【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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5球目 捕球難

相手の学校に来ると、野球部部長らしい人2人が挨拶してくれた。

「お前らが薬師高校かぁ。俺は渋田南高校の山田だ、よろしくな」

「こっちは渋田西高校の田中だ、キャプテンやってる……よろしくお願いしゃす!」

「俺らは西東京から来た薬師高校、キャプテンは一応俺、小林だ。よろしくお願いします」

 

1日目は渋田南高校の練習を真似するらしい。まずはノックから……やっべーいつもの事だけど、全然取れない。

ベンチメンバー全員が交代で守備に付いているけど、俺、伊川、轟の守備はお察ししてくださいレベルのゴミだった。普段よりはノックの打球速度が遅いからまだ楽だったけど、それでも取れないし。

仕方ないんだ、俺達殆どそういう練習してないし……

 

「お前らのチーム守備は見た感じそんなに悪くないけど、打撃はどうなの?」

 

同じ1年の山中と林田にそう聞かれた。え、俺達の守備が悪くないだって? そんな訳無いでしょ、だって俺達が練習してる時、いつもボールが何処かに飛んでいって取れないし。

まあ確かに甲子園出場校と比較した場合、守備ではダントツで最下位だろうが、県内ベスト16の渋田南からすれば悪くない守備だった様だ。

悪くないと思っただけで、ベスト16以下の彼ら以下の守備ではあるのだが……

 

「明らかに打撃の方が良いよ。今日はまだマシだけど、普段のノックは誰がやっても守備範囲外に飛んでくもん」

「それノックが下手なだけじゃね?」

「俺達さ、渋田南も北もベスト8入りを目指してるんだ。3回勝てば行けるんだけど、10年前位に行ったらしいぜ。」

 

そんなに強くないから言い辛いけど、一応甲子園が目標だからそう言うしかないよね。やっぱ言いたくないなぁ。

 

「一応、俺達は甲子園目指してるんだよね」

「稲城実業とか青道高校とか、強い学校が沢山いて困るけどな」

 

そんなに強いのか俺と伊川は知らないけど、彼らは知っているらしくてビックリしていた。

 

「ええっ! あの強豪校倒して全国行きたいの?!」

「マジか、言うねぇーっ! じゃあお前らのチームはどんなチームなの?」

 

どんなチームなのかと聞かれても、他のチームを知らないから答えられない俺達が困っていると、真田先輩がふらりと来て答えてくれた。

 

「雷市、涼、始、一真、ミッシーマの1年強打5人組を中心とした爆発力のある打撃を中心にしたチームかな。強豪校相手には、多分球速150km超えてるピッチャー涼が登板して抑える感じで」

 

彼らは驚き過ぎて声も出せないようで、口をパクパクさせた後困惑した表情でこう言った。150kmってそんなに驚く数値かな、パワプロなら遅い位だけど。

 

「ひゃ、ひゃくごじゅっきろ……?! マジですか?!」

「うん、バッティングセンターでも見た事無い球投げるよ」

「それがマジなら、何で俺らとワザワザ合宿組んだんですか?」

 

別に俺達は普通のチームだと思うけど。だって割と良い打撃に割と良い投手、ゴミ以下の守備ってだけでしょ? 入部してから1ヶ月弱、彼らはまだ自分達の異常な強さに気が付いていなかった。

強豪校程では無いが真面目に練習してきている渋田南の選手からすれば、異常な事を言っていると一言で分かるのに、俺普通ですと言った顔をしている彼らは異常に見えた。

ボケっと会話を聞いている2人の代わりに、気付けば真田先輩が会話を引き継いでくれていた。

 

「そりゃ、俺の1個下の代で急激に強くなったチームだからな、薬師高校に強豪校とのコネなんてねーよ。それに実力は地方大会までは隠しておきたいから県外のチームと戦った方が良いだろうし

俺等の守備はお粗末だから、渋田との戦いは貴重な練習になるだろうな。サンキュー!」

「なる程っす。」

 

 

 

 

 

1日目の練習が終了して、渋田西対薬師の練習試合が始まった。1回目から俺達のエース北瀬が登板して、三球三者三振で仕留めた。やっぱスゲェわアイツら、俺もああなりたいけど、俺は俺のピッチングをしなきゃな。

 

___ズバッッ!

 

「何だぁ?! あの球。スピードガン持って来い!」

「了解です監督!」

「……157kmだぁ? 化け物か、アイツら!」

 

秒速で1回表が終わって薬師の攻撃、1番はレフトの秋葉。伊川程じゃないけど割とミート力があって、チャンスを作るのが上手い選手だ。確実に1番が向いている。

 

___ガチン!

 

初球から打ちに行き、ちょっと鈍い当たりだったが余裕で1塁に。あーあ、せめて秋葉は仕留めてたら失点が1点だけ少なくなったのにな。

これ位のピッチャーじゃ、ここから先は地獄だぜ。アイツらを完璧に止められるピッチャーなんて、高校生に居るのか怪しいけどな。

 

 

 

「監督。ホームランとヒットなら、どっちが良いっすかね」

「うーん。じゃあ、後ろを調子付ける為に盗塁させっから、その後ツーベースで取り敢えず秋葉は返しといて」

「了解です」

 

2番、キャッチャーの始。確実に打ってくれる奴で、強打の薬師高校でも3強に入るバッター、キャッチングも上手い! 配球の組み立ては下手だけどな。

やべぇな。ランナーがどこまで進むかなんて、相手の投球や守備位置、こっちが何処狙ったかやミート力や運、そういうので複合的に決まるから普通細かく狙えねぇのに。こいつなら出来ると、俺は確信した。

 

初球大きく外角に外れてボール。俺でも簡単に分かったんだ、始は当然手を出さない。

2球目、また大きく外角に外れてボール。あーあ、キャッチャーが落ち着かせようとしてるよ。1塁に進まれただけでビビるなよな。

3球目、そろそろ渋田西のピッチャーは立ち直って投げるかと思われた時、秋葉が盗塁を仕掛けた! 阻止しようとしたのか知らんけど、内側に大きく外れたボールを投げ、ボールスリーになった。阻止出来なかったけどな。

これはキャッチャーが悪いぜ、投げるのが遅すぎる。

 

あーあ。こりゃツーベースは打てないかもな。1回もストライクゾーンに来ないでボールフォアじゃ無理だ。相手バッテリーは結果オーライじゃないか? どうせ打たれるなら、敬遠した方がマシかもしれないし。

ま、涼と雷市が絶対に返すから、そんな事しても無駄だけどな。

 

案の定、ボールゾーンにぶん投げて……うわっ、あんな糞玉すくい上げてフェン直にしやがった! 秋葉は悠々と帰還して、ノーアウト二塁で一得点。

 

 

 

ここまでだけでも最悪の展開だけど、まだまだ先は長いぜ? 次はうちの主砲の1人、轟雷市なんだからな。

主砲の1人っていう言い方おかしいのは分かってるけど、どっちも今の所打率10割でホームランの数も同じ位だから、優劣が付けられないんだよな。俺達の主砲は最強だぜ!

……まあ、守備も両方かなりアレなんだけださ。別に、1点取られても2点取り返せば良いから問題無いけどよ、もうちょいどうにか出来ないのかねー。

 

「カハ、カハハハハ!」

 

お、俺の球をかっ飛ばす時位笑ってるな。そんなに色んな人の球打ちたいのか、努力する天才は流石だ。

 

 

 

 

初球は外角高めで少し外れてボール。お、開き直って良いピッチングをしだしたのかな。それとも立ち上がりが悪いだけか?

2球目は内角にシュートかな。俺と同じ球種だけど、俺の方が速くてよく曲がるな。キャッチャーは基本的な配球通りのリードだ。確か三塁側に飛ばし難いもんな、シングルヒットが出にくくしたいんだろう。

 

まあ、そんなの雷市には関係無いけどな。そんな甘い球、俺のボールを打ち慣れてる雷市なら簡単に打つぜ……はぁ、せめて簡単にホームラン打たれない位には強くなりてぇな。雷市がその程度の人間だったら、こんなに野球ガチになってないだろうけど。

 

 

___カキーーン!

 

おー飛んでる飛んでる、こりゃホームランだわ。

一塁踏んで二塁を駆け抜け三塁、そしてホームを踏む。ホームラン打った後、小走りで駆け抜けるのがカッコイイんだよな!

 

初球から打ちに行って特大のホームランが出た。もうあの球は見つかりっこないだろうな。初回で一気に3点、そしてまだ、薬師恐怖の打線は終わっていない。

次の打順は4番の主砲、ピッチャーの涼。女みたいな名前に細い身体だけど、能力は全くもって可愛らしく無い。よく見ればちゃんと筋肉が付いている身体で、150m位はかっ飛ばす。

ちなみに雷市じゃなくて、涼が4番になったのはやりたがったから。カッコイイからだってさ。気持ちはすげぇ分かる、やっぱエースとか主砲とか、名前がカッコよくね? 雷市は、打てれば良いから打順はどうでも良いってさ。欲が無いねぇ。

 

 

「おい、そこのバッター。二塁踏んでないぞ」

「……バッターアウト!」

「えぇーー?!」

 

あちゃー、踏み忘れてたのか。まあ雷市は野球の実践に慣れてないからな、こういうミスがあるのは仕方ない。本番でミスらなきゃ良いよ。ていうか、ちょっと位ミスってもそれ以上に点取ってくれるだろうから良いさ。

 

 

___カキーーン!

 

涼に3回連続でボールゾーンに投げたからこれは敬遠する気だろうなぁと思ったけど、なぜか4球目でストライクゾーンに投げてきたから簡単にホームランにしてくれた。

流石涼! やっぱり、うちの主砲達は最強だ!! だから俺達で、彼らを甲子園に連れて行くんだ。だって流石に3人だけじゃ勝てないだろうし。こんな天才達が世間に知られないままとか、日本野球界の損失じゃん。

たかが元弱小校の元エースなのにさ、責任重すぎないか? 流石に涼だけじゃ投げ切れないだろうから、強豪校相手に俺が投げるかもしれねぇんだよなぁ……激アツじゃん、やってやるよ!

 

そんな事考えてる内に涼がベンチに戻り、ワンアウトランナー無し、打順は5番ミッシーマ。雷市や涼程じゃないが、こいつも凄げぇバッターだ。

向こうの投手が、ヤケになった顔で投げたのは恐らくカーブ。多分、一応。野手でも投げられるションベンカーブっぽいけど。これなら余裕で打つだろ。

 

……やっぱり打った。打球が低かったみたいでギリギリホームランにはならなかったけどフェン直ツーベース。惜しい、あとちょっとでホームランだったのに。ま、ミッシーマなら打てて当然だよな。

 

 

 

次の打順は俺、ライトの真田。ピッチャーも兼任してるけど、強豪相手なら当然北瀬が投げる。

初球は外角低めにズバッと決まってストライク。ここに決められると打ちづらいわ、舐め過ぎた。二球目は内角でボール。

三球目どこに来るかな、予想は内角、狙い撃つか。

 

___カキン!

 

良し、普通に当たった! でもミッシーマはホームに帰れなかったか。

次はセカンドの福田さん。下位打線だけど元弱小校にあるまじき強打者だ。まあ秋葉やミッシーマには敵わないけど。

 

 

 

……

 

 

 

ようやく1回薬師の攻撃が終わって13対0。これ絶対5回でコールドだよな、それまでに何点取れるかな。

まさか打順が一周しても終わらないとは。俺らが強い事は分かってたけど、マジでヤバい。相手がそんなに強くないのか、俺らがそれ以上に強いのか。

これなら俺が投げても大丈夫そうだ。

 

「じゃっ、投手ミッシーマ。行け!」

 

俺じゃなくて投手としては3番手の三島が行くのか。まあ相手がどう足掻いても勝ちそうだし、経験を積ませるには丁度良いよな。

 

北瀬・ピッチャーからレフトへ

真田・レフトからファーストへ

三島・ファーストからピッチャーへ

渡辺・ベンチからキャッチャーへ

伊川・キャッチャーからセカンドへ

福田・セカンドからベンチへ

 

 

 

 

「雷蔵監督、こりゃ凄くポジションが動かしましたね。それにしても、やり過ぎじゃねーっすか? こんなにポジション変更するんじゃ、2倍守備練習が必要じゃん!」

 

普通に考えたらそうなるんだよな。だが俺らは、打の青道も目じゃない位に強打全振りのチーム! 守備練習なんて他校の強豪の半分以下で、ポジションコロコロ変わるから実質守備能力4分の1以下だぜ。

だってよ、やっぱり守備より打撃の方がやってて面白いじゃねぇか。俺が現役の頃もバットばっかり振ってたし、自分がやりたくねぇ事を子供に勧めんのは違うわな。

……それにうちは強豪じゃないから、そんな方針で今と同程度の練習量を保とうとした場合、試合出来ない人数まで部員減ってたんじゃねぇか?

 

「まーうち、選手層自体は薄いんでたらい回しにするしか無いんですよ。北瀬・伊川・雷市・三島・秋葉・真田の6人は、守備がどうであれ絶対に試合に出でて貰うようにしてるんでね。やっぱりポジションは目茶苦茶になるって言うか。」

「そりゃ良い事聞いたな、いくら打撃とエースが良くても守備は穴だらけって事すか。マジでピーキーなチームじゃないですか。ムラがありそうなチームだなぁ。」

 

ムラなんてねぇよ、1周回って。打たれたらどんな打球でもセーフに成り得る守備してるからな。そこら辺の自称ザル守備とはレベルが違うぜ、打撃能力と守備能力の乖離がな!

特にエースの持ち場に飛んでいった場合は最悪だ、どんなへなちょこボールでも落球しかねない。

要は、どんな弱小校相手でも1点は覚悟しなきゃいけねぇって事だ。まあ薬師がそんなチーム相手に打てない訳も無いから、数点取られた位なら30点差付けてコールドだって余裕だろうが。

 

「まあ弱点だらけですから、逆に安定してると思いますよ。相手から見りゃどうやって弱点を突くかじゃなくて、最早どの弱点を突くかって所でしょうね。」

「へー。じゃあ参考までに教えてよ。」

「先ずは全員の守備能力の低さでしょ、特にキャッチャーのリード力。俺じゃ教えられないからなぁ、昔のひたすら低めを指示する時よりはマシになってるんだが、基本のキの字もねぇよ。

次は今サードとライトの悪送球だろ? 元々守備範囲も狭いのに悪送球まで招くからな。

後、盗塁阻止率が1割を切りそうな所か。これキャッチャーは悪くねぇ。直ぐ投げても零すから、合図出してから投げるしか無いんだよな、そりゃ阻止できねぇわ。」

 

本当に守備は悪い意味でやばいよ。この守備なら、仮にプロ投手が高校生相手に投げたとしても失点はするだろ。轟監督には、フォアボールで出塁した選手が盗塁で3塁まで進んで、悪送球で悠々と帰還する高校生の姿がくっきりと見えていた。

いや北瀬クラスならしないかもしれない、分からん。もうちょい投げさせるべきだっただろうか。まあいいや、明日も最初はエースに投げさせよう。

 

 

 

 

おしっ、こいつも三振!

2回表は無傷で終わらせ、2回裏の薬師も打線が爆発して、点差は21対0。この回も、ツーアウトまでは三島は順調にアウトを稼いでいた。

 

だが遅く鈍い、どう考えてもアウトになる打球を、サード轟が落としてセカンド伊川が拾えなかった当たりから風向きが変わる。

本人からすれば一か八かの盗塁だったが、即席に近いバッテリーは防げず、いつの間にかツーアウトランナー3塁。ここで渋田西は上位打線に回ったが、なんやかんやで優秀な三島から打てる筈は無い。

しかし、ふらふらっと上がった打球を北瀬は当然の様に落としランナーはホームイン、ついでにボールを見失ってランニングホームランをされてしまう。

 

 

 

(クソ、帰られたか。エースへの道は長いぜ!)

 

自己主張が激しいがいいヤツな三島は、不甲斐ない味方チームの守備を心の中ですら責めずに反省をする。

失点の原因になった轟の落球だけでも不味い守備だが、自分の方向に飛んできた打球を捌けない伊川、ほぼ定位置の打球を落とした挙句見失いもう1失点された北瀬という悪夢の守備に怒りを覚えなかったのだ。凄い。

……いや、味方は必ずエラーをするものだとこの1ヶ月で心身に刷り込まれていたのかもしれない。

それはともかく3回表は、ランナーがいなくなって落ち着いた薬師野手陣のお陰で(?)ぼてぼてのゴロをしっかり取りスリーアウトチェンジ。三島は2回で自責点0、失点2となった。

 

 

 

最終スコアは5回裏でコールドゲーム。50対8、ラグビーの試合でも見ているのかという点差になった。それにしてもこの点差は酷い。

相手投手は、1回につき平均で10ヒットは打たれている結果になっている。トラウマ案件というか乾いた笑いが出てくる戦いだっただろう。燃やし尽くされている。

一方、薬師の入れられた点は全てエラー絡みという、恐ろしい守備センスの無さも浮き彫りになった。

エラーが絡んだという事は事実上、自責点0で失点8みたいな恐怖案件が出来上がってると言う事だ。いや北瀬、三島、真田の3人が投げているから厳密に言えばそうではないが。

 

『ありがとうございました!』

 

最後はどんな試合でも挨拶で締める。薬師は守備力の欠如を体感し、渋田西はピッチャーの投げる速球を体感出来た有意義な試合だったのではないだろうか。

ただし渋田西のエースとリリーフは魂が抜けたような虚無の顔をしていたので、彼らが猛打を浴びて2人で50点も失点した事から立ち直れたらの話だが。

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