【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
甲子園決勝戦が始まるのを、大きなテレビを前に今か今かと待っている青道野球部一同。
同地区のライバル達が戦うのを見るのは参考になるとして、落合監督が練習時間を削ってでも見ろと言ったのだ。
大多数の部員は喜んでいたが、一部の意識の高い部員は練習が出来ない事を残念に思っていた。
まあそういった部員も決勝戦が気になっていた事は変わらないので、なんやかんや真剣に試合を見ようとしている。
「稲城実業の特色は堅い守備と、絶対的エースの存在!
背番号1の成宮鳴くんは、甲子園出場校の中で3番目に速い153kmの速球の持ち主!
その上最大の武器は、変化球のチェンジアップ! 他にも多くの変化球を持っていて、ドラフト競合が噂される素晴らしい本格派です!」
「春のセンバツ決勝に進みましたが、成宮くんはどう思っていますか?」
「ここまで来れたのは、皆のお陰です! 僕は、樹のリードを信じてますから……
皆の力を合わせて、頑張るぞ! えいえいおー!」
成宮の発言を聞きながら、前園はこう呟いていた。
「成宮ってこんなキャラじゃないよな?」
「猫被ってるんだろ」
「良うやるわ……」
ぼそっとした呟きが聞こえていた部員の一部が賛同し、やっぱなんとなく腹立つなぁと考えていた。
「対する薬師高校の特色は、まず超重量級打線!
上位打線は甲子園歴代記録を大きく塗り替えていて、下位打線すらも他の学校ならクリーンナップと言われる打撃力を誇っています!
凄まじい打撃力の代わりに守備が苦手で、エラーや失策が多いのは大きな弱点になります。
そして……薬師高校には大エースがいます。MAX163kmのストレートに、超スローボール、フォーク、スライダー、カーブを使用する、北瀬涼くんです!
彼はメジャーリーグから興味を持たれているという噂がある、日本に突如現れた世紀の天才です」
「春のセンバツ決勝に進みましたが、北瀬くんとキャプテンの真田くんはどう思っていますか?」
「勝ちたいです」
「俺は巨摩大藤巻戦の影響があり試合に出られないですが、彼らなら絶対勝てると信じています!
雷市、北瀬、伊川……俺達薬師高校の天才達は、絶対に打ちますよ」
高校野球をあまり知らない人向けの解説なので、青道メンバーからすれば意味のない時間になるかと思っていたが、キャプテンでレフト兼2番手ピッチャーの真田が今日の試合に出られない事が判明していた。
部員達は驚きながら、真田が出られない事についてざわざわと話していた。
「えっ、また真田出られないんだ」
「あいつ怪我多いな……」
「いや単純に疲れてるだけかもしれないぞ? 投手としても野手としても出続けてたからな」
試合前に流れる学校紹介を見た後、ようやく甲子園決勝戦が始まった!
青道野球部の全員が、真剣に試合を観戦している。この場面はどうしてか、俺達ならどうするかと真剣に考えているのだ。
試合をしっかり見るために音量を大きく設定したので、解説の声が大きく鳴り響く。
「ツーボールツーストライクと追い込まれた秋葉、このままアウトを取れるか成宮…………空振り三振! 秋葉と成宮の一戦は、成宮に軍配が上がりました」
高校最強打線の1番が呆気なく三振した事は、青道高校にとっては驚く内容では無かった。
青道高校は、成宮鳴という男の実力を散々思い知らされて来ているからだ。
「あー秋葉はアウトか」
「やっぱり成宮強いもんなぁ」
「秋葉も良いバッターだけど、成宮程じゃないよな」
「次は伊川か……ヒットに抑えられるかの勝負だな」
「春のセンバツで今の所10割の化け物だからな」
秋葉が討ち取られて、次の打順は伊川。
珍しく、やる気十分と言った顔をして打席に立っている。
「あれ、伊川の顔普段と違くないか?」
「緊張してるのか? 大丈夫かよ……」
青道野球部は、片岡前監督がいる薬師高校を応援している部員が多く、伊川の顔が強張っている事を心配していた。
伊川は緊張しているというより、頑張らなきゃ打てないホームランを狙っているから真剣なだけだが……打席に無関心なまま立つという思考が理解できない青道部員達は気付かない。
「初球注目していきたい所、あーっと大きな当たりですが?! ギリギリレフト線を切れて、ファール」
「少しズレていたらホームランでしたね。好打者の伊川くんにしては珍しいスイングでした」
惜しい所でファールになってしまった伊川を見て、部員達はわーわー騒いでいた。
「惜しー! もうちょっとでホームランだったのに!」
「後少し! 後少しだったよな!」
「でも行ける! これならホームラン行けるって!」
「鳴の奴、短気な所が出なきゃ良いけど……」
薬師高校を応援するムードの中、1人だけ成宮を心配している御幸の発言を聞いて、倉持が不思議だという顔をして聞いた。
「あれ、お前稲城実業応援してんの?」
「ああ。鳴達に勝ちたくて青道に来たからな、俺。どうせなら優勝して欲しいや」
御幸キャプテンを聞いた部員達は、昔から成宮をライバル視とは知らなかったという反応を示していた。
「御幸はそれで青道選んだのか、全然知らなかった」
「成宮とも仲いいのか?」
「普通位? 偶に話す位の中かな」
「それなら情報盗って来いよ!」
「あいつガード硬いから無理っすよ」
そんな雑談をしてる間に、伊川がツーベースヒット。次は3番の北瀬対エース成宮である。
序盤で1番盛り上がると言っても良い強力選手3連戦に、青道部員達の目は釘付けになっていた。
「次は成宮対北瀬のエース対決ですが、どちらが優勢だと思いますが?」
「うーん……北瀬のネクストバッターズサークルでのスイングのやり方を見るに、ホームランか三振か、極端に結果が分かれそうですね」
「成宮が振りかぶって……逝ったー!!
打った瞬間分かる当たり、フェンスを大きく飛び越えて、バックスクリーン直撃!! 北瀬、ツーランホームランを放ちました!!」
成宮相手に、打った瞬間ホームランを確信する大きな当たりを出した北瀬を見て、青道部員達は思わず絶句していた。
あの成宮からこんな当たりが出るのかよ?! 何なんだこいつといった驚きである。
北瀬が強い事は戦って分かっているのだが、成宮だって素晴らしい選手だと知っているのだから、驚いても仕方ないだろう。
「北瀬エグッ」
「俺達地区大会でアイツらと戦うのかよ……」
「ノリ先輩! 戦う前からビビっちゃダメっすよ! エースになる俺が、薬師のエースにだって勝ってみせます!」
「ビッグマウスも程々にしとけよー」
……
1回裏で、薬師野手陣は色々やらかしていた。
何回もビデオで見ているから知っているが、甲子園決勝なのにあまりにも酷い守備を見せる薬師高校に、呆れて声も出ないといった表情の青道高校一同。
「守備力の問題で、エースが討ち取った当たりもエラーになってますね……」
「北瀬くん、苦しくないのかな……」
「それにあのリードは無いだろ。北瀬はもっと凄い奴なのに……!」
「どこ目線だよ?」
守備に定評のある小湊が、呻きながら薬師野手陣の現状を口にした。
そこに降谷が、1人で戦っている様な有り様の北瀬を心配するような言葉を口にし、御幸はクソリードの伊川に腹を立てていた。
別に自分のチームじゃないから良くないかという言葉に、2番手キャッチャーの小野は微妙な顔をしながらこう話した。
「まあ御幸の言いたい事も分かる。俺達キャッチャーは、やっぱり良いピッチャーを輝かせるのが好きなんだよ
……なのに、あのキャッチャーは全く努力していない。
なんかゴロを極端に狙ってるけど、薬師高校の守備力ならどう考えても三振を取らせるべきだ
そこが俺達の付け入る隙なのは確かだけど、コレはキャッチャーとして腹が立つな」
普段温厚な小野がそう話した事で、青道部員達はそんな物かと納得した。
キャプテンの言葉より2番手キャッチャーの方が信頼されてるのはどうかと思うが、御幸は野球以外の事は信用ならないから仕方ない
「ふーん、そんなもんか」
「確かに、誰が1番やらかしてるかって言ったら伊川だよなぁ」
「あれで北瀬は良く笑ってられるよなー、真田も三島もだけど」
「というか、片岡監督がいてこんな守備のままなのおかしくね?!」
片岡監督がいるのに、なんでこんな守備なんだと嘆く言葉を聞いた部員達は、口々に自分の予想を話しだした。
「轟監督の思想なんじゃね? 最強バッター陣を作りたいみたいな」
「いくら何でもやり過ぎだけどね……」
「ナハハハ、潔くて良し!」
「僕は絶対嫌」
金丸の、最強バッター陣を轟監督は作りたいんだろうという話に対して、沢村は潔くて良しと肯定的、降谷はそんなチームは絶対嫌だと否定的だった。
社交派と人見知り、剛速球右腕に軟投派左腕、青道高校のエース候補は色々な所が正反対だが、投壊野球に対する意見も真逆らしい。
プレイヤーとしての姿勢や得意なピッチングなど、色々な所が違うからこそ、2人のピッチャーがいる事が脅威になる。
だがここまで正反対な人間だとお互い理解し合えないのではないだろうか?
だが彼らは、エースナンバーを争っているとは思えない程仲が良い。追い越すべきライバルで、尊敬すべき好敵手と考えているからこその対応だろう。
金丸が言ったように、観客達の多くは超重量級打線は監督の趣味だと考えている。
実は轟監督の意向ではなく、北瀬と伊川のパワプロ能力に問題があるのだが、そんな事は誰も知らない。
分かる訳がないので、守備崩壊の責任は轟監督にあると思われている。
監督は、彼らの攻撃に特化した才能が悪いと口にしているが、信じている人間はあまりいないだろう。
後々北瀬達が居なくなってから、打撃が少し弱くなり守備が少し良くなったので、本当に才能も関係していたらしいと判明するのだが……今は轟監督の趣味と結論づけられている。
北瀬が2番3番を三振に切って捨てるも、4番のゴロでまたエラー。
その隙に、3塁のカルロスが悠々とホームイン。野手陣の失敗だけで1点取られてしまう。
4番のゴロが取れなかったのはどう見ても野手陣のやらかしだが、簡単な打球なのにノーバンで触れてもいない為、一応記録ではヒット扱いになっていた。
倉持はあまりの守備にドン引きし、御幸は味方が何をやっても笑顔で居続ける北瀬に乾いた笑いが出て、沢村はキラキラと目を輝かせていた。
「……こりゃヒデー」
「北瀬は笑顔のままかぁ……」
「これがエースの貫禄って奴ですかね?! 俺もなりてぇ!!」
目を輝かせて北瀬みたいなエースになりたいと言う沢村に対して、倉持がこう言い返した。
「お前はアレになんねーよ。俺達が支えてるんだからな」
「そっすね! 青道高校の守備陣は日本一ですから!」
『…………』
沢村の過大発言に、食堂は一瞬静粛に包まれた。
いやまあ俺達は確かに守備上手いけど、日本一かと言われると微妙だなという空気である。
「ちょっと言い過ぎな気もするけど、そうなれたら良いと思うよ」
そんな時、今の所野手に転向している東条がにこやかに話した。
流石人当たりが良いと言われるだけある。
5番は北瀬が三振に仕留め、スリーアウトチェンジ。
これでようやく攻撃が終わると思ったのか、カメラに写った薬師部員達は満面の笑みを浮かべていた。
「うわぁ……」
偵察部隊の渡辺が思わず呻く。エースにこれだけ迷惑を掛けておいて、それで笑ってられるのかよとドン引きしているのだ。
「あいつら肝据わってるよなー」
「この守備で笑ってられる神経が分からん……」
「ていうか、片岡監督怒ってないね」
「ムム! ボスはアイツラには甘いって事っすか?!」
「普通に轟監督の意向だと思う」
2回表では薬師下位打線を三振に切って捨てた成宮。
2回裏は北瀬の投球はゴロが多く、崩壊している薬師守備陣によって2点を献上し、2対3で稲城実業優勢。
まあ序盤も序盤なので点差は簡単にひっくり返るだろうが……
「3回表、薬師高校の攻撃は1番秋葉くん。強力なクリーンナップの為にも、ここは出塁して置きたい所……
秋葉くん! 良い所にボールを落としヒット、ヒットです!」
1番の秋葉がヒットを打ったのを見て、青道部員は喜びの声を上げていた。
北瀬達のスペックに慄いているが、片岡監督が赴任した薬師高校を応援している事に変わりないのである。
「うっしゃ伊川の前にランナー出たぞ!」
「片岡監督……!」
「これで1点確定だろ!」
「ここから伊川、北瀬、轟が続くのか……稲実のバッテリーキツいだろうなぁ……」
バッテリーがキツそうだなと話す、御幸の言葉を聞いた沢村が、ふと気になった事を質問した。
「御幸! 先輩なら、この打者相手だとして、成宮さんにどういったリードするんすか?」
そう言われて御幸は悩んだ。
この回だけ考えるなら四球覚悟のボール多用策が1番安定するだろう。
だが、そう言った事を好まない鳴の調子が下がったら後々のピッチングに大きく響く。
自分がこの試合に出ていたらと悩んだ末、取り敢えずデータから読み取れる事だけを話しだした。
「……まず、伊川も普通にインコースだと長打率が下がるからそれ
北瀬は妙にカットボール打つのが得意だから、それは投げさせねぇ
轟は全力スイングなのに粘ってくるから、ウイニングショットのチェンジアップをどこで投げさせるかだな」
沢村と御幸がピッチングについて話している内に試合は少し進み、気付けば北瀬がスリーランホームランを放っていた。
「エグっ、エグすぎるわ!」
「これが1年生の打球かよ……」
「俺も成宮からホームラン打ちたいわ……いや、打つ!」
「こいつらが同地区にいるのキツいよなぁ」
ピッチャーとしてもバッターとしても最高クラスの実力を見せる1年生に、天才っているよなといった顔をしている青道部員。
奮起している生徒もいえば、相手の強さに萎縮している選手もいた。
まあ同地区に春のセンバツ優勝校と準優勝校がいる事実は、あまりにも不利過ぎるだろう。そりゃ嘆きたくもなる。
強い相手と戦いたいと言い、1番強そうなチームに行かない御幸の様な選手は珍しい。
プロ入りや進学を考えたら非合理的に過ぎると思われるが、彼はそういった計算で生きている人間ではないのだ。
「3回表では、秋葉くんが出塁し北瀬くんが2連続ホームラン! 轟くんがツーベースを放ちましたが後が続かず、この回薬師高校は3得点になり、5対3と点差がひっくり返りました」
「3回裏はどういった展開になるでしょうか……?」
「守備力が課題の薬師高校が、どれだけ冷静にボールを捌けるかといった所で決まると思います
163kmに当てられるだけ稲城実業は優秀なのですが、やはり普通ならアウトになる当たりしか出ていませんからね」
実況の解説を聞きながら、金丸と東条が微妙そうな顔をしながら話していた。
「冷静にボールを捌けるかって言ってもさ、あいつらの守備力が駄目なのは実力が無いからだよな。冷静さとは関係なくないか?」
「まあテレビで、薬師高校の守備はダメダメだからエースが三振取るしかないとは言い辛いよね。それだと伊川のリードも言及しなきゃいけないだろうし」
攻守交代の時間が挟まった所で、3回裏稲城実業の攻撃が始まる。
攻撃が終わってしまったからか、ベンチに座っている真田キャプテンがすんと真顔になった。自分がテレビカメラに映っているとは思っていないのだろう。
青道高校の部員達は、薬師守備陣の穴を少しでも多く探す為に、普通の試合としては見る価値のない場面を真剣に見ていた。
まあ穴を見つけた所で、殆ど全部穴が開いてるからあまり意味がない気もするが……それでも1番守備が弱い所を真剣に探していた。
「ノーアウトランナー無しで、打順は山岡くん。ここは泥臭く打って出塁したい所……1球目は大きく空振り」
「見てから打つのでは間に合わないですからねぇ。カンで振るしかないですよ」
名門校である稲城実業の主砲山岡が打撃に立つも、青道高校の部員達や観客達は、山岡がマトモに打つとは思っていなかった。
なぜならピッチャーの北瀬は163kmの変化球4つ持ち。
メジャー行けよと言いたくなる様な天才相手に、一発など打てる筈がない。
なぜかキャッチャーの伊川がゴロを打たせる事に執着しているからゴロでエラーが出ているだけで、本来ならゴロすら打てる相手では無いのである。
どんな結果になるか分からない、ある意味白熱した試合を見ながら、沢村は降谷に質問した。
彼にとってのライバルが、この打席をどう見ているかが気になったのだ。
野球知識の浅い降谷に聞くより、他の部員に聞いたほうが良い回答が帰ってきそうだが……沢村にとってそんな事は関係ない。
「降谷! この打席どうなると思う?」
「……エラーか、三振か、どっちかだと思う」
降谷のボソボソと話した普通の答えに沢村は満足した様で、明るい笑顔見せながら返事を返していた。
「ナハハハ、やっぱそうだよな! 俺もそう思うぜ!!」
楽しく話していた沢村と降谷だったが、沢村は皆で試合中継を見ているのにうるさくし過ぎた様で、倉持にシメられていた。
「うっせえ! もう少し静かに話せや、実況聞こえねぇんだよ」
「ギブギブギブ! 暴力反対っすよ!!」
「だからウルセェ!」
そんな寸劇をしてる間にも薬師高校と稲城実業高校の決勝戦は進み、追い込まれた山岡が何とかゴロを打っていた。
「当たった! バットの根本に当たった! ボテボテのゴロだが可能性はあるぞ
だがしかし、ピッチャーがボールを捕って送球、ファースト三島くんがしっかり捕ってアウト。これでワンアウトです」
山岡がボテボテのゴロでアウトになった所を見て、青道部員は今のプレイをどう見るかについて話していた。
「なんか北瀬の守備上手くなってね?」
「確かに。捕れて当然のボールだけど、薬師野球部にしては上手かったかもな」
「マグレかもしれないっすけどね!」
「というより、今ボールが落ちた場所って轟の守備エリアに見えたけど……」
「まじか! 言われてみれば、確かにそんな気もする」
轟のカバーを北瀬がしているかもしれないという有益な情報を入手している間に、試合はピッチャー北瀬vsバッター成宮に移り変わった。
「ここでエース対決! ここは薬師バッテリーどう出てくるでしょうか?」
「なんというか……彼らバッテリーは、主砲よりエースを意識している気がするんですよね。ここ1番を出す時は、毎回大エースを相手にしているような……」
実況の、薬師バッテリーは対エースを意識しているかもしれないという言葉を聞いて、青道部員達は本当にそうなのかを話し始めた。
「エースに全力投球してるってマジだと思うか?」
「普通なら主砲相手に全力を出すと思うけど……エースを抑えるのにもメリットあるよね」
渡辺の言うメリットが気になった沢村は、大きな声で質問した。
「そうなんすか?! エースを全力でアウトにするメリットって何すか?!」
その言葉に対して、御幸が少し呆れながら教え始めた。
「そりゃ、打撃の失敗をピッチングにも引きずる選手が一定数いるって事だろ
それに、場の空気感はエースが強く影響する事も多い
普通なら打撃力のある主砲を優先的にアウトにしたいだろうけど、薬師の場合は誰が相手でもゴロさえ出ちゃえば打たれたのと大差ない訳だし、まあエースを狙うのも有りかもな」
御幸の分かりやすい説明に、沢村は頭を下げて大きな声で返事をした。
「なるほど! アザース!!」
「だからうるせぇって!」
話している間に、成宮はワンボールツーストライクと追い込まれていたが、それでも彼は絶対に打つという顔で打席に立っていた。
「ワンボールツーストライクまで追い込まれた成宮くん、北瀬-伊川バッテリーはどう攻めるか?!」
「唸るようなストレートで空振り三振……?!
___スコアボードには164km! 歴代甲子園最速記録を、自身の手で更新しました!!」
「いやー今の時点でも怪物ですが、成長が止まっていないのが末恐ろしいですねぇ! 北瀬は日本野球界を背負うだろうと、非常に期待しています!」
実況の言う、ストレート最速164kmに更新したという言葉を聞いて、青道野球界はあまりの衝撃に静粛に包まれていた。
『…………』
テレビを見ていた部員全員が硬直していた。だが沢村も当然衝撃を受けつつも、真っ先に口を開いた。
「……ナハハハ、流石は俺がライバルと見込んだ男! 球速を更に上げてくるとは!
降谷も更新狙わなきゃな! なんてったって剛速球が取り柄なんだからよ!」
「負けない……!」
沢村の言葉に、降谷はメラメラと闘志を燃やしていた。
僕より速いボールを投げる人がいる……凄い、僕も負けない!
降谷は格上に萎縮するタイプではなく、闘志を燃やすタイプだったので心の中で打倒北瀬を叫んでいた。
強い気持ちの割に声は小さいが、彼を普段から見ている人は負けないという言葉の裏にある覚悟に気付くだろう。
これだけ強い同地区の相手に、沢村がライバルなどと口にした事で、重かった空気が少し軽くなった。
「何がライバルだ! まだ土俵にも上がれてないっつうの」
「なぬ? ……倉持先輩! 目標っていうのは高ければ高い程良いんですよ!」
「自分でも格上って認めてんじゃねーか!」
「球速に変化球……あいつに追いつく為には色々な物が必要だけど、期待してるぜ」
「ピッチャーとしては勝てなくても、チームで勝てれば良いんだ。俺達なら出来る!」
「東条! 負けを認めたらダメだぞ!!」
同地区に春のセンバツ優勝校と準優勝がいる、非常に辛い立場に置かれている青道高校。
だが、彼らは全く諦めてはいない。夏の甲子園に行くのは俺達だと、誰もが闘志を滾らせている。
そんな彼らは、この先どう成長していくのか……それはまだ、誰も知らない。