【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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活動報告で募集している、オリジナル学校を提供してくださりありがとうございます!
展開が変わってしまってすみません、活躍を楽しく書かせて頂きました!


76球目 持ち直し

 

 

 

 

春季大会の決勝戦が終わって少し立ち、今日も今日とて練習に励む薬師野球部。

 

今日は1年生が入部してから初の他校との練習試合があり、ミーハーな3軍メンバーが盛り上がっていた。

ちなみに2軍は、公式試合でもないのを見るくらいなら練習しようと冷静に考えていたし、1軍は試合経験豊富な選手が多いため冷静だった。

 

 

そんな空気の中、1軍から3軍まで集まるウォーミングアップ前に、轟監督は今日のオーダーを話していた。

 

 

「まず、今日のピッチャーは友部! というか、お前が完投するんだ!」

「……マジすか?!」

 

 

ついこの間起きた、2回14失点の悪夢が忘れられない友部。

あの後から実力が付いた訳でもないのに、本当に俺で良いのかと不安そうな顔をしながら、友部は虚勢を張って笑顔を作った。

 

轟監督はそれを見抜き、ニヤッと笑いながら相手チームに対して酷い事を言った。

 

 

「なんだ、心配か? ……別に、相手は強豪校じゃねーよ。相手は、神奈川のベスト16の県立川上高校。大船に乗ったつもりでテキトーにやっとけ」

「え、はい……」

 

激戦区の神奈川県でベスト16って、かなり強いのでは? そう1年生達は思いつつ、それでも先輩達ならやってくれると信じて盛り上がっていた。

3軍の選手からしても、2回14失点の友部が投げるのは不安要素だが、それは関係ない。

とにかく北瀬選手、伊川先輩、轟先輩が活躍する所が見られればOK! 寧ろピンチを作ってくれた方が、練習試合にドキドキ感が産まれて良いのでは?

 

そうやって、変な盛り上がり方をしている3軍達……もう少し、春のセンバツ優勝校の部員としての自覚を持って欲しい物である。

まあ片岡コーチの指導によって、だんだん真面目にやるようになって行く気はするが、今の3軍はあまりにも酷い緩さをしていた。

 

 

「1番はショート瀬戸

2番はセカンド伊川

3番はファースト三島

4番はサード雷市

5番はキャッチャー秋葉

6番はセンター北瀬

7番はライト結城

8番はレフト大田

9番はピッチャー友部にした!

 

打線の決め方は……マルチヒット系と長距離砲を混ぜてみただけだ。まーこの打順は多分公式戦ではやんねーけど、練習試合位なら良いだろ。なんか面白い発見があるかもしれないしな!」

 

 

轟監督はいつものテキトーぶりを見せつけつつ、部員全員に今回のスタメンを告げる。

この試合で、少しは自分もマウンドに立ちたいと思ってくれる様になれば良いなと、少しだけ思っていた。

 

それにしても、打順の決め方が適当過ぎる。相手は所詮ベスト16のチームとはいえ、もう少し頭を使った采配が出来なかったのだろうか?

 

いや……轟監督は実は、相手の裏をかく戦略を立てる事が得意である。

打撃力で勝負しか出来ない薬師高校だから目立たないが、監督の野球IQは非常に高かった。

まあ監督歴3年という事で咄嗟のミスとあるだろうが……現役時代、彼は戦略も考えられるプレイヤーだった。

無理に作戦立てて戦わず、公式戦では1番勝率が高い戦略を取っているだけなのだ。

 

 

轟監督は、普段から無茶振りをする事によってメンタルを鍛えている節がある。

実際、薬師高校の上級生達は何があっても試合中は落ち込まないメンタルをしている。

轟監督が普段からめちゃくちゃな事をするのは、意外と正しい選択なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ウォーミングアップが終わった辺りで、今日戦う相手チームが現れた。

部員達は監督の周りに集まって、挨拶をしようとしている。

 

そんな時キャプテンらしい人物が、真田に向かって歩いていき、握手を求めようとしていた。

 

 

「今日の試合、宜しくお願いしあす! 俺が川上高校キャプテンの酒井っス! あの薬師と戦うの、楽しみにしてやした!」

 

ちょっと変な言葉遣いをしながら、笑顔で手を伸ばしてくる川上高校キャプテンに対し、真田キャプテンは笑顔で手を握った。

 

 

「ありがとう! 俺は薬師高校のキャプテン、真田俊平です。今日の練習試合も、楽しみにしてました!

……とは言っても、残念ながら俺は、今日の試合に出る予定が無いんですけどね」

 

真田キャプテンの言葉に、酒井は目を輝かせながら質問した……若干真田に対して失礼である。

 

 

「ん? となると、先発ピッチャーはあの北瀬ッスか?!」 

 

その言葉に悪いけど違うんだよなぁと、ちょっと内心気まずく思いつつも、真田は笑顔を維持しながらこう答えた。

 

 

「いや、うちの3番手ピッチャーの友部です!」

 

真田の言葉を聞いて、まあうちの評価はこんな物だよなという顔をしながら、酒井は好戦的な目をしてこう言った。

 

 

「ふーん……川上高校を舐めてうって事っすか

まー甲子園優勝校相手じゃ、そうなるかもしれないとは思ってたっす。それなあ、引き摺り下おおすまでっすね!」

 

真田も好戦的な目を向けながらニヤっとして、川上高校相手に宣戦布告した。

俺達は負けない、だって薬師高校の打線は最強だからな! と真田は考えている。

 

 

「俺達だって、負けるつもりはないっすよ? 雷市、北瀬、伊川のクリーンナップは最強ですし!

……それに、友部だって良いピッチャーなんで、簡単に打ち崩せるとは思わない方が良いですよ」

 

 

 

 

 

 

 

1回表、川上高校の攻撃。

 

友部は1番と2番を三振に切って捨て、ツーアウトまで追い込んだ。

だが3番の酒井にヒットを打たれ、4番の野渡にもツーベースを打たれ、ツーアウト2・3塁。

 

ここで秋葉がバッテリー間タイムをとり、友部に向かって近付いた後、ゆっくりと話し始める。

 

 

「友部、相手バッターが怖いか?」

「そんな事は……」

 

秋葉先輩の言葉を聞き、別に川上高校のバッターが怖いわけではないなと思った友部。

けれど、青道に打たれまくったイメージが忘れられず、普段通りのピッチングができないのだ。

 

 

「大丈夫。相手は青道程のバッターじゃないし、多少打たれても俺達が取り返す。安心して投げて良いからな」

「……はい!」

 

取られても俺達上級生が取り返すという、頼もしすぎる言葉を掛けた秋葉。

薬師の守備は本当に酷いが、その分打撃は高校最強なのだ。

 

今までの戦果でそれを知っている友部は、笑顔で返事をした。ありがとうございます、秋葉先輩。

打たれない様にしてれば良くて、もし打たれても取り返してくれるって事ですよね!

 

 

友部がそう考えている中、秋葉は感じの事を言った後に、言い忘れてたなぁといった表情で口を開いた。

 

 

「あ、でももし青道相手でもビビらないで投げてくれよ? この間は出来なかったけど、次はもっと点を取って援護するからな!」

 

秋葉の言葉に、友部はプライドを持ってこう口にした。

 

「いえ、20点も取って頂ければ十分です……俺の実力で、青道が相手でも稲城実業が相手でも、勝てるようになってみせます!」

「よし、頑張ろうな!」

「はい!」

 

 

 

この後薬師バッテリーは、5番の戸部を空振り三振に抑えてスリーアウト。1年生が、1点も相手に与えず攻守交代させた事に、薬師ベンチは大いに湧いていた。

 

 

「良いぞ友部ー!」

「ナイス三振ー!」

「初回零封なんて中々ねぇぞー!」

「ナイス、友部くん!!」

 

 

 

 

 

 

 

1回裏、薬師高校の打順は1番瀬戸。チャンスを与えられた事に喜びながら、相手ピッチャーを打ち崩そうとするが……

 

 

___バシッ!

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

相手ピッチャーの野添に、あっさり三振にさせられてしまう。

 

瀬戸はベンチに帰りながら、次の打者である伊川に相手の情報を伝えた。

 

 

「伊川さん! 相手ピッチャーのボール、遅いですけどキレがあります」

「なるほどな、そういうピッチャーか……気を付けるよ、ありがとう」

 

お礼を言いながら、ベンチに帰っていく瀬戸をぼんやり眺めている伊川。

俺気を付けるって言っちゃったけど、打席で気を付けるってどうすりゃ良いんだ?

 

伊川は今まで1度も打てなかった事がないので、打席で相手の配球を予測するなどした事がなかった。

来ると分かっている所にボールを合わせれば良いだけなので、楽な仕事だよなと彼は思っている……彼の様な見え方を、他の人はしていないとは知らなかった。

 

 

___カキーン!

 

伊川はあっさりツーベースを打ち、これでワンアウト2塁。

早くも得点圏にランナーを置かれ、川上高校の野手陣は少し焦っていた。

 

 

 

ワンアウト2塁で打席に立つのは、3番三島。

 

 

「ガハハハ、ここで俺がホームランを打てば……!」

 

 

___ガギン!

 

実際に打ったのは、セーフかアウトか微妙な打球。なんとか川上のショートが飛び付き、1塁に送球……これでツーアウト。

 

 

「ドンマイ三島ー!」

「もうちょいでヒットだったなー」

「次はホームラン頼むぜー!」

「いけー雷市! ホームランだ!!」

 

残念ながら三島は、運悪く今試合初打点を逃してしまった。

 

 

 

 

ツーアウト2塁で打席に立ったのは、今回4番の轟。

長打も選球眼もある、理想的な主砲である。まあ守備は酷いが……

 

 

___ガッキーン!

 

ホームランかと思ったが、残念ながらレフト線切れファール。

 

 

「惜しい!」

「もうちょい!」

「雷市ー! ホームラン決めろよ!」

「お前なら行けるー!」

 

ベンチはあと少しでホームランだった打球に喜び、テンションを上げながら応援していた。

もうすぐで入ったのに……とかいう落ち込み方はしない。

なぜなら、薬師高校の打線ならいつでもホームランが狙えるからである。

 

細かい事は置いといて、今この打席を楽しもうぜ! と言った感覚である。

 

 

 

___カキン!

 

「良いぞ雷市ー! 地味だけど」

「次はホームラン頼むぜー!」

「ナイスです轟さん!」

「せめてフェン直は打とうぜー!」

「秋葉ー! 次はホームラン頼むぜー!」

 

ツーストライクまで追い込まれた雷市は、バットを少しだけ短く持って打席に立つ。

外野に抜けた為ツーベースかと思いきや、残念ながら打球が速すぎてヒットにしかならなかった様だ。

 

 

 

最近、雷市の野球に対する飢えが薄れてしまっていると、轟監督は考えていた。

今までは野球しか無いという状況だったが、悪く言えば馴れ合いが多い薬師高校に、完全に染まってしまったのだろうか。

積極的にホームランを狙うのはツーストライクまでで、駄目そうなら安打を狙えば良いやという姿勢が透けてしまっている。

 

高校に入学してから、元々非常に良かった打撃力が大幅に伸びている為、他の学校からはバレていないだろうが……監督は、何とかしなければと考えていた。

 

雷市に対して、監督がそんな事を考えているとは誰も知らない。

やっぱり雷市も北瀬も伊川も凄いなーと言った空気が、普段の部活でも流れているだけだった。

本人に指摘した方が良いのかもしれないが、それで拗らせても問題になる。

轟監督は、とりあえず静観する方針である。

 

 

 

 

 

惜しかったなぁという空気が流れる中、ツーアウトランナー2・3塁で打席に入ったのは、器用万能とも言える2年生の秋葉。

 

 

___ガギン!

 

(クソっ、遅すぎて逆に打ち辛れぇ……!)

 

「……アウト! スリーアウトチェンジ!」

 

良く考えてみると、今まで薬師高校相手に遅いボールを駆使してくるチームと、あまり戦った事が無かった気もする。

青道高校の沢村は近い部類かもしれないが、癖球サウスポーとは全く違う球種なので比べても仕方ないだろう。

 

打った事の無いボールを、初回から打つのは難しい。

だから薬師高校は、惜しい場面は作りつつ無失点で終わってしまったのだ。

 

 

 

……

 

 

 

4回表まで、友部は3塁までランナーを進ませる事はありつつも、要所で低めスライダーを巧みに使い、割と危なげなく無失点に抑えていた。

 

確かに川上打線は公立にしてはよくバットを振れているし、強豪並の圧力を感じるが……友部にとっては青道戦の炎上に比べれば大したことではなかったようだ。

まだ1点も取られてないから余裕だなの精神で、得点圏にランナーを置いても悠々と投げきっていた。

 

 

「良いぞ友部ー!」

「最高のピッチングだぜー!」

 

「ありがとうございます!!」

 

ベンチやグラウンドから聞こえてくる、友部を称賛する先輩達の言葉に喜びつつ、彼はコールドまで無失点で切り抜けてやろうと考えていた。

 

1回で少し焦ったけど、思いの外神奈川県ベスト16は怖くないなぁと思ったのである。

青道高校のマシンガン打線と比べたら、月とスッポン。これなら俺でも行けるなぁと言った、余裕の表情をしていた。

 

入学してから2週間で、神奈川県ベスト16相手に薬師守備を背負ってこれだけ戦えるとは、彼はかなりの逸材なのだろう。

 

 

 

 

 

 

4回裏、薬師高校にしては5-0と湿った打線だが、それにはいくつかの理由があった。

 

まず、打順がめちゃくちゃな事が非常に問題だ。チラホラとヒットが出ているが、併設や三振などが惜しい所で連発してしまっている。

 

次に、観客が全く居ない事が挙げられるだろう。薬師野球部は基本的に、観客が試合を見に来る事を禁止している。

スカウトが、北瀬や伊川などのスーパースターに取り入ろうとする事を禁止する為だ。

基本的に、スカウトだろうと選手を見に来るのは許可制になっている。

 

だが、罵声は馬耳東風とばかりに無視する薬師高校だが、彼らは歓声だけ楽しく聞いているのだ。

それが無いと、無意識の内に打ち気が減ってしまうのである。まあ、そんな事でテンションを下げる上級生達が全面的に悪い。

 

他にも、相手が微妙な強さな事が問題だ。

超格下であれば大量にホームランが出て楽しく戦うだろうし、強敵相手ならテンションバク上げで戦うだろうが、川上はそのどちらでもない為戦い辛いのである。

頑張らなくても勝てるけど、ホームランが出まくる程じゃない、微妙な相手に見えてしまっている。

 

 

 

 

 

___だが、4回裏の彼らは一味違った。

 

雷市がスローボールをフェン直ギリギリ三塁打にすると、秋葉はスローボールを無視し、外低めの球に合わせて単打でランナー返し追加点。

 

 

ノーアウトランナー1塁で打席に立ったのは、伊川しか知らないが青道戦の打席で絶不調だった北瀬涼。ちなみに、この試合では単発ホームランを放っている。

青道戦で打てなかった事に対し、周りは守備で走り回った事が原因だろうと推測していたが、実はメンタル面による不調だった。

 

内心彼はその事を不甲斐なく思っていて、今回の試合で不調を吹き飛ばしてやろうと考えているのである。

ちなみに今の彼の調子は普通なので、既に不調は吹き飛んでいたが……

 

 

___カッキーン!!

 

どう見てもホームランな、盛大な打球を放った北瀬。彼はこの打席で、完全復活を確信した様だ。

当然、薬師ベンチも大いに盛り上がっている。

 

 

「ナイスホームラン!」

「カッケー!!」

「これを見たかったんだ!」

「いやいや、平畠試合出てるんだからお前が打てや!」

「ナイスホームランです! 北瀬先輩!!」

 

「ウェーイ!」

「ウェーイ! ナイス北瀬!」

 

 

 

残念ながら、7番の結城、9番の友部、1番の瀬戸が相次いでゴロを放った為この打順は3点だけで終わった。

いや3点なら十分な気もするが、投壊の薬師打線としてはイケイケムードの間にもっと取りたかったらしい。

 

だが、これで4回裏で8-0。5回コールド勝ちも見えてきたと言って良いだろう。

流石、高校最強打線の薬師高校である。

 

 

 

 

 

 

 

……だが5回表、遂に球が浮き出した友部が捕まり出し、エラーも大きく絡んでワンアウトの状況で2点取られてしまった。

打ち出したら止まらないと言われる川上高校は大きく盛り上がり、ここからが勝負だと張り切っている。

彼らはどちらかと言うと守備型のチームだが、誰かが打ち出せば連打出来るという特徴があるのだ。

 

友部は、大きく息を荒げている

友部のスタミナはC。確かに悪くもないが、ゴロがランニングホームランになりかねない野手陣を背負って戦うのは、思ったよりも神経を使っていたらしい。

まあセカンドに伊川と、センターに北瀬がいるだけ昔よりは大分マシになっているのだが……

 

 

 

ワンアウト2塁の状況で、打席には4番中野。

相手は当然、コールド負けは許さないとばかりに全力で挑んでくる。

 

 

___ガキーン!

 

ライト線切れてファールだが、危うくホームランの球を打たれた薬師バッテリー。

 

 

 

 

それを見て、轟監督はタイムを掛ける。

友部やベンチ外メンバーは、遂にピッチャーが代えられる時が来たかと考えたが……

 

 

「平畠、奥村と交代だ! 行けるな奥村!」

「はい」

 

だが監督は、平畠が奥村と交代だと指示を出す。

つまり、レフトに秋葉が入り、キャッチャーには奥村が座るという意味である。

 

 

「……友部、かなり疲れているのか?」

「……そうだな。ぶっちゃけ9回まで完投しろって言われたらキツい」

 

現状を認めつつも虚勢を張った友部の言葉を聞いて、奥村は涼しい顔を崩さないままこう告げた。

 

 

「だからと言って、甘い球を投げて良い訳じゃない

友部なら、もっとしっかりコントロールしたボールを投げられるだろ?」

「分かった、何とかしてみる……」

 

内心キツいなぁと思いつつ、友部は自分で何とかするしか無いなとも思った。

実際川上打線に打たれたのは、コントロールが甘くなった球。打たれない為には妥協を許さず、一球一球に魂を込めて投げ続けるしか無いのだ。

 

 

「後は、真田先輩みたいに内角を攻めていこう。見ていた感じ、元々コントロールは良いよな」

 

奥村の言葉を聞いて、流石に当てるリスクは犯したくないなぁと考えた友部。

ちょっとどうなのといった顔をしながら、奥村に反論した。

 

 

「いや、終盤のコントロールが甘くなってる状況で内角に投げるのは……」

「だから、相手にとっても怖いんだろ。お前が当てないように頑張れば良い……お前のコントロールなら出来るよな?」

「まあ……?」

 

友部のコントロールはDと、可もなく不可もなく位である。彼はあまり内角攻めはやりたくなかったが、奥村の正論と圧に負けてやる事になっていた。

 

 

 

 

 

ワンアウト2塁、ノーボールワンストライクで、薬師バッテリーは高め内角ボールゾーンに投球した……頭スレスレを狙っている。

 

 

___バシッ!

 

「ボール!」

「危ねぇー!!」

 

ただでさえ大差で負けていてイライラしている所に、頭付近を狙って投げてきた薬師バッテリーにめちゃくちゃムカついた4番。

あっさり大振りを繰り返した結果、友部-奥村バッテリーは簡単にアウトを取る事が出来た。

 

 

 

ツーアウトで出てきた5番も薬師バッテリーがしっかり抑え、スリーアウトチェンジ。

 

 

 

8-2で、打順は2番伊川から。

彼がヒットを打った後、三島と雷市が2連続ホームランを放ち、秋葉のツーベースと北瀬の2連続ホームランで試合が決まった。

 

5回13-2で、薬師高校のコールド勝ちである。

 

 

 

 

 

 

「うっしゃー! コールド勝ち!」

「ありがとう友部ー!」

「ナイス力投!!」

 

「マジかよ……これが甲子園優勝校……!」

「クソッ、1年生相手に……!」

「俺達も、こいつらに勝てる様になれば全国行けるな」

 

 

友部が、試合をたった2点で抑えるという快挙に、薬師高校の上級生は大きく盛り上がっていた。

 

これ以上に点差が付いた試合はいくらでもあったけど、相手を2点で抑えた事は無かったんじゃないか?!

ひゃっほーお祭りだとばかりに、薬師高校の上級生達はベンチから走ってきて、友部の前に集まっていた。

 

 

 

「よしっ、胴上げするか?!」

「そうだな! ちょっと失礼!」

 

あれよあれよと言う間に真田が友部を掴み上げて、上級生達は本当に胴上げを始めてしまった。

真田もピッチャーなんだから、もう少し腕を大切にした動きをして欲しい気もするが……頑丈過ぎるエースにつられて、他のピッチャーも適当な動きが多かった。

 

 

「友部! 友部!」

「ナイス完投!」

「これからも頼むぜ!!」

 

「うわ高い! 高過ぎますって!!」

 

たかが練習試合で、格下相手にコールド勝ちしただけなのだが……上級生の彼らも、最近友部が落ち込んでいた事を分かっていた。

それを吹っ切って、友部が奮闘した事が嬉しかったのである。

 

素晴らしいパワーを持つ上級生達に、全力で高い高いをされている友部は少しビビっていたが、楽しそうにも見える。

公式記録に載らない、たかが地方大会ベスト16相手への小さな1勝だが、友部にとってはかけがえのない転機になりそうだ。

 

 

……ちなみに、奥村も一緒に胴上げしようとしていた上級生達だが、嫌がった彼に逃げられてしまっていた。

この程度の勝ちで、そこまで喜ぶ気になれなかったらしい。

 

 

 

 

この試合を見ていた轟監督。彼は、次期エース筆頭の1年生友部に必要なのは、良いタイミングでズケズケ言える恋女房なのかもしれないと考え始めていた。

5回表の疲れ切っている友部を見ていた時は、ぶっちゃけ今までの経験からは痛打される印象しか沸かなかったが……奥村に変えた瞬間、ピッチングが明らかに変わったのだ。

 

 

なんか奥村は北瀬や伊川と相当揉めたのか、彼らにしてはかなり塩対応を繰り返されている。

人間関係を考えたら、実力があろうが奥村はベンチ外かと考えていたが……考え直す必要があるかもな。

 

最終的に情ではなく勝率を優先する轟監督だが、少しだけ考え直させる様なインパクトが、この試合にはあったらしい。

 

 

 

 

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