【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
16対15と、両校二桁得点で接戦という甲子園決勝では非常に珍しい数字を出しながら、次は9回表薬師高校の攻撃に入る。
「やっと終わった……!」
「疲れたァー!」
「これで攻撃だぁ!」
「……俺が三振取れなくてすみません」
「いや、別に北瀬は悪くない!」
ゴロをエラーに変えられまくったエースが謝るという謎展開が起きつつも、攻撃の番になった事で薬師部員達の目がキラキラと輝きだす。
「行けー! ホームラン打てー!」
「まぐれ当たりを狙えー!」
「増田ー! お前今何タコだぁ?!」
「増田先輩ー! 楽しんで行きましょう!!」
打順は9番増田。
下位打線だが、薬師高校の打線だけあって侮れないバッターである。守備は全く駄目だが。
こんな状況でもホームラン狙いを変えない彼は、成宮相手だろうと全力でバットを振り切っていた。
当然の様に、成宮が三振を取ってアウト。
ワンアウトランナー無しで、打順は1番秋葉。
器用なバッターであり、どんな強豪校でもスタメンになれるであろう優秀な1年生である。
___カキン!
良い感じにバットに当たり、これはセーフになると思われた。
だがショートの白河が難しい打球に追いついてアウト。ランナー無しでツーアウトになってしまった。
同点という、裏の薬師高校の守備を考えたら実質負けている様な状況で、打順は2番伊川。
___カキーン!
ホームランかもしれない程の勢いで飛んでいった打球は、角度が足りなかった為フェンスに当たりツーベースヒットになる。
今回の試合で1本ホームランを打っている伊川だが、乱打戦を望む真田先輩の為に、もっと打ちたかったと不満げな表情だった。
「良いぞ伊川ー!」
「もう少しでホームランだったぞー!」
「涼ー! 一発頼むぜー!」
「今日のお前はヤベェぞー!!」
9回表1点差の状況でも、薬師高校ベンチは野次を忘れない。
相手ピッチャーからボールを打つのが楽し過ぎるので、どんな状況でも打撃なら楽しめるのである。
例え100対10で負けていても、彼らは心の底から打撃を楽しむだろう。
まあその場合、スタミナ切れで出場メンバーが居なくなっていそうだが……
16対15、ツーアウトランナー2塁で打順は3番北瀬。
プレッシャーの掛かる場面でも、彼は楽しげな顔を崩さない。
それは責任感が無い人間だからという訳ではなく、どんな状況でも打撃を楽しむ薬師野球部の考え方を普通だと思い込んでいるだけである。
スリーボールワンストライクと、稲実バッテリーは四球を半ば容認したピッチングで北瀬に挑んだ。
___カッキーン!
だが北瀬は、高めボール気味の球を全力で打ち返した。
見た瞬間ホームランだと分かるこの打球は、場外への特大ホームランになった。
当然観客達は大盛りあがりで、甲子園決勝戦と考えても、あまりにも大きな大きな歓声が上がっていた。
「北瀬ー!! お前が最強だー!!」
「場外ホームラン最高!!」
「5打席連続ホームランヤベー!!」
「本郷は9失点、成宮は18失点……格付けは決まったな」
「轟も3本目のホームラン頼むぞー!!」
大熱狂の球場の中、次の打席はこの男。高校最強格のホームランバッター、轟雷市。
「カハハ……カハハハ……成宮、ホームラン!!」
よく分からない日本語で、雷市はホームランを宣言。
北瀬が場外の特大ホームランを放った後、大会最多本塁打の記録を持っている彼の打席に入る激アツ展開に、観客達は口々に叫びまくっていた。
___カキーン!
雷市はミートA・パワーS・アーチストと広角打法持ちの素晴らしい能力を遺憾なく発揮し、スクリーン直撃のホームランを放ってしまう。
薬師部員達はお祭り騒ぎで、また特大ホームランを放った雷市を褒め称えていた。
「良いぞ雷市ー!」
「ホームラン! ホームラン!!」
「俺達の打撃は最強!!」
「カッコいいぞ雷市ー!」
「頑張れ佐藤!!」
観客達も2打者連続の特大ホームランにテンションがぶち上がっていたが、次の打順は佐藤である。
そう、テニス部兼部で野球歴1週間の彼だ。
佐藤はこの大舞台で打席に立ち、この1週間で練習した打席での振る舞い方をもう1度回想していた。
(ド素人だって少しでもバレない様に、バットの持ち方だけは練習してきたんだ……!
どんなボールでも見逃して、三振してくれば良い。俺のやる事はそれだけ……!)
覚悟を決めた様な顔をして打席に立つ佐藤を見て、稲城実業の成宮と多田野はこう考えていた。
(筋肉もちゃんと付いてない、野球歴たった3ヶ月位のへなちょこバッターでしょ? 全部俺のストレートで、簡単に三振取れるでしょ)
(野球歴が短いとはいえ、相手は強打の薬師高校……全力で行きましょう、鳴さん!)
___ズバッ!
「ストライク!」
インコースギリギリにスライダーを決めろというキャッチャーの指示に、渋々従った成宮。
狙い球じゃなかったのか、良いボール過ぎて手が出なかったのか。
バットを構えたまま、6番の佐藤は動かない。
(やっぱりド素人じゃん、どう見ても目が追いついてないでしょ。ここはストレートしか無いね!)
(鳴さんがベンチで言ってた通り、本当にバッティングが出来ないプレイヤーなのか? それとも狙い球じゃなかっただけか?)
多田野は同じ場所にカットボールを投げて様子を見たがったが、成宮がサインに首を振り続けるので、仕方なくストレートの指示を出す。
___バシッッ!
アウトコース低めに決まったストレートに、佐藤はぴくりとも動かない。
ツーアウトまで追い込まるのに動かない佐藤を見て、多田野はようやく相手の実力を確信。
インコース高めにストレートの指示を出し、簡単に三振を取ってアウト。これでスリーアウトチェンジ。
「何だったんだ、あのバッター? 1度も振らなかったぞ?」
「積極的な薬師打線なのになぁ」
「2連続ホームランの後にこんな事するなよ……!」
「守備固めだったりするかもしれない」
「3ヶ月じゃ打撃練習まで出来なかったって事か……?」
「手のつけようのない下手くそってだけだろ」
1度もバットを振ろうともしない不可解な打者に、観客達は困惑していた。
大方の予測は、狙い球しか打たないバッターか、守備固め要員か、ただの下手くそである。
正しいのはただの下手くそという意見なのだが、そんな事は薬師野球部員しか知らない。
9回裏、稲城実業の攻撃。19対15と薬師リードで迎える打者は、4番ファーストの山岡。
高い長打性能が逆に仇となったのか、この試合ではあまり良い所が無い。
全くゴロを打ってない訳では無いのだが、下位打線の方が打っているのだ。
___ガギ
彼はゴロを打つ事に成功するが、ボール運悪くピッチャー北瀬の真正面。
余裕があったので、ファーストにふんわりとした送球をしてワンアウト。
ワンアウトランナー無しで、打順は5番成宮。
薬師バッテリーは彼を最大限に警戒し、全力ストレートを2回連続で投げて追い詰めた。
___ガギッ!
だが、ノーボールツーストライクで不用意に投げてしまった超スローボールをゴロにされてしまい、成宮はセーフになってしまう。
ワンアウトランナー1塁で、次の打順は6番サードの矢部。
彼はセカンド真正面にゴロを放ってしまったが、疲れ切っているのに交代出来ない増田は捌けず。これでワンアウトランナー1・2塁。
「ハァ、ハァ、キツい……」
「大丈夫っすか? 増田先輩……」
「この回終われば甲子園優勝っすよ!」
明らかにスタミナが枯渇している部員が何人かいるが、後は全く練習していないテニス部員しかいないので交代は出来ない。
怪我とかが出たらするしかないが、そうでなければ案山子だろうが突っ立ってて貰うしか無いのである。
次の打順は、7番キャッチャー多田野。
下位打線とはいえ、名門校のバッターとして恥じない選手である。
バットがボールを掠ったが、逆にそれが良かったのかボテボテの当たりで生還。これで全ての塁が埋まった。
だが薬師メンバーは、全く落ち込んでなどいない。
「ラッキー、これでどこに投げてもアウト取れるぞ!」
「まあ悪送球はダメだけどな!」
「北瀬ー! 伊川ー! 三振2回取って終わらせても良いんだぞー!」
「逆にアウトを取ってくれても良いですよー!」
「そうだな、頑張るぞー!」
『おー!!』
甲子園決勝戦にも拘らず、めちゃくちゃ軽い適当なノリで突き進む薬師メンバー達。
極度の疲労をテンションで誤魔化しているのかもしれないが、それにしても言ってる事が酷過ぎる。
19対15、ワンアウト満塁の場面で打順は8番、セカンドの江崎。
ゴロ狙いだから大逆転は有り得ないのに、ゲッツーで試合終了もありえるこの場面。
江崎は少し力みがでてしまったのか、北瀬-伊川バッテリーに三振を取られてアウト。
「下手くそー!」
「薬師頑張れー!」
「名門校の意地を見せてくれー!」
「まだ4点あるぞー!」
「後ワンアウトー!!」
観客達の声を聞きながら、ツーアウト満塁で、打順は9番レフトの杉。
名門校の執念か、MAX164kmのメジャー級選手にどうにか食らいつき、ボテボテのゴロを放つ。
疲れ切っているセカンドの増田と、急造ショートの秋葉がお見合いして生還。
3塁ランナーの成宮が帰塁し、点差は3点に縮まった。
満塁の場面が続いている稲城実業の打順は1番に戻り、打席に立つのはセンターのカルロス。
素早い足と好守が特徴の選手だが、この満塁の場面ではあまり関係ないだろう。
彼は制球力の高い北瀬が、キャッチャーの指示に従ってど真ん中に投げると信じていた。
___ガギン!
読みを的中させて、ど真ん中のストレートを狙い撃ち! ボールはサードを抜けてレフト方向に転がっていく。
打球が遅かった事と、真正面から転がってきた事で、ボールは見失わなかった薬師のライト。
だが2塁と3塁の選手が帰ってしまい、この土壇場で1点差まで追い詰められてしまう。
まあ、ツーアウト1点差を追い詰められるという表現は間違っているかもしれないが……
「行ける! 行けるぞ!!」
「後1点!!」
「ここを守れば俺達の勝ちだ!」
「カハハハ……絶対捕る!!」
ツーアウトランナー1・3塁で打席に立ったのは、この試合で1番打って(?)いる白河。
___ガギーン!
彼が放ったのは平凡なライトフライだが……そこは残念、テニス部が守る場所である。
ゆっくりと大きく上がった打球。1塁にいたカルロスは、既に3塁を蹴っている。
センターの山内やセカンドの増田は浅い場所を守っていた為、慌ててボールを追いかけていた。だが、明らかに間に合わない。
試合はこれで薬師高校の逆転サヨナラ負けかと思われた。
___バジッ
「アウト! ……試合終了!!」
「えっ……?? やったー!」
「ナイス佐藤!」
「神様仏様佐藤様ー!」
「俺らも取れるか分からないのに……?!」
だが、まさかのテニス部の佐藤がマグレキャッチに成功! 1週間程度の練習が、たまたま身を結んだ様であった。
普通に考えたらどう見ても平凡なライトフライだが、テニス部が取れるとは薬師部員の誰も、全く考えていなかったのである。
薬師部員達は、満塁ランニングホームランを打たれた時より驚愕していたが、あの稲城実業相手に勝利し甲子園で優勝出来た歓喜に湧いていた。
守備が崩壊し続けながらも、200球を超える投球で完投してくれたエースに、薬師のベンチメンバー全員が集まって歓声を上げている。
「勝った! 俺達が勝った……!」
「北瀬ー! 良く頑張ってくれたー!!」
「雷市も伊川もありがとうー!!」
「佐藤も頑張ってくれてありがとー!!」
「19対18で、薬師高校の勝ち! 礼!!」
『ありがとうございました!!』
稲城実業が悔し涙を流す中、薬師高校の轟監督や片岡コーチも涙を流していた。
「グスッ、俺を甲子園優勝まで連れてきてくれて、ひぐっ、ありがとう……!!」
「お前達っ___よく、本当によく頑張ってくれた!」
「轟監督……片岡コーチ……!」
「俺、頑張ってきて良かった……!!」
「轟監督が薬師に来てくれたお陰で、俺達最高の野球が楽しめてます……!」
「俺、野球部に入って良かった……!!」
気付けば涙を流していた、野球部員達とテニス部員達。
甲子園に出場するのが目標だった薬師高校がまさか優勝出来るなんてと、自分達の力で優勝したにも拘らず驚きながら、大きな喜びを感じている。
伊川ですら、周りの感情に流されて目を潤ませていた。
テニス部員達は野球に特に思い入れはなかった筈だが、場の雰囲気に流されてというか、感動シーンを見たと言うように嬉し涙を流していた。
21世紀枠初の、春のセンバツ制覇を達成した薬師高校。
雷市、北瀬、伊川という世紀の天才達の野球は、後1年半は続いていく。
ここまで読んでくださった読者様、ありがとうございました!これで無印編は完結です!
評価や誤字報告、ここ好きや活動報告での募集、そして感想をくださった読者様方の支えがあってここまでこれました!ありがとうございます!
原作の最後まで書いていきたいので、これからもできればよろしくお願いします!