【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
真田キャプテンと北瀬先輩に、わざわざ喧嘩を売りに行った奥村。北瀬先輩にも喧嘩を売っている事に、彼は気付いていなかったが……
強豪校のキャプテンにしてはかなり優しい真田キャプテンは、あんな発言をされた後でも普通にピッチング練習に付き合ってくれる様である。
奥村の良く分からない言動により、急にピッチング練習をする事になった真田。
軽い調整を終えた後、真田は全力でストレートを投げ入れた。
___バシッッ!
(正捕手になって甲子園優勝とか言える位、確かにキャッチャーとして上手いな……
俺のボールが、ここまで強い音がなる事って殆ど無かったし)
真田は、色々言うだけあって確かに奥村のキャッチングセンスは高いと認めた。
北瀬からしたら許せない発言だったらしいが、真田にとってはそうでもない。
何もしない何も言わない他の新入生より、キャプテンの記憶に残る事に成功していた。
まあ、これで奥村の実力がなければ真田キャプテンが奥村を気にする事は無かったが、実際実力があるから良いのだ。
若干才能マニアの資質が開花しつつある真田は、すぐさまちょっと生意気かもしれない新入生の事を認めていた。
「良い球来てますよ、真田先輩」
「……おー、光舟ってそういう事言えるんだな」
奥村のお世辞に聞こえる言葉に、真田はそういうおべっかも使えるタイプなんだなーと以外に思っていた。
そんなニュアンスを真田先輩の言葉から感じ取り、奥村はムッとしながら言い返していた。
「……言っておきますけど、俺は適当に言っている訳ではありません
今の真田キャプテンのストレートは、145km位出てますよね。あんたは、かなり優秀なピッチャーですよ」
「……そうか? まあ悪くはないと思うけど」
強豪チームと当たり過ぎて、145km位は普通だと考えている真田。
彼の考える優秀な選手は、最低限で甲子園ベスト8位の選手能力になってしまっているので、あからさまにインフレし過ぎていた。
奥村のいう、弱腰な発言は控えてくださいという意見自体はかなり正しい。
過ぎた謙遜は後輩達のやる気を下げるし、威厳が無くなってしまうのだ。
だから奥村は、もっと真田先輩は自分の才能を信じた方が良いと確信していたのである。
___バシッッ!
「実際、良いボール来てるんです
アンタは何と戦ってるんですか。相手のチーム? ……それとも、エースの北瀬先輩ですか?」
奥村の、誰と戦っているのかという言葉は、当然心理的な意味合いである。
真田キャプテンは、誰に勝とうと練習しているのかという話だ。
彼の強い意志が籠もった視線に、少しだけ真田は口籠った……深く考えた事が無かったのだ。
轟親子に感化されて、俺達薬師野球部はここまでやって来た。俺もその1人ってだけで、別に特別な意思なんてない。
轟親子に、北瀬や伊川。彼らの様な天才を、世に轟かせるのが俺という凡人の使命であって、エースが投げない時に2番手ピッチャーが投げれば良いだけなのだ。
そんな、格上の超天才だけを持ち上げて自分の価値はあまり理解していない真田。
何も言わない訳にはいかないなと、苦笑いしながら無難な言葉を話す。
「……普通に、相手の学校じゃね? いくら主砲達が打っても、ピッチャーが炎上したら勝てない訳だし」
その言葉に、奥村は何言ってるんだと嫌そうな顔をしながら噛みついていた。
甲子園でもちゃんと勝っている真田先輩が、自分を主砲達のオマケ扱いする事に腹が立っていたのだ。
実は奥村は、夏の甲子園で北進学園相手に9回で緊急登板して無失点をもぎ取った、真田先輩の勇姿を見て入学を決めていたのである。
強い意思を持ち戦う、威風堂々とした2番手ピッチャーの彼に憧れて薬師高校を選んだのだ。
それなのに、実際の彼はエースに対してヘラヘラと俺じゃ流石に無理だったと思うなんて話す弱腰の態度。
取材の記事を読み込んで薄々察してはいたが、腹が立っても仕方ないだろう。
確かに言い方は悪かったが、奥村の甲子園優勝校のキャプテンなんだから弱気な発言は控えろという言い分も、分からない事はない話である。
___バシッッ!
「アンタ、点を取られたのを全部自分の責任だと思ってるんですか? 流石に思い上がりも良い所ですよ……真田先輩が得点を取られるのは、守備陣の怠慢が大きいんです」
薬師野球部の守備が崩壊している事は知っている真田。
一応言い返しはしたが、また奥村の癇に障る事を言いかけてしまった。
「そりゃそうなんだけど。実際天才達と比べたら、俺の実力なんて……いや悪い。こう言う弱気な発言が悪いんだよな」
「……真田先輩は、野球を全力でやり始めてから何年ですか?」
「え? ああ、2年位だけど……」
唐突に話が変わったと思った真田。だが言ってる途中で、何となく流れを理解して笑っていた。
まあ確かに、2年で才能の限界を悟るのはバカバカしいかもしれないけどな。
実際、北瀬達の様な天才だっているだろ。俺にそんな才能が無い事位、野球を齧っていれば分かるんだけどな。
大雑把に言うと、そんな感じの事を考えていた。
「じゃあ、真剣にスポーツをやっていた年月は?」
「同じく2年位だけど」
でもそれは、北瀬や伊川だって変わらない。
それでもあれだけ凄い選手なのだから、そりゃ俺に才能がないと実感するだろう。
そう考えている真田は、10年に1人の天才、即メジャー級の大エースと自分を比べてるのはおかしいという事に気付いていなかった。
真田だって、ドラフト上位クラスの実力がある。もっと自分に自信を持った方が良いだろう。
「もし自分の才能を北瀬先輩達と比べているなら、破綻してる事に気付いてますか?
彼らは極亜久中学出身。あんな不良校出身なら、身体を鍛えようとしなくてもある程度の筋肉は付くでしょう
……真田先輩は、気付いていましたか?」
「確かに……?! ……てか、何で俺が考えてる事に気付いたんだ?」
北瀬や伊川と比べて、身体を動かし続ける経験が浅い事に、全く気付いていなかった真田。
確かに北瀬や伊川は野球に慣れていなかったが、喧嘩に巻き込まれ続ける事で身体を動かし、身体能力は上がっていたのである。
それに実は、北瀬達の肉体は毎日野球の練習を2人で真剣にやり続けていたのだ。本人達は知らないが、彼らの実力はそういった所でも裏打ちされている。
だから、真剣に野球を始めて2年の彼と比べても仕方ないだろう。
奥村の発言に目から鱗と言った表情をした真田。
だがふと、何で俺が雷市や涼に始といった後輩達より才能がないと感じている事を、最初から察していた様な行動をしていたのかと疑問に感じていた。
奥村は、彼の言葉に対してムスッとしながらこう答えた。
「どの高校に行くかリサーチしていた時に、真田先輩の発言も確認していたんですが
何十件も記事を見ていれば、何となく考えている事は分かりました。才能があるのに、諦めが嫌に目について腹が立ってましたよ」
奥村と真田がピッチングをした日の、午後練習の時間。
軽い休憩を取っている時に、北瀬と2人きりになった時間があったので聞き辛いけど、思い切って聞いてみる事にした。
奥村の言う、北瀬や伊川の無意識の努力と言った話が気になっただ。
「なぁ北瀬……聞いて良いか分からないから、嫌だったら答えないで欲しいんだけど
お前って、中学の頃どれくらい喧嘩したり巻き込まれてたんだ?」
今まで話題として上げられて来なかった、中学の頃の喧嘩の浅い内容を聞かれてキョトンとする北瀬。
楽しい内容じゃないですけど、別に聞いてくれても良いですよーと思いながら、軽い気持ちで答えていた。
「別に真田先輩になら聞かれても良いですよ。あんまり広めないで欲しいですけど、軽い喧嘩なら毎日巻き込まれかけてましたね!
割と走って逃げてたんで、実際に巻き込まれるのは週1位でしたけど……あ、俺や伊川からは基本的に喧嘩売ったりしてないですよ?」
毎日喧嘩に巻き込まれかけていたという言葉にドン引きしつつ、奥村の言う言葉が正しかった事を確信した。
それだけ巻き込まれかけて逃げてたら、だらだらシニアで練習してた俺より運動してるよなぁと納得したのだ。
だからと言って、北瀬達に素晴らしい才能がある事とは関係がないが……天才達だって全員今まで努力していたという話は、真田にとって目から鱗だった。
「そっか……お前らのすげぇスタミナは、そういう理由もあったんだな」
才能の壁が無いとは全く思わないが……確かに野球を元からしてた事を考えても、北瀬達より運動量が足りなかっただろうと自分の考え方を反省した真田。
俺に天才みたいな才能があるとは思わないけど、彼らだって努力して来てるんだ。
それを無視した様な考え方をするのは、彼らに対する侮辱なのかもしれないと考えたのである。
まあ涼や始に言った所で、自分の喧嘩を努力とは思っていないだろうから、特に気にしないであろう事は分かっていたが……それでも真田は、悪かったなと思っていた。
「…………まあ多分、そうっすかね?」
微妙そうな顔をして一応肯定する北瀬。
真田が才能の無さを少し悩んでいた事を知らないから、急にスタミナの話をされて困惑していたのである。
それに、この肉体の今までやって来た事を知らないから、曖昧にしか答えられないのだ。
実は彼らは、平行世界の彼らとチェンジリングされているのだが、この肉体の彼らは野球に真剣に取り組んでいた。
だから、彼らのスタミナは努力で付いたという真田や奥村のイメージは、全く間違っていない。
平行世界の彼らは、鉄人を活かして常人では身体を壊す超ハードな練習を行い続けていたのである。
食堂で腹を満たして、自主練習始めるかと考え始める辺りの時間。
コソコソと真田キャプテンの前にやって来て、謝ろうとしている後輩がいた。
彼は奥村の親友のショート、瀬戸拓馬。
ベンチ入りメンバーにも選ばれている推薦入学者で、軽快な守備や走塁技術が特徴的なセカンドである。
ちなみにシニアではセカンドだったらしいが、伊川からポジションを奪うのは難しいだろうとコンバートしている。
「あの、真田キャプテン! さっきは奥村がすみません! あいつ悪い奴じゃないんですけど、かなり言い方が強すぎる奴で……」
友達の事を1人で謝りに来た瀬戸を見て、奥村の奴良い友達持ってるじゃんとほっこりした真田。
「いや別に。俺もあいつに色々気付かされたからなぁ、ちょっと言い方は悪いけど、言ってる事はマジで正しいと思う」
入部1週間ちょっとで楯突いて来た奥村への、真田の温厚な言葉を聞いて、こういう所が監督達に信用されているんだろうなと感じた瀬戸。
良かった、そんなに怒ってなかったと安心しながら、彼はホッとした表情でこう話した。
「まさか急にキャプテンにズケズケ言いに行くとは思わなくて、ビックリしました。あいつを許してくれて、ありがとうございます!
光舟はかなり理想家だから、ちょっと面倒な所もあるかもしれないんですけど……関わってみると面白い奴なんですよ!」
その言葉を聞いた真田は、そう言えばクールキャラっぽいのに本音で話す事が多そうな、面白そうな奴だったなと思い出していた。
その後、初めて見た北瀬の本気で怒っている顔を思い出して、困ったなぁという顔をしながらその出来事を瀬戸に話し始めた。
「確かに、奥村は面白そうな奴だよな!
……ただ、奥村は北瀬に謝っといた方が良いかもしれない」
「北瀬先輩にですか?」
真田先輩への暴言に対して北瀬の発言は、はぁ?! なんでそんな、という一言だけである。
だから下級生達は、怒った顔をしている北瀬が、どれ位怒っているのかを把握していなかった。
彼は、それなら確かにラフプレーはしない方が良いな! とか言う問題発言もしているので、元々沸点が高いタイプの人間だと気付けないのだ。
真田は、あー北瀬のマジギレ気付いてなかったんだ。
まあ良く知らない相手の怒り方なんて知らねぇか、北瀬は声を荒らげる事殆ど無いタイプの奴なんだよな、という微妙な顔をしていた。
俺達のエースである涼と、嫌いじゃない新入生の奥村が揉めているのは嫌だけど、俺の事を涼がけっこう慕ってくれてるのは嬉しいなという感情からである。
「あいつ滅多に怒らないというか、マジで怒ってる所なんて今日初めて見たんだけど……俺から言うと逆に拗れそうだしなぁ」
「え゛っ、本当ですか……? 俺、奥村に謝るように言っときます!」
マジギレしているという北瀬先輩にビビった瀬戸。
ただでさえ北瀬先輩は高校最強大エースで畏敬する存在なのに、1年間マジギレしてなかった人が、入部1週間の光舟にブチギレなんてヤバすぎる。
この後すぐ、瀬戸は顔を青くしながら奥村に、北瀬先輩に謝ろうと話したが完全に拒否されていた。
奥村からすれば、自分は間違った事を言っていないのにも拘らず謝るなんて事はできないらしい。
まあ確かに、言っている事自体は割と正論だった気もするが……人間関係は正しさだけで出来ている訳ではない。
それが分かっている瀬戸は、完全に頭を抱えていた。