨摩大藤巻高校の対戦は4対4とデットヒートしていた。
エースが完投する巨摩大藤巻と、前半と後半でピッチャーを使い分けた薬師。どちらが勝つのかは、試合が終わってみないと分からない。