【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
各々休暇を満喫していたレギュラー陣に対して、普通に練習をしていた薬師部員達。
その中で、一際情熱的に練習をしていた新入生が居た。
推薦入学者ながらベンチ入りが出来なかった3人の内の1人、パワード・プロスキー、通称パワプロ君である。
名字と名前から最初の2文字を取ると、有名ゲームの主人公になるパワプロ君。
彼は自分から、ノリノリでパワプロですと名乗る野球部員なので、様々な人からパワプロ君と呼ばれている。
ちなみに明らかに外国人に見える地黒な肌に名前なパワプロ君だが、幼少期から日本に住んでいる為、日本語しか話せないらしい。
その場のノリで外人ムーブをする事はあるが、実際の彼の英語能力は日本人の平均に近い。一応、両親の母国は英語圏なのだが……そんな事、パワプロ君の知ったことではない。
彼はその名前から何となく、小学校高学年位の頃に野球部に誘われ、熱心に取り組んできた選手である。
残念ながら遠くの強豪シニアに通える様な金銭事情ではなく、中学時代は普通に野球部に入っていた。
3回戦突破が関の山な中学校で、パワプロはそこそこのピッチャーとしてやっていたが、何故か夏の甲子園ベスト4の薬師高校から推薦入学の誘いが来たのだ。
彼は内心なんかの間違いじゃなかろうかと思いつつ、了承の返事を半日で提出した。
間違いだろうが何だろうが、このビッグウェーブを逃してはならないと考えたらしい。
実際の所、間違いでも何でも無かったが。
あまりの崩壊守備に二の足を踏むピッチャーは多く、そこそこ使えそうなピッチャーなら誰でも良いからとパワプロが指名されたらしい。
後日、薬師高校の異様な偏差値の上がり方を見て、彼は即座に返事をして良かったと安堵していた。
そんなパワプロくん……球速は140kmと軟球上がりにしてはそこそこ速いが、変化球もコントロールも無いという致命的な弱点がある。
本人も、どうにか弱点塗れな自分を改善していこうと努力しているが、流石に入部して2週間では全く改善出来ていない様だ。
今日も自主練習で、ネットに投げ込みを続けるパワプロくん。がむしゃらに、ひたすら練習を続けている。
彼は1軍の選手だが、同じ1軍のキャッチャーである伊川や由井に奥村とは実力が離れ過ぎていて、声が掛けづらいのだ。
だから、今日も消灯時間まで練習しようと考えていた。
「お前、パワプロ……だっけ。流石に投げ過ぎじゃねーか? 少し休んだらどうだ? まあ、俺はパワプロの頑丈さとかは良く知らないんだけど」
「あ、真田キャプテン! こんばんは!!」
急に話しかけて来た真田キャプテンに対して、パワプロくんは大きな声で返事を返した。
1軍ギリギリみたいな俺に何のようだろうとは思っていたが、一応体育会系なので、大きなとした声で返事が出来たのである。
まあパワプロくんは強豪校出身ではない為、そこまで体育会系っぽい返事では無かったが……真田も強豪校出身ではない為、特に気にならなかったらしい。
「こんばんは! パワプロは今、どんな感じの練習してんの?」
「なんか変化球投げられたら良いなと思ったんですけど、色々振り方変えてみても難しくて……」
パワプロの言葉に、真田キャプテンはなるほどなという顔をしながら相談に乗っていた。
「……じゃあ、俺の持ってる変化球教えよっか?」
「マジすか?! あざーす!」
結局パワプロは、真田が積極的に教えてくれたのもあり、シュートとカットボールの2つをほんの少しだけ身に付ける事が出来た。
まだまだ本番では使用出来ないような変化量だが……これからこの2つを磨いていこうと、彼は決心したらしい。
「パワプロ飲み込み早くね? なんか、グングン成長してきそうな感じしたわ!」
「マジすか?! えへへ、俺は2年後エースになるかもしれない男! 期待しててくださいよ!」
「おー、期待してるぜ!」
少し真田キャプテンと仲良くなったパワプロくん。
まだまだ強豪校相手に投げられる選手ではないが、薬師高校にはピッチャーが少ない事情がある。
もしかしたら、この夏ベンチ入りメンバーに選ばれる未来も……可能性がないとは言わない。
室内練習場でバットを振っている、由井と三井、太平達。
水休憩しようと動き出す時間が3人で被ったので、何となく休憩しながら雑談ムードに入っていた。
三井が由井に、ふと思った事を質問していた。
「そういや由井がバッティング練習しに来んの珍しーよな、何で?」
「北瀬さんのボールを取れるようにするのが優先だからかな
最近凄くパワーが付いてきたから、北瀬さんと練習出来ない時はスイングを修正してるんだけど」
「へー、なるほどね」
「成長期良いなぁ! 羨ましい!」
北瀬との友情トレーニングにより、キャッチングをしているのにパワーも上がった由井。
成長期かなと思いながら、隙間時間に必死にバットを振っていた。パワーが付くのは嬉しい事だが、今は圧倒的に練習時間が足りないのだ。
エース北瀬さんのボールは、まだストレートすら満足に捕球出来ない。そんな状態では、当然変化球なんて取れる訳がない。
だから、少しでも早く北瀬さんのボールを取れるようにしないと行けない。
よってバッティング練習は、北瀬さんと練習出来ない時に限られてしまうのだ。
全く取れない捕手の練習に2週間も付き合って、今後も付き合うと言ってくれる北瀬さんは、凄く優しい人だ。
この間北瀬さんは「それなら確かにラフプレーはしない方が良いな! 野球ってラフプレーへの規制が緩いのかと思ってたんだけど、違ったんだなー!」と言っていた。
一瞬、ラフプレーを許容するかの様な発言に聞こえたけど……実際の所、彼は反則をした時のデメリットを知らないのに、結局正々堂々とやる事を選んだとも取れる。
だからけして、北瀬さんは全く怖い人じゃないと思うんだけど……それを皆に教えちゃったら争奪戦になりそうだしな。
ごめんなさい、北瀬さん。俺は積極的に誤解を解こうとしないです……
そんな事を考えながら、由井は太平に、上級生達の情報をまた教えてくれないかなーと質問してみた。
2週間前位に、北瀬さんが投げたそうにしている事を教えてくれたお陰で、今キャッチング練習がさせて貰えてるし。他にも良い情報持ってたら教えて欲しいなーと思ったのだ。
「この前、北瀬さんが投げたがってるって教えてくれて、ありがとう! 太平が教えてくれたお陰で、北瀬さんにキャッチングさせて貰えてるんだ!」
「役に立ったなら良かったよ! 北瀬先輩、バット振ってる所を見られてるの苦手みたいだし、キャッチング練習誘われたら喜ぶと思ったんだ!」
一方的に教えて欲しいなんて、ちょっと無理があるかなーと思いながら、由井はものは試しだと聞いてみた。
「……もし良ければ、他にも良い感じの情報あったら教えてくれない?」
「良い感じの情報かは分からないけど……とりあえず、誰のどんな事を教えた方が良い? 答えられないのもあるかもしれないけど」
自分の持っている情報を隠す気がない太平は、答えられるやつなら答えるよと快諾した。
北瀬さん達の情報なんてその内皆知るんだし、それだったら俺が部員達と仲良くなる為に話してしまった方が良いという判断をしているからだ。
それに、推してる先輩たちについて話すのは楽しいし。太平はそうやって考えていた。
まあ彼は、先輩達が不利になる様な話はするつもりがないのでその辺は安心である。
「じゃあ、まず北瀬さんがやったら怒る事って分かる?」
「多分だけど、2・3年生の誰かを貶したら内心相当怒るんじゃないかな? 先輩達に随分懐いてるみたいだし
野次を飛ばす位ならいいけど、奥村くんみたいな言い方をしたら……」
奥村がキャプテンを罵倒したというセンセーショナルな噂は、聞いていた人数が多かった事もあって、3日も経てば部員全員が知る所となっていた。
北瀬さんが相当怒ってたという噂は聞かなかったけど、実は怒ってたのかな?
俺が伊川さんのリード力不足を話した時は、特に怒ってなかったけど……気をつけよ。
ただでさえ俺は、キャッチングが下手で北瀬さんの足を引っ張ってるのに、怒らせたりなんてして良い訳がない……良い情報聞いたな。ありがとう。
由井はそう考えながら、太平に返事を返した。
「……なるほどね、話してくれてありがとう!
まあアレは、怒って当然な内容だったけど……体罰あるチームで言ってたら、大変な事になってたでしょ」
「マジか、他の強豪校ってそんな感じなんだー」
言う訳には行かないが、ちょっと入学前から部活に越させてもらっていた為、薬師野球部内の情報通な太平。
グレーゾーンだが最高のスタートダッシュを決めているから、上級生達の好感度は、彼が1番高い。
だが、薬師野球部の事情に詳しい事と、他の野球部の慣例に詳しい事は比例しない。
ヤベぇ体罰があるチームなんて、一切具体的には聞いた事がない彼は、由井の発言にマジかよという顔をしていた。
そんな現実を知らない太平を、怪訝な目で見ている由井。
彼はU-12や、U-15に出場しているナチュラルエリートだから、今まで弱小校出身の部員と関わる事があまり無かったのである。
だが、まあどうでも良いかとスルーして、由井が気になっている事を聞いた。
ベンチ外の選手にあまり興味を持たない事も、強豪の選手として有用な資質である。
だからと言って貶して良い訳では無いが……コミュニケーションを取り続けるには、ある程度の労力が必要だ。
試合で使えない部員とあまり交友関係を深めると、モチベーションが下がってしまう可能性すらある。
彼はそこまで深堀りして考えては居なかったが、経験則から何となく知っている。
「そうだよ。薬師野球部は、普通有り得ない位優しい上級生ばかりだと思う。野球部とは思えない位ミーハーで先輩の邪魔になりそうな新入生達も、一切締められてないみたいだし
他には……北瀬さんのピッチャーとしての能力で、知られてないけどこれも凄いとかって、あったら教えてくれない?」
由井が怪訝に思った後の自然なスルーには気付かず、太平は彼の質問に答えた。
まだまだ成長期だと思われる底知らずのポテンシャルや、ピッチャーをやっている時の方が調子が上がる可能性など、教えたい事は沢山ある。
だけど1番ビックリした事はこれしか無いと思って、意気揚々と話しだした。
尊敬している先輩達の推しトークをするのが、凄く楽しいらしい……正確に言うなら、由井がしているのは推しトークではなく情報収集なのだが、そんな事はどうでもいいらしい。
「あー、それなら有り得ない位の身体の頑丈さとかがあるよ!
伊川先輩と、どれ位投げたら疲れるのか検証したらしいんだけど……試合と同じレベルで250球投げきって、ようやく疲れたらしいんだ!」
「嘘だろ……??! 腕は大丈夫だったのか?!」
「いくら何でもヤバくね?」
興味なさげに、水を補給しつつ聞いていた三井だが……オーバーワークで肩を故障してしまった彼は、その有り得ない程無茶な言葉に慌てていた。
いくら何でもそれは駄目だろ! いつ俺以上にヤバい怪我をするか分からない、危険な練習過ぎるだろ! 次やったら絶対に止めないと……と言った表情をしている。
三井は、感情が割と顔に出やすいタイプだった。
「それが……監督に話したら病院直行になったんだけど、野球やってるとは思えない、超健康体だったんだってさ」
「北瀬さん凄っ……」
「スゲーな! 俺もそんな身体が欲しかったぜ……」
肩を故障してからグレて2年程不良をやり、それでもショートとしてプロになる事が諦められなかった三井は、羨ましげな表情をしてそう零した。
もし北瀬先輩の様な肉体を持っていたら、俺は2年間も無駄にしなかっただろうな。
安西監督がチームに戻る事を赦してくれなかったら、県内最強シニアに奇跡の勝利が出来なかったら、俺はこんな強いチームに入れなかった。
バカな事をしても助けてくれた周りに感謝しないと……赤木達には表立って言えねぇけど。
そう言えばアイツ、巨摩大藤巻高校から推薦貰って越境入学したよな。元気にしてっかな? いやまあ、赤木なら何処に言ってもゴリラとして上手くやってくと思うけどよー。
三井は、本筋とは関係ない事を考えながら、適当に話を聞いていた。
由井や太平は話をする時に割と計算も入っていたりするが、三井は直感タイプだ。
その熱い性格や意外な面倒見の良さから慕われている事も多いが、彼は人間関係に打算を入れる事はない。
太平は将来1軍になった時も上手くやっていける様な人脈作り、由井は先輩達の情報収集、三井は雑談という三者三様の思惑だが、なんやかんや暫く楽しく話していたらしい。
「……じゃっ、俺はそろそろ練習再開しよっかな! またなー」
「じゃあ俺も、そろそろ練習しようかな。為になる話が多くて、話し過ぎちゃったかも?」
「そうだなー、確かにサボり過ぎたかもしれないな!」
「まあ一応自主練習だから、サボりとかでは無いけどね」
「でもよー、こう言う時間を有効に使う事が周りと差を付けるチャンスだろ! なんかやってない部員も多いけどな……」
雑談を終わらせて、自主練習に戻った彼ら。
ちなみに、1軍に入っている大多数の1年生は強豪校出身なので、まさか物見遊山がてらに入って来た3軍部員が多いとは全く気付いていなかった。
それを知った時、やる気の欠如した人間も入れてしまう春のセンバツ優勝校というワードに、ドン引きすると思われる。