【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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60球目 新入生

 

 

 

 

4月1日、今日は新入部員が入学してくる日だ。

 

寮の鍵が開く朝5時には続々と新入生が続々と入寮してきていて、北瀬と伊川の部屋にも新入生が入って来た。

 

ドアをノックし、今日から同室になる新入生が入ってきた。

 

 

「おはようございます、1年生の由井薫です! よろしくお願いします!」

 

「ふあぁぁ、なんすか……? あっ、今日から新入生が入ってくるんだっけ。俺は2年生の伊川始だ! よろしく

上のベッドで爆睡してるのが、同じく2年生でエースの北瀬涼。昨日夜更かししてるから、後1時間位寝かせてやってくれ」

 

 

連日の甲子園での試合やスカウト襲来の精神的な疲れで爆睡していた伊川だが、部屋に入って来た新入生の挨拶で目が覚め、パジャマ姿のままベッドから降りて挨拶をした。

やべぇ、新入生が入ってくるの忘れてた。もうちょい部屋を片付けておけば良かったなと考えている。

彼らの部屋は、整理整頓の習慣が付いているので汚くはないのだが、割と真面目な伊川はそう考えていた。

 

昨日メジャーからスカウトが来ててんやわんやしていたから、今日から新入生が入ってくるというのにベッドで爆睡していたのである。

 

 

「分かりました! ……伊川さんは下のベッドで寝ているんですね。移動しなくて良いんですか?」

 

由井は、普通上級生が上のベッドを使うと知っているので、下級生が使おうとする前に移動しなくて良いのか聞いた。

 

伊川にそんな常識はインストールされていないので、不思議そうな顔をしながら返事を返す。

 

 

「別に、ベッドとかどれでもいいしな。下級生2人が下を使いたいなら移動するけど」

「それなら、俺は遠慮なく上を使わせて貰いますね! ありがとうございます!」

 

上を使うと宣言した由井に対して、もう1人の1年生の意見は聞かなくて良いのかと内心思っていた伊川。

だが、どちらが好きなベッドの場所を取れるかなんて取ったもの勝ちかと思い直し、特に何も言わなかった。

 

これから1年半やっていく後輩だし、何か話しかけてみるかと思った伊川。

轟監督が漏らしていた情報を、適当に話してみる事にした。

 

 

「そういえば……今日から始まる春季大会のベンチに、由井って選ばれてるらしいけど知ってるか?」

「??!」

 

伊川は普通の事のように思って話したが、由井は非常に混乱していた。

まだ何も成果を出していないのに、甲子園優勝チームのベンチに選ばれていた事が意味不明だったのだ。

 

だが部員足りないから当然だろうと考えている伊川は、混乱している由井を不思議がりながら、追い打ちを掛けるように情報を追加した。

 

 

「どうした? 変な顔してるぞ

ああそれと……2・3年生は疲れてるから、今日の試合俺と北瀬以外1年生を使うって監督が言ってたから、多分由井は内野か外野として起用されると思う。頑張れ」

「えっ……??」

 

入部して1日で、自分が公式試合に出れてしまうかもしれないという自分の理解を超える話を聞いた由井。

宇宙猫のように目を丸くし、ぽかんと口を開けながら困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

由井は、頭をフル回転させて今日の試合について考えていた。

話していた由井が、急に何か深く考え込み始めたのをを見て、暇でぼうっとしていた伊川。

 

そうやって数分が経ち、バンバンとドアを叩く音が聞こえた。

由井は我に帰り、初対面の先輩の前で突っ立っていた事を謝ろうとした時、勢いよくドアが開いて赤髪の男が入って来た。

 

 

「こんにちは! 高賀山中学から来た、火神大我だ! ます!」

「あの時の奴か……俺は2年生の伊川始。上のベッドで寝てるのがエースの北瀬涼」

 

伊川は、北瀬の紹介もしながら挨拶をした後、チラリと由井を見て自己紹介を促した。

 

 

「俺も1年生の由井薫。3年間よろしくね

……伊川先輩、火神くんと知り合いなんですか?」

 

怪しい日本語を使う同じ1年生に、由井は内心微妙な気持ちになりながら挨拶をした。

コレが同室か、なんか大変そうだな……色々問題起こしそう。

そう思った後、伊川があの時の奴かと話した事に気付き、無名だと思われる火神をなぜ知っているのか疑問に思った。

そして由井は気軽に話しかけても怒らなそうな先輩相手だから、思い切って質問してみた。

 

 

伊川は由井の知り合いかという言葉に微妙な顔をしながら、ついこの間起きた出来事を語り始めようとした。

その時、体験練習でもないのに勝負をするのは良くないらしいというのを思い出したから誤魔化そうと思い、核心は言わずに話した。

 

 

「いや……微妙。なんか火神は真田先輩に1打席勝負を挑んで、ホームラン打ったから推薦入学出来たんだよ……俺はそれしか知らない」

 

その言葉を聞いて、色々な意味で驚いた由井。

甲子園優勝校の2番手ピッチャーであるの真田主将に、どうやって勝負を挑む事が出来たのか?

北瀬先輩がいるからエースにはなれないけど、十分優秀なピッチャーである真田主将からホームラン打ったのか……

 

敬語はアレだけど、優秀な選手なのかもしれない。体格も凄く良いし。

そうやって内心、火神の評価を上方修正しながら、由井は友好的にこう話した。

 

 

「あの真田キャプテンからホームランをですか……! 火神くんって凄いバッターなんだね!」

「サンキューな! 俺、パワーには自信あるからな! お前は確か、カオル……だっけ?」

 

ニカっとした笑顔を見せながら、火神は腕の筋肉を自信ありげに見せた。

ムキムキな腕は、火神の言う通り明らかにパワーがありそうに見える。

 

どれだけ鍛えても、身長的に火神の様な体格になれないと気付いている由井は、羨ましげな表情で彼を見ていた。

 

 

 

大きな声で話していたからか、上のベッドで寝ていた北瀬が大きなあくびをして起き上がった後、知らない人が部屋にいる事に驚いていた。

 

 

「ふぁああ。伊川ぁ、もう朝……?

……すみません、貴方方は誰ですか?」

 

親しい人に話しかける様な声で時間を聞いた後、敬語で由井や火神に話しかけた北瀬。

明らかに新入生だとは気付いていないだろう彼に、由井はハキハキした声で話しかけた。

 

 

「起こしてしまってすみません

おはようございます、1年生の由井薫です! よろしくお願いします!」

「おはよう! 1年生の火神大我だ! ……です!」

 

別に、由井の声で起こした訳でもないのに謝った由井。体育会系だから、連帯責任という言葉が染み付いているのである。

 

それに対し、明らかに自分の声で起こしたにも拘らず謝らない火神。アメリカ育ちなので、細かい事で謝る文化がないのである。

それに火神は、自分の声で北瀬を起こした事に気付いていない。なんか今起きたんだなぁという感覚である。

 

 

「ありがとう。俺は北瀬涼、2年生。ピッチャーとレフトやってる。宜しく!」

 

彼の発言を分かりやすく治すなら、自己紹介してくれてありがとう。俺の名前は北瀬涼、2年生だ。薬師高校で、ピッチャーとレフトをやってる。これからよろしくな! である。

まあ彼の話し方でも大体意味は伝わるが、印象が大分違うだろう。

 

 

伊川は、北瀬達が初対面の挨拶を終えたのを確認してから、次の行動について説明しだした。

 

 

「6時になったら食堂で飯の時間になる。10分前に俺と北瀬は受け持ちの1年生達に指示を出しに行くから、時間になったら食堂で食べてくれ」

 

別行動する気マンマンの伊川に対し、同室の凄い先輩達と仲良くしていきたい由井は、伊川の表情を注意深く確認しながらこうお願いした。

 

 

「分かりました! ……あの、良ければですが、俺達もお供してはダメですか? 俺、伊川先輩達ともっと話してみたいです!」

 

仲良くもない上級生と同じ行動をしたいと考える発想がなかった伊川は、不思議そうにしながら答えた。

 

 

「別に良いけど……付いてきても特に良い事無いぞ?」

「伊川先輩と北瀬先輩と話してみたいだけなんです、一緒に行動させてくれてありがとうございます!」

 

なんか北瀬達と仲良く移動する流れになっている由井の話を聞いて、俺も一緒に行こうと考えた火神も流れに乗ろうとした。

 

 

「俺も一緒に行きたい!」

「良いけど……変な問題起こさないでくれよ?」

 

変な奴に見える火神を連れて行くのは少し嫌だったが、片方だけ許可しないのは可哀想だと思い、渋々許可を出した。

火神の言葉遣いや考え方が変なのは長いアメリカ生活が原因なので、彼自身は良い奴だがそれを伊川は知らない。

 

北瀬は、まだ火神に好印象も悪印象も抱いていない。

体育会系の人間ではなく割と適当な人間の為、付いてくるんだー位に思っていた。

由井も先輩相手なら敬語を使えよ嫌われても知らないぞと思いつつ、上級生の許可に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が少し立ち朝6時10分前になると、彼らが受け持ちの1年生部屋に行って、食事の時間だと言いに行った。

北瀬と伊川が面倒をみる予定の下級生は、10組20人。

 

来年も下級生が入ってくる事を見越して、1年生は2人1部屋になっている事が多い。

上級生と同じ部屋になっているのは推薦組が多く、出世部屋に近い扱いになっている。

人数の関係で、1人だけ一般入試の部員が上級生と一緒になっているが……その人も才能ありそうな奴を選抜している。

部屋割りの理由は、才能ある部員が何らかの問題でドロップアウトするのをなるべく防ぐ為などが考えられるだろう。

 

 

 

高校最強の天才2人組に緊張している後輩ばかりだが、前からこっそり実質薬師野球部に入部していた太平が、彼らに楽しげに話しかけていた。

知り合いだと知らない下級生達は、こんな凄い人達に簡単に話しかけられるなんてと、勇者なのか馬鹿なのかという目で見ていた。

 

 

「北瀬先輩! 伊川先輩! 俺、一昨日の試合スゲェ感動してて……! 場外ホームランの時、打撃音が観客席まで聞こえてて凄かったです!!」

 

「ありがと! 太平も公式戦でホームラン打てれば良いな!」

「太平がめっちゃ歓声上げてるの、バッターボックスでも聞こえてたんだよ……嬉しかったって意味な!」

 

割と親しい太平からの熱心な褒め言葉に、北瀬達は照れながら返事を返していた。

褒められ慣れているであろう彼らが、特に有名でもない1年生から尊厳されただけで喜んでいるのを見て、下級生達は不思議がっていた。

 

そんな時、火神が何も考えずヤバい事を言ってしまう。

 

 

「あれ、太平って上級生じゃないのか? 練習に混じってたよな?」

 

その言葉に冷や汗をかく北瀬と伊川。高校野球のルールに詳しくない彼らも、3月から練習に混じらせるのがマズい事はなんとなく分かっていた。

 

 

「違うよ? 俺、俊平キャプテンに用事があってグラウンドに来てただけだし。練習には混じってないよ」

「……言われてみりゃ、お前だけバット持ってなかったような……?」

 

絶体絶命のピンチでも口が上手い太平は、嘘にならない程度の誤魔化しで火神を丸め込んでいた。

マジかよズルくねという顔で聞いていた下級生達も、その言葉になんとなく納得。

 

1人だけ先輩達に先に会えてズルいと思うけど、用事があったなら分からないでもない。

というか、キャプテンと顔が似てるな。弟かも? という感じの雰囲気で一応理解を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北瀬-伊川グループの部員達が食堂に着き、ご飯を食べ始めて少ししたら、部員総勢131人全員が集まった。

まだまだ席に余裕はあるが、12人しかいなかった時より大分賑やかになっていた。

 

基本的に、おかずと味噌汁だけは食堂のおばちゃんが配るが、米などのノルマはないシステムである。

片岡コーチは食事もトレーニングだと考えているが、なんちゃって強豪校の現2・3年生に強要出来なかったのが大きな理由だ。

 

 

本当なら入部初日だから本当なら色々しっかり説明したい所だが、今日の10時から春季大会が始まる為あまり時間が取れない。

だからか轟監督は、ご飯を食べている最中に大雑把な説明を始めた。

 

 

「よし、多分全員食べ始めてるな……これから、寮生活の大雑把なルールを説明する! あ、飯食いながら聞いて良いから」

 

今説明するのか?! そんな顔をしながら慌てて箸を止めた新入生達を見て、食べながら聞いて良いと言い直す轟監督。

初っ端から監督の話をしっかり聞かなくても良いと話すとか、癖がありすぎる人である。

 

 

 

「まず、通常の練習予定は当日の予定と1週間分の予定の2つが、基本的に食堂のココに貼り付けてある。どうせ団体行動するんだから基本見なくても良いが、気になる奴は見てくれ

 

次、夜の11時から朝の5時までは絶対に寝ること

無茶したバカがいるから、各自の部屋の明かりとかが11時に切れてないのに気付いたら罰則トイレ掃除1週間。身体作りの為にしっかり寝てくれ

 

次、上級生2人で下級生20人程度の面倒を見ていく事になっている

別に絶対服従とかじゃなくて、今まで決まっていなかった曖昧なルールとかを確認したり、何か問題が起こっていないか確認する為の制度だ

 

困ったらまず、所属する上級生に。解決しなかったらキャプテンか副キャプテン、もしくは俺が片岡コーチに言ってくれ。

あ、キャプテンは真田で、副キャプテンは北瀬と平畠だから

 

次、ボールとかが無くなった場合は、どれが何個くらい無くなったかちゃんと報告してくれ

太っ腹な理事長が補填する金はくれるから……だからと言って、道具を粗末に扱って良い訳じゃねぇけどな!

 

最後、これが1番重要……怪我は隠すな! 悪化させたら厄介だ、試合に出れる出れないはこちらで判断する。小さな怪我でも、ちゃんと俺か片岡コーチに報告するように!」

 

 

『ハイッ!!!』

 

食事中にも拘らず、大きな声で返事をした新入生に驚く上級生達。

なんというか、マジの体育会系ってこんな感じなんだという印象である。

 

だが、そんな熱心な彼らにさほど興味を持たず、監督はそのまま説明を適当に続けていた。

 

 

「野球部のルールは大方説明したが、ふつーなら言われなくても守れる様なルールは今渡すプリントに書かれてる。気になるやつは読んでくれ……当たり前の事とかしか書かれてねぇけどな

2・3年、下級生にプリント配ってくれ」

 

『ウス』

 

 

 

甲子園優勝なのに、めちゃくちゃ緩い決まり事を説明された新入生。しかも、上級生が積極的に雑用に駆り出されている。

困惑している部員も多かったが、由井は部屋で聞かされた今日公式戦に出る事の方がヤバかったので、こういう学校なんだと諦め顔だ。

もう少し学校側はしっかりして欲しいけど、これでも甲子園優勝している超名門。スカウトで入れた事には、凄く感謝している。

 

特に、164kmを投げる北瀬さん! 彼のボールを受けてみたくて、ずっと楽しみにしていたんだ!

 

 

そんな事を考えながら、配られた紙を読んでいく由井。

最初からめちゃくちゃな事が書いてあって、また困惑させられていた。

この適当な空気に慣れるまで、新入生は何度も困惑させられるだろう。

 

 

「・料理を振る舞う時は、材料費は徴収してください

↑部員にご飯を振る舞い続けて、数万円位使ってしまった部員がいる為です。

 

・筋トレ室では、監督に掴みかからないでください

↑筋トレ器具にぶつかると危ないからです。

 

・監督が金欠でもお金を貸さないでください

↑可哀想になっても貸さないでください。2000円貸してしまった部員がいますが、しばらく返って来てません。

 

・トイレットペーパーが無くなりそうだったら必ず補填してください

↑次の人が困ってしまう為、よろしくお願いします。

 

 

……

 

 

・練習時間に茶道部に行くのは禁止です

↑最近はいませんが、新入生の皆さんはサボりたくなったからといって茶道部に遊びに行かないでください。自主練習時間ならアリです。

 

・他の人が持参したシャンプーを勝手に使わないでください

↑使い方が分からずに何十プッシュもした部員がいます。揉めかねないので、許可を取ってから使ってください。

 

・廊下は走らないでください

↑新入生の皆さんが来るまでは走っていましたが、人数が多くなったので禁止します。

 

・ベースはしっかり踏みましょう

↑公式戦でのベースの踏み忘れに気をつけましょう。恥ずかしいです。

 

・道具は譲り合って使いましょう

↑部員が多くなったので、同じ物を使いたい人が沢山出てくるかもしれませんが、ちゃんと交代で使ってください。

 

・筋トレ道具の上でご飯を食べないでください

↑ご飯を零した部員がいるので禁止します。拭くのが大変でした。

 

・楽しい部活にしていきましょう!

↑皆が楽しいと思える部活にしていきたいです。ご協力よろしくお願いします。」

 

 

これで、本当にルールが終了なのか……? ルールのあまりの簡素さに、由井達は困惑していた。

この内容は殆ど寮のルールが決まってない現状、昨日副キャプテンの平畠が慌てて書いた物だったが、その結果変なモノが出来てしまっていた。

 

今まで起きた困り事や、いずれ起きるであろう困り事の為のルールのつもりで書いていたが、変なミスをそのまま書き連ねていった事もありめちゃくちゃだった。

 

筋トレ室では、監督に掴みかからないでくださいと書いてあるが、逆説的にそれ以外の場所なら掴みかかっても良いと言うことになってしまっている。

練習時間に茶道部に行くのは禁止ですと書いてあるが、強豪校の高校球児がそんな事するなんて前代未聞だと思われる。

楽しい部活にしていきましょう!というのは、もはやルールですらない。というか、勝つための部活にそんな物を求めないで欲しい。

 

 

 

これ書いたの誰だよ、いくら何でもおかしいだろと考えていた新入生達。

実際これを書いたのが、上級生の中で1番真面目な平畠である事は全く知らない。

薬師野球部はなんちゃって強豪校だから、しっかりとしたルールが決まってない事に問題があると思われる。

 

片岡コーチが考えても良かったのだが、青道高校も上下関係は厳しくないチームだったので、薬師高校に来て更に緩まった結果こうなってしまっていた。

 

 

 

 

 

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