【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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70球目 ホームラン

 

 

 

 

2回表、青道高校の攻撃は6番前園。長打性能は割と高いが、それ以外は普通の選手である。

薬師高校の選手みたいに致命的な欠点などがないだけ良いのかもしれないが、落合監督の好みでは無いらしい。

監督は内心、良い1年が出てきたらスタメンから外す有力候補扱いしていた。

 

 

(相手はバカスカ打って来る薬師打線……! 俺達も打って、降谷を援護するんや!!)

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

チームやエースの事を思って、打ちたいという意思が非常に強かった前園。

……だが、プロ上位指名も狙える薬師2番手ピッチャー真田の投球にヤラれ、彼はあえなく三振した。

これには真田も一安心。薬師野手陣だと、どんな打ち損じでもエラーされかねないから兎に角三振が取りたいのである。

 

 

 

 

ワンアウトランナー無しで、打順は7番東条。

 

中学生の頃はピッチャーだったが、青道投手層の厚さを考えて一時的にコンバートしたらしい。

ピッチャーをやりたい気持ちは残っているが、それよりもレギュラーの座が欲しかった様である。

確かにそれでスタメンを取れているので、間違った選択でも無いのかもしれない。

 

 

「___ストライク! バッターアウト!」

 

真田キャプテンは、北瀬や伊川に轟といった天才達の影に隠れているが、彼もまた紛れもなく天才。

東条は、三球三振に仕留められてしまった。

 

 

「ナイスです! 真田先輩!」

「おー、一真もナイスリード!」

 

薬師バッテリーは、ニコニコしながらお互いのプレーを褒め合っていた。

甲子園優勝校とは思えないほのぼのとした光景である。

 

 

真田は、リトルから野球をやってはいたとはいえ、真剣に野球を始めてから2年弱。

それなのに、2番手ピッチャーで怪我持ちにも拘らず、上位指名が噂されている選手である。

 

実際真田は、2006年の高校生ピッチャーとしては相当速いストレートなのだ。

コントロールが悪いにも拘らず、球速だけで怪物と呼ばれたりしていた1年生の頃の降谷に、残り3kmまで迫っていた。

まあ決勝でも無いから球速表示が出ていないので、ネットで囁かれる位しか目立っていなかったのが残念だが……

 

 

そう、熱心な勧誘などは特にしていないにも拘らず、北瀬、伊川、真田、火神などの天才達が薬師野球部に入学して来ているのだ。

監督歴3年で彼らを指揮する、轟監督の運の良さはどうなっているんだろうか?

天運を持っているとしか言いようがない。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、8番金丸が打席に立つ。

積極性のある打撃でストレートに強い選手だが、サードなのに下位打線というのはどうなのか……まだ2年生だから、これから成長はするだろうが。

 

まあそんな事は置いといて、彼も青道らしく一発のあるバッターだ。油断する事は出来ない。

というか、一発がなかろうとバットが掠っただけで得点される可能性がある所が、ピッチャーからすれば恐ろしい話だが。

 

 

___ガギーン!

 

「……いてっ」

 

ゆっくりと大きく上がった、レフトへのファールギリギリな打球。

当然、レフト火神は追い付いたが……落球して胴体に直撃していた。残念ながら、彼はエラー持ちの捕球Gである。

 

 

1塁を回って2塁を狙おうとした金丸だが、北瀬がボールに追い付いて送球しようとしているのを見て断念。

北瀬は、どこにボールが飛ぼうとも、毎回全力でボールを追って走っているのだ。

チームメイトが、エラーしてボールを見失うかもしれないという、薬師野手陣だと当然な考え方をしてフォローに向かっている。

それだと疲れて大変な事になりそうだが、彼はスタミナのAの鉄人だから大丈夫だと思われる。

 

 

 

 

ツーアウトランナー1塁で打席に立つのは、9番山口。

ファーストにも拘らず微妙な打撃である彼は、ちょっと強豪校としてどうなんだと思ってしまうが……ちなみに彼は、3年生だ。

青道暗黒期みたいな感じがしてくるバッターである。

 

 

___バシッ!

 

「ストライク! バッターアウト、チェンジ!」

 

プロ注の真田に、あっさり三振を取られてスリーアウト。これで1点も取れずに攻守交代である。

まあ、下位打線だから仕方ない。それに、そもそも野球は毎回点が入るようなスポーツではないのだから。

 

 

 

 

2-2で迎える2回裏、薬師高校の攻撃は6番三島。

他の学校なら主砲だったと言われる彼は、かなり優秀なバッターである。守備はエラー持ちだが……

 

 

___カキーン!

 

154kmからフェン直ツーベースを放った三島は、それでも悔しそうな顔を隠さなかった。

 

 

「クソッ、ホームランにはならなかったか!」

 

「良いぞ三島ー!」

「惜しいぞ優太ー!」

「あとちょっとだったのにな!」

「ナイスです三島先輩!!」

 

主砲もエースもどちらも手に入れようと努力して来ている三島は、雷市はホームランを打ったのにと悔しがっていた。

その愚直に上を目指す意思が、彼を強くしている大きな理由なのかもしれない。

 

 

 

 

ノーアウトランナー2塁で打席に立つのは、7番秋葉。

長打も小技も出来る器用な打撃に、そこそこな守備を誇る薬師では珍しいタイプの選手である。

 

……そう、彼はエラーを持っていないのだ。

ミートパワーエラーをバラ撒いている北瀬や伊川、その上打撃に偏った薬師野球部の雰囲気の中、1人黙々と守備練習に励んでいた選手だ。

2週間前位までは12人しか生徒が居なかった為、自主練習の時間では、片岡コーチに1人ノック練習やキャッチング練習を付け続けて貰っていたのである。

 

大砲軍団がいる為目立たないが、秋葉は薬師高校に必要不可欠な選手であった。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

(うへぇ、やっぱり降谷はめちゃくちゃ良い剛速球投げるなぁ……まあ北瀬程じゃないけど)

 

調子極端な剛速球ピッチャーの絶好調な球を見て、秋葉は思わず脳内で愚痴っていた。

彼は、強い相手と戦いたいと考えるような戦闘狂タイプでは無い為、イキイキと投げられる火の玉の様なストレートに少しだけ気後れしていたのである。

 

キャッチャーのリードも良く守備陣も堅い事を考えたら、今日の降谷の脅威度はピッチャー北瀬を大きく上回るかもしれない。

 

 

___ガギ

 

「アウト!」

 

何とかタイミングは合わせたが、降谷の剛速球に力負けしたのか鈍いゴロしか打てなかった。

2塁ランナーは動けず、これでワンアウト。

 

 

「ドンマイ秋葉! 次もあるよー!」

「惜しい!」

「タイミングは合ってたぞー!」

「米原ー! 敵討ち頼んだぞー!」

 

秋葉が凡退しても、ベンチは和気あいあいといった空気を崩さず、次の打席を見据えていた。

上級生からすれば、当然の事だ。

彼らは高校最強の打者陣だが、それはアウトを取られないという事を意味しない。

打ったら歓声、外したら野次。その後直ぐに次のバッターを応援しよう。こんな雰囲気で、彼らは春のセンバツを優勝したのである……楽しそうな部活だ。

 

 

 

 

ワンアウトランナー2塁で迎えるのは、8番米原。

下位打席だが、薬師らしく長距離も狙えるバッターである。仮にこの能力のまま他校にいたら、クリーンナップ確実と言われている優秀な選手だ。

……まあ、ショートなのにエラー持ちだが。

 

 

「ファール!」

 

「惜しい!」

「カハハハ……オシイ!」

「次はホームランですよ!」

 

 

長打になりそうだったボールは、ギリギリでレフト線を切れてファールに。

米原は、ちぇっ運が無かったなという顔をしたが、直ぐにその感情を忘れてバットを構える。

攻撃の時の切り替えの早さも、上級生達の優秀な能力の1つである。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

だが結局、三振を取られてしまった。

本当に、絶好調の時の降谷はヤバいのだ。薬師打席相手でも十分勝負が出来る程、というかプロでもやっていける程の剛速球を放つのである。

 

 

「どんまいです!」

「次は行けますよ!」

「次も長打狙ってけ!」

 

「よし……次は打つ!」

 

 

 

 

ツーアウトランナー2塁で打席に立つのは、9番真田。 

ピッチャーにしておくのは勿体ないとネットで囁かれる程、チャンスに強い優秀なピッチャー兼バッターである。

今日の降谷の球をホームランにするのは難しいと考えたのか、バットを短く持ち直している。

 

 

___カキン!

 

そして、あわや長打になりそうだったヒットを放ち、2塁ランナーの三島は3塁まで動いた。

 

 

「真田センパーイ! ナイスヒット!!」

「でもホームラン狙おうぜー!」

「まあまあ良いぞー!」

「伊川ー! ホームラン狙おうぜー!」

 

ベンチの上級生達は褒めながらも、長打を狙っていた様には見えないバッティングをした真田に野次を飛ばしていた。

 

彼らには、基本的に繋ぐ打線という意識が無い。

上位打線も下位打線も関係なく、とにかくホームランが格好良いと思っていた。

2・3年生12人の内、ホームランを狙わないタイプは秋葉と伊川だけである。

 

しかもヒット量産型の伊川ですら、ホームランの方がカッコいいと思っていた。

狙わないのは、野球が好きだとか目立ちたいとかいう気持ちがないだけなのだ……この環境だと、ピッチャーの真田ですらホームランが期待されてしまうらしい。

 

 

「うおー! 真田キャプテンスゲー!!」

「ピッチャーとは思えない打球だよな!」

「俺もああなりてぇ……!!」

「真田先輩ー! ナイスヒットです!!」

 

上級生達からしたら普通のヒットだったが、1年生達からすれば違った。

あわや長打になりそうだった、ピッチャーの素晴らしいクリーンヒット。それも、性格も良いキャプテンの一撃だ。

 

焼け野原にする様にバカスカ打つ打線に慣れていなかった彼らは、まるでアイドル会場か何かの様にキャーキャー騒いでいる部員も多かった。

……誰でも入れる甲子園優勝校なので、ミーハーな部員も多かったのである。

 

 

 

 

ツーアウトランナー1・3塁。バッターは恐怖の9割打者、セカンドの伊川。

安打量産能力は明らかに高校野球最高のバッターで、守備能力すら大きく上がり続けている、化け物プレーヤーだ。

 

強いて言うなら、野球に対するやる気の無さが弱点と言えるだろうだろうか?

これだけの選手にやる気が無いとは思わなかったのか、ネットでも殆ど噂すらされていないが……薬師野球部に入部してきた新入生達も、殆どの人が気付いていない。

 

 

(なんか知らないけど、北瀬の調子が悪そうなんだよな……チャンスで打てなかったら可哀想だし、俺が打つしか無いか? 凡退のリスクもあるけどなぁ……)

 

伊川は珍しく、ホームランを打とうと決心した。

普段は北瀬の長打力をあてにして、自分はランナーとして出れば良いやと考えているが……ツーアウトで後ろが絶不調のバッターでは、そうは行かない。

 

仕方なく、フライのリスクもあるホームラン狙いのバッティングを実行しようとしていた。

ツーアウトランナー1・3塁という絶好の得点機会で、自分がリスクを負う選択はしたくなかったが……北瀬の為なら仕方ない。

伊川はそう考えて、渋々ホームランを狙っていた。

 

 

___ガッキーン!!

 

『わああぁぁ!』

「伊川ー! ナイスホームラン!!」

「カッケーぞ!!」

「ナイス伊川ー!!」

「伊川さん! ナイスホームランです!!」

 

 

長打を狙った事で、少しバットコントロールがずれたか。少し鈍い音にも聞こえたが……大きな大きな当たりで、確定ホームランを打った。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打順は2番北瀬。

 

ストレートはMAX164kmと、高校を超え日本人最速のピッチャーであり、4球種のキレキレの変化球を持つ最強ピッチャー。

その上バッターとしても高校最強クラスと、全く隙のない選手である。

 

本当に強いて言うならだが、味方のミスを責める事が出来ない様な弱気な姿勢が目立つ所が弱点だろうか……?

強豪校モドキである薬師では役に立つかもしれないが、メジャーに入ってからが心配かもしれない。

 

 

___ガギン

 

「アウト!」

 

だが、今回の彼はボール球に手を出して呆気なくアウト。

まあ野球とは毎回得点出来るスポーツではないので、そういう事もあると思われていたが……彼が絶不調な事は、本人と伊川しか知らない。

 

 

「そんな事もあるぞー!」

「惜しい!」

「完全にボール球だったけどなー」

「次はホームラン頼むぜー!!」

 

呆気なくやられた北瀬も、ベンチは暖かく迎え入れた。

良くも悪くも、薬師高校は和気あいあいとしたチームである。ミスは仕方ない、そんな事もある、次頑張ろうぜといった空気が流れていた。

 

 

 

 

2回表が終わり、5-2と薬師高校が優勢。だが終わっている守備を考えると、観客の誰もが気を抜けない点差だった。

 

 

 

……

 

 

 

7回表までで15-7と、主に下位打線の貧相さで青道高校はジリ貧に陥っていた。

いや、貧相というのは失礼だろう。対戦相手である薬師高校の打撃力が高過ぎて、相対的にそう見えている可能性が高いのだ。

 

 

 

「選手交代のお知らせをします、ピッチャー真田くんに変わりまして、友部くん、友部くん……」

 

そんな、コールド負けしそうな青道高校に一筋の光がさす。

2番手ピッチャーの真田が降板し、1年生ピッチャーの友部に変わったのである。

 

彼の実力は分からないが、プロ上位指名が噂されている真田を相手するよりはマシだろう。

何とか9回までに逆転して、準決勝まで駒を進めるんだと青道高校の生徒達は燃えていた。

 

 

___ガギン

 

「やべっ!」

 

___バシっ!

 

「……ストライク! バッターアウト!」

 

 

___カキン!

 

___ガギーン!

 

「悪りぃ!」

 

 

……

 

 

___ガギン!

 

「うおおぉぉ!」

「……セーフ!」

 

 

___バシっ!

 

「……ストライク! バッターアウト、チェンジ!」

 

 

7回表、リリーフとして出てきた友部は大炎上。

打撃の青道相手に、ファイアフォーメーションを強化した薬師野手陣と野球をしていたら無理もない。

この回だけで6失点。15-13と、2点差まで追い詰められてしまった。

 

……2点差で追い詰められたという表現はおかしい気もするが、いつでも大炎上しかねないのが薬師野手陣のダメな所である。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

この回だけで何十球と投げさせられた友部は、肩で息をしていた。スタミナCと悪くはないとはいえ、この状況なら仕方ないだろう。

もしくは肉体的な問題ではなく、精神的な問題かもしれない。

 

 

そうやって轟監督は冷静に考えながら、まだ行けるかと友部に問いかける。

 

 

 

 

「ペーペー1年で青道相手じゃ、6失点は仕方ない! 高い練習料を払わされてるが、お前は薬師に必要な選手だからな……

で、どうする? 8回も投げるか?」

 

「……やらせてください! 俺は3回位、スタミナだけ考えたら最後まで投げられますんで!」

「よし、そう来なきゃな! ……じゃあ8回は、最後までお前で行くぞ!」

 

友部の、これからの失点を覚悟しつつも投げたいという思いが籠もった言葉を聞き、轟監督は8回を友部に任せると宣言した。

このまま行くと負けかねないが、この試合は甲子園に繋がる物ではない。

今年3番手ピッチャーとして起用したい友部を育てるなら、必要なリスクだと考えた。

 

 

 

この轟監督の判断で、薬師vs青道の勝負の行方は分からなくなった。

青道高校は関東大会出場を懸けた、薬師高校は春のセンバツ優勝校のプライドを懸けた戦いはまだ続いていく。

 

 

 

 

 

 

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