【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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78球目 選考

 

 

 

 

関東大会ベンチ入りメンバー発表日。通常練習が終わった今、部員全員の前で発表するらしい。

 

轟監督が、珍しく威厳が無くもない堂々とした態度で、部員達に背番号を発表し始める。

 

 

「今から、ベンチ入りメンバー20名を発表する! 呼ばれた者は前に来てユニフォームを受け取ってくれ!

 

……1番、北瀬涼! エースピッチャーとしての起用になるが、センターとしての活躍もよろしく頼む!」

 

「はい!」

 

北瀬が、彼にしては堂々とした態度で皆の前に立ち、エースナンバーを受け取る。

 

轟監督は、やる気十分じゃねえか、1年前とは見違えたなと考え、ニヤッとしながらこう告げた。

 

 

「うしっ、じゃあ何か一言宜しく!」

 

少し驚きながらも、轟監督の突拍子もない言動に慣れつつあった北瀬は、まあこんな事もあるよなと思いながら話し始めた、

 

 

「……新入生が入ってきてからの1か月、熱心な新入生も多くてびっくりしました! そんな新しい薬師野球部でも、勝って行きたいと思っています。これからも、よろしくお願いします」

 

___パチパチパチパチ

 

彼は無難な事しか言えていないが、単語だけしか話さなかった訳ではないので、取材の時よりはマシである。

新入生達も、北瀬さんがエースなのは当然だよなと、なんの感慨を持たずに拍手をした。

一部の熱心な北瀬ファン数名だけは、大きな大きな拍手をしていたが……悪目立ちしている。

 

 

 

 

轟監督は拍手が鳴り止み始めた辺りで、背番号2……つまり正捕手を発表した。

 

 

「次……2番、伊川始! エース専用キャッチャーとしての番号だ。それ以外の時は、セカンドとして起用する

高校最強のミート力で、存分に相手チームをかき乱してくれ!」

 

「はいっ!」

 

空気を読んで、伊川は大きな声で返事をした。

新入生や一部の部員はやる気がある風に騙せたが、轟監督は騙せなかった。

こいつやっぱり、あんまり野球好きじゃねぇな……1年経って技術力は上がりつつも本人のやる気は上がらない事を、轟監督は残念に思っていた。

 

「じゃあ一言頼む!」

「甲子園優勝校として、恥じない結果を出せる様に頑張ります!

……そして青道高校に、北瀬とバッテリーを組んでとリベンジしたいと思います!」

 

___バチバチバチバチ!

 

 

別に甲子園にもリベンジにも拘っていない伊川だが、それっぽい言葉を適当に言っていた。

だが伊川は割と口が上手いので、北瀬の発言よりもウケが良かった様である。

 

 

 

 

次はファーストの発表だが、その番号はどう考えても彼しか有り得ない。

 

 

「次、3番三島優太!」

「ハイッ!!」

「当たり前だが、ファーストとしての起用になる! まあピッチャーとしても使うかもしれんが」

 

その場で大きな返事をした三島。ずんずんと前に出てきて、堂々とした態度で誓いを立てた。

 

 

「エースとしても主砲としても、雷市や北瀬に勝つ! 今は負けてるかもしれねーけど、絶対奪い取ってやる!!」

 

___パチパチ……

 

轟監督が一言を求める前に、自分の目標を大声で告げた三島。

かなり無茶な目標だが、彼は本気でエースも4番も奪い取るつもりである。

 

聞いている部員達は、流石に厳しい気がするんですけど……と思いながら一応拍手をした。 

言われている北瀬と雷市は、負けないと闘志を燃やしていた……客観的に見るとかなり無理がある目標だが、彼には頑張ってほしい。

 

 

 

 

次はセカンドの発表だが……伊川を一応正捕手として発表している以上、この番号が妥当な人間は決まっている。

 

 

 

「4番、増田篤史! 伊川との併用になるが、お前も薬師野球部に絶対必要なバッターだ! 胸を張ってプレーしろ!」

 

「はいっ!」

 

本人はショートを志望しているとはいえ、セカンドに瀬戸が選ばれる可能性はあるなと考えていた増田は、ほっと一安心と言った顔をしながら返事をした。

そのまま、自分の思っている事を話し始めた。

 

 

「セカンドとして選ばれて、嬉しいです! 伊川の様にはいかないけど、精一杯バットを振ろうと思っています!!」

 

___パチパチパチパチ

 

普通に自分の目標を掲げた増田。

甲子園優勝校のスタメンとしては卑屈だが、1年前までは弱小校だったチームの下位打線だから仕方ない。

1年生達も、そこまで違和感を感じずに普通に拍手をしていた。

 

 

 

 

次はサードの発表だが……ここにいる全員、誰が選ばれるかは分かっていた。

天才としか言いようのない打撃能力を持った、甲子園歴代最多ホームラン数の記録を持つ彼しか有り得ない。

 

 

「5番、轟雷市! お前の打撃も高校最強レベルだ! 自信を持って、全力でバットを振り切ってくれ!」

「……カハハハ……分かってる!」

 

薬師高校の2大ホームランバッターが、きょろきょろとしながら前に出てきて背番号を受け取った。

彼は、普段は大人しい性格なので、大勢の人の前に出るのが恥ずかしかったのだ。

 

バッティングの時は、堂々とした振る舞いをしながら素晴らしいスイングをするのだが、普段は強豪校の主砲とは思えない弱気な態度だった。

 

 

そんな雷市は、親の雷蔵相手だからかちょっと強気な言葉遣いをしながらユニフォームを受け取った。

 

 

「……ほら、早くなんか一言言え」

「…………」

 

前の2人が監督の言葉を待たずに発言していた為、もう自分から発言するムードだったのだが、雷市は分からなかった。

というか中々言う事が思い付かず、しどろもどろとしている、

 

 

「カハハハ……試合が楽しみ……です! サワムラ! 降谷! ナルミヤ! 纏めてブットバス!!」

 

___バチバチバチバチ!

 

ようやく内容が思い付いて、話しだした雷市。

段々と打席に立っている時の様な、堂々とした振る舞いになり、大声で相手ピッチャーから打つことを宣言した。

 

明らかに威勢の良い、実力相応の言葉は受けが良かったらしく、部員達は大きな拍手をしていた。

話すのが苦手なのに良く頑張ったなという、贔屓票が入っている気もするが……

 

 

 

 

次は、6番ショートの発表である。轟監督は近い能力を持つ1年生と悩んだが、現時点での実力で彼に決定した。

 

 

「6番、米原悠! ポジションを争うライバルも多いが、現時点ではお前が1番ショートとして強かった! 1年生達に負けない様、全力でプレーしてくれ!」

 

「……はいっ!」

 

1年生に守備力が自分より高い瀬戸がいる為、選ばれるか不安だった米原。

スタメンとして選ばれた事を喜びつつ、地方大会までポジションを守り切ってやると闘志を燃やしていた。

 

 

「才能のある1年生が沢山出てきているし、俺が選ばれるかは分かりませんでした……選ばれて嬉しいです! 沢山打って、監督の期待に答えて見せたいと思います!」

 

沢山打って、轟監督の期待に応えたいと話した米原。

 

その前に一応ショートなんだから、守備の方をなんとかして欲しい気もするが、彼もホームランに取り憑かれている為セカンドの伊川がなんとかする可能性に掛けるしかないだろう。

伊川がキャッチャーに付いている時は……北瀬が三振を取るしか無い。

 

 

 

 

次の番号であるレフトは、今までの実績がある森山にするかどうか、監督やコーチはギリギリまで悩んでいたが……天才的な打撃センスがある彼に決定した。

その分守備は更に悲惨になると思われるが、ピッチャーに何とかして貰うしかない。

まあダメそうなら、ベンチメンバーと交代させれば良いだろうと楽観的に考える事にした様だ。

 

 

「次! 7番……火神大我! その天才的な打撃センスを、思う存分発揮してくれ! あ、守備を練習しなくて良い訳じゃないからな。あまりにも酷かったら交代させるぞ」

 

「OK! ……です

あ、ヒトコトだよな! 春季大会は、俺のせいで負けて悪かった! です。次は、サワムラ相手でもフルヤ相手でもホームラン打ってみせます! 楽しみにしてろください!!」

 

__パチパチ……

 

 

元々レフトの守備に付いていた、3年生の森山は少しショックを受けていた。

だが、まあ火神はどう見ても自分より才能があるから、俺が選ばれなくても仕方ないと考えたらしい。

悔しそうな表情はしつつも、積極的に拍手をして場を盛り上げていた。

 

 

 

 

火神の春季大会での活躍は、甲子園優勝を達成した3年生を退けるほどではなかった事もあり、重苦しい空気になった。

だが轟監督は、意図的に気にしない様にしながら次の番号を発表し始めた。

 

部員を監督が振り回すのは良くても、監督が部員に振り回されてはいけないと考えているからである。

確かに、コロコロ意見を変えるような監督は信用ならないと思われる。

 

次はセンターの発表、最近は主に北瀬が付いていたポジションだが、彼はエースとして既に背番号を渡されている。

誰がその重要なポジションに就くのかに、誰もが注目していた。

 

 

 

 

「8番、秋葉一真! 守備も打撃も割と出来るからあんま目立たねぇが、お前が薬師を支える屋台骨だ! そのプレーを貫いてくれ!」

「……ハイッ!」

 

嬉しそうな表情をしながら大きな返事を返した秋葉。

彼は今まで、守備にも打撃にも手を抜いた事が無かったにも拘らず、チームメイトに恵まれ過ぎて難しいポジションを任せられる事があまり無かったのである。

高校になってから初めて正式に、外野の中では1番重要なセンターに選ばれて凄く喜んでいた。

 

 

「センターがやりたかったので、そのポジションが貰えて嬉しいです……! これからも、打撃と守備両方を鍛えていきたいと思います!」

 

打撃も守備もやるという、他の甲子園出場校なら普通だが薬師では珍しい事を目標にしている秋葉。

自分の学校が、最近DH養成校と言われ始めている事が嫌だったらしい。

俺はあんな守備は絶対にしないぞ……! と、秋葉か固く決心し直した。

 

 

 

 

そして、スタメンに選ばれるのは残り1名。

ライトに選ばれるのは、副キャプテンの平畠か、1年生の結城と疾風の3名である可能性が高い。

強打の副キャプテンか、同じ位の実力を持った1年生か、守備が硬い疾風か……

 

轟監督は……1年生の彼の名前を告げた。

 

 

 

「最後に9番……結城将司!」

「はい」

 

結城は、俺がスタメンになるのは当然の事だと言うような雰囲気を出しながら、堂々とユニフォームを受け取る。

だが轟監督の見立てからすれば、ぶっちゃけ現段階では平畠の方が強かったのだが。

 

それでも轟監督は……結城という天才を育てる事を優先し、今まで大切に育ててきた3年生を切り捨てた。

来年の事も考えると、実力が近いなら1年生を起用した方が良いと考えたらしい。

 

実力では優っているにも拘らず、スタメンに入れなかった平畠は可哀想ではある。

___だが今の薬師高校は、甲子園2連覇を目論む超強豪校。情を入れた判断は出来ないと、轟監督は考えている。

 

 

「雷市さんや北瀬さんを超えるホームランバッターになり、高校卒業後直ぐにメジャーで戦える様な選手になります」

『…………』

 

___パチ、パチ

 

ギリギリの所でスタメンになったと思われる結城が言った、高校最強バッターである雷市先輩や、メジャーからスカウトが来ている北瀬先輩を超えるという発言は、無謀を通り越して不敬に聞こえていた。

 

特に3軍の薬師ファンは、お前如きが簡単に超えると言って良い選手じゃねーんだよと怒っていた。

確かに結城は、まだまだ雷市や北瀬と比べるのも烏滸がましい程のミート力しかないが……流石に3軍如きに言われたくは無いだろう。

まあ結城は、実力のない人間の戯言なんて気にせず自分の道を突き進むだろうから、問題はない。

 

 

うわぁ……とドン引きする空気の中、轟監督はその雰囲気を無視してベンチ入りメンバーを告げる。

 

 

「後のベンチ入りメンバーは巻きで紹介してくぞ!

10番真田、2番手ピッチャー

11番友部、3番手ピッチャー

12番森山、代打の切り札

13番平畠、外野の控え

14番福田、内野の控え

15番山内、外野の控えその2

16番由井、エース専用控え捕手

17番瀬戸、内野の控えその2

18番疾風、代走

19番奥村、捕手の控え

20番パワプロ、4番手ピッチャー

以上20名が、関東大会のベンチ入りメンバーだ!

……じゃあキャプテンだし、真田! なんか良い感じの一言で締めてくれ」

 

 

真田は、俺にも言わせてくれるのはありがたいなぁ、一応キャプテンだしと思いながら、持ち前の話術で即興とは思えない堂々とした発言をした。

 

 

「スターティングメンバー9人を含む、薬師高校ベンチ入りメンバー20人が決まりました

選ばれた俺達は、夏の甲子園ベスト4、そして春のセンバツ優勝校のプライドを掛けて___全身全霊で勝利を勝ち取ります!

選ばれなかった人も、薬師野球部のメンバーとして、全力での応援を宜しくお願いします!

 

そして……あくまでこのメンバーは、関東大会の為に選ばれた人材です。俺達20人は全力でこのポジションを守り抜きますので、選ばれなかった皆さんも全力で奪い取りに来てください!

以上! ご清聴ありがとうございました!」

 

『わああぁぁ……!!』

「よっしゃ負けねぇ……!」

「次は絶対スタメンになってやる……!」

「絶対1軍に行くっ!」

 

真田キャプテンの演説に、盛り上がる薬師部員達。彼の話は、とても即興で考えたとは思えないしっかりとした出来だった。

 

何となくボルテージがバク上がりして、1軍から3軍まで盛大な拍手をする薬師高校。

3軍の緩い空気に飲まれかけていた、元々熱心な部員達はやる気を取り戻した。

 

 

そんな部員達を見た轟監督は、いっそ次は全部真田に言わせようかななんて考えていた。

流石に、キャプテンとはいえ1プレーヤーにそこまでやらせるのはマズいと思われるが……轟監督ならやらせかねない。

 

 

 

 

 

 

 

薬師高校部員達の今の立ち位置が明確になった数日後、今日から関東大会が始まる。

薬師高校は春季大会で敗れたが、春のセンバツ優勝校として関東大会に出場できるのだ。

 

 

デカい大会が始まると、ワクワクしている薬師部員達。

 

肝心な対戦相手は……1回戦目は、春のセンバツの時に35対8で圧勝した美川実業。

2回戦目は、同地区で1勝1敗の青道高校の可能性が高く、3回戦目は横浜港北学園・千葉尚大附属だろう。

準決勝は、恐らく快速が売りだと思われる白龍高校。

そして決勝は、地方大会でも甲子園でも戦った、成宮鳴率いる稲城実業。

 

 

彼ら薬師高校は、強敵達相手に優勝する事が出来るのだろうか。

新たなチームの出来を示す、重要な大会が幕を開けた。

 

 

「うおおぉぉ! 打倒セイドウ! やってやるぜー!」

「カハハハハ……! フルヤ、サワムラ、倒す!!」

「ガハハハ! アイツらから打ちまくって、俺が主砲になってやるぜ!!」

 

1か月前位に負けた、青道高校にリベンジする事に燃えている薬師野球部一同。

1回戦に戦う、美川実業の事をすっかり忘れていた。

 

まあ……急造ピッチャーの雷市と秋葉を登板させて大差勝ちした相手では、絶対勝てると考えても仕方ないだろう。

実際、彼らが美川実業に負ける可能性は0.1%もない。チームの自力が違い過ぎるので、ほぼ負けようが無いのだ。

 

それに美川実業は春季大会では準優勝とはいえ、千葉尚大附属にコールド負けに近い点数でボロ負けしている。

 

 

彼らは薬師高校に勝つのは相当難しいと分かっていながら、北瀬からホームランを打って雪辱を晴らすと燃えていた……ちなみに北瀬は、美川実業相手に登板予定なんてない。

 

甲子園でも戦った彼らは、関東大会という場面で再び戦う事になる。

沢山集まった観客達は乱打戦を望んでいるので、両チームは是非ホームランを狙って欲しい。

まあそんな外野の戯言、実際に戦う彼らは興味ないだろうが。

 

 

 

 

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