【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
北瀬は軽くピッチング練習をした後、明日の試合に備えて早く寝ようかなと、軽く体操をして身体を解しながら伊川に話しかけた。
伊川は花坂と二人がかりで火神に勉強を教えながら、北瀬との雑談に興じている……本当は自分の勉強をしたかったらしいが、火神の点数が酷すぎたらしい。
流石にこれはヤベぇと、ヘルプを呼んでテスト対策に励んでいた。
伊川を慕っている花坂は、火神に勉強を教えるのを手伝ってくれと伊川に頼まれて快諾。
補習で部活に出られない危機を救ってくれる2人にちょくちょく手を合わせながら、火神は必死に勉強していた……なんかジェスチャーがおかしい気もするが、アメリカ育ちだからそんな物だろう。
「明日の青道戦、投げるの俺かな? 真田先輩かなぁ? ……出来れば俺が投げたいなー」
「どっちだろうな……そういや北瀬は、降谷の事を尊敬してるんだっけ?」
「まじか?! 北瀬……先輩がソンケイするって、ヤベーな!」
伊川の、北瀬が尊敬している人間という言葉に驚いた火神。
これだけ強い人が、何で降谷を尊敬しているんだろうと思ったのである。
……いや、降谷も確かに凄かったけど、北瀬が尊敬する程じゃなくねと若干失礼な事を考えていた。
「……? 降谷さんは、先輩みたいに、1日1試合を全力でプレーするだけとか言っててさぁ
俺、野球にそこまで考えてなかったから、やっぱり降谷さんはスゲェと思ったんだよな!」
「ホント、北瀬は降谷の事を尊敬してるよなぁ……刷り込み?」
火神の言葉が足りない発言が良く分からなかった北瀬は、取り敢えず降谷さんを尊敬しているを述べていた。
話を聞いた火神は、日本語特有の言い回しがあまり理解出来ていないながらも、試合を全力でプレーするだけだと話した事は分かった。
「北瀬……センパイ位強かったら、試合がつまんなくなったとしても、仕方ねぇと思うます
じゃあ、降谷はつまんなかった時に現れた、ライバルってコトだよな!」
火神の言葉を聞いた北瀬は一瞬、俺が降谷さんをライバルって言うなんて烏滸がましいんじゃないかな……なんて、相手との実力差を理解していない事を考えていた。
だが彼は、自分はメジャーからスカウトが来ている事を思い返してみた。
それなら、俺だって降谷さんのライバルを名乗っても良いんじゃないかと思い、意を決して話し出す。
「試合が詰まらなかった事はあんまりないけど……確かに、降谷さんにプロに成れるって言われなかったら、ここまで頑張れなかったかも
…………俺は、降谷さんのライバルだって言われる選手になりたい!」
「北瀬……センパイもプロになるって頑張ったんだな! てか、降谷のライバルになりたいのは、もうなってるんじゃねーと思った!」
中学時代は、普通に試合をする事すら出来なかった北瀬。
だからどんな弱小相手でも、ピッチングとバッティングをさせてくれて嬉しいと思っていたらしい。
だから北瀬は、試合が詰まらなかった事はあまりないと発言していた。
火神はその言葉はあんまり気にせず、どちらがと言うと降谷さんのライバルになりたいという言葉が気になったらしい。
北瀬は降谷と同地区の大エースなんだから、相手だって絶対意識しているだろうと考えたのである。かなり正論だ。
なんか盛り上がっている北瀬と火神だが、伊川がそろそろ話すのを辞めさせようと声を掛ける。
「盛り上がってるのは良いけどさ……火神、もうちょい勉強をちゃんとやってくれないか? 俺だって受験勉強したいし、花坂の時間だって使ってるんだけど」
「悪りぃ! 今からやるます!!」
火神の説明が足りなかった為、なんで俺が降谷さんのライバルなんだろうと北瀬は不思議そうな顔をしていた……だが話が中断されてしまった為、結局理由は分からなかった様だ。
一方青道高校は、まだまだグラウンドで走り込みをしている時間である。
少しの間休憩時間になって、水分補給をしながら雑談をしていた。
今は倉持と御幸が、明日の薬師線について話し合っている様だ。
「春季大会は真田とか三島を使ってきたけど、流石に関東大会なら北瀬を使ってくるよな?」
「だろうな……あいつマジでスゲェよな、今からでもメジャー行けるだろ」
「噂の段階だけど、あいつってメジャーから5年120億を提示されてるらしいぜ」
「まじかよ?! ……でも有り得るのが怖えぇ!」
相棒である御幸が、相手ピッチャーを褒め称えているのを聞いた沢村は、闘志を燃やして大胆不敵な宣言をした。
「やっぱり、北瀬もすげーんだな! 俺はアイツを超えて、東京一、関東一……いや全国一の左腕になってやる!」
その言葉に、微妙そうな顔をする小湊と倉持。
沢村がよくやるビッグマウスとはいえ、流石にそれは厳しいんじゃねぇのと思っている。
「栄純君……今の時点だと、東京一と関東一と全国一が同じ人なんだけど……右含めても……」
「……ビッグマウスも程々になー」
生徒と一緒の時間に休憩していて、彼らの発言を聞いていた高島副部長。
内心不思議に思いながらも、沢村のビッグマウスに対して少しだけ喜んでいた。
(不思議なものね。あれだけ実力差のある北瀬くんと、沢村くんのエースとしての在り方が一緒というのは……)
絶対的大エースである北瀬と、在り方が同じである沢村に、希望を感じた高島。
北瀬を打ち負かすのは厳しい道のりだけれど、もしかしたら沢村くんが、薬師高校を倒すキーマンになってくれるかもしれないと期待していた。
大体の部員が流石に無理だろと思いつつもツッコミ辛い、そんな微妙な空気の中、降谷も闘志を燃やしながらこう宣言した。
「あの人が164kmを投げるなら、僕は170kmを投げられる様になる……!」
「なにぃ!? 全国最強を超え、人類最速を目指すというのか! なら俺の目標とどっちが早いか、勝負だ暁!!」
「……負けない!」
周りの空気を物ともせず、お互いに影響を及ぼしあって大口を叩き合う沢村と降谷。
「そこまで行くと、2人共肩壊す方が早えーだろ!」
「170kmとか、無茶にも程があるぞー!」
ちなみに、ぶっちゃけ2年位は甲子園に行けないだろうと考えている落合監督。
春季大会で薬師に勝てたのは、相手が1年生を試して来たから勝てただけだ。甲子園の掛かった試合では、こうは行かないだろうと考えていた。
そんな監督は、あまり自分と仲良くない部員達の会話をぼおっと聞きつつも、内心こんな皮算用を考えていた。
(今の状態でも、降谷はハズレドラ1の可能性は高いが……もし正面から北瀬を下せば、甲子園に行けなくても余裕で圏内だな。俺が故障させなければの話だが)
合理性を追求する落合監督は、部員の心情を完全に無視した采配をする為割と生徒に嫌われていた。
だが指導は、最新のトレーニングを取り入れた超1級品。
そんな彼が青道高校の監督である現状が、どの様な結果を残すのか……それはまだ、誰も分からない。
美川実業と戦った次の日、そして青道高校と戦う当日。
薬師野球部一同は、決勝で当たると思われる稲城実業の試合を見に来ていた。
「うわー、やっぱり混んでるなぁ!」
「何回も戦ってる相手の試合を見るより、コンディション整えた方が良かったんじゃね?」
「そうか? 試合見るの面白いし、良くね?」
「そうかも……」
スタンドは大変混んでいた為、何とか全員が座れる場所を見つけた。
だが問題がある。座席の目の前に座っている高校生達が、青道野球部一同だったのである。
その事には真田が真っ先に気付き、にこやかに御幸キャプテンに話しかけた。
「おっ、青道高校の御幸じゃん。お前らも偵察か?」
「……あー、薬師の真田か。まあな! 決勝で当たるのは、どう考えても稲城実業だからなー」
御幸は、暗に決勝に行くのは俺達だと煽った。
だが真田は、普段濃い人間達と話しているせいかそれ位の煽りだと全然気にならず、和やかに話を続けた。
相手が闘志を燃やしているのに乗らないのは、ノリが悪い気もするが、もっと積極的に煽ってくる奥村と普段からピッチング練習をしてるから仕方ない。
「俺らが勝っても青道さんが勝っても、決勝が稲実なのは変わらねぇもんなー。後で戦うけど、今観戦する場所は一緒になったから……よろしくな!」
(一方的に)バチバチしているキャプテン達を尻目に、薬師と青道のピッチャー達は和やかに会話していた。
「久しぶりっスね、元気にしてました? 降谷さん」
「何?! 暁お前、北瀬にさん付けされてんのか!」
聞き耳を立てていた青道部員達も、北瀬が降谷に敬称をつけて話しかけた事に驚いていた。
北瀬みたいな大エースに、なんでうちの降谷がさん付けされているのかと困惑していたのである。
うっかり敬称を付けられている事をスルーしていた降谷も、言われてみて疑問に思ったのか質問した。
「……そう言えば、前からそうだったかも……何で?」
北瀬は、沢村と降谷の疑問に対して普通の事の様に、甲子園優勝投手らしくない事を答える。
「夏に青道さんと合宿させて貰った時……降谷さんが、先輩みたいに1日1試合を全力でプレーするだけって言ってたのが、凄いと思ったんでさん付けさせてもらってます!」
「へぇー、そうなのか! ……なら、暁と北瀬はお互い、目標にしてるライバルって事だな!
そして! 俺、沢村栄純もお前のライバルだからな……! とくと胸に刻むように!!」
あまりマトモな理由になっていない北瀬の発言だったが、それに納得した沢村。
降谷と北瀬がライバルなんだなと話しつつ、俺もライバルだからと宣言した。
聞いていた青道部員は、良く大エース本人にビッグマウスを口に出来るなと思っていたが……北瀬はその発言より、非常に気になった事があった。
「えっ? 降谷さんも、俺の事ライバルだと思ってくれてるのか……?!」
「うん。君が164kmを出すなら、僕は170kmを出せる様になるから__負けないよ」
メジャークラスの大エースである北瀬が、降谷にライバル視されている事に驚き、困惑する青道高校部員達。
そりゃ同地区に、164kmキレキレ変化球4つのコントロールが良いピッチャーがいたら意識はするだろ。普通ならライバル宣言するのすら普通躊躇するけどな。
というか、北瀬って意外と降谷の事ライバル視してたんだ。明らかに北瀬の方が強いと思うけど……なんて考えていた。
「うん……! 俺達も、負けないつもりだ!」
降谷のライバル宣言に嬉しそうにしながら、北瀬は俺達も負けないと宣言した。
ちなみに、俺達という三人称になっているのは、降谷相手に1人では勝てない気がしたからである。
チームで勝てば良いやと考えている北瀬は、あまり自分の実力を理解していなかった。
「ちょっと待った! 俺というライバルの事を、忘れてやいませんか?!」
そんな青道高校部員にとっては驚きの展開の中、沢村が俺を忘れるなと喚いていた。
ライバルである降谷だけが大エース北瀬に認められて、自分は認められてない感じの展開にイラッと来たらしい。
沢村だって、北瀬や降谷との実力差は理解している。
それでも俺は、お前のライバルなんだと言えるメンタルの強さが、彼のピッチャーとしての1番の武器かもしれない。
「……忘れてないよ。クセ球の沢村にだって、苦労させられたし。マジでタイミング掴めなかったんだよなー」
「ナハハハ、なら良し!」
沢村から何度もホームランを打った北瀬が、クセ球の沢村にも苦しめられたと口にしていた。
確かに伊川の様に、沢村に対して打率10割だった訳ではないが……実績で言えば北瀬の圧勝である。
青道部員は、ぶっちゃけお世辞だろうなと考えていたが、意外と北瀬は半ば本気で言っていた。
薬師高校としては、遅いクセ球という珍しい武器を使う沢村の方が、下手したら降谷さんより脅威だとキャプテンから聞いていたのである。
野球歴の浅い上級生達は、殆ど打ったことがない様な出どころ不明のピッチングに、実際かなり苦労させられていた。
真田との会話を中断し、北瀬達の会話を聞いていた御幸。
案外降谷達の事も注目してたんだなぁ、それに人間的な相性も良さそうだと考えながら、考えても意味のない事を思ってしまっていた。
もし北瀬が青道に来ていたら、片岡監督は監督を辞めずに済んだのか? というIFを、どうしても彼は考えてしまうのだ。