【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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72球目 再会

 

 

 

 

残念ながら、もう何年も甲子園に出場していない青道高校に手痛い敗戦をしてしまった薬師高校。

出場した選手はゆっくり休めと明日までの休暇が宣言されたので、北瀬は憂鬱そうな顔をしていた。

 

 

 

……ちなみに伊川はうっきうきである。

やったー休みだ! 久しぶりに料理しようかな? それとも受験勉強するか? でも俺、意外と推薦で大学行けるかもしれないしなー。

まあ、今の所アメリカの大学行く予定だけど、その場合は暫く面倒見てくれるってスカウト言ってたし……やっぱり料理しちゃおっかなぁ!

 

彼からすれば、野球での負けなどどうでもよかったので、あくまで内心休みを喜んでいた。

流石に先輩達の引退が掛かった試合なら思わなかっただろうが、実際違うのだから仕方ない。

 

 

1日休みがある春にしか出来ないことを考えて、地元の爺さんが無料開放している山にタケノコを取りに行こうと思いついた伊川。

ちなみにタケノコ取り放題な理由は、竹が増え過ぎて邪魔だからだ。元手無しで掘ってくれるなら、幾らでも持って行って良いらしい。

道も整備されていない山の中だから、詰まらないと思っているのか不良達は入ってこないので、珍しく平和な場所である。

 

山でゲットしてくれば材料費タダだから、無料で部員達に配れるな! おばちゃんに炊き込みご飯にして貰おうとワクワクしながら、北瀬も誘った伊川。

2人いれば単純に考えて労力が倍なので、誘わない理由が無かった。ちなみに他の人は、流石に迷惑かなと思って誘えないらしい。

 

 

「明日休みかぁ! 俺、山にタケノコ掘りに行こうかな……北瀬はどうする?」

 

伊川の言葉にしばし黙り、意を決して話し出した北瀬。彼は、前から考えていた用事を、明日済ませようと考えていたのだ。

だけど、伊川には言い辛いなぁと口ごもりながら、でも言わなきゃと話し出した。

 

 

「……俺、前からメールで母さんに会わないかって言われてて……知ってる人なのかは分からないけど、明日会って見ようかと思う……伊川は、どう思う?」

 

伊川本人と母さんは血が繋がってないから関係ないとはいえ、父親とも母親とも関係が冷え切っている彼には言い難かったので、その内で良いやと放置していた北瀬。

夏の甲子園が終わってから母さんらしき人物とメールし続けて半年程、流石に時間が出来たらねと言い続けるのは難しくなってきた。

 

そろそろ会わなきゃマズいなと意を決して、伊川に母さんに会いに行くと話していた。

そろそろ、殆ど会ってない本物かも分からない母親に会わなきゃなという不安もあって、北瀬は絶不調に陥っていたのである。

母さんより伊川の方が大切だし、嫌がるなら別に会わなくても良いんだけど……肉親だしなぁ。

 

深層心理では両親に未練がある北瀬は、困った顔をしながら伊川に話しだした。

伊川に反対されたら行かないけど、それでも親だしなぁと言った考え方をしていた。

 

 

微妙な表情で話し出した北瀬に、伊川は微妙な表情を返しながら許可を出した。

 

本当は居なくならないで欲しいけど……この理由で断るのは良くないなぁ。

仕方ない。行って来いって言うしかない。微妙な顔をしながら、行ってらっしゃいと口に出した。

 

 

「……良いんじゃないか? まあタケノコ掘って美味い炊き込みご飯作るし、夜までには帰って来いよ」

「おー、楽しみにしてるな!」

 

 

 

 

 

 

 

次の日、北瀬は予定時刻から1時間前位には都会に来ていて、謎のモニュメントの前に向かっていた。

 

 

(えーっと、ぶっちゃけあんまり母さんの顔覚えてないんだけど……あ、あの人だ!)

 

あまり親の顔を覚えていないつもりだった北瀬だが、意外と簡単に見つけられていた。

まあ、モニュメントの前に立っている女性は2人だけだったので、見つけられて当然な気もするが……

待たせてしまったかもしれないと慌てながら、北瀬は母親の前に向かう。

 

 

「久しぶりね……涼」

「久しぶり……母さん」

 

お互い緊張した顔をしながら、数年前両親が離婚してから会ってなかった2人は相対する。

 

 

「何食べたい……? 寿司? 鰻? 高校生男子は焼肉かしら……?」

「焼肉! ……あっ」

 

目を輝かせて焼肉に行きたいと話した北瀬。その直後に恥ずかしそうな顔をして、えへへと誤魔化していた。まあ誤魔化せては無いが……

 

 

「分かったわ。叙々縁でも行きましょうか」

「ヤッター!」

 

 

……

 

 

「でさ、甲子園の舞台って凄いんだよ! 何万人? の人が見てて、初戦は凄い緊張してたな……」

「ええ、そうね。母さんも調べてビックリしたわ!」

 

楽しそうに話す、北瀬と北瀬母。北瀬は、母親と会うのを面倒くさそうにしてたのに、気が変わるのが早かった。焼き肉効果だろうか?

彼らは元々、身内にはノリが軽く、慣れだしたら話が止まらなかったらしい。

そもそも数年前まで一緒に住んでいたからか、彼らがお互いに慣れるのは早かったようだ。

 

「でさ、甲子園で2回も戦った巨摩大藤巻ってめちゃくちゃ強くて……特に本郷!

夏は7-4で負けたし、春は9-5で勝ったけど、たった9点じゃ打撃で勝ったとは言えないよー」

 

「涼のいる薬師高校は、打撃特化の学校らしいものねぇ。毎回凄い点差を付けているんでしょ?」

「多分? 俺野球詳しくないから良く分かんないんだけど、良く言われるからそうだと思う」

 

北瀬は、母親に言われた打撃特化という言葉に、そんな気もするような……という微妙な反応を返した。

基本的に、野球をゲームと高校生活でしか知らない彼は、他のチームと比べる事が出来なかったのだ。

 

 

北瀬母は、そんな感じなんだーという浅い反応で相槌を打ち、そのまま野球の話を続けた。

息子と話はしたいと思ってはいるが、根本的に彼女は野球に興味がないのである。

 

息子の活躍以外は見てないから、母も本当に薬師高校が打撃特化なのかは良く分からないのだ。

 

 

「へー、そうなんだ……そう言えば、涼は凄いボール投げてるらしいじゃない。確か……164km? 昔から涼は野球好きだったものねぇー!」

「……そうだっけ?」

「覚えてないの? 始くんと、いつも野球ばかりしてたじゃない」

 

母親に、全く記憶にない事を言われて、困惑している北瀬。

そう言えば、この母は俺の知っている母さんじゃないんだったっけと、悲しそうな表情をした。

おぼろげに覚えている母親と同じ顔、同じ反応をするから本人だと思ってたけど、違うんだなぁと察したからである。

けれど、まあ大体俺の知っている母さんと近いから、これからはこの母親が母さんなんだと思い直して顔を取り繕った。

 

だが北瀬が一瞬悲しそうな顔をしたのが分かり、北瀬母は不安そうに尋ねる。今の発言のどこに悲しい顔をしたのかしらと思ったのだ。

 

 

「……まだ、始くんとバッテリーを組んでるのよね? 仲良くやってるの?」

「うん! まあアイツはセカンドにコンバートする予定だけど、仲良くやってるよ!!」

 

北瀬は、母さんの言葉に楽しそうに答えた。

伊川も野球が好きになって来たんだよなぁ! 俺、割と無理やりだったけど、中学の頃野球誘って良かった! そう北瀬は考えてたのである。

 

 

元夫の不倫相手の息子である、伊川始に微妙な心境を抱いている母は、それでも涼の嬉しそうな言葉に笑顔を返していた。

 

 

「そう……良かった! 昔っから、涼と始くんは仲良かったものねぇ。安心したわ!!」

「そうだね。俺、伊川が弟で良かった……!」

 

北瀬は感慨深げに返した。本当に大切な弟なんだよ、いつも一緒に居てくれるし、飯は美味いし、野球も一緒にしてくれるし……!

まあ常識が無いのが弱点だけど、それは俺が補えば良いしな!

 

他人に話せば、野球の常識が無いのは同じでは? と返されそうな内心だが、北瀬はそうやって考えながらニコニコしていた。

少し楽しい事を話しただけで直ぐ笑顔になる様な、彼は単純な人間だ。

 

昔から変わらない息子を見て、母親は決心をした様に話し始める。

涼はもう、私が居なくても大丈夫なんだとようやく分かり、会社からせっつかれていた話を、遂に了承する事にしたのである。

 

 

「色々話を聞けて良かった……母さん、転勤でアメリカに行くことになったから、もし助けを求められても直ぐに駆けつけられないし

何年も放っておいて、何言ってるんだと思うかもしれないけど……」

 

彼女は、離婚して離れ離れになった息子からの連絡を、ずっと待っていた。

元々息子は引き取るつもりだったのだが、涼が始と離れたくないと泣きついた為、仕方なく元夫に親権を渡したのだ。

 

その後3年間、始も一緒に引き取っておけば良かったと後悔し続けていた……けれど時間が立つにつれ更に連絡し辛くなり、ニュースで息子を見てから漸く決心したのである。

このまま連絡を取らなければ、息子に私の事を居なかった物扱いされても仕方なくなる。

 

私は……やっぱり涼の事が忘れられない。引き取らなかった事を、ずっと後悔して来たんだ。

例え拒絶されようとも、私はどうしても息子に会いたい。

 

そうやって、彼女は9月頃から連絡を入れ続けていたのだ。

 

 

北瀬はそんな内心を知らず、普通の顔をしてペラペラと話していた。

彼は、母親の内心を知らなくて良かっただろう。知っていれば、本物の息子ではない事に罪悪感を抱いたと思われる。

 

ふーん、母さんはアメリカに行くんだー。と言った、あまり興味なさげな顔で、北瀬は返事をした。

そもそもまた会うとも思っていなかったので、気軽な反応になっても仕方ない話である。

 

 

「いや……連絡取らなかったのは、俺も同じだから! 母さんと会えて良かったよ!

後さ……実は俺、高校卒業したらメジャー行く予定でさ! 5年120億で契約してくれるって話なんだよ!」

 

「えっ?? あ、そうなの? ……母さん、絶対試合見に行くわ! ……あ、でも何回も見られるかは場所によるわね?」

「ワシントン州シアトルだってさ。マリナイズがどこにあるのか、俺は良く分からないけど……」

「勤務地と同じじゃない、絶対見に行くわ! アメリカ行ったら、休みが多く取れるらしいのよ!」

「マジで? じゃあチケット送るから、住所教えて!」

 

思い出話から、新たな生活への話題を移らせながら、2年ぶりに会った北瀬と母親は楽しげに会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そうやって、感動シーンの様になっていた北瀬親子。

 

一方、学校から電車も使って30分位の場所にある山に、1人でタケノコを取りに来ている伊川。

大量のタケノコを持ち帰る為に、かなり大きなリュックを背負っている。

 

まずは竹を切り、暫く放置して乾燥させる為の場所に積み始めた。薪にする為に使った分は、自分で切っておくルールだからだ。

 

 

___ガッッ! ガッッ!

 

鉄人の身体能力を活かして、伊川は高速で薪を切り始める。竹は燃えるのが早い為、沢山切って置かなければならないからだ。

1人300g分位のタケノコを入れるとしたら、100人なら30kg分位のタケノコを焼かなければならない。

 

せっせと竹を切り、相当の回数ナタを振るっていた。無料開放してくれている爺さんの為に、使う量より多めに切っておいてあげるらしい。

 

 

沢山竹を積んで、もうそろそろ良いんじゃねと考えた伊川は、乾燥している竹をしっかり組み合わせた後火を付けた。

 

竹の性質上、爆発しながら燃え始めたのを見て急いでタケノコを探し始める。

ここから先は時間との勝負だ。美味しいタケノコの為、竹を燃やしながらタケノコを掘って火に掛けなきゃいけない。

タケノコを纏めて掘ってから燃やすのでは、味が劣化してしまうからだ。

 

 

……明らかに1人でやる作業では無いのだが、元々鉄人の肉体を持つ伊川は全力で取り組んでいた。

 

靴を脱ぎ、足の裏でタケノコを探す。

___地面から明らかに出てしまっているタケノコは、もう美味しくないから放置だ。

 

美味しいのは足で触ったらギリギリ分かる位のタケノコ。

足の裏の感覚でタケノコが生えていたのを見付けた伊川は、直ぐにスコップで掘り出して火に入れた。

アルミホイルで巻いてから入れる人も多いけど、1人だと間に合わない。

 

人数が足りない時は巻かなくて良いと爺さんから教わっている伊川は、火に焚べた後すぐさま次のタケノコを探す。

 

皮が焦げるまで、タケノコから水が滴るまで焼くのがコツ。皆が食べる時が楽しみだなぁとニコニコしながら重労働を熟していた。

 

 

……

 

 

これを暫く繰り返し、ようやく143人分位のタケノコを焼き終わった伊川。

明らかに重労働だったが、鉄人の彼は汗すらかいていない。

 

皆もっと食べたいかなぁと考えていたら、50kg程掘り返していた。沢山竹切っておいて良かったー! 

でも一応、爺さんの為にもうちょっと切っておこうかなと、また竹を切る作業を始めていた。

 

 

 

どうせ寮に帰っても北瀬がいないから暇だしと、また1時間近く竹を切っていた伊川は、太陽の方角を見てそろそろ帰らなきゃと慌てて寮に戻った。

寮のおばちゃん達に渡し、沢山タケノコが入った炊き込みご飯を作って貰う。

枝豆が入っていて、緑や黄色と色合い豊かなご飯に、部員達は少し盛り上がっていた。

 

 

「あれ、今日のご飯タケノコ入ってるじゃん。美味そー!」

「ホントだー、珍しい」

「まあ俺ら、寮に来てから2週間しか経ってないけどな」

「タケノコってけっこう高くね? どこからタケノコ代出たんだろー」

「あ、ホクホクしててウマっ!」

 

ちょっとだけ盛り上がった部員達に、伊川は割と満足そうな顔をしていた。

1日費やしただけの成果は有ったらしい。

 

ちなみに、伊川が1番取ってきたばかりのタケノコを食べて欲しかった北瀬は、焼き肉の食べ過ぎであまり食べられていなかった。

 

 

 

 

 

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