【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話 作:いちごケーキ
4回表、5-8の薬師優勢の場面とは言え、この回青道高校は2点も取ってイケイケムードである。
___バシッッ!
「ストライク、バッターアウト! チェンジ!」
「良いぞ北瀬ー!」
「伊川もナイスー!」
「北瀬さんナイスです!!」
「雷市ー! ホームラン頼んだぞー!」
とはいえワンアウトランナー無しの状況な為、7番東条と8番金丸が仲良く三振に取られ、スリーアウトチェンジ。
高校最強ピッチャーとしての威厳を、なんとか見せつけたと言えるかもしれない。
まあそもそも、打たれている原因は大体、中身の意味も理解せずコピペリードを繰り返す伊川にあるのだが。
4回裏、薬師高校の攻撃は4番轟。薬師が誇る、高校最強ホームランバッターである。
___バシッッ!
「ストライク! バッターアウト!」
……だがまあ、三振にされる事もある。
彼だって打率10割とはいかないのだから、剛速球の降谷相手ならミスが出ても当然だ。
「カハハハ……次は打つ!」
「惜しかったぞ雷市ー!」
「やっぱり降谷さんって凄いな……!」
「次はホームラン頼むぜー」
「火神ー! 雷市の仇を討ってくれーッ!」
ベンチは残念がりながらも、暖かく雷市を迎え入れた。まあそんな事もある、次頑張ろうと思っているのである。
彼らは楽しく野次を飛ばす人種だが、落ち込んでいる相手に追い打ちを掛ける様な人間性はしていないのだ。
ワンアウトランナー無しで、打順は5番火神。将来の薬師の主砲と名高い彼は、どんな打撃を見せてくれるのか。
「うっしゃー! テンション上がってきた!!」
謎のタイミングで、テンションが上がっている火神。4番の敵討ちというワードに惹かれたのかもしれない。
___カッキーン!
火神はその勢いのまま、あっさり初球からホームランを放ってしまった。
打球を追いかけていたライトも、見上げるしかない惨状である。
そんな青道の心境なんて知らない観客達は、ワーワーと騒いで喜んでいた。
「キター! 薬師のホームラン!!」
「コレコレ! これを見に来たんだよ!!」
「今日3発目のホームラン! スゲェな薬師!!」
「やっぱり薬師ツエー!!」
3回目のホームランの直後に打席に立つのは、6番バッター三島。
他の学校なら、どこでも主砲扱いだったと言われる彼は、堂々と打席に立った。
(ガハハハ、流石は俺がライバルと見込んだ男。同じくライバルと見込んでいる降谷からホームランを放つとはな! 俺もホームランを打って、4番に相応しい男だと証明しなくては……!!)
そんな事を考えながら打席に立った彼だが、降谷のコントロールが乱れてスリーボールノーストライクになっていた。
(クソッ、ストライクゾーンに来ないと打てないぞ! ……まさか、この俺を恐れて敬遠しようと言うのか?!)
三島はそう考えていたが、当然違う。
というか、彼をあからさまに敬遠する様な弱気なメンタルでは、薬師打線の半分を敬遠しなくてはならないと思われる。
降谷は元々ノーコンピッチャーなので、些細な事で更にコントロールが崩れてしまうのだ。
今回はホームランを打たれて力み、まるで初回の立ち上がりが悪かった時の様なノーコンになってしまっていた。
仕方なく、御幸はど真ん中を指示。
アウトにできたらラッキー、ダメだったとしても気持ちを切り替えろという判断からである。
四球を出してしまうと、更に降谷のピッチングが崩れると考えたのだ。
___カッキーン!
真ん中辺りに飛んできたボールを、三島がかっ飛ばした。当然の様に、場外へのホームランである。
降谷が安易に投げた、コントロールの為に球威を犠牲にしたピッチングなど、薬師打線からすれば良いカモだった様だ。
「ナイスホームラン!」
「三島ー! 今のお前は主役だったぞー!」
「ナイスです! 三島さん!!」
「カハハハ……ナイスホームラン! ミッシーマ!」
「ミッシーマ! ミッシーマ!」
当然、薬師ベンチは大盛りあがり。
普段から打倒雷市を掲げている彼が、有言実行とばかりにホームランを打ったのが嬉しかったのである。
わちゃわちゃと騒ぎなから三島を祝福していて、褒められている彼は非常に嬉しそうだった。
観客達も大きく盛り上がり、口々に今のホームランについて話していた。
「2連続ホームランキター!」
「薬師打線鬼ツエー!」
「今日4本のホームランだぞ?!」
「剛速球の降谷すら蹴散らしてやがる……!」
5-10、ワンアウトランナー無しの場面で、打順は7番結城。
ミート力こそ甲子園選手と考えると低めだが、持ち前の1年生とは思えないパワーで、当たればかっ飛ばすバッターである。
___カキーン!
「良いぞー!」
「ナイス2塁打!」
「ナイス結城くん!」
「次はホームラン行けるぞー!」
今回は当たった。
ぶっちゃけ降谷は、結城の実力からすれば格上と言っても良いピッチャーとはいえ、当たる時は当たるのである。
薬師部員達もツーベースが出た事を、概ね喜んでいた。
これが上級生が打ったボールなら、ホームランじゃないから茶化していたが、1年生と考えるとナイスガッツだと思ったのだ。
……まあ打ったのが火神だったら、野次を飛ばしていたかもしれないが。
今の所、1年生の打撃能力は火神が1番信頼されていた。
ワンアウトランナー2塁で、打席には8番増田。実業団入りの可能性が高い、優秀なバッターである。
薬師での起用こそセカンド伊川との代わり扱いやすいだが、他のチームなら余裕でクリーンナップだったと噂されている。
実際の所、他のチームに所属していたらここまで伸びなかったのだが、それを外野は知らない。
「うっしゃー! ホームラン打つぞー!」
「増田センパイ頑張れー!」
「ホームラン頼むぜー!」
「増田さん! ヒット宜しくお願いします!」
「カハハハ……ホームランタノムゼー!」
打席に向かいながら、ホームランを打つと叫ぶ増田。
彼が打ってくれる事を願いながら、薬師部員達も盛り上がっていた。というか、攻撃の時の薬師野球部は大体テンションが高い。
___ガギン!
ファースト線上ギリギリに打球を放った増田。
山口はギリギリ捕球する事に成功し、セカンドの小湊がベースカバーしてツーアウト。
「あーダメか!!」
「ドンマイ増田ー!」
「惜しいですよ、増田先輩!」
「代わりに俺が打つ!!」
だが、それでもランナーは3塁に進んだ。本人は悔しがっているが、最低限の仕事はしたと言って良いだろう。
薬師野手陣からすれば、完全に失敗らしいが……
この後、ショート米原がヒットを打って結城を返し、5-11になる。
その後秋葉が、臭い所を見逃し三振。ギリギリボールに見えたが、審判の判定はストライクだったのだ。
というか、4回裏で5-11という点数はコールド目前と思われる。青道高校は、ここから巻き返しをしなければならない。
彼らは絶望まではしていないが、かなり焦っていた。
……
7-15で迎える6回裏、薬師高校の攻撃は5番火神。
1年生の春ながら、他の学校に居れば即クリーンナップだったと言われる実力者である。守備能力は予選1回戦負けレベルだが。
青道のピッチャーが変わり、相手は10番の沢村。
独特のフォームから放たれるボールは出どころが分からず、タイミングが掴み辛いと対戦相手からは評判だ。
ちなみに、凄さが分かりにくいのでネットの住民からは不人気である。
___カッキーン!
だが、そんなクセ球サウスポーのボールを、火神は簡単にすくい上げた。
打球はグングン伸びていき、センター頭上を飛び越えてホームランである。
これには観客達も大盛り上がりで、多くの人がワーワーと騒いでいる。
誰が何を言ってるのかは、煩すぎて薬師ベンチには伝わって来ない様だ。
「うおぉぉ! 火神スゲー!」
「やっぱ薬師の打撃最高ーっ!」
「後1点! 後1点!」
当然薬師ベンチも盛り上がっていて、ダイヤモンドを一周してきた火神の周りにわらわら集まり、祝福していた。
「マジナイス! 火神!!」
「天才!」
「流石は俺の後を継ぐ男……なんちゃって」
「2打席連続とかやるなぁ!」
「うっす! 次、打ちます!」
怪しい日本語を使いながら、火神は嬉しそうに返事をしていた。
日本に慣れていないから変な奴に見えるが、元々性格は悪くないのである。
ノーアウトランナー無しで、打順は6番三島。
「ガハハハ! ホームラン打って、俺が主砲になる!」
勇ましい事を言いながら、三島がバッターボックスに入った。
___カキン!
結果は残念ながら、普通にヒット……いや、ヒットは残念ではないと思うのだが、彼ら薬師ベンチは悔しがっていた。
基本的に、薬師打線はホームランしか認めないのである。
もう少し、繋ぐ打線を意識した方が良いのではないだろうか?
ノーアウトランナー1塁で7-16、後1点でコールドになる場面で、打順は7番結城。
豪打の薬師高校1年生の中で2番目に打撃力が高い選手であり、将来的には4番になる事が期待されている。
火神か結城か、どちらかが主砲となるだろうと目されているのだ。
登板したばかりである沢村のコントロール不足もあって、ツーボールワンストライクになった結城は、ブンブン全力でバットを振っている。
「ストライク、ツー!」
「……」
「行けるぞ! 結城ー!」
「将司ー! ホームラン行けーっ!」
「絶対行けるよー!」
「ホームラン! ホームラン!」
1年生バッターが追い込まれても、薬師ベンチのテンションは変わらない。
とにかくホームランを出せと言いながら、楽しげにはしゃいでいる。
結城は、言われなくともホームランを出すつもりだ。
俺は雷市さんや北瀬さんの打力を超えて、高卒でメジャーに行く男。ここで勝負を決めて、その目標に近付いてやる!
そんな事を考えながら、バットを長く持ってホームランを狙っている。あれだけ凄い先輩に対してそう思えるのは、かなり図太いメンタルだ。
___カッキーン!
「コールド! 試合終了!!」
『わああぁぁ!!』
結城は無言実行とばかりにホームランを放ち、6回コールドで薬師高校の勝ちとなった。
薬師ベンチは結城や北瀬に駆け寄り、勝利を味わい尽くしていた。薬師部員達は、皆ニッコニコである。
当然だ。つい1か月前位に負けた、同地区の強豪校相手にコールドを決めたのだから、大喜びしたくもなるだろう。
「うっしゃー! リベンジ成功!!」
「ナイス結城ー!」
「やっぱ俺達の打撃強えー!!」
スタンドで応援していた薬師1年生達も大きく盛り上がり、このチームに入って良かったと喜んでいた
「薬師! 薬師!!」
「先輩達やっぱスゲェ!!」
「ていうか火神ヤバくないか?! 2回もホームランだしたぞ!!」
「北瀬先輩最強!! お前らも北瀬先輩最強と叫べ!!」
「言い辛れぇよソレ」
「7-18で、薬師高校の勝ち! 礼!!」
『ありがとうございました!!』
試合終了の挨拶をした後、北瀬が握手を求めながら降谷に話しかけていた。
今日の試合に納得がいかなかった様で、咄嗟に話しかけてしまったのである。
「今日の試合は、俺達が勝ちましたけど……! 次は、絶好調の降谷さんと戦いたいです」
「うん……次は勝つよ」
嫌味に聞こえかねない言葉だったが、降谷はその点を気にせず、強い決意を込めて返答していた。
僕が抑えられなかったから、今回はコールド負けしてしまった……調子が悪かったとか、そういうのは言い訳にすらならない。次は絶対、薬師打線を抑えてみせる。
そう考えながら、降谷は北瀬の手を握り返した。北瀬も珍しく闘志を燃やしながら、ニヤッと不敵な笑顔を返していた。
「あぁ……! 薬師高校は、次も負けない!」
これで、青道高校の関東大会は終わった。
打者を1人も抑える事無くコールドを決められた沢村は、俯きながら謝っていた。
「俺……すみません……」
「沢村……次、地方大会でリベンジしような」
キャプテンの御幸が慰めるも、沢村は落ち込んだままだった。
自分のせいでまた負けたと思うと、空元気すら出せなかったのである。
実際の所、どんなピッチャーでも薬師相手なら燃えかねないので、得点を積み上げられなかった青道野球部全体の問題だと思われるのだが……彼はそう思っていなかった。
エースになりたいと努力して来たけど、大事な場面で抑えられない奴が、どうしてそんな大口を叩けるのか。
そうやって落ち込んでいる沢村には、三島の極端なポジティブさを分けてやれたら良いと思われるが……あそこまで行くと、いっそ怖いかもしれない。
そもそも沢村はかなりポジティブな方なので、これ以上元気になられたら困るかも?
青道高校の試練は、後1年半位は続く。