【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
入学式やガイダンスが終わり、午後練が始まった。二人は運良く同じクラスになり、リーゼントや金髪がいない事に驚きを隠せないでいた。あ、おなじクラスに監督の息子の轟がいる。まあ最低限仲良くしておけばどうでも良いか。
二人は先輩だと思い込んでいたので気付いてなかったが、先に入部していた三島も同じクラスだった。
三島は、どうせ今日にでも部内で試合形式でやるだろう。俺の凄さを分からせてから話しかければカッコいいな! と思い2人に話しかけなかった。
「じゃっ新入生新しく入ってきたし試合形式にするわ。野球経験者なんだろ、北瀬? と伊川? だっけ。ポジションどこよ、後で替えるかもしれんが今回は任せるわ」
「北瀬っす! ピッチャーっす!」
「合ってます、キャッチャーっす!」
20人位はいるじゃん、キャッチャー被ったら控え確定じゃね? 俺達1年生だし……やだなベンチで先輩のご機嫌取りするのは。でも頑張った所で、先輩や監督にコネの無い俺らの待遇は何も変わんないよな。まあ因縁付けられたくないし程々に頑張るけどさ。
北瀬も伊川も、思考が完全に中学時代の負の遺産に囚われていた。
それでも、生まれ変わった北瀬のボールが凄まじく、伊川もボール逸らして先輩に怒られないようにキャッチャーとして全力でやった事で、2人共スタメンに抜擢される事になる。
「じゃ雷市と秋葉、真田と三島に分けて……じゃ他の新入生は雷市と一緒のチーム入れ。2年3年は真田のチームって感じだけど適当で良いよ。ポジション足りない所あったら上級生で埋めて
試合は5回までだけど、まあ最低でもバッター2巡するまでは投げて貰うから頑張れ〜」
流石に初回ホームラン打たせて、入部初日から自信喪失されたら困る。左ピッチャーは今薬師にいないんだからな!
だから、米原に単打を狙えと指示を出す。
ただでさえ3年生が辞めちゃって上に怒られてんのに、直ぐに一年が辞めたら監督能力を疑われるだろうし。本当は、実力の差を思い知らされても努力できねぇ奴だったら、追い出した方が楽なんだけどな。
実力も知らない所か経験者かも知らない彼らをガチ部に誘った、ちょっと無責任な監督はそう思った。
実際の所、雷蔵は誘った2人の新入生にあまり期待していなかった。
せいぜい、まあ北瀬はピッチャーで左利きだったから一巡位は任せられるかもしれないな位にしか考えていなかったのだ。
正確に言うなら、一年生時点で2人とも体格は180cmを超えていて全身に筋肉がちゃんと付いているので、将来性には割と期待していた。
けれど基本的に、弱小校に来るって時点で実力ある奴は来ないだろうと思っていた。ド素人にしては良い筋肉がついているが……
筋トレが趣味の奴特有の偽筋かノーコンかブンブン丸か、まあ何かしらの重大な弱点がある選手の可能性が高いと分析していた。
北瀬が投げる。監督は審判をしていたので、ちゃんとストライクにボール来るかなぁ、来ればいいなぁと思いながら一応目を凝らして見ていた。光るもんがあればいーなー位の感覚だが。
───バンッッッ!!
「…………ストライク!」
(有り得ねぇ! 140……150は出てるだろ)
首筋にゾワっと、鳥肌が立った。
エースの……いや、元エースの真田とて弱小校にいるには勿体ない。プロになれる可能性のある才能を持っていて、監督として非常に期待しているのだが。
それでも、北瀬はその上を行くだろう。150km出せるという事は、手に塩をかけて育てた雷市に匹敵する実力だと言う事だ。
いやコントロールや変化球によっては、いとも簡単に雷市すらも超えるだろう。
野球全員が。2人の新入生以外が、驚きで硬直していた。
彼ら2人だけが、いつも通りに会話する。
「北瀬良いーじゃん! いつもより速いんじゃね?」
「そりゃバッピしかしてなかったし、普通に上がるだろ!」
「そりゃそうか!」
(この才能をバッピで使い潰していたのか……なんて事しやがるんだ勿体な過ぎるだろ)
轟監督は、彼らを指導していた元監督に呆れ、憎しみすら覚えた。
碌な指導者じゃねぇな、こいつらの元監督。
なんでこんな才能が放って置かれたのか。ド素人でもこいつの才能は判るだろ!
憤慨しながら、細かい事を気にしない性格で割と適当な指示も多い轟監督にしては珍しく、ガチで見ていた。
今のボールは内角低めにズバッと決まったが、紛れか実力か。この球速がある以上、コントロールが悪く今のは紛れでも凄いが……こいつの実力を正確に見極める必要がある。
こんな甲子園クラスのボールを、見て打つ事なんて出来る筈もない。米原は1球でそう理解し、狙い撃ちする事にした。
どこに来る? 内角低めと来たら、次は内角高めというのは良くあるだろう。外角高めの方が確率は高そうだが、そんな球が来たらお手上げだ。
まあもし当たったからといって、ちゃんと飛ばせる気はしないが……やらないよりはマシだ。
米原はそう判断し、敢えてバットを長く持った。当たり辛くはなるが、こんな豪速球だ。ミート力を犠牲にでもしないとボールが飛ばない。
伊川がサインを出し、北瀬は投球モーションに入る。
何も考えていないサインに、キャッチャー言われた通り投げましたし良いでしょという、細かい考えとかは一切無い脳死投球だった。
それでもフィジカルの強さによって、完璧に近い投球になる。
対して米原は、バットを振るギリギリまで打開策を考えていた。
こんな速さの球、バッティングマシーンでしか打ったことが無い。真面目に打とうとした事すら無い。お遊びでちょっとやっただけだ。
それに昔打ったのは、人間の投げる球とは大違いのバッティングマシンの棒球だ。対策なんて取れる経験がまったく無い。だから、まぐれ当たりを祈って場所もタイミングを当てずっぽうで振る。
これだけ考えた上でのヤケクソスイングだ。
それでも、振らないよりは可能性があるだけマシだろうし。それに1年生が入部してきたばかりなのに、フォアボール待ちなんてつまらない試合をする訳にはいかないし……
───バンッ!
「ストライク!」
うわっ、マジかよ! コントロールミスでど真ん中に来てくれたと思ったら、左に大きく曲がった。内角という予測は当たってたのに、全く通用しなかった。
球速差が激しいからスローカーブか? いや、直球が速すぎてそう感じただけか? 恐らく球種はカーブ系。
さっきのストレートと全く同じ場所、内角低めにズバッと決まった。
というかこんなにコントロール力が高いのに、態々全く同じ所に投げる必要無いだろうに、打者の目が慣れるだろう。
俺達を挑発してるのか? まあ確かに連続で同じ奴投げられても、全然当たる気しねぇけどさ。
一応先輩に敬意だし、ちょっと位敬意を払ってくれても良くないか? 同級生相手だとしても酷い配球だぞこれ。
米原はちょっとイラッとしたが、あっさり追い込まれてストライクツー。こいつ等バッテリーなら、また同じ所に投げそうだな。そう思い米原は内角低めのストライクに狙いを定めた。
ピッチャー振りかぶって、投げた!
───バシッッ!
予想は大きく外れ、というか相手投手の情報が無い今の段階では予測しようのない、ストライクに見せかけたスライダー。ぐうの音も出ない空振り三振だった。
このピッチャーやべぇよ! 恐らく成宮以上の左腕。何で中学で注目されなかったんだろうか? まあ、偶々うちに来てくれたのは、宝くじが当たったレベルのラッキーだったけど。
轟監督は顎が外れる程驚いていた。ドラ1でも早々現れない逸材、馬鹿でも一球見れば本物だと分かるだろう。
それに、ちょっと考えただけで分かるがキャッチャーも才能がある。
四隅の角、それも内角低めにばかり集めるリードはどうかと思うが……まあこの2人の実力があれば、自信満々で俺達のボールは打てないと思っていても当然だ。
これがどうやって無名のままでいたのか。
2人以外、内野も外野も棒立ちでもベスト8位は行けるだろう。中学生レベルならヒット一本打つのも殆ど無いだろうし、外野なんて飛ぶ筈が無い。
あるいは打撃が論外で、チームメイトも論外だったから1回戦負けか。こんな身体能力ある化け物がそんな程度な事があるのか?
いや監督が論外なら、そもそも基本もまともに教えない……か? 轟監督はふとそう気付いた。
まさかキャッチャーにも、「四隅に、特に内角低めに投げさせるように」なんて教えた結果がコレだったりして。いや流石に無いか?
監督が野球未経験者でも、ちょっと考えればおかしいって分かりそうな物だが……100%無いとは言えない。
そんな状況で、よくここまでの投手に育ったよな。と、彼らの才能にドン引きしていた。
サークルチェンジまで投げられて、サクッと三球三振×3人で攻撃が終わる。
次は打撃だ。打順は適当に1番目にしたからキャッチャーの伊川が打つ。こいつ等のセンスだけを考えれば、うちの真田がホームランにされてもおかしくない。
だがこのバッテリーは無名。練習内容も最悪だっただろうから、とんでもないへなちょこ打撃でもおかしくない。
───カンッ
上手い、左中間に落とした!
初球から打った球は内野寄りの左中間にふわっと落下。あんまり守備が上手くない薬師の内野は当然取れずに堂々進塁、ノーアウト二塁。
(おいおいうちの真田は高校レベルで楽々打てるもんじゃねぇぞ、どうなってるんだ)
2番目にはピッチャーの北瀬。こいつまで打撃が出来たら、マジで何でこいつ等が無名だったのか全く意味が分からなくなる。アレか、不祥事か?
───ガツンッッ!
内角にストライク。
少しだけタイミングをずらせたが、恐ろしいパワーで場外まで持っていったっ!……だが運良く、右に大きく切れてファール。
続けて2球目、3球目。
普通のピッチャーなら、初球からあれだけ盛大に飛ばされたら、気持ちで負けても仕方ない。
次の球はインコースに大きく外れた。だが真田の投球は唯の逃げ腰のフォアボール狙いでは無い。勝負に勝つつもりの、ビビらせる為の内角鬼攻め、2球続けて打者にぶつかりそうな程内角のボール球を投げた。
4球目、ここでアウトコースに鋭く曲がるシュート。
このタイミングでこのコースなら、強打者だろうと仰け反りかねない……だが。
───ガキーン!
真芯を捉えて思いっ切り引っ張られ、見た瞬間分かる特大のホームランにされる。
流石に……ピッチング中は鬼メンタルの真田でもあ然としていた。それでも直ぐに気を取り直して秋葉を見逃し3振にし、悪送球も絡み雷市にスリーベースヒットにされたが後続を抑えた。
だが……初回のピッチングを見た瞬間分かっていた事だが、北瀬のボールを一切攻略出来ずにヒットが出ず0点。このまま続けば完全試合も有り得る投球をされる。
対して真田は、伊川・北瀬・雷市という投手にとって最悪のバッターを抑え切れず、6失点。
数字だけ見ると確かに失点は多いが、高校レベルではどうしょうもない打者が3人も続いていたので、不運としか言いようが無い。
(ラッキー、こりゃ行けるわ! 甲子園!)
関東最強クラスのバッターである雷市。少し悔しいが、雷市を越える実力を持つピッチャー北瀬。リード以外は完璧だった伊川。
この3人がいるなら、他をある程度鍛えれば監督が指示をやらかさなきゃ勝てる。
秋葉・真田・三島という、甲子園でスタメンにいても全くおかしくない実力者の3人が霞んでしまう、最強と言ってもいい3人だ。
これを指揮するのが、監督2年目の俺!! 野球神だか打撃神だかに感謝しなければならない幸運だ。
全く信仰深くはないが、審判の癖に思わず手を合わせて感謝していた雷蔵だった。
ふと思い出したが何故この2人が全くの無名だったのか、結局分からないので聞いてみる。
一体何が起きたのか。親友の様に見えていたが、まさか別の学校から来たのか。
「やばかった! こりゃやべぇわ、まじやべぇ……で、何でお前ら無名なの? 普通推薦で強豪行くでしょ」
何をやらかせばこうなるのか戦々恐々としながら聞いたが、彼らにはどうしょうもない理由だった。
「1年の時は怪我してて出場出来なくて、2年になったら出れるかと思いきや先輩がヒカリモノ使って年少行きで1年対外試合禁止っス」
ヒカリモノとは何か雷蔵には分からなかった。バッターをライトで邪魔したとかそんな感じだろうか。ルール違反はいけない。
駄目な親ではあるが流石に殴り合い等はしていない轟監督は、喧嘩でナイフを使った場合ヒカリモノと呼ぶのを知らなかった。
そして、ヒカリモノの意味が分からなかったので聞き直してしまった。
「光物って何だ、ライトで照らしでもしたのか?」
「……喧嘩相手をナイフで刺したって意味っス」
そりゃ無名のままだわ。
どんな弱小校所属だろうと出場さえ出来ていれば強豪校に進めたであろうに、実力からすれば有り得ない全くの無名だった理由を知り、彼らのあまりの不幸さに頭を抱えながら雷蔵は納得した。
先輩が喧嘩相手を刺したとか意味不明だが、別に北瀬と伊川がやった訳では無いなら、監督としては全く問題ない。
そんなやべぇのがチームメイトにいた2人には深く同情するが、まあこちらとしては来てくれてラッキーだ。
轟監督はのびのびと才能を活かせなかった彼らにその場では深く同情したが、彼にとって自分が関係する野球以外の事はどうでも良い事なので、そんな感情は1分も経てば忘れた。
空もすっかり暗くなった頃、部活の終了が言い渡されて、ようやく終わったと思いきや皆が真剣にバットを振っていた。
当然北瀬と伊川は空気に流され、一緒にバットを振っていた。本当なら春休み1日目で、仲良く自宅でゲーム三昧だった筈なのに。
現実は昨日の今日で懲りずに野球部に入部、ずっとバットを振り続けている。
でも俺達の休みが無いのは野球部が悪い訳じゃ無いんだよなぁ。監督も部員も全員真面目なだけなんだから。じゃあ仕方ないか。と、これから先に起こる強豪校並の野球漬け生活を見なかった事にした。
まあ中学の頃より良い先輩が沢山いるし、同級生もまともっぽいし。と無理にやる理由を探して。
まあ結局、ここで退部届を出せるようなメンタルを彼らは当然持っていなかったのだ。
ヘトヘトになって帰るかと思いきや、ピンピンしていた。あんなにずっと練習してたのに、不思議だ。身体が変わったからに違いない。
近いが違う。正確に言うなら、彼らは直前に育てていたキャラに憑依していたのだ。
サクセスで2人共鉄人を取っていたから、体の耐久値が大幅に上がっていたのだが、運良く現実と同じポジション・球種を選んでいた彼らが気付くことは一生なかった。
「なぁ、俺らこんなに野球上手く無かったよな。この身体になってから強くなってねぇか?」
「それな! あんなボール投げれるとか俺凄くね!」
「顔が変わる時すげぇ痛かったけど、イケメンでスポーツ万能になれたなら寧ろ得じゃね!」
「トクトクプランじゃん」
実はさっき育てた、パワプロのキャラに転生していた彼らだが、そういう小説を読むオタクでも無いので気付く事はない。
ピッチャーの北瀬なんかは、前世と球種が変わるとピッチングに支障が出そうだが、作る時に適当に自分の持ってる球種を入れていたから問題が起きていなかった。
そんな幸運にも、彼らは一切気付かない。