【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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奥村のキャラが間違っていたら大変申し訳ありません。
彼のキャラが掴めていないのですが、こんなキャラでは無いかもしれないと思いました。ダメそうならIF扱いにします。


67球目 主義主張

 

 

 

 

ラフプレー学校との4回戦が終わった後、轟監督が昔から利用している顔馴染みの病院で、伊川がまた病院に来ていた。

下手したら、怪我持ちの真田先輩より来ている回数が多いかもしれない。

端からみたら危な過ぎるプレーを連発している為、監督に連行される事が多いのである。

 

医者は轟監督の真剣な状況説明と、伊川の軽いノリの状況説明を聞いた後、どう見てもタックルで身体を痛めたりは全くしてないよなぁと言った困惑した表情で話し始めた。

 

 

「うーん、悪質タックルではどこも痛めてなさそうだね。素晴らしく健康な肉体に見える

けど……なんか尖った物で何かが軽く刺さった様な傷が胴体にあるんだけど、これ何?」

 

その言葉に、轟監督はめちゃくちゃ顔を顰めていた。

 

嘘だろ?! 俺の受け持つ学校には上級生の虐めとか無いと思うんだが……伊川を嫌ってそうな3年生とかいないしな。

普通にタダの怪我か。流石に入部して1週間ちょいの1年生に攻撃される事はないだろうしな。

 

というか、そんな怪我してるなら報告してくれよー。俺全然気付かなかったんだけど。

昔からチームメイトの怪我には気付きやすかったから、教え子の状態は気付くタイプだと思ってたんだけどなぁ。まだまだ監督としての力量が足りねぇわ。

 

 

 

轟監督は、最終的にはそうやって内心反省していた。

伊川は元々身体の怪我に鈍い体質もあり、少々の怪我ならまるで野生動物の様に隠す事がある。

実際の所1人だけを見ている訳ではない轟監督が気付くのは難しいと思われるのだが、そんな言い訳などを考えようと轟監督はしなかった。

 

彼は適当な人間だが、本気で野球を愛している。

甲子園に連れて行ってくれようとしている教え子たちを守るのは、俺という監督だ。

彼らは高校生、まだまだ未熟な所はあって当然。基本放任するとしても、マジでマズい所は俺達が何とかしなきゃなんねぇ。

 

監督の理念という物を、まだ歴が浅く拙いながらも持っている轟監督は、そうやって反省していた。

 

 

 

そんな轟監督の感情を知ってか知らずか、伊川は軽い口調で驚きの真実を告げた。

 

 

「いやー……後輩にプリン買ってきてってパシリを頼んだら、皿に乗せて持って来たんですけど

なんか、躓いて転んで俺にぶち当てたんですよね……その時の傷です」

 

花坂を庇って上げても良かったけど、ここで隠したら更に面倒事になりそうだという常識的な判断の元、伊川は怪我の理由を暴露していた。

一応、けっこう可哀想だったから名前は出さないという、微妙な補助はしていたが。

 

 

「そりゃ……ドンマイとしか言いようがないな

お前の事だし、消毒はしたんだろ? まー次からはちゃんと報告しろよ」

「うっす」

 

 

彼の言葉を聞いて、突拍子もなさすぎて逆に真実だと理解した轟監督。

そりゃ運が悪かったなという顔をして、伊川に同情していた。

しょうもないミスが原因だと判明したので、わざわざ犯人は聞かないで放置しておく事にしたらしい。

 

 

 

まあ薬師野球部の先輩の中では、かなり後輩への扱いが手荒い気もする伊川だが、その程度で轟監督は目くじらを立てなかった。

その位は当然だ。俺が現役の頃は幾らでもあくどい事があったという、一応体育会系の人間としては普通の判断によるものである。

 

……それに実は、他の上級生達は優し過ぎて、逆に後輩達が絡み辛い環境になっているのを轟監督は知っていた。

何も話さないし何も命令しないから、話しかける口実が全く無いのである。

 

他の上級生達は、自分達が入って来た頃より体育会系の後輩に戸惑うばかり。

北瀬と伊川が入部して来た頃も似たような心境だった気もするが、人数が多過ぎて彼らの動きでは対処が出来ない。

なんか後輩達の熱気がスゲェなとか思いながら、ひたすら上級生達で普段通り練習を回しているのだろう。

 

上級生達が固まって動いているこの場面で、にこやかに何となく話に加われるコミュ強が多いと有り難いけど、それを高校1年生に求めるのは酷な話だろう。

まあ態々多感な時期の彼らに指摘するよりも、自然と改善されるのを待つべきだろうと判断して、轟監督は放置していた。

彼は基本放任主義である。

 

 

 

ちなみに片岡コーチは、他学校との練習試合や吹奏楽部等との話し合い、その他の雑務に忙殺されていてそれ所では無かった。

 

彼は教員もやっているのに、なんか轟監督よりもやる事が多い。

監督は面倒だから放っておこうと適当な考えをする場面でも、真面目だから動いてしまうからである。

 

1年で有り得ない程強くなった薬師野球部には元々の伝統が無い為、現場判断が多すぎた。

例えば真田母を偵察部隊として雇ってくれという学校側へのお願いや、シニアからの提携の申し入れの判断、プロやメジャーからの視察への急な対応など、めちゃくちゃやる事が多い。

 

凄く大変そうだが、裏方の動きは片岡コーチしか出来ないのでやるしかないのである。

責任感がありそうな人格者っぽいが結果が残せていない、片岡コーチを雇おうと考えた首脳陣の判断は大正解だったと思われる。

 

 

後、伊川の怪我を誰も報告しなかった理由は、現場を下級生しか見ていなかったからである。

花坂を伊川が赦した以上、それ以上揉め事を大きくしようという無駄な労力を使う奴は現れず、1年生の間でしか話は広まらなかったらしい。

当然、轟監督や片岡コーチに報告しようと考える程フットワークが軽い生徒は現れなかったというか、ヤバそうなら本人が報告しているだろうと何となく思っていたらしい。

 

伊川は浅い怪我だと感じて全く気にしていなかった為、報告しようとなんて思わなかった。

ちなみに北瀬は部屋割りの関係とあって偶々怪我の場所を目撃していたが、中学生の頃頻繁にしていた怪我よりあからさまに浅かった為、わざわざ報告しようという意識がなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊川と轟監督が病院で話しているのと同時刻。

北瀬達は片岡コーチに先導されながら寮に帰ったが、試合の後だからと練習出来ずに暇を持て余している。

 

何となく図書室で雑談をしていた北瀬と真田は、図書室に来た後輩達が聞き耳を立てている事に気付いていなかった。

最近周りに人が多すぎて、細かい動向に気付けなくなっているのである。

 

 

「いやー今日も凄かったなぁ! 4回戦で零封じゃん!」

「そうっすかね? アザース!

まあ普通に、真田先輩が投げてても同じ結果だったと思いますけど……なんか思ったより弱かったし」

 

俺もそこそこ強いけど、真田先輩も同じ位強いと信じている北瀬。

確かに真田先輩も後数ヶ月でドラフト上位指名される逸材だが、即メジャー級の北瀬と比べられる程ではないのだが……

そんな事に、自分を客観的に見られていない彼は気付かない。

 

対戦相手の関係で、北瀬と真田が同じ位失点している事が客観的に見る事を難しくさせているのである。

そもそも北瀬はパソコンを殆ど使わないので、ネットで言われている様な事は伊川越しでしか知らない。

表立って、北瀬に真田より強いと話す部員がいないので、気付く要素が無いのだ。

 

 

「まあ見てても強く感じなかったけどなぁ……

でも、俺じゃ流石に無理だったと思う。北瀬みたいに剛速球でも変化球が鋭い訳でもないしな」

「そんな事は……」

 

際どい事も話しているが、あくまで和やかに雑談しているだけの北瀬と真田。

 

 

「そんな事言ってるから、アンタは何点も取られるんですよ」

 

会話に割って入って爆弾を落とした、正捕手候補の1年生奥村光舟。

野球推薦入学者の11人に入っていて、他の1年生より明らかに実力のある選手である。

 

 

 

尊敬する真田先輩への暴言に近い一言に、沸点はかなり高い筈が一瞬でブチ切れかけている北瀬。

試合最中にカット打ちを続けられた時よりも、味方がエラーしまくる時よりも明らかに強い口調で反論しようとする。

 

 

「……はぁ?!! なんでそんな」

「北瀬、そんなに怒らなくて良いからな。タダの事実だし

確かに俺の意識は、強豪校の2番手ピッチャーの割に低いかもなぁ」

 

自分の為に怒ってくれようとしている北瀬の言葉を、思い切り遮った真田キャプテン。

強豪校という環境に慣れきっていない真田は、暴言を吐いた下級生に対して、あくまで宥めなきゃ位しか思っていなかった。

 

それに奥村が言う、自分の甲子園優勝校の主将にしては弱気な態度も、ある程度自覚していたのである。

彼は図星を突かれても逆ギレするタイプでは無かったので、鋭い事言う1年だなぁ位にしか思っていなかった。

 

そういった態度が取れたのは、北瀬が自分より明らかに怒り狂っていた事も割と大きい気もするが。

自分より明らかに感情を爆発させている人間がいると、逆に冷静になるという事である。

 

 

「……分かっているなら、今後そう言う弱腰な発言は控えてくださいよ。あなたは甲子園優勝校のピッチャーで、チームを率いるキャプテンなんですから」

「痛い所突くなぁ……確か、キャッチャーの奥村だっけ?」

「そうです。この夏、俺は正捕手を掴んだ上で、夏の甲子園を優勝するつもりです」

 

流石にズバズバ言われ過ぎて苦笑いしている真田。

俺、奥村になんか悪い事したっけ。それともコイツの考え方と、俺が外れ過ぎてるだけか?

なんか凄い1年生が来たなぁ、甲子園優勝効果かな。と呑気に考えていた。

強豪校のピッチャー兼キャプテンとしては、めちゃくちゃ温厚な反応である。

 

周りで聞いていた下級生達は、大騒動にならなくて安心している人と、弱腰外交に内心呆れている人に分かれていた。

真田が普通の弱小校のキャプテンなら、人当たりが良いのは安心要素だろう。

だが彼は、誰もが憧れる甲子園優勝校の主将なのだ。もう少しそれらしい態度を取ってほしいと、考える下級生がいても仕方ないだろう。

 

 

 

ちなみに奥村は、真田先輩もたった2年で強豪校に投げられる、凄く才能があるピッチャーなんだから荘苑坂なんて本来なら零封出来る実力があるんだ。

自分を卑下する態度を無くせば、その素質を更に活かせるだろうと内心ツンデレの様に考えていたらしいが……流石にほぼ初対面では、言わなければ伝わらなかった。

 

その齟齬に気付いている、実は奥村に付いて図書室に来ていた瀬戸はめちゃくちゃビビっていた。

薬師野球部の権限をかなり牛耳ってそうな真田キャプテンに睨まれたら、お前の高校野球生活は終わるかもしれないんだぞ! 気付いてくれよという焦りである。

 

 

 

真田が悪用する事は最後まで無かったが、同級生にも天才2年生達にも慕われている彼の権限はかなり強い。

あくまで善意からだが、どこの取材を受けるかなどもキャプテンが決めていたりいたりする。

 

仮に真田がブチギレて奥村を締め出しにかかれば、少なくとも北瀬、伊川の2人は後に続くだろう。

彼らは自分の強い主張という物が無いので、好意を持つ人間の言う事は大抵聞いてしまうのだ。

奥村は流石に、キャプテンに対して位はもう少し下級生らしい態度を取った方が良いと思われる。

冷静なタイプに見えて、猪突猛進型だから直すのは難しいかもしれないが……

 

 

「では真田先輩、早速ピッチングの練習をしませんか」

「えっ、まあ良いけど……」

 

既にベンチ入りメンバーに入っている、当然1軍の奥村は、殺伐とした空気の中で当然の様に投球に誘っていた。

急に怒っておいてマジかよと割と困惑した真田キャプテンだが、まあ良いかと了承。

 

 

 

勉強をあまりしない彼がどうして図書室に現れたかと言うと、今日はベンチに座っていただけの真田キャプテンに、ピッチングをしないかと誘いに来ていたらしい。

シニアで尊敬していた監督の裏切りにあったばかりの奥村は、だから綺麗事なんてくだらないという割と問題のある考え方をしてしまっている。

 

 

だが、そんな事を北瀬は知らない。

真田先輩と引き剥がす様な事は、流石に元来かなり善人の北瀬はしなかったが……彼が出会ってきた数々の最悪な不良に混じって、奥村が嫌いな奴判定を受けるのは必然に近かった。

 

真田先輩みたいな今まで出会ってきた人間の中でベスト3に入る、めちゃくちゃ良い人に対して急に喧嘩を売るなよ!

お前は何様のつもりなんだ、真田先輩の事なんて何も知らない癖に! という怒りに飲まれていた。

 

 

 

この一件は、下級生達はキャプテンに喧嘩を売りやがったと考えていたが……実際に喧嘩を買ったのは北瀬である。

 

大エースに初っ端から大層嫌われていて、奥村は大丈夫なのだろうか?

ぶっちゃけ現状の捕球能力は由井より高いし、リードは同じ位なので薬師野球部の正捕手向きの性能をしているのは彼である。

 

だが流石に、スタメンの大多数から嫌われていてはキャッチャーとしてやっていけないので、彼は何とかしてほしい。

割と上級生全員に喧嘩を売った状況になる奥村は、どうにか巻き返せれば良いのだが……

後からでも謝れば割とマシになるだろうが、彼は自分が悪いと思っていないから謝れないだろう。大分マズい。

 

 

 

ちなみに、この件で1番ブチ切れるのは伊川である。

身内の言動に盲目な彼は、北瀬からこの話を聞いて内心怒り狂っていた。

明らかに上級生に対して言い過ぎとはいえ、奥村の言っている事は割と正論でもあったりするのだが。

身内にゲロ甘なマイルドヤンキーである伊川には、そんな考え方は全く無かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、珍しく殺伐とした空気が流れる野球部など知りもせずに、吹奏楽部は新入部員が50人も増えた為、慌てて楽器の割り振りなどを決めていた。

 

 

 

夏の甲子園は青道高校に何とかしてもらったが……

春のセンバツにも出場する可能性が高いという事で、半年位前に薬師高校は無理やり吹奏楽部員を増設していたらしい。

 

元々20人しか居なかった吹奏楽部はこれはヤバすぎると慌てて、美術部と卓球部とバドミントン部を合併した上で、他の部活からもメンバーを募集していた。

理事長達から許可を得た後、朝礼の時間やお昼の放送などで、今までやって来た部活を辞めて吹奏楽部に入ってくださいというお願いを言いまくっていた。

 

他の部活の監督達にも、吹奏楽部に行きたい部員は引き止めない事を裏で理事長が確約させる程、とにかく部員を増加させたがっていた。

こうして、なんとか30人程部員を追加した薬師吹奏楽部。

連れて来られた新入部員の中にはリコーダー位しか吹けない人も多かったが、音が外れても良いからと半強制して甲子園のスタンドで演奏させていた。

 

 

 

……素人でも、居ないよりはマシな状況だったのだ。

20人では、甲子園という大きな舞台では、選手達に音が全く聞こえないと理解していたのである。

こんな状態だったが、部員全員が何とかしなければならないという危機意識を持っていた為ある意味平和だった。

喧嘩する暇があったら、全員が最低限吹けるように頑張らなければならないという強烈な危機感に当てられていたのである。

 

 

 

新たな新入生は、ぶっちゃけ明らかに上級生より上手い人が多かった。

元々何となく高校から吹奏楽を始めて半年前位から急に頑張り始めた上級生より、甲子園で吹きたいという目的意識を元から持っている下級生の方が上手かったのである。

 

複雑な想いを持っている上級生は意外といたが、直ぐに快く下級生に重要なポジションを譲っていた。

甲子園で吹くのは、元々自分達では明らかに実力不足だと分かっていたからである。

 

他の学校は一糸乱れぬ演奏を披露しているのに、私達は何もかもヘッタクソな演奏だった。

音程を間違える部員も多いし、観客の歓声に合わせられないし、演奏を始める時も手間取ったり間違えていた。

だから少しでも優秀な部員がいたら、その人に役割を譲るべきだと分かっているのだ。

 

 

 

吹奏楽部には、轟監督や片岡コーチの様なカリスマのある大人はいない。

舵取りは大変だが、彼女達は覚悟を決めて練習に励んでいた。初めて大舞台で吹いた、甲子園の光景が忘れられなかったのである。

 

 

 

野球部ばかりに注目が集まっているが、薬師高校の裏方達も大変頑張っていた。

彼ら彼女らの努力がなければ、薬師野球部はここまで来れなかったと思われる。

 

 

 

 

 

 

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