【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
北瀬と伊川とスカウトは熱心に話し合い、話し合った結果は5年120億という超高額金額を提示してくれた。
スカウトは、この逸材を絶対他に取られたくなかったのだ。だからメジャーで通用するか分からないこの段階で、超大型契約を締結しようとしていた。
北瀬はオプションに、家族である伊川の生活資金を毎年約3000万と、その他諸々の契約などを北瀬と同じ代理人が行う事。
通訳や栄養士やフィジカルトレーナーを専属でつける事などの彼らにとって絶対必要な内容を締結していた。
練習を、普通ならプロ入り出来る程度にはしていない北瀬はフィジカルトレーナーを付ける事を少し嫌がっていた。
だが放って置くとマトモに練習しないであろう、彼の底辺を這っているやる気を見抜いたスカウトが、口先八丁で認めさせていた。
まあ伊川よりは野球にやる気がある人間だが、メジャー選手としては全く足りないのである。
それ以外にも、日本との往復航空券がファーストクラスで往復4回や、薬師野球部のメンバーを北瀬が出場する試合に希望者を1回連れて来る事。
そして給与は80%後払いなどの条件を追加して貰っていた。
伊川の生活資金や契約管理は、トリプルAでは生活できないと分かった北瀬がお願いして付けてもらった内容である。
北瀬からの資金援助でも良かったが、伊川の性格上かなり困らないと要求できない事を見越した判断だった。
90%給与後払いは、後々北瀬が生活難で困らない様にと考えた、伊川が熱心に提案していた。
この形態での支払いの場合、確かに球団もぜいたく税に引っかからなくなるし、北瀬にも利息が付くメリットがある。
だが若い頃に贅沢ができなくなってしまうデメリットもあるのだ。
だが、あまりお金を使う趣味がない北瀬は簡単に賛同し、それで行こうと考えたのである。
だがこれを慌ててストップをかけたのはスカウト、せめて20%は先に受け取って欲しいと考えたのである。
メジャー選手は全ての野球人の憧れなのに、あまり質素な生活をされると困ってしまう。
メジャーにもいわゆる年金はあるから、せめて毎年4億は受け取って欲しいと言い出したのだ。
良く分からないけど、元々沢山お金を支払ってくれるなら、まあ80%貯金でいいか。
……ん? 手元に4億毎年来るという事か?! 怖すぎる……
北瀬は豪遊したいタイプではないので、突如湧いた4億円貰える可能性にビビり散らかしていた。
どうしよう、詐欺に狙われたら最悪だという感じである。
現メジャー選手で、似た形態を取っている選手は8人。
それも若い子の身内が自ら言い出したケースは無かった為、スカウト達を驚かせていた。
なぜなら給与が支払われるのが遅れるという事は、身内が金銭を強請れる時期も遅れてしまうという事だからだ。
メジャー選手になる前に親の連れ子と野球がやりたいと話した北瀬や、同じく親の連れ子の子供の為に自らが不利になる提案をした伊川。
それを見ていたスカウトは、金銭面で身内と揉める選手は多いが、彼らなら本当に大丈夫かもしれないとチラリと感じた。
……ちなみに給与の大半を未来に持ち越した北瀬だが、将来はもっと稼ぐ様になった為、完全に無駄だった様である。
まあ未来がどうなっているかなんて分からない為、この選択は現時点では安牌だった筈だ。
ほかにも、最優秀救援投手賞やゴールドグラブ賞で5億、プラチナ・ゴールド・グラブ賞で10億、サイ・ヤング賞で20億、その他トロフィーで1億の追加収入という契約も追加されている。
「あの、この金額、契約したらマジで受け取って良いんですか……?」
「当然だよ、君にはそれだけの価値がある。環境に適応さえすれば、高校1年生の今ですらサイ・ヤング賞を取れるスペックだからね」
怪我などがなければ、この契約から下がる事はないと確約したマリナイズのスカウト。
これが本気の話だと理解した北瀬は、高卒でメジャーに行こうと本気で考えた。
海外に行くのは怖いけど、伊川もいるし通訳だって付けてくれるから大丈夫。
そう考えながら、ふと治安面が不安になった北瀬。護身術でも学ぶべきかとスカウトに質問した。
「あの、アメリカって日本より治安が悪いんですよね。護身術って学ぶべきですか?」
その言葉を聞いて、困った顔をしたスカウト。北瀬の言っている事があまりにもトンチンカンだったのだ。
日本とは違い、アメリカは銃社会。犯罪者は凶悪な事が多く、ちょっとした護身術なんかで対応出来る筈がない。
これは考えを訂正させなければマズいと考えたスカウトは、にこやかに北瀬に回答した。
「護身術を使うのは辞めて。付け焼き刃の動きだと、銃には対応出来ないだろうから
プロのSPをこちらが雇っていますから、緊急時は彼の指示を聞いて欲しい」
「SP?! 必要ですか?!」
北瀬は自分にSPが付けられる想像など全くしていなかったので、素っ頓狂な声を上げて困惑していた。
甲子園優勝投手とはいえ、普通の生活をしている彼からすれば想像もつかない話だったのだ。
「日本はそうでもないかもしれないけど、海外だと金持ちにはSPを付けるのは常識なんだよね
悪いね、最初は気になるかもしれないけど皆付けているから従ってくれ」
「わ、分かりました……」
北瀬は海外事情など全く知らないので、そんなもんなんだと納得して了承した。
別に北瀬は自分にSPが付く生活が嫌なのではなく必要性が分からなかっただけだから、皆付けていると言われたら納得したのだ。
「他に言いたい事はあるかい?」
北瀬は悩んだが、意を決した様に話し始めた。
「…………伊川のマイナーリーグ行き、本契約の時伊川が嫌だったら辞めて欲しいんです」
覚悟を決めた様に話す北瀬に、スカウトはこの話は凄く困ると思いながら、鉄壁の笑顔を崩さずに質問した。
「その場合でも、北瀬は来てくれるんだよね?」
その言葉に、人柄の良いスカウトと話している内にメジャー行きに前向きになった北瀬が返事をする。
メジャー行きという一大決断を、何となくの気分でで決めてしまう北瀬は適当な人間かもしれない。
いや、眼の前に大金を積まれているから当然かもしれないが。
「はい。俺は伊川と一緒が良いけど、やっぱり嫌がってる人を連れてくのは良くないと思いました」
「そうか……伊川が来てくれないかもしれないのは残念だけど、北瀬が来てくれるなら良かった! 2年後、君がメジャー選手として活躍する事を楽しみにしている」
スカウトと翻訳者が帰った後、彼らはどっと疲れが出て大きなため息をはき、それでも話したくてたまらないといった顔つきをしながらワイワイと話していた。
「それにしても……北瀬も伊川もプロ入り出来るだろうとは思ってたけど、まさか今の時期からメジャーのスカウトが来るとはなぁ! マジでビビったぜ」
「俺もビックリしました! 野球の中でもトップクラスに凄い場所なんですよね……俺、ちゃんとやっていけますかね?」
北瀬の弱気な発言を聞いた片岡コーチは、威厳の溢れる声だが生徒思いな内面を覗かせる言葉を掛けていた。
「活躍出来るかは、お前が日々をどう過ごすかで決まる
まだ卒業まで1年以上あるが___卒業してからもお前の活躍を期待している」
「…………あざっす!」
親しい人がこれからも見守ると直接言ってきたのは伊川だけだった北瀬は、驚いた後ほっぺを赤くしながらお礼を言っていた。
卒業して関係が薄くなっても、自分を見ていてくれると言ってくれたのが嬉しかったのだ。
本気でその言葉を信じている訳でもないが、もしそうだったら良いなと思いながらはにかんでいた。
そんな北瀬を微笑ましく思いながら、少し羨んでいた伊川。
ふと気になる事が思い付いたので、轟監督に質問しようとしていた。
「……そういえば、さっき監督は雷市をメジャーに推さなかったですよね? なんでですか?」
俺を北瀬が売り込んだ様に、轟監督が息子を売り込めば良かったのに。なんでしなかったんだろう?
監督はダメ人間だけど、なんやかんや雷市に甘いんだから。
監督というポジションの人間が、メジャークラスの選手と息子をまとめ売りする事を、全く悪いと思っていない伊川がそう質問した。
不思議そうな顔をしてゲスな発言をする伊川に、轟監督はそりゃねえよと呆れながら苦笑いしてこう答えた。
「……いや、雷市は即メジャーで活躍出来る程じゃない
確かに俺の息子は高校最強格バッターだけど? 流石にそんな無謀な真似はさせられねぇよ
そんなの、日本でトップに立ってから考えりゃ良い」
薬師高校の主砲である雷市が即メジャーで活躍出来る程強くないと話す監督の言葉を聞き、少し不安そうな顔をした伊川。
メジャー挑戦なんて無理だろという、諦め口調で結論付けていた。
「監督……」
「轟監督が、雷市の事を下に言うのは珍しいですね……親バカに近いのに
というか、それなら北瀬もヤバいんじゃ……いや、先に契約金くれるから別に良いですけど」
大金貰えるなら別に活躍出来なくても良いかという、北瀬の才能を舐めた様な発言をした伊川に、轟監督は強い口調で力説し始めた。
自分に無い才能を持つ彼らが、彼らの才能に見切りを付けるなど許せないからである。
「強い息子を可愛がるのと、実力差を認めねぇのは別だっての。そんなの雷市にとっても良くないだろ
それに、北瀬は絶対通用する!! 打率を考えりゃ、伊川だって今からでも行けるだろ!」
伊川の言葉に対し、息子に甘い自覚はソレとコレとは話が別だと力説もした。
熱心な轟監督の言葉を聞いて、そんな物かと納得した北瀬。
監督が割と適当な人間である事を忘れている気もするが、野球に対しては熱心な性格なのでまあ大丈夫だろう。
同時に、野球のスキルアップの為なら博打じみた生活を選ぶ、ちょっと破綻した人間でもあるのだが……
轟監督は、見知らぬ子供に、河原で小銭を貰って野球を教える様な人間だ。
息子がいるにも拘らず気付けば借金も作っていたし、生き方的な助言は全く役に立たないだろう。
寮の自室に戻った北瀬達は、まるで白昼夢を見ていたかの様な感情を抱きながら、呆然と先程の出来事を話していた。
「俺がメジャーで120億って……驚いたな……」
「凄いよな北瀬! おめでとう!」
まだメジャー選手になる自覚がない北瀬に対し、彼が得られる大金の事しか考えてない伊川。
野球人なら、誰もが羨むような成果を、良く分からないけどヤバい物位にしか考えていなかった。
「ホントに凄い……この身体、どうなってるんだろ」
「さあな! 神様か何かしか知らないだろ、俺達には分かんねぇよ」
「でもさ、この身体って俺達の物じゃないよな……そんな奴が、メジャーなんて舞台に行っていいのか?」
北瀬は声を落として、囁く様にこう話していた。
神様が創った特注品の身体だとして、それでスポーツをするのは違う気がする。ルール的に良くなくね?
彼は、他の人の肉体を乗っ取った可能性は全く考えていなかった。身分証明書に載っている名前が、彼も伊川も同じだったからである。
実際の所、平行世界の自分と入れ替わっていたのだが、それを彼は知らない。
まあ中にいた人が死んでなくて良かったと言うべきか?
中の人は、彼らが元いた世界でも自分の持っていた能力を引き継ぎ、高校野球界でメジャー級ピッチャーと超天才キャッチャーのコンビとして名を馳せている。
平行世界の伊川は、ステータスに球界の頭脳が付く程にリードが上手かった。
薬師高校の様に良い監督や選手が偶然いた訳でもないので、ほぼ2人で野球をしている形になっているが……
伊川は北瀬の言葉を聞いて、やっぱりコイツは正義感の強い奴なんだよなぁと微笑ましく思いながら言い返した。
彼には、セコいからやらないという発想が無い。
「別に、神様か何かが作った身体の人は出ちゃいけませんみたいなルール無いし良くね?
というか、俺達だけが身体が変わった人間とかって事は無いだろ。選手の中に一定数いそうじゃね? 言わないだけで」
「……確かに。そりゃそうか!」
世界人口何十億人の中で、彼らにだけ起こった出来事だとは考えていない伊川。
バレたらヤバいかもしれないから言わないだけで、一定数他にも居るんだろうなと考えていた。
その言葉を聞いた北瀬も納得。当然、俺達だけって事は無いかと安心していた。
……実は世界中探しても身体が入れ替わった人間は彼らだけなのだが、そんな事は当然知らない。
「甲子園も楽しかったけど、メジャーも楽しみだなぁ! どんな選手が居るんだろうな?!」
「今よりレベルが上がる事は確かだな。頑張れ!」
あからさまに他人事の様に話す伊川。
北瀬は、伊川も当事者なんだけどなぁと思いながら、野球に強い関心があるわけでもないので雑談の様に適当な声で話す。
「ていうか、伊川も来るんだったら頑張らなきゃじゃん。考えとかないと」
「俺はトリプルAで数年やった後、そのまま現地の大学入るから別に良いよ。北瀬が野球続けるなら、関連企業に就職できたらとは思うけど」
「夢がないなぁ……」
「北瀬みたいに大金を掴む人間ばっかりじゃないさ」
卒業したらアメリカに渡ろうと考えている北瀬達。
けれど日本のプロ野球のスカウト達からも熱烈な勧誘が来て、伊川がマイナーリーグより待遇良いかもと悩む事を、今の彼らは知らない。