【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
7回裏に3点を取った薬師野手陣。これで再度突き放し、18-13。
守備はダメダメだが、打撃にはめちゃくちゃ信頼がおける薬師野手陣なのだ。
1年生リリーフが登板し続ける8回表、強い覚悟を決めて登板した友部だが……やはり心持ちだけで何とかなるほど、高校野球は甘くない。
理由はエラーも大きいが、7回表よりも酷く8失点。18-21と逆転されてしまった。
というか、18-21というのは本当に高校野球の点差なのだろうか?
何か別の競技をやっている様に聞こえてしまう点数だが、打撃を売りにしているチーム同士が戦っているから仕方ないのかもしれない。
2回で14失点の、友部が俯きながら謝った。
「俺、その……すみませんでした」
「しゃーないしゃーない、そんな事もあるよ!」
「カハハハ……ホームラン打つ!」
「割と手痛く食らっちゃったけど、次頑張ればいいさ!」
「俺達の守備が悪い事も大きいしなぁ……」
ここまで大炎上したのは野手陣の下手くそさが大きいとはいえ、北瀬や真田や三島ならここまで打たれなかったのだ。
俺のせいで勝てる試合が分からなくなってしまったと深く反省しつつ、それでも俺を試合に2回投げさせてくれた轟監督に友部は感謝していた。
8回裏、薬師高校の攻撃は脅威の1年生火神からだったが……
青道野手陣が守備でファインプレーを重ねるという、薬師からすれば運の悪さで三者凡退に終わってしまう。
これで18-21。圧倒的な打撃力で勝ち進んできた甲子園優勝校の、思わぬ敗北も有り得る状況になって来た。
「ポジション変更のお知らせをします。ピッチャー友部くんに代わりまして、三島くん、三島くん……」
9回表、3点差で負けている状態では流石に育成などとは言っていられず、轟監督は三島を守護神として緊急登板させた。
(3点差か、これ以上点差を付けられる訳には行かねぇな……燃えるぜ! 俺がエースになる為の試練だな!)
三島は前向きに、俺がエースになるまでの試練の1つだと考えていたが……残念ながら、轟監督は三島をピッチャーとして育てる気は無かった。
1年生の頃は、人数不足からピッチャーとして起用せざるをえなかっただけで、そろそろ彼はバッターに専念させようと考えられているのだ。
現在球速は142kmと割と良く、ピッチャーとしてもそこそこ優秀な三島だが、明らかにバッターとしての才能の方が高い。
本人の為を思うからこそ、そろそろバッティングに専念させたいと考えられている。
彼はそんな事を一切知らないので、真田先輩や北瀬を追い抜いてエースになろうと考えていたが……流石に厳しそうだ。
青道高校の打順はクリーンナップの、2番小湊から。
___ガギン!
討ち取った当たりにも見えたが、守備に付いているのは薬師高校。微妙な当たりをファースト福田が触れずに、ボールはライトまで飛んでいった。
そもそも福田の正規ポジションはセカンドなので、マトモにファーストの練習をしていないのである。その上エラー持ちと来れば、後ろに逸らしても仕方ないだろう。
だが結城は珍しくちゃんと捕球し、しっかり2塁に送球。送球△と言っても、10割ミスする訳ではないのである。
飛び出そうとしていた小湊は慌てて戻り、これでノーアウトランナー1塁。
ノーアウトランナー1塁で、打順は白州。
___ガギーン!
ゆっくりと高く打ち上げてしまった打球は、レフト火神真正面。だがセンター北瀬は、全速力で走ってボールに追い付いていた。
……真正面のボールを捕る火神の捕球能力より、自分が全力で走った捕球の方が信用が置けるのかもしれない。
もしくは、割と守備が好きな北瀬だから、レフトに飛んだボールも取りたくなってしまったのかも?
「俺が捕る!」
「任せた……ます!」
___バシッ
「アウト!」
何にせよ北瀬はしっかりと捕って、これでワンアウト。
「ガハハハ、これも俺の実力!」
「まあ、そうなる……のか?」
「ナイピです三島先輩!」
「ミッシーマ、三振以外は邪道だぞー!」
明らかなフライで討ち取ったにも拘らず、これが俺の実力だと話す三島への反応は微妙だった。
なぜかと言うと、薬師高校は三振が持て囃される環境だからである。
フライやゴロで討ち取るのは、球数を節約出来るというメリットがある。だが、守備が崩壊している薬師ではセーフになるデメリットの方が多い。
だから、ピッチャーにはとにかく三振を取ることが求められているのだ……ゴロ型ピッチャーとしては最悪の話だろう。
まあムービングボーラーの真田先輩も、どうにか三振を取って2番手ピッチャーとして活躍している為、本人の実力があればどうにかなる話なのかもしれない。
まあ、実力の半分位が制限されている状況な気もするが。
ワンアウトランナー1塁で、打順は4番降谷。なんか疲れ切っている様にも見えるが、9回表でも交代しないらしい。
___ガキッ!
「ファール!」
思いっ切り打ち切っていたが、ライト線外れてファール。
低い弾道で勢いよくかっ飛んでいくボールに、薬師野手陣は安堵の声を上げていた。
「あんなん飛んできたら取れねー!」
「降谷凄げーな! 北瀬かよ?!」
「二刀流か……」
惜しくもファールとなった降谷は、バットをグッと握り直した。
惜しい、次は速く打たなきゃ、と考えたのだ。
___ガギーン!
力が籠もり過ぎたのか、ツーストライクまで追い込まれた後、降谷は平凡なセンターフライを打ってしまった。
当然、北瀬は簡単に捕球してツーアウト。
小湊は2塁に進みたかったが、北瀬の矢のような送球を恐れて1塁残留。
流石に164kmの剛速球投手相手に進塁するのは、難しいと考えたようだ。
18-21と青道高校優位な3点差、ツーアウトランナー1塁でこの男、御幸一也。
甲子園準優勝ピッチャーの成宮鳴すら欲しがった、不屈の天才キャッチャーである。
リトルから優勝という言葉に縁がないが、やはりこの男も天才。
破壊神薬師や名門稲城実業と同地区ながら、御幸と降谷だけは甲子園で見たかったと言われる程優秀だ。
___カン!
チャンスでしか打てない男と言われてきたが、この春は一味違うのか。
クリーンヒットを放ち、ランナー1・3塁。
「ナイス御幸ー!」
「流石はキャップ! チャンスでしか打たなかった男はもう居ない……!」
「ナイスです御幸キャプテン!」
青道ベンチも、キャプテンの勇姿に声を上げて喜んでいた。
同じ薬師のピッチャーである北瀬や真田には劣るが、三島だって優秀なリリーフだ。
青道にいても、エース争いに食い込めたかもしれない男なのだから……いや、最高潮の降谷には全く叶わないのだが、三島の方が安定感があるのだ。
それなのにバッターとしての評価の方が上で主砲ですらないとは、とても1年前に強豪校の仲間入りしたチームとは思えない層の厚さである。
本当に薬師に欲しい選手が守備に強い選手な事は、彼にとっては不幸な事だろうなと、薬師を知る人間は考えていた。
甲子園クラスの強豪校でも、4番でエースだと持て囃されたかもしれない実力者なのに、このままではピッチャーとして起用されるかは怪しいし、下位打線に置かれてしまう可能性すらある。
守備だって、彼ほどの打力があるなら他のプレイヤーが補助して当然なのに、チーム事情で全くサポートする気配がない。
よって三島は、割と運がない選手だと言われている……彼の打撃の才能が、パワプロ能力で開化させられている事実は誰も知らない。
まあ轟監督の指導によるものとしている人はいるが。
ちなみに小湊は、ライト結城方面にボールが飛んだのを見てすぐさま3塁を狙ったらしい。熱い薬師守備への信頼が垣間見える。
ツーアウトランナー1・3塁で、青道高校の攻撃は6番前園。
ファーストのスタメンだったのに、外野に転向した選手である。元々落合監督は前園よりも山口を買っていたため、控え落ちする筈だったのだが……割と手薄な、レフトへの転向に成功したらしい。
(9回表、3点差付いてるとはいえ薬師相手では誤差範囲……ここは俺が打たなあかん!)
子どもが見たら怯えそうな顔をしながら、前園は堂々とバッターボックスに立つ。
上位打線ではないとはいえ、炎上守備を背負っている薬師バッテリーは欠片も油断せず、相手バッターを見据えていた。
(パンチ力はあるけど大振りなのが欠点だったよな、この選手……だけど、俺達に出来るのは三振狙いしかない。行くぞ三島!)
(がははは! ここは俺が抑えて、ヒーローになる場面だな?!)
急造キャッチャーに近いとはいえリード力は明らかに伊川よりマシな秋葉は、三島に三振狙いの指示を出した。
一応キャッチャーも齧っている三島は、すぐさまその意図を理解。
やはり三振狙いだな、俺が主役になるに相応しいボールだ! と考えながら、意気揚々と投球していた。
___カスッ!
「……アウト!!」
前園はバットを掠らせたが、残念ながら後ろに飛ばしてしまいキャッチャーに取られてアウト。ランナーを3塁に残留させながら、青道高校の攻撃は終わった。
9回裏、3点ビハインドでの打席は7番秋葉。恐怖の薬師打線では平均的な実力になってしまうが、彼も非常に優秀なバッターである。
___カキン!
「セーフ!」
154kmの剛速球を、あっさりツーベースにしていた。薬師高校の中ではかなり守備特化の選手とは言え、彼もまたファイヤーフォーメーションの1人である。
薬師打線で目が肥えている観客達も、思わず唸るクリーンヒットだった。
「流石、轟監督がリトルから育ててた男……」
「いいぞぉ秋葉ー!」
「ここから逆転やー!」
ノーアウトランナー2塁で打席に立つのは、8番ショート米原。高卒でプロ入りの噂すら立っている、下位打線にも関わらず強力なバッターだ。
本人は、本物の天才達を見ているからプロでやっていくなんて絶対無理だと考えているらしいが……ちなみに、轟監督のツテを辿って実業団入りを狙っているらしい。
それなら卒業しても何年か野球がやれるし、大手企業に就職出来るところが非常に魅力的との事。
監督はプロ入りチケットを自ら手放すことに微妙な顔をしていたが、上級生たちはさもありなんと言った顔をしていた。
___ガギーン!
「セーフ!」
「うっしゃー!」
「米原先輩! ナイスヒット!」
「危うくフライだけどなー!」
「良いぞ米原ー!」
「友部ー! 頑張れー!!」
上手い感じにポテンと落ちて、ノーアウトランナー1・3塁。頑張れば2塁ランナーは帰塁出来た気もするが、薬師高校はあまり走塁をしないチームなので仕方ないだろう。
基本的に長打狙いのチームなので、ギリギリの盗塁などを決めるメリットが薄いのだ。
それ以外に、守備とか守備とか、やるべきことが沢山あるのである。
上級生たちは、あくまでホームランを決める気しかないが……残念ながら、この姿勢が薬師高校の伝統になっていくと思われる。
大多数がホームランしか考えてないから、DH育成校とかネットで揶揄されるのだろう。
「代打のお知らせをします。友部くんに代わりまして、福田くん、福田くん……」
ノーアウトランナー1・3塁、打席には9番福田。
薬師高校の上級生としては微妙な打力だが、彼もまた薬師打線の一角。3年生としての意地と誇りを見せて欲しい。そんな物が薬師部員にあるのか怪しいが。
ちなみに、守備の時はファーストをピッチャー友部が守っていた。
轟監督は、今までセカンドをやってきた三年生より、ピッチャーの1年生の方がマシな気がしたらしい。
「うぉっしゃー! 打つぞー!」
「頑張れ福田ー!」
「福田先輩ー! ホームランお願いしまーす!」
「カハハハ……ホームラン、オネガイシマス!!」
「福田先輩! 頑張ってください!!」
最近1年生にポジションを取られる事が多い福田は、意気揚々と打席に向かいながら叫んでいた。154kmからホームランを狙う気満々である。
ちなみに、たまに飛んでいるまともな応援は、控えの1年生の由井が言っている事が多い。
新入生でも色々声を掛けまくって良い雰囲気を、最大限まで活かした応援を行っているらしい……柔軟性の高すぎる新入生だ。
___ガギーン!
打球は危うくホームラン、これは長打かと思われたが……ライト白洲がネットスレスレの打球をキャッチした。これでワンアウト。
「ランナースタート!」
「……セーフ!」
だがライトに飛んでしまえば、当然3塁の秋葉は帰塁。これで2点差になった。
「うへー、アレを捕るのかよ!」
「ドンマイ福田ー!」
「ホームランまでもうちょいだったのになー」
「やっぱり青道って守備堅いっすねー」
「ナイス犠打です、福田先輩!」
点は取っているはずなのに、残念だったなドンマイ! と言った雰囲気が漂う薬師ベンチ。酷い話だが、彼らからすればツーベースで及第点といった所である。
だがこれで、薬師恐怖のクリーンナップに打順が回った。
ワンアウトランナー1塁で、打席には伊川が立った。
点差が付いてあからさまに故意三振した時以外は全ヒット、春季大会9割越えの化け物である。
___カキーン!
「良いぞ伊川ー!」
「ナイスです伊川先輩!」
「次はホームラン狙えよー!」
スタミナCにも関わらず、薬師高校相手に9回まで投げ続けている降谷は満身創痍。伊川は簡単にツーベースを打って、これでワンアウト2・3塁。
2点ビハインドの場面で、エース北瀬が打席に立つ。今日はヒットが3本と、彼にしては振るわない成績である。
いや、3本もヒットを打っているのに、振るわない成績というのは少し憚られるのだが……普段の彼ならホームランだって打てた為、そう思われても仕方ないだろう。
滅茶苦茶調子が悪いと自覚している彼は、初めて公式試合でバットを短く持った。
___カキン!
その甲斐あって、低い打球でショート方向にしっかり打球を飛ばしたが……残念、そこは俊足倉持の守備範囲内。
キャッチャーとの見事な連携もあり、3塁から飛び出していた米原を仕留めた。3塁コーチャーをやっていた、3年生増田の能力不足が露呈したとも言えるかもしれない。
「まじか! あれを捌くのかよ!」
「マグレにしてもスゲー!」
「惜しいぞー涼ー!」
「雷市頼むぞー!!」
2点差で負けていてツーアウトと、ヤバい状況だが狼狽えない薬師高校の上級生。
2点差で試合が終わっていないなら、全然まだまだ余裕! そんな明るい表情で、何故か相手の上手さを称えていた。謎の余裕だ……
ツーアウトランナー1・2塁で打席に立った、薬師高校主砲の轟。
高校生史上最強かもしれないとまで言われる、ホームランバッターである。
「カハハハ……カハハハハ……!」
凶悪な笑顔で笑いながら、彼は打席に立った。大人しい性格が豹変している。
彼は車に乗ると人格が変わる人間みたいに、打席に立つと人間が変わる人種なのだ。
___カキーン!
彼は全力でバットを振り切り、結果的にはツーベースヒット。ランナーは1人帰り、これで20対21。
___試合の行方は、1年生の火神大我に託された。
「頑張れ火神ー!」
「ホームラン狙えよ!」
「まあツーベースでも良いぞー!」
「……頑張れ火神ー!!」
「頼む打ってくれー!!」
まだツーアウトで1点差と追い込まれたままではあるが、薬師ベンチの上級生たちは狼狽えない。これくらいの逆境はよくある事、次のバッターが決めてくれるさ! といった感じで、謎の風格すら伺わせた。
ちなみに、ギリギリのところでランナーに触れたキャッチャー御幸のファインプレーには気づいてすらいないらしい。
流石に、入学して2週間弱の新入生たちはビビっていたが。試合が決まるこの場面で、1年生の1打で試合が決まるとか恐ろしすぎる。
得点圏にランナーを置いて凡退したら、戦犯物な気がする。自分がこの打席に立っていなくて良かったと、内心考える部員もいたのかもしれない。
1点差、ツーアウトランナー2・3塁で打席に立つのは、1年生の火神大我。
打撃能力は1年生最高クラスの、プロ入り出来るんじゃないかと入部2週間弱で監督たちに思わせる逸材である。守備は酷いが。
(俺が打つ。絶対に打つ……!!)
顔がこわばっている火神。打撃力が凄すぎて誰も考えていないが、彼はシニアでの出場経験がない選手なのだ。楽勝だった1回戦と違い、緊張してしまっても仕方ないだろう。
___ガギ
「アウト! 試合終了!!」
呆気ないほど、降谷の高めボール球に手を出して……試合終了。
しばし呆然としていた1年生と違い、上級生たちは俺達よくやったよなーと言った表情をしていた。
甲子園優勝校ではあるが、1年前の弱小校だった頃の空気を引き摺っているので、青道相手じゃ仕方ないなと思ったのである。
もう少し上級生たちは、春の選抜優勝校としての自覚を持った方が良いだろう。紫紺大優勝旗を所持しているチームとは思えない。
「ドンマイ火神ー!」
「バットには当たってたぞー!」
「割と惜しいトコまでは行けたなー」
「相手は名門だからしゃーない!」
1点差で負けたのにも関わらず、薬師ベンチはそこまで暗くなっていなかった。
まあ、負けたのが甲子園の掛かった大会じゃなくて良かったー! 次は打ち勝とう! と言う雰囲気が流れている。
2回で13失点と、守備の責任も大いにあるとはいえ、大炎上してしまった1年生を責める空気でも無いようだ。
轟監督はそういった空気に少し安心しつつも、先発真田からのリリーフとして起用したい友部の心中を考えて憂鬱になった。
(あちゃー、友部にとっては手痛い敗戦になったな。これを引き摺らなきゃいいが……)
「20‐21で、青道高校の勝ち! 礼!!」
『ありがとうございました!!』
上級生たちはあまり敗戦を辛く考えてはいなかったが、1年生の空気に釣られて何となく沈んだ空気となっていた頃、火神が唐突に声を上げた。
「悪い……です、俺のせいで負けた……」
何回もエラーで得点を献上した上に、最後の打席で呆気なくゴロを打った事を深く後悔していた。
敬語は全然使えないが、火神は意外と責任感がある性格である。この試合は自分のせいで負けたと思い、謝らずにはいられなかったらしい。
だが、その言葉にキョトンとした薬師高校の上級生達。別に彼らは、火神のせいで負けたとは思っていなかったのだ。
エラーをしていない部員の方が少ないし、全部凡退した訳じゃない。全員頑張って負けたんだから、まあ仕方ない。そもそも引退が掛かった試合でもないし、次リベンジすればいいさ!
そう楽観的に考えてすぐに敗戦を切り替えていた上級生達は、別に謝らなくてもいいのに……ていうか、そもそも火神って謝れる人間だったっけと少し困惑していた。
酷い反応にも見えるが、彼らからすれば学校に乗り込んできた敬語の使えないホームランバッターだから仕方ない。
そんな空気の中、真田キャプテンが、火神の手に肩を置きながら窘めていた。
「大我のせいで負けたんじゃないさ! 俺達、薬師野球部全員で戦って負けたんだ」
その言葉に、単純な火神は安心していた。罪悪感は残っていたが、キャプテンにそう言って貰えた事に、少しだけ良かったと感じていたらしい。
無意識の内に、チームメイト達の反応に怯えていたのかもしれない。彼はチームに馴染めず、中学生の頃は部活に入れていなかったので。
「……ありがとう! 真田、センパイっていい奴だな!」
「そうか? 今回の負けは、次戦う地方大会でリベンジすれば良いし……いやまぁ、先に関東大会で当たるかもしれないけどな」
真田は火神のおかしな言葉使いをスルーして、笑いながら次にリベンジしようと話す。
その言葉にキョトンとした火神。どういうことですかと、キャプテンに問いかけた。
「……? 関東大会って、何だ……ですか」
「ああ、知らないのか。春季大会で優勝か準優勝、又は春の選抜でベスト4で出場できる大会だよ。俺達は優勝してるから、出場は確定してるな」
「そっか……うおぉぉ! 次は青道にリベンジだ!!」
「いや、当たるかは判んねぇけどな?」
関東大会を知らないとか火神マジかよという空気が下級生達の間で流れながらも、薬師高校の部員達は比較的マシな空気になりながら寮に帰還していた。
確かに、今日負けても関東大会には出られるしな。それに、エース北瀬先輩を起用してたら絶対負けなかったし……といった空気である。
ちなみに火神と同じく関東大会を知らなかった上級生3人は、内心肩身が狭かったらしい。